2017年8月5日(土)



昨日までの一連のコメントに一言だけ追記をします。
特に一昨日2017年8月3日(木)のコメントの続きとして一言だけ書きたいと思います。

 

過去の関連コメント

2017年7月25日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201707/20170725.html

2017年7月27日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201707/20170727.html

2017年7月28日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201707/20170728.html

2017年7月29日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201707/20170729.html

2017年7月30日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201707/20170730.html

2017年7月31日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201707/20170731.html

2017年8月1日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201708/20170801.html

2017年8月2日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201708/20170802.html

2017年8月3日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201708/20170803.html

2017年8月4日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201708/20170804.html

 


一昨日2017年8月3日(木)のコメントで、株式会社大戸屋ホールディングスの記事を紹介しました。
株式会社大戸屋ホールディングスは、自社の執行役員と従業員ならびに子会社の取締役と執行役員と従業員に対して
「ストックオプションとして新株予約権を無償で発行すること」ついて、定時株主総会で承認を得たいと考えていたのですが、
投票の結果、この議案は否決されたとのことです。
「株主総会招集通知」に議案内容が載っていますので、「株主総会招集通知」へのリンクを紹介します。


2017年6月2日
株式会社大戸屋ホールディングス
株主総会招集通知
ttp://www.ootoya.jp/ir/pdf/20170602syousyuu.pdf


投票結果を簡単に言いますと、
第1号議案 「取締役10名選任の件」 → 原案どおり承認可決。
第2号議案 「弔慰金贈呈の件」 →  原案どおり承認可決。
第3号議案 「創業者功労金贈呈の件」 → 原案どおり承認可決。
第4号議案 「ストックオプションとして新株予約権を発行する件」 → 否決。
という結果になったわけです。
弔慰金と創業者功労金は、2015年7月27日に亡くなった創業者(前代表取締役会長)の遺族に対して支払われるようです。
記事によりますと、会社の経営陣と創業家は、故・創業者の功労金や創業者の長男(会社の役職員等ではない)の処遇といった
経営体制を巡って対立している、と書かれているのですが、
なぜ経営陣が巨額の創業者功労金を贈呈したいと言っているのかと言えば、

>功労金の支払いで、会社側は創業家から理解を得たい考えとみられる。

と記事には書かれています。
創業家と言っても、創業者の長男(5.63%所有)と創業者の妻と見られる女性(13.14%所有)の2人を指しているようですが、
母と長男を合計すると18.77%を所有しているということで、会社の中では大きな影響力を持っているのは確かだと思います。
株式会社大戸屋ホールディングスには、25,003名も株主がいるのですが、大株主の状況を見れば分かりますように、
株式会社大戸屋ホールディングスの株主のほとんどは個人株主(0.1%も所有していない零細株主ばかり)ですので、
株主総会決議には創業家の意向が極めて反映されやすい状況にある、とは言えると思います。
創業家の長男は会社の役員でも従業員でもなく、このたびの株主総会でも、
議案に取締役の候補者として長男が記載されているわけではありません。
会社側が長男を取締役の候補者として取り扱わないことを経営体制を巡る対立と呼んでいるのでしょう。

 


会社側としては長男を取締役の候補者とするのだけは避けたいと思っているのだが、その代わりと言うと何ですが、
現実的な代替案として、弔慰金贈呈と創業者功労金贈呈を会社側は創業家に申し出た、といったところなのだと思います。
これら第2号議案と第3号議案は、株主提案の議案とは書かれていません(議案を見てもあくまで会社側が承認を願い出ている)。
しかし、経営体制を巡って対立しているとのことで、
株主総会の場以外でも、経営陣と創業者の長男は水面下で接触があるようです。
こうなりますと、その議案は会社提出の(会社の自主的な)議案なのか株主提案の議案なのか、現実には区別はないと思います。
「私が経営陣に直接会って弔慰金と創業者功労金の話(その旨株主総会議案に載せるよう会社に依頼)をしました。」
と創業者の長男が言ったとしても、会社法上は(金融商品取引法上もだと思います)何らの問題もないわけですが、
論点を絞るためここでは株主提案を所与のこととしますが、株式会社大戸屋ホールディングスの事例を鑑みますと、
会社法に規定のある株主提案権を活用することで自分の意向を議案に載せることを会社に請求する株主と、
経営陣と直接会うことで自分の意向を議案に載せることを会社に依頼する株主との間に、
実質的に株主としての地位に差異が生じている、と言わねばならないわけです。
この問題点について考える際には、やはり「フィデューシャリー・デューティー」の考え方が基本になると思います。
理論的には、受託者として、会社の利益を最大化させると受託者が判断する議案内容は1通りしかないわけです。
株主提案権を認めてしまいますと、結局のところ、支配株主が議案を作成し支配株主が自分の意向だけで議事を決する、
という状況が生じてしまうわけです。
これでは受託者は「フィデューシャリー・デューティー」を遂行したくても構造的に遂行できないわけです。
他の言い方をすれば、株主提案権と「フィデューシャリー・デューティー」とも互いに相矛盾するのです。
支配株主や創業者の遺族などが会社に何と言ってこようが、
取締役は、受託者として会社の利益を最大化させると判断する議案を作成しさえすれば、それでよいのです。
それだけで受託者は「フィデューシャリー・デューティー」を果たせるのです。
しかし、会社法に株主提案権がありますと、
取締役は「受託者として会社の利益を最大化させると判断する議案」以外の議案を作成しなければならなくなります。
取締役が「フィデューシャリー・デューティー」の遂行を盾に会社の利益を最大化しない議案の作成を拒むならば、
支配株主や創業者の遺族などは「よろしい。それならば株主提案権を行使する。」と言うだけでしょう。
株主提案制度の本質上、会社側からは提案されえないような(例えば会社の利益を最大化させるとは判断できないような)
議題が株主から提案されることが当然に予想されるわけです(本質的にそれは避けられないと言っていいわけです)。
すなわち、会社法に株主提案権がありますと、取締役は「フィデューシャリー・デューティー」を必然的に果たせなくなるのです。

 


On the Companies Act, "shareholders' right to propose"
prevents a director from performing his "fiduciary duty."

会社法に「株主提案権」があると、取締役は「フィデューシャリー・デューティー」を果たせなくなるのです。