2017年8月3日(木)



昨日のコメントに一言だけ追記をします。
より正確には、2017年7月31日(月)のコメントの続きを一言だけ書きたいと思います。

 

過去の関連コメント

2017年7月25日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201707/20170725.html

2017年7月27日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201707/20170727.html

2017年7月28日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201707/20170728.html

2017年7月29日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201707/20170729.html

2017年7月30日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201707/20170730.html

2017年7月31日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201707/20170731.html

2017年8月1日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201708/20170801.html

2017年8月2日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201708/20170802.html

 



2017年7月31日(月)のコメントの続きを書くに際し、以下の記事を紹介します。

 

2017年6月29日(木)日本経済新聞
新株予約権の発行否決 大戸屋HD総会
(記事)

2017年6月28日(水)日本経済新聞
ぴあ、一般社員に自社株 株価向上への意識共有
(記事)

2017年4月26日(水)日本経済新聞
ぴあ株急落、5%安 情報流出で特損計上
(記事)

2016年11月25日(金)日本経済新聞
ACKGが株式報酬 子会社の取締役にも適用
(記事)

2016年11月18日(金)日本経済新聞
全従業員に株式報酬 アトラエ
(記事)

2016年10月19日(水)日本経済新聞
自社株報酬制度に新手法 KLabなど相次ぎ導入 対象者を事後決定 貢献度合い 厳密に反映
(記事)

 


2017年8月1日(火)と2017年8月2日(水)には、「デット・エクイティ・スワップ」について書きました。
2017年8月1日(火)と2017年8月2日(水)に「デット・エクイティ・スワップ」について書きました理由は、
2016年4月に導入された「譲渡制限付き株式報酬」制度が「デット・エクイティ・スワップ」の亜種・新形態、
と表現できるものだからです。
2016年4月に導入された「譲渡制限付き株式報酬」制度についてコメントを書くに際し、
「デット・エクイティ・スワップ」が必然的に議論の中に出てきましたので、
少しだけ脱線する形で2017年8月1日(火)と2017年8月2日(水)に「デット・エクイティ・スワップ」について書いたわけです。
今日は、元の議論に戻り、2016年4月に導入された「譲渡制限付き株式報酬」制度についてコメントを書きたいと思います。
基本的には、2017年7月31日(月)のコメントの続きだと思ってもらえればよいと思います。
さて、2016年4月に導入されたこの「譲渡制限付き株式報酬」制度についてなのですが、
この役員株式報酬には文字通り譲渡制限が付いているわけです。
2016年4月に導入されたこの「譲渡制限付き株式報酬」制度を導入した事例として、
今日は2016年11月25日(金)付けの日本経済新聞の記事(建設コンサルタントのACKグループの事例)を紹介しています。
ACKグループは、親会社の取締役と子会社の取締役にこの「譲渡制限付き株式報酬」を付与することにしたわけです。
また、2016年11月18日(金)付けの日本経済新聞の記事を見てもらいたいのですが、
求人サイト運営のアトラエも同様に2016年4月に導入されたこの「譲渡制限付き株式報酬」制度を導入したのですが、
この「譲渡制限付き株式報酬」の付与の対象者は役員ではなく何と全従業員とのことです。
この「譲渡制限付き株式報酬」の付与の対象者は役員でなければならない、という規定はないと思いますので、
制度上は何らの問題もない株式付与なのだと思います。
さらに、2017年6月28日(水)付けの日本経済新聞の記事を見てもらいたいのですが、
情報雑誌で有名なぴあも同様に2016年4月に導入されたこの「譲渡制限付き株式報酬」制度を導入したのですが、
この「譲渡制限付き株式報酬」の付与の対象者は、親会社の執行役員と入社3年以上の正社員、そして、
子会社の役員と入社3年以上の正社員とのことです。
ただ、ぴあ(親会社)の取締役は別の株式報酬制度を既に導入済みとのことで、今回は対象外となっているとのことです。
この「譲渡制限付き株式報酬」の付与の対象者は、役員から入社間もない一般社員まで、特に制限はないわけです。
また、ぴあが導入済みの株式報酬制度が具体的にどのような制度なのかは分かりませんが、
他の株式報酬制度については、例えば2016年10月19日(水)付けの日本経済新聞の記事を見てみてください。
記事には、「時価発行新株予約権信託」、「有償ストックオプション」、「日本版ESOP」の3つが挙げられています。
2017年7月31日(月)のコメントでは、単純に「株式の無償割当て(会社法第185条)」により役員への株式報酬を実現するべきだ、
と書いたわけですが、所得税法上は、役員(もしくは従業員でも同じことですが)が株式を無償で受け取った時は、
株式の取得時に所得税が課税される恐れがあるのかもしれない、と思いました。
会社から支払われた「報酬」という観点から見れば、
受取人に報酬の受取時に所得税が課税されるのはある意味おかしくはないわけなのですが、
報酬の種類が株式であるがゆえに、所得税が課税されるのは株式の売却時だけであるべきだ、と個人的には思います。
所得税を考慮すると、単純に「株式の無償割当て(会社法第185条)」により役員への株式報酬を実現するべきだ、
とは単純には言えない部分もあるのかもしれません。

 



2016年4月に導入されたこの「譲渡制限付き株式報酬」制度は、税制改正により認められるようになったと言われますが、
税務当局としては、「現物出資により役員は時価で譲渡制限付きの株式を取得したもの」(時価による株式の取得に過ぎない)、
という解釈をすることにした(課税の認識を改正した)ので、役員は譲渡制限付き株式の取得時には課税されないのだと思います。
細かいことを言わせてもらいますと、役員が現物出資するという金銭報酬債権についてですが、
金銭債権というのは、債権の確定時に収益を認識することになっています。
これを実現主義といいます。
厳密に実現主義に従うならば、役員にはやはり金銭報酬債権の確定時に所得税が課税されるべき、との解釈になります。
極めて簡単に言えば、受け取る所得が確定した時点で、所得税が課税されるのです。
厳密に実現主義に従うならば、役員は金銭報酬債権を会社に現物出資することはできない、という解釈になります。
最近の国税庁は実現主義も知らないか、もしくは、所得税法が現金主義に先祖返りでもしたのでしょうか(冗談です)。
仮に所得税法が現金主義に先祖返りしたのなら、株式の取得時に課税をするのはやめるべきでしょう。
仮に所得税法が株式の取得時に課税をするのをやめるならば、
会社が「株式の無償割当て(会社法第185条)」を行うことで役員への株式報酬を実現することも、実務上容易になると思います。
2017年7月31日(月)のコメントでは、

>このたびの「譲渡制限付き株式報酬」は、「デット・エクイティ・スワップ」の亜種・新形態、と表現できると思います。

と書きましたが、「デット・エクイティ・スワップ」を行うのはやはり銀行や投資ファンドや親会社だけにするべきだと思います。
なぜなら、貸付債権であれば債権の確定時に収益が認識されたりはしない(債権者に課税されたりはしない)からです。
しかし、労働債権(報酬や給与や賃金等)は債権の確定時に収益が認識される(債権者に課税される)のです。
実現主義に従えば、金銭報酬債権が確定した時点で、「役員は報酬を受け取っている」(所得が実現している)のです。
現金の受け取りは収益の認識(所得税の課税)とは関係がないのです。
最近の国税庁は貸付債権と労働債権の区別が付かないのでしょう(冗談です)。
貸付債権の確定は特段何も意味しませんが、労働債権の確定は所得を意味するのです。
実務的なことを言うと、給与や賃金の確定日(締め)は毎月20日、支払日は同月25日だとすると(これは一般的なケースでしょう)、
ここでは源泉徴収のことは度外視しますと、実は従業員(被雇用者)には毎月20日に所得(収益)が認識されることになります。
実際の給与の支払日(会社からの銀行振込日)に所得(収益)が認識されるのではないのです。
「給与はまだ実際には受け取っていないのだが。」(だから所得税はまだ支払えない)というケースもあろうかと思いますが、
厳密に実現主義に従えば、会社で給与を支払うこと(支払う金額や日付等)が確定した時点で、
従業員(被雇用者)には所得(収益)が認識されるのです(確定日に所得を稼得した、と考える)。
実務上は、労働債権の確定日と実際の支払日が同日か数日後のことがほとんどですので、問題が生じていないだけなのです。
また、個人的なことを言わせてもらえば、資産の取得時に課税する(受贈益を認識する)のはやめるべきではないかと思います。
低廉取得であろうが無償取得であろうが、
実際に取得した金額(0円も含む)が資産の取得原価(後の損金)というだけではないでしょうか。
収益(益金)はその資産の譲渡時に認識すれば必要十分だと思います。

 



2016年4月に導入されたこの「譲渡制限付き株式報酬」制度の税務上の論点・問題点に少し脱線してしまったのですが、
2017年7月31日(月)のコメントの続きとして書きたかったことになりますが、
簡単に言えば、「報酬として受け取った株式になぜ譲渡制限が付いているのか?」が本質的に重要であると思います。
ACKグループの付与条件について、記事には、

>取締役に割り当てた株は原則15年間は譲渡できない仕組みとする。

と書かれています。
取締役による株式保有や譲渡制限は、株価や配当性向を高める動機付けになると期待されている、と記事には書かれています。
また、アトラエの付与条件について、記事には、

>付与された株式は3年間、第三者に売却することができない。

と書かれています。
さらに、ぴあの付与条件について、記事には、

>5年の譲渡制限を設けて順次付与する。

>受け取った株式は5年間、売却できない。

と書かれています。
役員や社員による株式保有や譲渡制限の狙いについて、記事には、

>自社の株価向上への意識を共有し、企業価値を高める狙いだ。

>「社員の株価への意識を高め、あと5年以上は会社で活躍してほしい
>というメッセージも込めた」(矢内広社長)という。

>譲渡制限付き株式だと、中長期での企業価値向上への動機づけになりやすい。

と書かれています。
2016年4月に導入されたこの「譲渡制限付き株式報酬」制度とは少し異なりますが、事の論点は同じかと思いますが、
2016年10月19日(水)付けの日本経済新聞の記事には、

>自社株を使った報酬制度を導入する企業は「投資家から見て、業績向上の期待値が高い」
>(ニッセイ基礎研究所の出井真吾氏)との指摘もある。

と書かれています。

 



確かに、役員や従業員による株式保有や譲渡制限の経営上の目的は上記の通りだと思います。
株主と同じ目線で経営をしている姿勢を市場にアピールする狙いがあるのだと思います。
株主の利益と経営陣・従業員の利益を一致させることが、株主にとって一番良いことだ、とは経営上は言えると思います。
ただ、制度設計者がどこまで考えてこの仕組みを考えたのかは定かではありませんが、先ほど書きましたように、
「報酬として受け取った株式になぜ譲渡制限が付いているのか?」がやはり本質的に重要であると私は思います。
何が言いたいのかと言えば、証券市場の観点から言えば、
役員や従業員が株式を保有するということにはインサイダー取引の原因となることが絶えず付きまとうからです。
証券市場の観点から言えば、インサイダーは最後までインサイダーなのです。
証券市場の観点から言えば、インサイダーが途中からアウトサイダーになることは概念上はないのです。
なぜなら、その”アウトサイダー”は他のアウトサイダーが知らない情報を大なり小なり知っているからです。
アウトサイダーは最初から最後までアウトサイダーでなければならず、
一旦インサイダーになったならば、その後再びアウトサイダーになった後も、以前の純粋なアウトサイダーではあり得ないのです。
他の言い方をすれば、「証券市場では全アウトサイダーが受領する情報を統一した上で証券の取引を行わなければならない。」
と言っていいわけです。
より実務的に言えば、「私は会社を退職してもう何年になりますから、他の投資家が知らない情報は私も一切知りません。」
という状況は絶対に訪れないわけです。
他の投資家は有価証券報告書に記載された内容しか知らないわけです(それはそれで全投資家間で情報格差はなくフェアだ)。
しかし、会社に勤務経験がある人は、退職後何年経とうとも、有価証券報告書に記載されていない内容も知っているわけです。
それが「インサイダーは最後までインサイダーなのだ。」の意味なのです。
極論すれば、会社に勤務経験がある人は会社の株式を死ぬまで売ることはできないのです。
インサイダー取引規制は、本質的には、「株式の売却」に規制を設けようとするものではないでしょうか。
未公表の内部情報を知って株式を購入すること自体は自由、という考え方はあると思います。
なぜならば、いくら株式を購入しても、株式を売ることができなければ、そのインサイダーは利益を一切得られないからです。
「売ってはいけない。」と言われれば、必然的に買う人はいないのです。

 



台湾の会社法では、役員は職務に着任する前に所有する会社株式は全て売却しなければならない、と定められていますが、
その理由は、就任した後からでは必然的に市場の投資家との間に情報格差が生じてしまうからなのだと思います。
また、同じような考え方・推論に基づきますと、役員は退任後も会社の株式を購入してはならない、という規制が考えられます。
役員は退任後も(就任以降はずっと死ぬまで)会社の株式を売却することはできないと考えなければならないわけです
((売却できないが)購入すること自体は自由とも言えますが、相続その他を考えればやはり購入自体を禁止すべきでしょう)。
証券市場の理論から言えば、出家をする僧侶のごとく、会社の職務に着任するに際しては一切会社株式とは関わりあいを持たない、
という結論になるわけです(着任前には全て売り払い、着任以降は退任後も死ぬまで購入をしてはならない)。
極道ではありませんが、一旦インサイダーになってしまうと、アウトサイダーには戻れないのです。
ただ、そこまで理論に徹するのも極端な話であり、現実には例えば退職後一定数年経過後は会社株式の取引を認める、
という考え方はあると思います(他の投資家との情報格差は現実には小さくなったと言えるから)。
他の投資家が知らない情報を知っているのは確かだとしても、投資判断に有利とまでは言えない、という考え方はあるわけです。
2016年4月に導入された「譲渡制限付き株式報酬」制度や他の株式報酬制度で譲渡制限を課していることが多い理由は、
インサイダー取引の懸念を実務上小さくするため(証券市場の理論から生じる制約の結果)、とも言えると思います。
インサイダー情報を活用した株式売却(の懸念)を避けるため、株式売却のタイミングは例えば退職と同時にであったり、
退職して一定年数経過後に、という条件を付けるのも一案だと思います。
在職中だとインサイダー取引の懸念が消えづらいようにも思います。
もしくは、「株式を売却できるタイミング」に制約を課すると、
理論的には「インサイダー情報を活用した株式売却」にならない(少なくともその懸念は小さい)と思います。
「インサイダー情報を活用した株式売却」では、「株式を売却するタイミング」もインサイダーは計算するわけですが、
「株式を売却するタイミング」を計算できないようにすれば(すなわち、株式を売却できる期日・期間に制約を課すれば)、
インサイダー情報を活用して株式を売却しようと思っても、インサイダーは行うことができない(取引に制約がかかる)、
いう考え方になるのではないかと思います。

 

An outsider has been and will have been an ousider from the beginnig to the end.
An insider never turns to an outsider.
Once an outsider becomes an insider, the insider will never be an outsider again afterward.

アウトサイダーは最初から最後までアウトサイダーなのです。
インサイダーがアウトサイダーになることは決してないのです。
一旦アウトサイダーがインサイダーになると、そのインサイダーはその後再びアウトサイダーになることは決してないのです。