2018年3月28日(水)

ここ9日間のコメントを踏まえた上で、一言だけ追記をします。


2018年3月19日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180319.html

2018年3月20日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180320.html

2018年3月21日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180321.html

2018年3月22日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180322.html

2018年3月23日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180323.html

2018年3月24日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180324.html

2018年3月25日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180325.html

2018年3月26日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180326.html

2018年3月27日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180327.html

 


証券取引等監視委員会
最近のインサイダー事案の傾向と当局の取組み
ttps://www.fsa.go.jp/sesc/torikumi/20111125-1.pdf

(ウェブサイト上と同じPDFファイル) 


 



一昨日2018年3月26日(月)と昨日2018年3月27日(火)には、インサイダー取引規制反対論というほどのことはないのですが、
「仮にインサイダー取引規制の導入に反対するとしたら、このようなことが論拠となるであろう。」と私が考えた点について、
手短にコメントを書いたわけですが、この2日間にコメントを書きました時には私の頭の中になかったことが実は1つあります。
それは、「インサイダーが受領した内部情報は、受領後、会社等から公表され得る。」という点です。
逆から言えば、この2日間にコメントを書きました時には、私は、
「インサイダーが受領した内部情報は、受領後も、公表されることはない。」ということを前提に各論拠を書いていたわけです。
それで、実は今日この点に気付いたわけですが、一般にインサイダー取引という時には、私の前提とは逆に、一般的には、
「インサイダーが受領した内部情報は、受領後、会社等から公表され得る。」ということが前提になっていると気付いたわけです。
昨日紹介した教科書の262ページには、インサイダー取引の定義を次のように記述されています。

>ある上場企業の株式に関する投資家の投資判断に影響を及ぼすような重要な未公表の情報を持つ当該会社の役職員や
>当該会社と契約関係にある者が、当該情報が一般に公表される前に会社の株式等を取引する行為

教科書の他の部分にも、「未公表」や「公表する前に」といった言葉がたくさん出てきます。
簡単に言いますと、「インサイダー情報は公表される。」という将来の予定がインサイダー取引の前提となっているわけです。
今日紹介しています証券取引等監視委員会の資料「最近のインサイダー事案の傾向と当局の取組み」の中にも、
「重要事実の公表前に」という言葉がどの紹介事例においても出てきています。
「公表前に」という時間的要素が、インサイダー取引を定義する上での本質的要素(なくてはならないもの)なのだと思います。
また、金融商品取引法にはどうように定められているだろうかと思い、
インサイダー取引が定義されています「第百六十六条」(会社関係者の禁止行為)を見てみました。
すると、「第百六十六条」を簡単に要約しますと、次のようになります(「会社関係者」がいわゆる「インサイダー」を指します)。

”「会社関係者」は、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、売買をしてはならない。”

参考までに、金融商品取引法の公式英訳を見ますと、英文を簡単に要約しますと、次のようになります。

A "Corporate Insider" shall not make sales or purchase
before the Material Facts Pertaining to Business or Other Matters are Publicized.
(「会社関係者」は、当該業務等に関する重要事実の公表がされる前には、売買をしてはならない。)

なぜこの点が気になったのかと言いますと、内部情報の全てが公表されるわけではないからです。
たとえ上場企業であろうとも、公表される情報というのは、会社の内部情報のうち、極一部だけであるわけです。
そうしますと、現行の金融商品取引法に従いますと、「公表される予定のない内部情報」を有しているインサイダーというのは、
結局のところは、会社の株式の売買を一切行ってはならない、という解釈になるのだろうかと思いました。
その理由を簡単に言えば、そのインサイダーにとっては、売買をしてよい時期が到来しない、ということになるからです。
現行の金融商品取引法上の「重要事実の公表前に」の意味を狭く捉えるならば、インサイダー取引の規制の対象となる情報は、
「公表される予定となっている内部情報」のみを指すと解釈できる一方、
現行の金融商品取引法上の「重要事実の公表前に」の意味を広く捉えるならば、インサイダー取引の規制の対象となる情報は、
「公表される予定となっている内部情報」だけではなく「公表される予定のない内部情報」までをも含むと解釈できるわけです。
条文解釈の話になりますが、投資家保護の趣旨を踏まえれば、後者の解釈を行うのがやはり自然であろうと思いました。

 



4日後の4月1日から法令上の義務として会社に適用されると言っていいのではないかと思いますが、
いわゆる「フェア・ディスクロージャー・ルール」がこれから証券制度上運用される運びとなっているかと思います。
その「フェア・ディスクロージャー・ルール」の運用では、
「どの情報が投資家の投資判断に影響を与えるのか実務上の線引きが難しい。」といった指摘がなされています。
例えば、どの情報を自社ウェブサイト上に開示するべきであり、どの情報はその必要はないかの線引きが実務上が難しいわけです。
上記のような「フェア・ディスクロージャー・ルール」の問題点については従来から指摘されていたわけなのですが、
実は、インサイダー取引規制についても全く同じ問題が内在していた、ということに今日気付きました。
「投資家の投資判断に影響を与える情報を知った人物はその後会社の株式の売買をしてはならない。」
というのがインサイダー取引規制の趣旨であるわけですが、
「公表される予定のない内部情報」を知った人物は、その後会社の株式の売買をしてはならないのだろうか、という点について
今日考えていましたら、「投資家の投資判断に影響を与える情報」そのものを法令上は厳密には定義でないと気付きました。
「公表される予定のない内部情報」とは「投資家の投資判断に影響を与えることはない情報」という言い方をしてもよい
のではないかと思うのですが、その線引きがどこにあるのかは判然としないわけです。
現行の金融商品取引法上のインサイダー取引規制には、「包括条項」も定められていますが、
「投資家の投資判断に影響を与える情報」そのものを詳細かつ厳格に定めることは現実にはできない以上、
「包括条項」という形で不公正な取引を広く規制していくことしか現実にはできないのだろうと思いました。
インサイダー取引規制の問題点と同じ問題点が「フェア・ディスクロージャー・ルール」にもあることに今日気付きました。
それから、歴史的には、インサイダー取引規制の導入のきっかけとなったのが「タテホショック」であるとのことですが、
タテホ化学工業株式会社について検索していますと、次のプレスリリースがヒットしました。


2005年10月20日
エア・ウォーター株式会社
タテホ化学工業株式会社
株式交換によるタテホ化学工業株式会社の完全子会社化に関するお知らせ
ttp://www.awi.co.jp/news/624/

(上記ウェブページの本文部分を保存したhtmlファイル)


U.株式交換の概要
「4.株式交換後のエア・ウォーターの状況」

>4.株式交換後のエア・ウォーターの状況
>ア.増加資本金
>増加すべき資本金の額は、0円とします。
>イ.増加資本準備金
>増加すべき資本準備金の額は、株式交換の日にタテホ化学に現存する純資産額に、
>タテホ化学の発行済株式の総数に対する株式交換によりエア・ウォーターに移転する株式の数の割合を乗じた額とします。

 


旧商法における株式交換の事例ということになるわけですが、プレスリリースを読んで、
株式交換に伴う完全親会社の資本金・資本準備金の増加額が興味深いと思いました。
簡単に言えば、株式交換に伴う完全親会社の資本金・資本準備金の増加額は、
完全子会社の資本金・資本準備金ということになります。
旧商法における株式交換では、そのような定めになっていたのかと思いました。
一言で言えば、資本金・資本準備金の増加額は簿価に基づく、という定めになっているわけです。
完全親会社であるエア・ウォーター株式会社の株価も、完全子会社であるタテホ化学工業株式会社の株価も、
資本金・資本準備金の増加額とは関係がないわけです。
さらに言えば、完全親会社であるエア・ウォーター株式会社による完全子会社であるタテホ化学工業株式会社の株式の取得価額も、
完全子会社であるタテホ化学工業株式会社の資本の簿価に基づくことになります。
簡単に言いますと、完全親会社であるエア・ウォーター株式会社は、
完全子会社であるタテホ化学工業株式会社の株式を簿価で取得したもの、という考え方(会計処理)になります。
完全親会社は完全子会社株式を簿価で取得した、とだけ聞きますと、それは果たして正しい会計処理だろうかとも思うわけですが、
株式交換に伴う完全親会社の資本金・資本準備金の増加額は完全子会社の資本(簿価)に基づく、
という考え方に重きを置いているということなのだろうと思いました。
株式と株式を交換するだけなのだから(完全子会社の株主の出資は完全親会社へと承継されるのだから)、
この会計処理が結局のところは最も自然なのかもしれないなと思いました。
旧商法の規定は、示唆に富む(旧来の考え方が実は正しかったのではと気付かされる)ことが多いように思いました。

 


The fact that an increase of shareholders' equity is calculated on the basis of a book value
means that an acquisition value of a share is calculated on the basis of a book value.
In other words, it means that an acquisition value of a share is determined by a existing book value.
Needless to say, the reason for it is that the debit side balances with the credit side.
In this case, an increase of shareholders' equity (i.e. the credit side)
precedes an acquisition value of a share (i.e. the debit side).
In other words, an increase of shareholders' equity (i.e. the credit side)
determines an acquisition value of a share (i.e. the debit side).
A share price in the market doesn't determine an increase of shareholders' equity nor an acquisition value of a share.

株主資本の増加額が簿価に基づいて算定されるということは、株式の取得価額もまた簿価に基づいて算定されるということです。
他の言い方をすると、株式の取得価額は現存する簿価によって決定されるということです。
言うまでもなく、その理由は借方は貸方とバランスするからです。
この場合は、株主資本の増加額(貸方)が株式の取得価額(借方)よりも先に来るのです。
他の言い方をすると、株主資本の増加額(貸方)が株式の取得価額(借方)を決めるのです。
市場の株価は、株主資本の増加額を決定しませんし、株式の取得価額も決定しないのです。