2016年5月8日(日)



公開買付や適時情報開示、そしてインサイダー取引規制についてコメントを追記したいと思います。
2016年5月1日(日) に紹介しています教科書のスキャンも適宜参考にしていただければと思います。


過去のコメント

2016年4月28日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201604/20160428.html

2016年4月30日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201604/20160428.html

2016年5月1日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201605/20160501.html

2016年5月2日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201605/20160502.html

2016年5月3日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201605/20160503.html

2016年5月4日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201605/20160504.html

2016年5月5日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201605/20160505.html

2016年5月6日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201605/20160506.html

2016年5月7日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201605/20160507.html

 


最近9日間は、公開買付や適時情報開示、そしてインサイダー取引規制についてコメントを書いてきました。
富士通株式会社によるニフティ株式会社株式に対する公開買付を題材にしてコメントを書いてきました。
富士通株式会社は公開買付開始前の時点でニフティ株式会社株式の3分の2弱を既に保有しているわけです。
親会社として、公開買付を実施する旨の発表もニフティ株式会社の決算短信の発表も一定度は任意に決められるとなりますと、
ニフティ株式会社の決算短信(業績)の内容を踏まえた上で、それぞれの発表日を決める、
というのも1つの経営戦略なのかもしれないな、と思ったわけです。
例えば、決算短信と公開買付の発表日の2日前である2016年4月26日には、
連結子会社である株式会社富士通ビー・エス・シーが2016年3月期の決算短信を発表しました↓。

2016年4月26日
株式会社富士通ビー・エス・シー
平成28年3月期 決算短信[日本基準](連結)
ttp://www.fujitsu.com/jp/group/bsc/documents/ir/library/finance/201603.pdf

株式会社富士通ビー・エス・シーは、前期(2015年3月期)に比べ、売上高は1.1%増であったものの、
営業利益は89.8%減、経常利益は88.5%減、
当期純利益に至っては繰延税金資産の取り崩しが影響し、巨額の赤字転落となっています。
これほどの巨額の当期純損失となりますと、株価への影響もあるであろうと思います。
2016年4月26日前後の株価の動向を見てみましょう。

「株式会社富士通ビー・エス・シー株式の過去1週間の値動き」

決算短信が発表されたのは、2016年4月26日の17:30です。
ですので、2016年4月26日の値動きには決算短信の発表の影響は一切含まれていないわけです。
株価に影響があるとすれば、翌2016年4月27日の取引からになるわけです。
しかし、チャート図を見ると分かりますように、2016年4月27日の株価は2016年4月26日よりもわずかに上昇しています。
一言で言えば、決算短信の発表は株価に何の影響もなかった、ということになります。
また、決算短信が発表されたのと同時刻である2016年4月26日の17:30に、
株式会社富士通ビー・エス・シーは業績予想と実績値との差異に関するプレスリリースを発表しています↓。

2016年4月26日
株式会社富士通ビー・エス・シー
連結業績予想と実績値の差異および個別業績と前期実績値との差異に関するお知らせ
ttp://www.fujitsu.com/jp/group/bsc/documents/resources/news/press-releases/2016/20160426.pdf

このプレスリリースの内容は、業績予想と実績値との間に差異が生じた理由についての説明です。
このプレスリリースの記述内容は、概ね同時発表の決算短信(そして過去の業績予想の修正)にも書かれてあることかと思います。
このプレスリリースの発表が、株価への影響を和らげた(仮にこのプレスリリースを発表しなかったならば株価は急落しただろう)、
ということはないのだと思います(このプレスリリースに緩衝材の役割はないのだと思います)。

 



決算短信の発表は株価に何の影響もなかった、ということに関しては、
業績予想の修正を既に過去に適時開示していたことが大きいのだと思います。
2016年4月26日発表のプレスリリースにも記載のある、過去発表の業績予想の修正はこちらです↓。

2015年10月27日
株式会社富士通ビー・エス・シー
第2四半期累計業績予想と実績との差異及び通期業績予想の修正並びに繰延税金資産の取崩しに関するお知らせ
ttp://www.fujitsu.com/jp/group/bsc/documents/resources/news/press-releases/2015/1027.pdf

2015年10月27日の時点で、2016年3月期は巨額の赤字を計上する見通しとなっていることを発表していたわけです。
では、その業績予想の修正は株価にどのような影響を与えたのでしょうか。
その当時の株価を見てみましょう。

「株式会社富士通ビー・エス・シー株式の過去1年間の値動き」

このチャート図からは厳密な日付は分かりませんが、まず間違いないことだと思いますが、
2015年10月27日に発表したこの通期業績予想の修正(繰延税金資産の取崩し)の影響で株価は急落しているのだと思います。
決算短信発表後の株価の動向を比較して考えてみると、相対的な比較になりますが、非常に大まかに言うと、
業績予想の修正の発表は株価に影響を与えるが、決算短信の発表は株価に影響を与えない、
というようなことが言えるのだと思います。
このことは、適時情報開示がいかに重要であるかを端的に示しているのだと思います。
決算短信発表時には、その内容は既に株価に織り込まれていると考えてよいのだと思います。

 



それから、先ほど、2016年4月26日に発表されたプレスリリース
「連結業績予想と実績値の差異および個別業績と前期実績値との差異に関するお知らせ」は、
決算短信と記述内容が重複している部分が非常に多いですので、株価に影響を与えていないと思います、と書きました。
それで、その点について改めて考えてみますと、2016年4月26日に発表された決算短信には、
2017年3月期の通期と第2四半期に関する業績予想が書かれてあるわけです(「決算短信」の1/28ページ)。
その業績予想によりますと、2017年3月期の通期の業績は、対2016年3月期(当然実績値)で、
売上高は3.6%増、営業利益は463.0%増、経常利益は391.5%増、
当期純利益は黒字転換し510百万円(前期は2,248百万円の赤字)、となっています。
株式会社富士通ビー・エス・シーは、2016年3月期とは正反対に、
2017年3月期は非常に好調な業績を達成できるという見通しを持っている、ということだと思います。
そして、「2017年3月期の業績予想」は、2016年4月26日に初めて発表された情報だと思います。
そうしますと、この「2017年3月期の業績予想」の情報は、これまで(2016年4月26日以前は)株価に織り込まれていない、
ということになるわけです。
業績予想の修正の発表は株価に影響を与えるならば、業績予想の発表も株価に影響を与えるはずです。
そうしますと、巨額の赤字を計上している決算短信を発表しても株価にはほとんど影響はなかった理由は、
過去に業績予想の修正という形で適時情報開示を行ってきていたからということに加え、
非常に見通しの明るい2017年3月期の業績予想を同時に発表したから、ということが挙げられるように思います。
2017年3月期の業績予想が、株価急落原因の緩衝材になったのではないか、という見方が出てくるように思うわけです。
仮に、2017年3月期の業績予想は赤字の予想だったのだとすると、やはり株価は下落したのではないか、
という見方があるように思います。
もしくは、2016年3月期の決算内容は業績予想の修正通り巨額の赤字となったが、
2017年3月期の業績予想は非常に明るい見通しとなっているので、
発表された2016年3月期の決算内容(実績値)とは無関係に、明るい業績予想を受け株価は上昇してもおかしくないわけです。
この辺り、決算短信には過去の実績値と将来の業績予想の両方が記載されていますので、
どちらの影響の方が株価に対して大きかったのかは判然とはしないと言えると思います。
両方トータルの情報・影響を受け、投資家は総合的に判断し、結果、あの値動きになった、
という言い方しかできないのかもしれません。
確定した実績値で株価は変動するのか、それとも、将来の業績予想で株価は変動するのか、
率直に言えば分からない部分があると言いますか、
理論的にはそれら両方の情報を織り込んだ結果である、という他ないのだろうと思います。

 


確定した実績値で株価は変動するのだろうか、それとも、将来の業績予想で株価は変動するのだろうか、答えは人間には出せないな、
と考えていましたら、つい最近興味深い事例があったことを思い出しました。
それは、ソフトバンクグループ株式会社が2016年3月期の決算短信の発表前に、2017年3月期の配当予想を発表した、という事例です。
2016年4月22日(金) にコメントを書きました。

2016年4月22日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201604/20160422.html

2016年4月22日(金) のコメントでは、業績予想も含めた将来予想全般について批判的に書いたところがあるわけですが、論点を変え、
特にインサイダー取引といった文脈では、むしろ適時情報開示が非常に重要だと、ここ9日間ほどは書いているわけです。
決算短信に記載されている財務諸表は、金融商品取引法の観点から言えば、未監査の財務諸表です(正しさは保証されていない)。
そして、決算短信に記載されている財務諸表は、会社法の観点から言えば、計算書類に関する法定の流れとしては、
取締役会に提出される前の段階(会社法監査が行われている状態)ということになると思います。
非上場企業で言えば、計算書類は監査役の監査を受けなければならない(そして取締役会に提出)と会社法には定められていますが、
上場企業の場合は、取締役会に提出される財務諸表(計算書類)は監査法人の監査が終了していなければならない、
という位置付けになるのではないかと思います(それとも、会社法上は、上場企業も監査役の監査で足りるのでしょうか)。
上場企業が提出している有価証券報告書の監査報告書には、”当監査法人は金融商品取引法に基づく監査証明を行った”
といったことが記載されており、会社法の監査とは関係がない、というふうにも読めます。
しかし、上場企業の株主総会招集通知などの監査法人への監査報酬に関する記述を見ますと、
”監査法人の監査を会社法に基づく監査と金融商品取引法に基づく監査とに分けることは困難であり、
また実質的に両者は分けられない(分けて考えるものではない)”といったことが記載されていますので、
上場企業では、計算書類の監査も監査法人が行っている、というふうに読めます。
有価証券報告書を提出していれば会社法上決算公告の義務は免除されるように、何か金融商品取引法に定めがあって、
金融商品取引法に基づく監査は会社法に基づく監査を兼ねることができる、
といった取り扱いに上場企業ではなっているのかもしれません(詳しくは改めて定めを調べてみないといけませんが)。
いずれにせよ、決算短信に記載されている財務諸表は、会社法の観点から言っても未監査(取締役会からの承認も得ていない)、
という考え方でよいのだと思います(決算短信に記載されている財務諸表と会社法上の計算書類は概念的には別かもしれませんが)。
ところが、漠然とした言い方になりますが、会計の観点から言えば、
決算短信に記載されている財務諸表は「確定した財務諸表」という言い方をしてもよいのだと思います。
なぜなら、会社の期首日から期末日までの1年間の全仕訳を精算表に集約し、貸借対照表と損益計算書を作成したからです。
後は、作成した計算書類が正しいことを確認するために、監査の担当者(専門家等)から監査を受けるだけのことであるわけです。
計算書類の「作成」と「監査」は別だ、と言えばいいでしょうか。
会社法上は、監査役の監査が終了し取締役会の承認を受けた計算書類を「確定した計算書類」と呼ぶのだと思いますが、
会計の観点のみから言えば、正規の手続きに従って作成が完了した計算書類を「確定した計算書類」と呼んでよいと思います。
例えば確定申告の際、税務署に提出する申告書に専門家の監査は必要でしょうか。
計算書類の「作成」と「監査」は別なのです。

 



話が少し脱線してしまったわけですが、
確定した実績値で株価は変動するのだろうか、それとも、将来の業績予想で株価は変動するのだろうか、
という観点から考えますと、
監査法人による監査が完了した財務諸表に比べれば未監査の財務諸表は保証性には欠けるものの、
決算短信に記載されている財務諸表は、
期中に発表される単なる業績予想に比べれば、数値の確定具合ははるかに高い、という言い方はできると思います。
そのことは、株価への影響といった観点から言えば、
業績予想よりも決算短信に記載されている財務諸表の方が影響は大きくなければならないのではないだろうか、
と思ったわけです。
ソフトバンクグループ株式会社は、2016年4月21日に2017年3月期の配当予想を発表したわけですが、
2017年3月期の配当金額を予想するためには、2017年3月期の計算書類が正確に予想できていなければならないでしょう。
2017年3月期の利益剰余金はこれくらいにあるであろうと予想をして概算をしたということだとは思いますが、
計算書類の確定という観点から言えば、単なる業績予想よりも、配当金額の予想の方がより難しいと思います。
さらに、経営的な観点から言えば、単なる業績予想は2017年3月期末までの予想を行えばよいのですが、
配当金額の予想は、2017年3月期末以降のことまで予想できないと、その後の内部留保までをも勘案した配当にはならないわけです。
いずれせによ、確定した実績値で株価は変動するのだろうか、それとも、将来の業績予想で株価は変動するのだろうか、
と考えても、現実にも理論上も、両方の情報が株価に織り込まれる、という言い方しかできないのだろうと思います。
ちなみに、ソフトバンクグループ株式会社が2016年4月21日に2017年3月期の配当予想を発表した日前後の値動きはこちらです↓。

「ソフトバンクグループ株式会社株式の過去1ヶ月間の値動き」

結論だけ言えば、2017年3月期の配当予想の発表は、株価には大きな影響は与えなかったようです。
ただ、この値動きについても細かいことを言い出すと実はもう1つ株価変動要因があります。
ソフトバンクグループ株式会社が「剰余金の配当(期末配当)及び2017年3月期配当予想に関するお知らせ」を発表したのは、
2016年4月21日の15:00であったわけですが、同じ2016年4月21日の15:00に、
ソフトバンクグループ株式会社は取締役の人事を発表しています。

2016年4月21日
ソフトバンクグループ株式会社
取締役人事に関するお知らせ
ttp://www.softbank.jp/corp/news/press/sb/2016/20160421_02/

何かと話題のソフトバンクグループ株式会社ですから、
株主総会に諮る取締役人事の発表だけでも株式市場に対する影響は大きいと思います。
2016年4月21日の15:00に株価に大きな影響を与えるプレスリリースが2つ同時に発表されたことになります。
株価への影響として、このどちらの発表の影響が大きいかという問いには答えは出せないでしょう。
一方はプラスに評価され他方はマイナスに評価され、それらが中和されてその値動きになった、という解釈も可能でしょう。
現実にも理論上も、両方の情報が株価に織り込まれる、という言い方しかできないのだろうと思います。

 


最後に、株式会社富士通ビー・エス・シーの事例に戻ります。
「株式会社富士通ビー・エス・シー株式の過去1年間の値動き」を見ますと、
2015年12月1日に株価が急上昇していることが分かります。
この理由は何だろうかと思い、株式会社富士通ビー・エス・シーの過去のプレスリリースを見てみました。
株式会社富士通ビー・エス・シーの株価が急上昇した2015年12月1日に発表されたプレスリリースはこちらです↓。

2015年12月1日
株式会社富士通ビー・エス・シー
組織の改定並びに人事異動に関するお知らせ
ttp://www.fujitsu.com/jp/group/bsc/documents/resources/news/press-releases/2015/1201.pdf

計4名の人事が発表されていますが、この4名の人事異動により株式会社富士通ビー・エス・シーの業績は今後上向いていくであろう、
と株式会社富士通ビー・エス・シー株式は市場から評価された、ということなのだと思います。
いずれにせよ、2016年4月26日に決算短信が発表された時には、主に2015年10月27日に発表された「業績予想の修正」により、
巨額の赤字転落の情報は株価に織り込まれていた、という言い方ができるのだと思います。