2018年8月2日(木)



2018年8月1日(水)日本経済新聞
長崎の地銀統合承認へ ふくおかFG・十八銀 公取委が最終調整
(記事)



2018年8月1日(水)日本経済新聞
地銀、県内再編に道 長崎の統合決着へ 借り換え1000億円弱
(記事)

2018年8月2日(木)日本経済新聞
ふくおかFG株8%高 十八銀株は年初来高値 統合承認見通し受け
(記事)

2018年8月2日(木)日本経済新聞
長崎地銀統合 後押しする地元 苦境打破へ「強い銀行」 造船不振や人口減
中小支援 課題に 「青写真」描けるか
(記事)

 


「貸出市場シェアを意図的に低下させることの是非と実務上の問題点」について書いた最近のコメント↓

2018年6月6日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201806/20180606.html

2018年6月24日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201806/20180624.html

2018年7月5日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201807/20180705.html

2018年7月6日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201807/20180706.html

2018年7月25日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201807/20180725.html

2018年7月31日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201807/20180731.html

 


理論上の考え方として、
「現在の証券制度では、株式の取得者は、支配株主になることを目的に、さらには、対象会社を完全子会社化することを目的に、
対象会社に対し公開買付を実施することは間違いである、」、
という点について指摘をした昨日のコメント↓。

2018年8月1日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201808/20180801.html

 



【コメント】
ふくおかフィナンシャルグループと十八銀行の経営統合の問題が事実上解決したようです。
紹介している2018年8月1日(水)付けの日本経済新聞の記事(1つ目の記事)の冒頭を引用したいと思います。

>長崎県での地方銀行の再編をめぐり、公正取引委員会は親和銀行を傘下に置くふくおかフィナンシャルグループ(FG)と
>十八銀行の統合を承認する方向で最終調整に入った。両社は経営統合による圧倒的な県内シェアを下げるため、
>融資先に借り換えの意向を調査。その結果が31日までに1000億円弱に増え、公取委は競争環境が保たれるとの見方を強めた。

>銀行再編の審査で、公取委の懸念を払拭する手段として融資の借り換えがとられるのは初めて。
>経済基盤が弱い地方での金融再編を進める手法の先例となる。

地方の銀行の統合に関連し、県内の貸出シェアを引き下げるために融資先の借り換え(貸出金の譲渡)が行われるのは
初めての事例である、とのことです。
私個人としては、箸の上げ下げまで指導できる金融当局があるのだから県内の貸出シェアは一切気にする必要がないのではないか、
と思っていた(銀行業の統合やその審査については金融当局に排他的な権限があり公正取引委員会は関係がないのでは)のですが、
一つの研究対象としては学ぶべきことが多い事例だったのではないかと思っています。
ところで、これからふくおかフィナンシャルグループと十八銀行は、2019年4月を目途に経営統合を行うわけですが、
その手法に関してはどの記事にも言及がありません。
紹介している2018年8月2日(木)付けの日本経済新聞の記事(1つ目の記事)には、両行の経営統合が承認される見通しとなった
という旨の報道を受け、ふくおかフィナンシャルグループと十八銀行の両方の株価が大幅に上昇した、と書かれています。
ふくおかフィナンシャルグループは銀行持株会社である一方、十八銀行は銀行(銀行業そのものを営む会社)であることを鑑みますと、
ふくおかフィナンシャルグループが十八銀行を完全子会社化する、という経営統合が最も自然であると思います。
ふくおかフィナンシャルグループは十八銀行の株式の過半数のみもしくは3分の2以上のみを保有する、
という経営統合も理屈では考えられます。
例えば、これまでは金融当局からの意向にだけ注意を払っていれば問題はないと思っていたのだが、
今般の長崎県の難航した事例を見て、公正取引員会の審査がこれほどまでに厳しいのならば小規模行同士の経営統合の方が
現実には容易だ、と各都道府県の金融機関が判断し、各金融機関は今後の経営統合の方針を改める可能性があるわけです。
例えば、極端な話ですが、将来、十八銀行が長崎県内の別の金融機関と経営統合をする、
などということも理屈では考えられるわけです。
そのような遠い将来のことまで考え、ふくおかフィナンシャルグループが、十八銀行の上場は経営統合後も維持した方がよい、
と判断するということも考えられるわけです。
紹介している2018年8月2日(木)付けの日本経済新聞の記事(2つ目の記事)を見ても分かりますように、
商工会議所等を始めとする政財界が都道府県毎に分かれている、という実態があります(いい意味で地元意識がある)ので、
地元選出の国会議員(元官僚かつ族議員)が、議員退職後に地元の中小企業向けの金融機関の理事長に就任する、
という例も地方の県によっては現にあるわけですが、政と官と財がいい意味で一体化している実態が地方にはあるわけです。
地方の金融機関の経営統合では県境をまたがない方がよい、という実態(朴訥な地元意識)が地方にはあったりするわけです。
しかし、今般の事例は、そういった他県の銀行との経営統合であることを関係者が分かった上でのことでもありますので、
つまりそのような事情を分かった上で地元長崎の政財界は今回の承認に安堵しているということでありますので、
やはり、ふくおかフィナンシャルグループが十八銀行を完全子会社化する、という経営統合が最も自然であると思います。

 



では、その完全子会社化する手法についてですが、ふくおかフィナンシャルグループを完全親会社、十八銀行を完全子会社とする
株式交換を行うのが最も自然であると思います(すなわち、株主総会開催の前段階として公開買付を実施したりはしない)。
ふくおかフィナンシャルグループの既存株主にも十八銀行の既存株主にも、特段経営統合に反対している株主はいない
とは思います(すなわち、両行の既存株主は経営統合に賛成する意向を持っていると考えられます)が、
両行の既存株主の中に経営統合に賛成する旨の意見を強く表明している株主はいない(票読みはできない)のもまた確かであるわけです。
すなわち、両行でいきなり株主総会を招集しても、株主から可決・承認される十分な見通しがあるというわけでもないわけです。
大株主や投資ファンドや機関投資家や創業家のように、議案の賛否を左右する「物言う株主」は両行にはいないわけです。
それでも、公開買付は全く実施せず、株主により株主交換を承認してもらうべく両行いきなり株主総会を招集するべきなのです。
その理由は、まさに昨日書いた議論になるのですが、理論上の考え方としては、
「現在の証券制度では、株式の取得者は、支配株主になることを目的に、さらには、対象会社を完全子会社化することを目的に、
対象会社に対し公開買付を実施することは間違いである、」、となるわけです。
田中角栄は「政治にオールオアナッシングはない。」という言葉を言っていた、とコンビニで本を立ち読みして知ったのですが、
ふくおかフィナンシャルグループにとって、十八銀行との経営統合はオールオアナッシングでなければならないわけです。
これは、地元経済の実態が理由ではなく、純粋に証券制度上の理由です。
証券制度上の理由を簡単に言いますと、ふくおかフィナンシャルグループが十八銀行の支配を維持したまま上場を維持しますと、
株式市場の投資家が株式の売却可能性や投資判断という点において不安定な立ち位置に立たされるからです。
話を一般化して言えば、上場企業に特定の支配株主はいてはならない、という結論に理論上はなるのです。
また、海外の事例になりますが、「公開買付」についての事例を紹介します↓。


2018年8月2日(木)日本経済新聞
台湾デルタ、タイ企業買収 中国から生産拠点を分散
(記事)


タイの会社法や証券取引法制や公開買付の規定については全く分からないのですが、
タイの上場企業を公開買付により完全子会社化する、という事例です。
タイの公開買付が日本の公開買付制度に類似している手法なのかどうかも分かりませんが、同じ「公開買付」(に類似した手法)でも、
支配の獲得を目的にしない公開買付(30%未満のみの取得を目的とする場合等)は英語では"tender offer"と表現するべきであり、
支配の獲得を目的とする公開買付(事実上全株式の取得を目的とする場合等)は"takeover bid"と表現するべきなのだと思います。
例えば、公開買付への応募が3分の2以上の場合は自動的に発行済みの全株式を取得する義務が公開買付者にはある、
という証券制度の場合は、その公開買付は"takeover bid"と呼ぶべきなのです。
昨日も書きましたように、全ての株式を取得する手法が用意されている法制度においては、
「成立後も対象会社の上場は維持するものの支配の獲得を目的とする」という公開買付を証券制度上は認めるべきではないのです。


Under the current securities system, a tender offer isn't permitted and a takeover bid only is oermitted.
In Japan, a tender offer is being permitted currently, but it is wrong in theory, actually.

現在の証券制度では、テンダー・オファーは認められず、テイクオーバー・ビッドのみが認められます。
日本では、現在のところテンダー・オファーが認められているわけですが、理論的には実はそれは間違っているのです。