2018年1月27日(土)



証券制度上、大量保有者が会社法に規定のある『株主提案権』を行使するに際しては、
金融商品取引法上も一定の規制を課するべきだ(大量保有報告書への記載義務等)、という点について書いた6日前のコメント↓

2018年1月21日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201801/20180121.html

 

証券制度上、買収希望者が会社に対し「買収提案」を行うに際しては、買収希望者に一種の事前警告を義務付けるために、
金融商品取引法上も一定の規制を課するべきだ(大量保有報告書等への「買収意向」に関する記載義務・開示義務)、という点と、
「発行者の清算期日を定めないと投資家による業績予想に意味がなくなってしまう、という点について書いた5日前のコメント↓

2018年1月22日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201801/20180122.html

 

「株主から会社側への提案」には、「会社法の規定に基づく株主提案権の行使」と
株主提案権の行使以外の「任意の提案(要望やお願いなど)」の2つがある、という点について書いた4日前のコメント↓

2018年1月23日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201801/20180123.html

 


「会社法上の行為に対して規制を課するのが金融商品取引法である。」、という点について書いた3日前のコメント↓

2018年1月24日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201801/20180124.html

 

「金融商品取引法上定義される『重要提案行為』が『株式の本源的価値』に影響を与えることはない。」、そして、
「証券制度の構築・改善に際しては、受託者責任の遂行の担保に最重点を置くべきである。」、
という点について書いた一昨日のコメント↓

2018年1月25日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201801/20180125.html

 

「株主総会というのは創立総会の補助的な(secondary)位置付けにあるものだ。」、という点について書いた昨日のコメント↓

2018年1月26日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201801/20180126.html

 


今日は、「受託者責任」を中心に、「債権者から見た会社制度」について書きたいと思います。
理論上は「受託者責任」が遂行されさえずれば実は何の問題もないことではあるのですが、
実務上は、真の意味の「受託者責任」が遂行されず、一部の株主のみに利益をもたらす業務が執行される可能性があることから、
上場企業に親会社や特定の大株主(創業者株主等)がいることは、現実の証券制度においては望ましいことではない、
という点について改めて考えさせられた記事を紹介し、一言だけコメントを書きたいと思います。

 

2018年1月27日(土)日本経済新聞
親子上場、連帯保証が焦点 ソフトバンク債、審査に不安 格下げ圧力かかる見方も
(記事)

 

A person who executes operations of a company is
at once a fiduciary of shareholders and an obligor of an obligee of a company.
"An obligor's  duty" comes before "fuduciary duties."

会社の業務執行者は、株主の受託者であると同時に、会社債権者の債務者でもあるのです。
「債務者責任」は「受託者責任」によりも先に来るのです。

 



紹介しています本日2018年1月27日(土)付けの日本経済新聞の記事は、ソフトバンクグループ内における債務の連帯保証
に関してなのですが、特に子会社による親会社債務の連帯保証が論点となっています。
純粋持株会社であるソフトバンクグループ(親会社)は、多額の社債を発行しているのですが、
グループ傘下の稼ぎ頭である携帯子会社ソフトバンクが利払いの「連帯保証人」になっている、とのことです。
現在、ソフトバンクグループ(親会社)は子会社であるソフトバンクの株式上場を計画しているわけなのですが、
東京証券取引所による上場審査ではこの親子会社間の連帯保証の扱いが論点の一つになりそうだ、と記事には書かれています。
記事から重要な部分を引用したいと思います。

>東証は子会社の上場承認にあたって、少数株主保護の観点から、親会社の言いなりにならずに経営的に独立しているか否か
>を審査する。東証関係者によれば「新規上場企業が、大株主であるオーナーの債務を保証している場合、
>保証を解除するよう求めている」という。

社債市場には、東証の厳しい審査方針が社債の償還可能性に影響を及ぼすということなのだと思いますが、
仮に携帯子会社の上場があれば、子会社が親会社の債務を保証するのは難しくなる可能性が高い、との見方があるとのことです。
まず、上場審査をクリアするために、上場に際し子会社が親会社債務に対する連帯保証を解除する、という点についてですが、
実務上は債務の保証の解除は極めて難しいと考えるしかないと思います。
なぜならば、親会社の債務の引き受け手(社債権者)は、子会社が債務を保証することを条件として債務を引き受けたからです。
他の言い方をすれば、債務の保証の解除のためには、親会社の債務の引き受け手(社債権者)の同意が必要になるからです。
記事を読みますと、あたかも子会社が債務の保証の解除を行うことが前提であるかのようになっており、
その場合親会社の債務はどうなるのか(償還可能性や格付けは今後どう変動するだろうか)、といった論調になっているわけですが、
親会社の債務の引き受け手(社債権者)の立場から見ると、それらの見方は意味不明と言いますか、ある意味架空であるわけです。
というのは、親会社の債務の引き受け手(社債権者)の立場からすると、単に債務の保証の解除に同意をしないというだけなので、
記事で行われている議論は、自らの社債に関する投資判断には何らの影響も及ぼさないからです。
親会社の債務の引き受け手(社債権者)の立場から見ると、債務の保証の解除が条件となっているというのなら、ただ単に、
「おたくの子会社が上場審査をパスできないというのなら、その上場自体を取り止めてくれ。」と主張するだけであるわけです。
「なぜ子会社の株式の上場のために私の権利が害されないといけないのか。」、
と債権者(社債権者)は債務者(親会社)に、さらには保証者(子会社)に、言いたくなるわけです。
債務者(親会社)から「保証者(子会社)がもう保証できないと言っているので保証の解除に同意してくれませんか?」、
などと言われても、債権者(社債権者)は困るわけです(償還可能性の減少を考えればとても同意はできない)。
債権者(社債権者)にとって、親会社(社債発行者)はもちろん債務者ですが、
債務の保証者(子会社)もまた一種の法律上の債務者(金銭債務ではないがれっきとした債務を負っている)であるわけです。
ですので、債務者(親会社)からの要望・請願であれ、保証者(子会社)からの要望・請願であれ、
債務の保証の解除のためには、債権者(社債権者)の同意が必要であるわけです。
債務者(親会社)や保証者(子会社)の一方的な意思決定では、債務の保証は解除されないのです。
記事を読みますと、子会社は上場審査のクリアのため、親会社に対する債務の保証を今後やめることにするだろう、
といった論調になっていますが(債務の保証は保証者である子会社の一存で決められることだ、と)、
少なくとも親会社の債務の引き受け手(社債権者)の立場から見ると、その考え方は完全に間違っているのです。
子会社は、親会社の債務を保証する「義務」を負っているのです(ボランティアで保証をしてやるなどと言っているのではない)。
債権債務関係の解除のためには、相手方(この場合は社債権者)の同意が必要なのです。

 



次に、会社が株主の債務を保証する、という点に関してです。
この事例では、会社が親会社の債務を保証している、という状態であるわけですが、
話を一般化すると、会社が株主の債務を保証する、ということには当然問題があると言わねばならないわけです。
このたびの上場審査でも論点の1つとなっているようですが、
会社には株主が複数おり、会社が特定の株主のみに対して債務の保証をする、というのは、
当然のことながら少数株主(特定株主以外の株主)の利益が害されることにつながるわけです。
会社が保証を履行した場合は、特定の株主に直接現金が流出するわけではないにせよ、
債務の免除を通じて、その特定の株主の利益につながるわけです。
そしてその分、その特定株主以外の株主の利益が害されていることになるわけです。
また、株主が1人だけの場合はどうかと言いますと、会社の債権者の立場から見ると、
株主の利益のために会社財産が流出している、というふうに見えるわけです。
株主が利益を得てよいのは、会社が利益を稼いだ時のみ、という考え方でなければならないわけです。
債権者の利益保護という観点から言えば、会社と株主とは取引を行うべきではない、という結論になると思います。
取締役(業務執行者)は株主の受託者であって債権者の受託者ではない、という点を鑑みますと、
受託者には債権者の利益を保護する業務執行を行うことが会社制度上求められると思います。
すなわち、「株主の利益の最大化」以前に、業務執行者は「債権者の利益の保護」の義務を負っている、
という考え方を会社制度では行わなければならないと思います。
会社制度では、業務執行者が「債権者の利益の保護」の義務を果たすのは大前提とした上で、
業務執行者は「株主の利益の最大化」の義務の果たしていかなければならない、という考え方になると思います。
「債権者の利益の保護」の義務のことは、私の造語ですが、「obligor's duty」(債務者責任)と呼ぶべきだと思います。
会社制度では、「obligor's duty」(債務者責任)は「fiduciary duty」(受託者責任)よりも重いものだ、
と考えなければならないと思います。
会社制度の概念・枠組み・原理として、次のことが言えるのだと思います。

"An obligor's  duty" should precede "fuduciary duties."  (債務者責任は受託者責任に優先すべきである。)

債務者として債権者からは自分の業務執行はどのように見えるのかを常に念頭に置きながら(債務者責任を果たすことを前提に)、
業務執行者は受託者として株主の利益を最大化させる業務執行(受託者責任の遂行)を行っていかなければならないわけです。
理詰めで考えれば、最も理論的には、会社は株主と一切の取引を行ってはならない(債権者の疑念は決して晴れ得ないから)、
という考え方になるように思いますが、会社に債権者がいる会社制度においては、
業務執行者は債務者として債権者の利益保護を最優先にしなければならない、という考え方になるのだと思います。
観念的な言い方をすると、債権者から見ると、株主(委任者)と業務執行者(受託者)が同一人物に見えるわけです。
なぜなら、業務執行者(受託者)は株主(委任者)の利益を代表している(on behalf of intersts of shhareholders)からです。
会社が所有財産を株主に売却することにより売却益を得るという取引であれば、債権者の利益は害されていないため、
そのような取引は認められるという考え方はあると思いますが、少なくとも売却損が計上される取引は認められないわけです。

 



株主とは異なり、債権者からすると、債務者は約束通り債権の弁済をしてくれさえすればそれでよい、という部分はあります。
「株主の利益の最大化」という場合は、決まった目標値があるわけではなく(具体的な金額が決まっているわけではなく)、
「株主の利益の最大化」という概念があるだけである(基準値の達成という概念はない)一方、
債権の弁済は、債務者は債権者にいくらの金額を支払えばよいかは予め明確であるわけです。
すなわち、株主の利益が害されたかどうか(株主の利益は最大化されたかどうかは)は、どんなにその利益額が大きかろうとも、
不明確な部分がある(最後は受託者頼みの部分がある。株主は受託者を信じて任せたという人間関係を信じるしかない)一方、
債権者の利益が害されたかどうかは極めて明確であると言えるわけです。
煎じ詰めれば、債権者にとっては、債務者との関係は「約束通り債権が弁済されたかどうか。」しかないわけです。
業務執行者がどんなに公正にそして誠実に業務を執行しようが、約束通り債権の弁済がなされなければ、
債権者にとってはそれは債権者の利益が害されたことのみを意味するわけです。
逆に、業務執行者がどんなに株主の利益を害するような業務を執行しようが、約束通り債権の弁済がなされさえすれば、
債権者にとってはそれは債権者の利益は害されていないことを意味するわけです。
業務執行者が株主の利益を害するような業務を執行したことは、委任者と受託者との間の問題であって、
債権者には関係のないことだ、という考え方になるように思うわけです。
単刀直入に言えば、「債権者の利益が害されたか否か」は「結果」でしか判断できないように思うわけです。
会社が債務不履行を起こし倒産した時、委任者である株主は「受託者は精一杯やってくれたと思います。」と言うしかありませんが、
債権者はそれでは済まないわけです。
業務執行者が株主にとって誠実な人物であるかどうかは、債権者にとってはどうでもいいことであるわけです。
債権者にとって唯一重要なことは、「債務者が約束通り債権の弁済すること」のみであるわけです。
極端なことを言いますと、業務執行者が一見すると債権者の利益を害するかような業務(不誠実な業務)を執行したとしても、
無事約束通り債権が弁済されさえすれば、債権者はそれで満足なのです。
身も蓋もなく味も素っ気もないかもしれませんが、債務者と債権者との関係というのは本質的にそういう関係ではないでしょうか。
債務者の行動までは関知しない、というのが債権債務関係であるように思うわけです。

Receivables are cash. (債権とは現金なのです。)

とは、「金銭による弁済以外の関係はそこにはない。」、という意味でもあるわけです(債権にそれ以上の意味はない)。
債権が約束通り弁済された場合、業務執行者が一見すると債権者の利益を害するかような業務(不誠実な業務)を執行した
ことを理由に、債権者が何らかの賠償を求めて何らかの行為をする(訴訟を提起する等)、ということはできないはずなのです。
その点、株主は、業務執行者に対し業務に関する指図はしはしないものの、
どのような人物かを十分に見極めた上で自分の財産を業務執行者を信じて託すわけです。
そこにあるのはまさに信頼関係であり、そのような人間関係を「委任」と呼ぶわけです。
「委任」に「約束が果たされなかった」という概念はないわけです。
「委任」に、「期待を下回った」という概念はあるでしょうが、「目標を達成できなかった」という概念はないわけです。
「委任」にあるのは、「受託者責任の遂行」のみ(こうであれば株主の利益は最大化されたという基準値はない)なのです。
この点において、株主と債権者はその立ち位置が根源的に異なるのです。

 



債権者としては、業務執行者が債権者の利益を害するかような業務(不誠実な業務)を執行することは、
自分の利益の保護のこと(債務不履行が発生する恐れ)を考えれば、当然のことながら止めて欲しいと思うわけですが、
煎じ詰めれば、約束通り債権が弁済されればそれでよい、という考え方にはなるわけです。
なぜならば、債権者の会社に対する利益は「債権金額のみ」であり、それ以上でもなければそれ以下でもないからです。
債権者の利益が害されたか否かは、「債務不履行は起こったか起こっていないか?」しか判断基準はないように思います。
例えば、業務執行者が株主の利益を害するかような業務(不誠実な業務)を執行したことを理由に、
債権者が何らかの賠償を求めて何らかの行為をする(訴訟を提起する等)、などという考え方はないわけです。
株主の利益と債権者の利益は別だ、という考え方になるはずなのです。
債権者が債務者に対し主張できるのは、債権金額(金銭)のみであって、業務執行の誠実さではないわけです。
ただ、会社制度のあるべき姿としては、業務執行者は債権者の利益の保護に最重点を置いた業務執行を行わなければならない、
という考え方になるわけです。
そうでなければ、「債権は現金である」ことの前提が崩れるからです。
債権が弁済期日に現金になることは、利益獲得の大前提(現代会計の大前提)であるわけです。
その意味において、会社制度においては、
「債権者の利益の保護」は「株主の利益の最大化」よりも優先されなければならないのです。
理論的には、債務不履行が起こった場合は、
債権者が債務者に対し何らかの賠償を求めて何らかの行為をする(訴訟を提起する等)ことは、
会社制度としてできなければならないことなのです。
なぜなら、債権者は、株主と同じ意味で「業務執行者を信じた」というわけではないからです。
債権者は、当然のこととして、債権は弁済期日に現金になることを前提に債務者と取引を行ったからです。
その意味において、債権者と債務者との間にあるのは、金銭の関係だけであって、人間関係(信頼関係)ではないわけです。
債権者と債務者は、「債務者は精一杯やってくれました。」などという関係ではないわけです。
債権者と債務者は、「債務者は弁済期日に金銭を支払う。」という関係しかないわけです。
私が今書いていることは、有限責任制度(の限界や矛盾)とも関係があることになるのかもしれませんが、
率直に言えば、法人が清算してしまうと、それ以上は誰も債権者に弁済を行わなくてよい、という考え方は、
利益獲得の大前提(現代会計の大前提)が崩れていることになる、と思いました。
1つの考え方は、業務執行者はどのような場合でも(株主にとって最大限誠実な業務執行を行った場合であっても)、
債権者に対して無限責任を負う(債務者(会社)の債務は債務者の業務執行者が代わりに全額弁済しなければならない)、
という結論ではないかと思います。
業務執行者は何ら非のない完全に誠実な業務執行を行ったとしても、債権者に対して免責はされない、と考えるわけです。
業務執行者が「受託者責任」を完全に遂行したことは、会社債権者に対する言い訳にはならない、と考えるわけです。
業務執行者が「受託者責任」を完全に遂行しても、債権者の利益は何ら守られていないわけです。
先ほど、株主の利益と債権者の利益は別だ、と書きましたが、
それは、業務執行者は債権者の利益は債権者の利益として守る義務がある、という意味であるわけです。
「受託者責任」と「債務者責任」は別だ(業務執行者は両方の責任を果たさなければならない)、と考えなければなりません。
債権者の利益は、約束通り債権が弁済されて始めて保護されたことになる、と考えるわけです。
「業務執行者は精一杯やってくれました。」(株主にとって「受託者責任」は完全に遂行されたこと)は関係がないわけです。
話をまとめますと、理論的には、業務執行者は、利益の金額という意味では株主(委任者)に対し何らの責任も負わないのですが、
債権者に対しては無過失責任で無限責任を負う(倒産時には会社の債務を代わりに全額弁済しなければならない)のです。
債権者にとっては債権金額が全てなので、業務執行者の誠実さや善管注意義務の遂行は債権者には全く関係がないのです。