2018年1月25日(木)



証券制度上、大量保有者が会社法に規定のある『株主提案権』を行使するに際しては、
金融商品取引法上も一定の規制を課するべきだ(大量保有報告書への記載義務等)、という点について書いた4日前のコメント↓

2018年1月21日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201801/20180121.html

 

証券制度上、買収希望者が会社に対し「買収提案」を行うに際しては、買収希望者に一種の事前警告を義務付けるために、
金融商品取引法上も一定の規制を課するべきだ(大量保有報告書等への「買収意向」に関する記載義務・開示義務)、という点と、
「発行者の清算期日を定めないと投資家による業績予想に意味がなくなってしまう、という点について書いた3日前のコメント↓

2018年1月22日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201801/20180122.html

 

「株主から会社側への提案」には、「会社法の規定に基づく株主提案権の行使」と
株主提案権の行使以外の「任意の提案(要望やお願いなど)」の2つがある、という点について書いた一昨日のコメント↓

2018年1月23日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201801/20180123.html

 

「会社法上の行為に対して規制を課するのが金融商品取引法である。」、という点について書いた昨日のコメント↓

2018年1月24日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201801/20180124.html

 



【コメント】
昨日書きましたコメントの本質部分を一言で書けば、
「会社法上の行為に対して規制を課するのが金融商品取引法である。」
となります。
金融商品取引法上定義される「重要提案行為」という行為は、会社法上は実はないのです。
会社法上は、株主による「提案」という場合には、「会社法の規定に基づく株主提案権の行使」(第303条)しかないわけです。
実務上は、業務執行者は経営に関する様々な情報を様々な情報発信者・情報伝達希望者から日々受領することになるわけですが、
会社としてその情報を受け入れるのかどうかは、「受託者責任」に基づき判断しなければならないわけです。
この点について、私は昨日次のように書きました。

>株式の本源的価値は、「受託者が執行する業務」のみで決まりますから、
>会社が受けた有形無形の何らかの要望や意見や助言について受託者が「それは株主の利益を最大化させるものだ。」
>と判断するのならば、それはそれで受託者責任に基づきそれに沿った業務執行を行えばよい、というだけなのだと思います。

このことは、「受託者責任」を鑑みれば、
「金融商品取引法上定義される『重要提案行為』が『株式の本源的価値』に影響を与えることはない。」、
という意味であるわけです。
なぜならば、業務執行の意思決定を行うのはあくまで受託者であるからです。
昨日は、私個人の実務経験から、株主提案権で行使できる内容・範囲について理詰めで推論しましたが、現行の会社法上も、
「会社法の規定に基づく株主提案権の行使」(第303条)により提案できるのは、「株主総会の決議事項」のみとなっています。
すなわち、例えば「重要な財産の処分」を「会社法の規定に基づく株主提案権の行使」(第303条)により
提案をすることはできない、という定めになっています。
細かいことを言いますと、現行の会社法の規定では、
「取締役会設置会社でない会社」においては、「株式会社に関する一切の事項」について株主総会で決議をすることが
できますので、結果、「株式会社に関する一切の事項」について株主提案権の行使により提案をすることができるのですが、
「取締役会設置会社」においては、「会社法に規定する事項および定款で定めた事項に限って」株主総会で決議をすることが
できますので、結果、「会社法に規定する事項および定款で定めた事項に限って」株主提案権の行使により提案をすることができる
という解釈になります。
上場企業は全てが「取締役会設置会社」であるのではないかと思いますが、
上場企業において「トイレをすべて和式に」などという内容について株主提案権の行使により提案を行うことは、
実は始めから会社法上できないことだったのです。
逆から言えば、「取締役会設置会社でない会社」においては、「トイレをすべて和式に」などという内容について
株主提案権の行使により提案を行うことは、会社法上できる、という解釈になります。
「トイレをすべて和式に」などという内容について株主提案権の行使により提案を受けた会社のは、
某証券会社であったわけですが、証券外務員試験や証券アナリスト試験も大切ですが、
まずは会社法の勉強から始めるべきだったのでは、と思いました。
某証券会社は、「株主総会の決議事項」以外の提案内容に関しては、実は株主総会招集通知に載せるべきではなかったのです。
簡単に言いますと、株主総会では、「委任」に関連する事柄のみ決議を取ることができるのです。
株主総会では、「業務」に関連する事柄について決議を取ることはできないのです。

 


話を元に戻しますと、「受託者責任」を鑑みれば、受託者は、会社側に対する要望や意見や助言をふるいかけ、取捨選択し、
「株主の利益を最大化させる」ための意思決定を行い、業務を執行するわけですから、
「金融商品取引法上定義される『重要提案行為』が『株式の本源的価値』に影響を与えることはない。」、
という考え方になるわけです。
会社制度における理論上の考え方そして現行の会社法の規定を鑑みれば、結局のところは、
「金融商品取引法上定義される『重要提案行為』が『業務執行』に影響を与えることはない。」のです。
ですから、金融商品取引法により「重要提案行為」を規制する必要は全くないのです。
私としましては、金融商品取引法により「重要提案行為」を規制するよりも、
「受託者が受託者責任を遂行することを担保するための仕組み」を金融商品取引法により証券制度上設けるべきだと思います。
例えば、受託者が取締役に就任するに際しては、証券取引所で(市場の投資家皆の前で)宣誓をし、
「受託者として受託者責任を遂行することを誓います。」という旨の宣誓書に署名をする、
といった動機付け(下手なことは絶対できないなと思わせる)を証券制度として行っていくべきだと思うわけです。
煎じ詰めれば、「受託者責任」が遂行されさえずれば、会社制度も証券制度も現実に機能するわけです。
しかし逆に、「受託者責任」が遂行されないとなりますと、途端に会社制度も証券制度も全く機能しなくなるわけです。
会社制度における「委任」ということを考えますと、「受託者責任」の遂行が最も本質的な要素だと私は思うわけです。
どんなに株主の利益を害する「重要提案行為」が会社に対してあろうとも、
「受託者責任」が遂行されさえすれば、株主の利益の最大化は達成されますし、株式の本源的価値が減少することもありません。
また、株主の利益を増加させる「重要提案行為」が会社に対してある場合は、
「受託者責任」に基づき、提案内容を吟味し意思決定を行い業務執行に活用していくことで、
さらに大きく株主の利益は最大化されますし、株式の本源的価値も増加することになるわけです。
証券制度の構築・改善に際しては、受託者責任の遂行の担保に最重点を置くべきである、と私は思います。
最後に、昨日紹介した教科書から、株主提案権について書かれた部分をスキャンして紹介したいと思います。

「機関投資家の役割と株主提案権」

最近の日本における動向として、少数株主(数%のみ保有する機関投資家等)が株主提案権を行使し、
他の株主が提案議案に多くの賛成票を投じる事例が増えている、と書かれています。
教科書に書かれている「(株主が)発言する」という言葉の意味は、
書簡を送付したり面会を求めたり自社ウェブサイトに提案内容を開示したり記者会見をしたりするといった意味ではなく、
純粋に「株主提案権を行使する」という意味なのだと思います。
最近は日本では、会社法に規定のある株主提案権が少数株主(数%のみ保有する機関投資家等)に有効活用されている、
と書かれています。
教科書には、「法制度の違い」という言葉も書かれているわけですが、
株主提案権の行使により提案できる内容により、実務上は株主提案権の活用頻度も変わってくるのだろうと思います。
すなわち、現行のように、提案できる範囲が「株主総会の決議事項」のみである場合は活用頻度が相対的に低くなり、
提案できる範囲が「株主総会の決議事項」よりも広がれば広がるほど、活用頻度も高くなるものと考えられます。
「株主提案権を行使できる要件」もまた、当然のことながら株主提案権の活用頻度に大きな影響を与えます。
この辺りの制度設計に関しては、実務(会社における事務)への影響をも鑑みながら、
決定していかなければならないところなのだと思います。