2018年1月24日(水)



「ゼミナール 金融商品取引法」 大崎貞和 宍戸善一 著 (日本経済新聞出版社)

第7章 株式公開買付け(TOB)をめぐる規制
2. 大量保有報告制度
(3) 特例報告制度
  特例報告制度の意義と内容
  特例報告制度の厳格化
(4) 開示規制違反に対する措置
「スキャン1」

「スキャン2」

「スキャン3」


証券制度上、大量保有者が会社法に規定のある『株主提案権』を行使するに際しては、
金融商品取引法上も一定の規制を課するべきだ(大量保有報告書への記載義務等)、という点について書いた3日前のコメント↓

2018年1月21日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201801/20180121.html

 

証券制度上、買収希望者が会社に対し「買収提案」を行うに際しては、買収希望者に一種の事前警告を義務付けるために、
金融商品取引法上も一定の規制を課するべきだ(大量保有報告書等への「買収意向」に関する記載義務・開示義務)、という点と、
「発行者の清算期日を定めないと投資家による業績予想に意味がなくなってしまう、という点について書いた一昨日のコメント↓

2018年1月22日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201801/20180122.html

 

「株主から会社側への提案」には、「会社法の規定に基づく株主提案権の行使」と
株主提案権の行使以外の「任意の提案(要望やお願いなど)」の2つがある、という点について書いた昨日のコメント↓

2018年1月23日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201801/20180123.html

 



【コメント】
今日は、紹介している金融商品取引法の教科書を題材としながら、昨日のコメントの訂正と追記をしたいと思います。

私は昨日、日本ペイントホールディングス株式会社の筆頭株主であるニプシー・インターナショナル・リミテッドが
「H30.01.22 16:25」付けで金融庁に提出した大量保有報告書(変更報告書)について、次のように書きました。

>現行の規定では、提案に先立ち、「重要提案行為等を行うこと」を予め大量保有報告書に記載しておかなければならない、
>という法令上の義務はないのですが、筆頭株主は「保有目的」をより明確に開示しておきたいと思ったのでしょう。

まず、この点について訂正を行いたいと思います。
現行の規定では、提案に先立ち、「重要提案行為等を行うこと」を予め大量保有報告書に記載しておかなければならない、
という法令上の義務があります。
金融商品取引法上の大量保有報告書へのこの記載義務については、2018年1月21日(日)のコメントでも書いた通りです。
上記のように金融商品取引法上の記載義務について間違えてしまった理由について書きますと、私は昨日、
「『会社法の規定に基づく株主提案権の行使』に関しては、現行の規定では金融商品取引法上の記載義務はない。」、
と思ってしまったわけです。
この点については話の整理が若干必要かと思うのですが、昨日コメントを書いている時に私の頭の中にありましたのは、
「たとえ大量保有報告書に予め「重要提案行為等を行うこと」を保有目的として記載していなくても、
会社法上は「会社法の規定に基づく株主提案権」は無効にならない。」
というようなことであったわけです。
実務上は、結局のところ、大量保有報告書の記載に不備があった場合は、
株主は会社法第303条等に規定のある株主提案権を行使できない、という考え方になるわけですが、
金融商品取引法の規定に基づき会社法の規定(株主の権利)が無効になる、
という旨の明文の規定は現在のところはないのではないか、と思い、上記のようなことを書いてしまったわけです。
金融商品取引法の規定により直接的に会社法第303条が無効になるというわけではない、と言えばいいでしょうか。
実務上は、大量保有報告書にその旨記載していないことを理由に、株主が会社側に対し株主提案権を行使してきても、
会社側は自動的にその提案を拒否できる、という解釈になりますので、結局それでよいのですが、
昨日は、「株主から会社側への提案」には、
@「会社法の規定に基づく株主提案権の行使」と
A株主提案権の行使以外の「任意の提案(要望やお願いなど)」
の2つがある、という点が会社法の観点からは重要だと思いましたので、
金融商品取引法上もこの2つを区別して考えることはできないだろうかと思ったわけです。

 



金融商品取引法では、「重要提案行為等」が非常に幅広く定義されていますので、結局のところ、
@「会社法の規定に基づく株主提案権の行使」とA株主提案権の行使以外の「任意の提案(要望やお願いなど)」の
両方が金融商品取引法上定義される「重要提案行為等」に含まれる、という解釈になると思います。
しかし、会社法上は、株主による「提案」という場合には、
@「会社法の規定に基づく株主提案権の行使」(第303条)しかないわけです。
会社法から見れば、第303条を除けば、「株主が会社側に提案をするなどということがあるのか?」という考え方になるわけです。
会社法から見れば、「株主は取締役に業務執行を委任しているというだけではないのか。」という考え方になるわけです。
金融商品取引法では、株主が会社側に書簡を送付したり、株主が自社ウェブサイトに提案内容を開示したり、
株主が会社まで赴き取締役らと面会したり、株主が記者会見をしたり、といった場面を想定しているのだと思います。
しかし、会社法から見れば、それら一連の行為というのは何ら想定されてはいないわけです。
簡単に言えば、それら一連の行為を禁止させる手段がない、と感じるわけです。
@「会社法の規定に基づく株主提案権の行使」を禁止するのは逆に簡単かもしれませんが、
それら一連の行為を禁止するのは、法律(会社法)に基づいた行為ではない以上、非常に難しいように思ったわけです。
大量保有報告書に記載をしないまま会社に重要提案行為等に該当する行為を行った場合は、
開示規制違反ということで、提案者に刑事罰を課したり課徴金納付命令の対象とする、という対処方法になるのかもしれません。
ただ、適正な開示(記載)を行っていない場合は株主提案権(会社法第303条)を排除する(株主提案権を自動的に停止する)、
というのは会社法上容易である一方、それ以外の提案行為に関しては、禁止する方法が観念できないように感じたわけです。
株主提案権の行使と比較すると、少なくとも直接的に禁止する(できなくする)方法がないように感じるわけです。
金融商品取引法では、@「会社法の規定に基づく株主提案権の行使」も当然に想定しているわけですが、
それ以外の提案行為も想定しているため、その辺りの境界があいまいになっていると感じるわけです。
会社法から見ると、@「会社法の規定に基づく株主提案権の行使」と
A株主提案権の行使以外の「任意の提案(要望やお願いなど)」は本質的に異なる行為であるわけです。
「重要提案行為」と一まとめにできない部分があると思ったわけです。
例えば、金融商品取引法に定義される「重要提案行為等」には該当しない事柄については、
適正な開示を行っていなくても、株主は「会社法の規定に基づく株主提案権の行使」を行うことはできるのか、
という問題があるのではないでしょうか。
「株主はどんな提案をしてくるか分からないので、事前警告の意味合いで大量保有報告書に記載を義務付けている。」、
ということではないかと思いますが、
会社法上は、どんな提案であっても株主提案権の行使以外の提案行為は会社は全て拒否できるわけです。
金融商品取引法に定義される「重要提案行為等」は、実は会社法上は一切行えないことなのです。
実際には(会社法上は)行えないということは、株主の利益には何らの変動も生じさせない、ということです。
この点において、金融商品取引法と会社法との間に乖離が生じていると私は思うわけです。
会社法上行えない行為について、金融商品取引法はなぜ禁止だなどと言っているのか、と。
株主が会社側に書簡を送付しても会社法上は無効(意味はない)ですし、
株主が自社ウェブサイトに提案内容を開示しても会社法上は無効(意味はない)ですし、
株主が会社まで赴き取締役らと面会しても会社法上は無効(意味はない)ですし、
株主が記者会見をしても会社法上は無効(意味はない)なのです。
株主は物を言うかもしれません。
しかし、それは会社法上は無効なのです。

 



金融商品取引法は、禁止するのなら会社法上できる行為を禁止するべきなのです。
金融商品取引法は、「会社法上はできるのだが、投資家の利益保護の観点から、その行為に一定の制限を課する。」、
ということを目的にしていると言えるわけです。
会社法上の行為に対して規制を課するのが金融商品取引法なのです。
会社法を無視した金融商品取引法には意味はないわけです。
新株式の発行しかり、過半数の株式の譲渡しかり、です。
会社法上の行為を行うに当たり、行為者に対し金融商品取引法上一定の規制を課しているわけです。
会社法上、「重要提案行為」などという行為はないのです。
ですから、金融商品取引法上も、それを規制するという考え方は実はないのです。
会社法から見ると、提案行為には株主提案権(第303条)の行使しかないわけです。
「重要提案行為」などという行為はないのです。
会社法から見ると、「金融商品取引法はいったいなにと戦ってるんだ!?」、という状態であるわけです。
次のシーンが頭に浮かびました。

「『重要提案行為』などという行為は実はないのです。」

 



会社法から見ると、金融商品取引法は言わば「架空の規制」をしているように見えるわけです。
ざる法という意味ではありませんが、和製英語(私の造語ですが)で言えば「air control」でしょうか。
"It's truly an air-con." (これがほんとのエアコンだ。)、
などという冗談を言いたくなりました。
「重要提案行為」の禁止に関しては、会社法の観点から言えば、次のように言わねばなりません。

The Financial Instruments and Exchange Act takes control of something by itself.
(金融商品取引法は一人で規制をしているのです。)

会社法から見ると、金融商品取引法は何をしているのか分からないわけです。
単刀直入に言えば、金融商品取引法に定義される一連の「重要提案行為」は、役員の選解任等を除けば、
全てが「取締役が受託者責任に基づき自分で判断し執行しなければならない業務」であるわけです。
そこに「委任者からの提案」という概念はないはずなのです。
それもまた「所有と経営の分離」ではないでしょうか。
@「会社法の規定に基づく株主提案権の行使」に際しても、株主が提案できるのは「委任をした業務執行の部分以外」だけである、
という考え方になると思います(業務そのものの部分に関して提案をするというのはないと考えるべきです)。
私のつたない実務経験から言いますと、会社の創立や設立に関連する事柄に関してのみ、
@「会社法の規定に基づく株主提案権の行使」を行える(提案内容は限られた一定範囲のみ)、と考えるべきなのだと思います。
定款の作成や創立総会での決議事項に関連する事柄のみ、株主提案権の行使で提案できる、と考えるべきだと思います。
定款の作成や創立総会での決議事項に関連する事柄のみであれば、「所有と経営の分離」の概念に反しないわけです。
他の言い方をすると、「委任内容の変更」に関してのみ、株主提案権の行使で提案できる、と考えるべきだと思います。
「出資者(株主)が会社を設立し、受託者が業務を開始する直前までに出資者(株主)が決めたこと」(創立時の決定事項)
についてのみ、株主提案権の行使で提案できる(出資者(株主)は変更を提案できる)、と考えるべきだと思います。
「受託者が執行する業務」について株主提案権の行使で提案する、という考え方は理論的にはないのだと思います。
株式の本源的価値は、「受託者が執行する業務」のみで決まりますから、
会社が受けた有形無形の何らかの要望や意見や助言について受託者が「それは株主の利益を最大化させるものだ。」
と判断するのならば、それはそれで受託者責任に基づきそれに沿った業務執行を行えばよい、というだけなのだと思います。

 



そして、同じ提案なら、最近では「買収提案」の方が投資家の利益に大きな影響を与えていると思います。
今日議論しました金融商品取引法に定義される「重要提案行為」には、買収者からの「買収提案」は含まれていないわけです。
「買収提案」では、「買収提案」を行う買収者は、まだ1株も発行者の株式を保有していない場合もあるわけです。
つまり、この場合、大量保有報告書では開示の手段にならないわけです。
投資家の利益保護の観点から、「買収提案」を行う意向を持つ買収希望者に、
「『買収提案』を行う意向を持っている。」旨の開示を行わせる手段を証券制度として設けるべきだと思いました。
私案になりますが、「意向報告書」と呼ばれる報告書の事前提出を買収希望者に義務付けるわけです。
「買収提案」の場合は、同じ提案でも、会社側への提案ではなく、株主への提案です。
「会社側への提案」と「株主への提案」の区分・区別も、投資家の利益保護の観点からは重要だと思います。
理論的には、「株主への提案」に関しては会社には関係ないことだと考えなければなりません。
「株主への提案」に関しては、@「会社法の規定に基づく株主提案権の行使」は全く関係がありません。
最近では、役員の選解任の提案などよりも、「買収提案」の方がより直接的に投資家の利益に影響を与えていると言えます。
投資家の利益保護の観点から、買収希望者が株主に対して買収に関する提案を行う手段(「意向報告書」の提出等)を
証券制度上も受けるべきだと思いました。



The Financial Instruments and Exchange Act imposes controls on behaviours defined in the Companies Act.

金融商品取引法は、会社法上定義される行為に規制を課するものなのです。