2018年1月22日(月)



2017年12月4日(月)日本経済新聞
株大量買い付け、事前に対抗ルール公表 企業、買収防衛策に知恵 総会で株主意思確認
機関投資家 姿勢は二分
英系企業と提携 M&A関連保険
法トーク 米の外資投資規制 強化へ 危機管理コンサルタント ダニエル・ローゼンタール氏
(記事)






証券制度上、大量保有者が会社法に規定のある『株主提案権』を行使するに際しては、
金融商品取引法上も一定の規制を課するべきだ(大量保有報告書への記載義務等)、という点について書いた昨日のコメント↓

2018年1月21日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201801/20180121.html


 


【コメント】
昨日は、投資家の利益保護の強化を目的にして、会社法上の「株主提案権」の行使に関して、次のように書きました。

>「大量保有報告書の『保有の目的』に、会社法に規定のある『株主提案権』の行使を行うことを目的に株式を保有している旨
>記載することが、会社法に従い株主が『株主提案権』を行使するための要件となる。」

会社法と金融商品取引法との調整を図り、会社法上の株主の権利に対し金融商品取引法上規制を課する、
ということについて昨日は考えてみたわけです。
それで、昨日の論点と関連があるのですが、株主から会社に対する提案という場合には、
投資ファンドや事業会社等が会社に対し「買収提案」を行う、という場面も想定されようかと思います。
端的に言えば、買収希望者が会社にM&Aの提案をする、という場面が現実にあるわけですが、そのような提案(買収提案)について、
今日は記事を1つ紹介して、少し考えてみたいと思ったわけです。
紹介している2017年12月4日(月)付けの日本経済新聞の記事では、買収防衛策について議論がなされているわけですが、
買収防衛策に定めた対抗措置が発動する、ということは、買収に関して会社に対し買収者から何らかの提案があった、
ということを意味するわけですが、昨日書きました論点を踏まえて考えてみますと、
「買収希望者が会社に対し買収提案を行うための要件」を設ける、というようなことは証券制度上できないだろうかと思いました。
例えば、買収希望者は、正式に会社に対し買収提案を行うに先立ち、
事前に「会社に買収提案を行う意向を持っている」旨開示・公表しておかなければならない(大量保有報告書に記載するなど)、
という考え方はどうだろうかと思いました。
簡単に言いますと、大株主が、「会社に株主提案を行う意向を持っている」と「会社に買収提案を行う意向を持っている」は、
証券制度の観点(投資家保護の観点)から見ると同じである、と思ったわけです。
買収防衛策の導入に関しては、会社が買収者に対し様々な意味で事前警告をする、という意味合いがあるわけですが、
逆に、買収者も会社や市場の投資家に対し買収提案をする意向を持っている旨事前警告をする、
という規制が証券制度上考えられないだろうかと思ったわけです。
市場の投資家は、会社に対し買収提案をする意向を持っている買収希望者がいる、という事実を知った上で、
市場で株式の取引を行ってもらった方が、投資家の利益保護に資するのではないか、と思いました。
特に、現行の証券制度では、会社の将来の業績予想よりも、投資ファンドや事業会社(親会社等)からの買収提案予想の方が、
市場の投資家の利益にははるかに大きな影響を与えている、と言えます。
なぜならば、現行の証券制度では、会社の将来の業績予想には実はほとんど意味がないからです。
その理由を言えば、短期的な視点から言えば、毎期の利益額だけならまだしも(利益額だけなら事業だけで決まるから)、
毎期の配当金額を投資家が正確に予想することは現実には不可能な面がある(配当は人為的な意思決定の結果です)からですし、
また、長期的な視点から言えば、会社の残余財産の分配を投資家が受け取ることは結局のところはないからです。
後者の理由の理由は、会社は清算期日を定めていないからです。
会社が清算期日を定めていないとは、会社はいつ清算するか分からない、という意味です。
会社清算時にたまたま投資家が株主であれば、その投資家は会社法の規定に基づき会社の残余財産の分配を受け取ることができる
わけなのですが、会社が清算期日を定めていない場合は、残余財産分配請求権が投資家に発生する期日が分からない(未確定だ)、
ということを法律上は意味しますし、証券投資の観点から言えば、投資家に残余財産の分配ということが全く帰属していない、
という状態になっていることを意味しているわけです。
これは結局のところ、会社の残余財産の分配を投資家が受け取ることはない、ということを現実には意味しているわけです。
「会社が清算期日を定めていない。」というのは、それほどまでに「会社の清算と投資家とは関係がない。」、
ということを意味してしまうのです。

 


以上の議論を踏まえますと、投資家の利益保護(十分な情報開示に基づき株式の取引を行うこと)を鑑みますと、
現実には(「発行者の清算期日は定めない」という現行の証券制度を踏まえますと)、
会社からの「ディスクロージャー」以上に、投資ファンドや事業会社(親会社やMBO等)からの一種の「ディスクロージャー」が
投資家にとっては重要だ、という考え方になってくるわけです。
「どちらがより投資家の利益を左右するか?」、という観点から証券取引について考えますと、
答えは、会社からの「ディスクロージャー」ではなく、
現実には、投資ファンドや事業会社(親会社やMBO等)からの一種の「ディスクロージャー」の方なのです。
この問題(証券制度上の矛盾)は、本質的に「会社が清算期日を定めていないこと」に起因するのです。
会社が清算期日を定めさえすれば、市場の投資家に「会社の清算(残余財産の分配)」が帰属しますので、
市場の投資家は、「買収者からの提案金額」と「自分が予想する残余財産の分配金額」(自分なりに予想した株式の本源的価値)
とを比較して、買収提案に対し、「賛成する・応募する」か「反対する・応募しない」かを決める(判断する)ことができます。
会社が清算期日を定めていない場合は、市場の投資家と会社の清算とが乖離してしまいますので、
すなわち、「この日まで(この期日に)株主であれば残余財産の分配を受け取れる」という保証がない状態ですので、
市場の投資家は、「買収者からの提案金額以上に、今後株価は上昇するだろうか?」という予想や、
「現在の買収者からの提案金額以上の提案を行う新たな買収者は、今後現れないだろうか?」という予想をすることに
終始してしまうわけです(発行者とは関係がない予想を市場の投資家は行うことになる)。
語弊を恐れずに言えば、これは厳密には証券投資とは言えない(ギャンブル・「丁か半か」の部分がある)と思います。
しかし、「発行者の清算期日は定めない」という現行の証券制度を所与のこととしますと、
「買収者からの情報開示」を強化する方が投資家の利益保護に資する、という考え方になるわけです。
「買収者からの情報開示」の強化策(私案ですが)の1つが、提案の意思や可能性の大量保有報告書への記載義務であるわけです。
予め(事前に)大量保有報告書へその旨記載していない場合は、買収希望者は会社に対し買収提案を行えない、
という規制を証券制度上買収希望者に課するわけです。
また、これは一種の「待機期間」(落ち着いて熟慮する期間)というような位置付けになるかと思いますが、
買収希望者は、正式に会社に買収提案を行う前に、「自分は会社に対し買収提案をすることを計画している」という意思を、
市場内に一定期間浸透させる(一種の事前警告)、という方策(買収者に対する開示の義務付け)も考えられると思います。
買収者がいきなり買収提案をすると、投資家が予想外の出来事だと判断し、市場が混乱する恐れがあるわけです。
市場の投資家は「予想」に基づき株式投資を行うのですから、予想外の出来事というのは、投資判断の上で望ましくないわけです。
簡単に言えば、「市場の投資家に心の準備を行う期間を設けること」を買収者に義務付けるわけです。
また、既存の買収提案よりも好条件を提示する新たな買収提案者が現れる可能性もありますから、
その「待機期間中」に新たな買収提案者には申し出てもらう、という目的もあると言えます。
投資家にとって「予想外の出来事をなくすこと」がその規制の目的だ、と考えるわけです。

 



理論的には、買収提案に関しては、ただ単に、

"Shares are transferred from shareholders to an acquirer." (株式は株主から買収者へ譲渡される。)

というだけであり、その賛否は純粋に株主が決めることであり、会社が関与したり意思決定をしたりする話ではないのですが、
「発行者の清算期日は定めない」という現行の証券制度を踏まえますと、
実際には「買収提案者の情報開示」が投資家の利益を左右することになるわけです。
したがって、買収の提案に関しては、まず投資家にとって「予想外の出来事」をなくすための一種の事前警告を
買収提案者に義務付けるということが、投資家の利益保護の観点から言えば重要であるわけです。
そして次に、投資家が適切に投資判断をできるように、十分な情報の提供を買収提案者に求め、
また、会社側の意見も会社に開示させ、買収提案への賛否を投資家が検討するための時間を十分に確保する、
といった一連の規制を設けることが証券制度上求められるのではないかと思いました。
現在、導入している買収防衛策により上場企業が買収提案者に対し行おうとしている様々な施策を、
今後は法制度として義務付ける(金融商品取引法を改正し法律上の規制とする)、ということが求められるのではないか、
と紹介している記事を読んで思いました。
買収行為を一方的に妨げるようなこと(新株予約権の無償発行等)を法律上義務付ける必要はもちろんありませんが、
少なくとも「買収提案者による情報開示」を義務付ける・強化する、という点については、法制度上そうするべきですし、
その際には買収防衛策に関する議論(現在導入済みの買収防衛策も)が参考になると思います。
金融商品取引法は、「ディスクロージャーの法」なのですから。

 

A lack of a liquidation date of an issuer deteriorates an investment judgement by investors.
Or rather, a lack of a liquidation date of an issuer makes
expectations on a future performance of the issuer by investors fundamentally insignificant.
For a lack of a liquidation date of an issuer means
that distribution of residual assets of the issuer doesn't belong to investors.

発行者に清算期日がないと、投資家による投資判断が悪化してしまうのです。
いやむしろ、発行者に清算期日がないと、投資家による発行者の将来の業績予想が本質的に意味がなくなってしまうのです。
というのは、発行者に清算期日がないというのは、
発行者の残余財産の分配は投資家に帰属していない、ということを意味するからです。

 

From a viewpoint of investors' profit protection, the Financial Instruments and Exchange Act is
a "law of disclosure" not only on an issuer but also on current and potential shareholders.

投資家の利益保護の観点から言えば、金融商品取引法は、発行者に対する「ディスクロージャーの法」であるだけではなく、
現在のそして将来の株主に対する「ディスクロージャーの法」でもあるのです。