2018年6月9日(土)
最近の82日間のコメントを踏まえた上で、記事を紹介しつつ、
「優先株式(種類株式)に貸倒引当金を計上する」という会計処理についてコメントを書きたいと思います。
2018年3月19日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180319.html
から
2018年6月8日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201806/20180608.html
までの一連のコメント
現物取引と先渡取引と先物取引の相違点について書いたコメント
2018年3月12日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180312.html
「オークション方式」に関する過去のコメント
2016年3月27日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201603/20160327.html
2016年7月13日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201607/20160713.html
2018年6月7日(木)日本経済新聞
成長戦略「自由度高まる」 シャープ2000億円増資 鴻海と連携
(記事)
2018年6月6日(水)のコメントで紹介したプレスリリースです↓。
以下、下記のプレスリリースを「資本財務再構築プラン」と省略して書きます。
2018年6月5日
シャープ株式会社
「資本財務再構築プラン」の策定、これに基づく自己株式(A種種類株式)の取得(会社法第459
条第1項の規定による
定款の定めに基づく自己株式の取得)に係る事項の決定及び新株式発行に係る発行登録のお知らせ
並びに
C種種類株式の普通株式を対価とする取得条項に基づく取得方針に関するお知らせ
ttp://www.sharp.co.jp/corporate/ir/pdf/2018/180605-3.pdf
(ウェブサイト上と同じPDFファイル)
2018年6月6日(水)のコメントで、シャープが東芝のパソコン事業を買収するという記事とプレスリリースを紹介しました。
また、同時に、シャープが2000億円の公募増資を行い、銀行が保有している優先株式を買い取る、
という記事とプレスリリースを紹介しました。
その時に紹介しています2018年6月6日(水)の日本経済新聞によりますと、銀行が保有している優先株式は、
2015年6月に「デット・エクイティ・スワップ」と呼ばれる手法により、
借入金勘定を優先株式勘定(資本金勘定)に振り替えた時に発行されたものであるとのことです。
銀行の立場から見ると、結果的には、シャープに対する貸出金が返済されたことと同じになるわけです。
ただ、優先株式の配当年率は貸出金の貸出利率よりも通常は高いと考えられますので、
銀行としては優先株式の買い戻しに応じず今後も配当を受け取り続けるという選択肢も考えられるわけですが、
それら銀行はシャープに対しては貸出金もありますので、財務体質の改善を最優先に考えているということなのだと思います。
記事によりますと、2018年6月現在、三菱UFJ銀行が保有するシャープの優先株式の金額は1,000億円、
シャープに対する貸出金の金額は2,500億円となっている、とのことです。
公募増資の実施と優先株式の買い取りの発表を受けて、三菱UFJ銀行は、シャープに対する貸出金が弁済期日に返済される見込みは
高まったとの判断を行う方針であり、シャープに対する貸出金に対する貸倒引当金を取り崩す方針であるとのことです。
現在三菱UFJ銀行が計上しているシャープに対する貸出金に対する貸倒引当金の金額がいくらなのかは記事には書かれていませんが、
「最大で」との文言が記事中にありますので、貸倒引当金の金額は1,000億円なのではないかと推測できるかと思います。
つまり、三菱UFJ銀行が計上しているシャープに対する貸出金に対する貸倒引当金の金額は0円となる見込みではないかと思います。
簡単に言えば、三菱UFJ銀行はシャープに対する貸倒引当金の全額(1,000億円)を取り崩す方針なのではないかと思います。
考えてみますと、このたびの事例もそうなのですが、保有している優先株式に対して貸倒引当金を計上する、
という話は今まで聞いたことがないな、と思いました。
通常、貸出金に対しては貸倒引当金を計上しますが、優先株式に対して貸倒引当金を計上するという話は聞いたことがないわけです。
このたびの三菱UFJ銀行とみずほ銀行も同じであり、両行は、貸出金に対しては貸倒引当金を計上していますが、
優先株式に対しては貸倒引当金を計上していないわけです。
優先株式に対して計上していた貸倒引当金を取り崩したり戻し入れたりするという話は今までに一度も聞いたことがないわけです。
優先株式というのは、株式というくらいですから、基本的性質は資本であり、基本的には返済を前提とするものではない以上、
優先株式に対して貸倒引当金を計上するという会計処理は通常は行わないわけですが、
改めて考えてみますと、優先株式に対して貸倒引当金を計上するという会計処理を行わなければならない場面があると思いました。
シャープが発表しているプレスリリース「資本財務再構築プラン」には、
2015年6月に「デット・エクイティ・スワップ」により発行されたシャープのA種種類株式には、
@2019年7月1日以降に行使可能となる普通株式を対価とする取得請求権と、
A2021年7月1日以降に行使可能となる金銭を対価とする取得請求権が存在する、と記載されています。
このうち、@普通株式を対価とする取得請求権に関しては、A種種類株式は資本としての性質が著しく高いため、
どんなにシャープの財務体質が悪化しようとも、実務上A種種類株式に対し貸倒引当金を計上する必要性は全くない
(理論上も貸倒引当金の計上に全くそぐわない)のですが、
A金銭を対価とする取得請求権に関しては、A種種類株式は負債としての性質が著しく高いため、
シャープの財務体質が悪化した場合には、実務上A種種類株式に対し貸倒引当金を計上する必要が出てくる
(理論上も貸倒引当金の計上を行うべき資産という分類になる)のです。
簡単に言えば、種類株式にどのような内容の取得請求権が存在するのか(もしくは何らの取得請求権も存在しないのか)により、
その種類株式に対して貸倒引当金を計上するべきか否かが決まってくるわけです。
種類株式に何らの取得請求権も存在しない場合や普通株式を対価とする取得請求権のみが存在する場合は、
その種類株式に対して貸倒引当金を計上するのは間違いであるわけです。
一方、種類株式に金銭を対価とする取得請求権が存在する場合は、
発行者の財務体質如何によりその種類株式に対して貸倒引当金を計上する必要性が出てくるわけです。
「資本の質」(どれくらい資本としての性質が高いのか)という観点から種類株式を見てみますと、「資本の質」が高い順に、
@何らの取得請求権も存在しない種類株式
≧A普通株式を対価とする取得請求権が存在する種類株式>>B金銭を対価とする取得請求権が存在する種類株式、となります。
シャープが発表しているプレスリリース「資本財務再構築プラン」の「資本財務再構築プランの目的」(8/16ページ)には、
「A種種類株式の不確実性の払拭」が書かれています。
「A種種類株式の不確実性」として、@「普通株式対価取得請求に基づく当社の企図しない希薄化を払拭」と
A「金銭対価取得請求による当社の企図しない時期の金銭支出の可能性を排除」とが何気なく並べて記載されているわけですが、
「資本の不確実性(リスク)」という意味では、上記の@とAは実は根本的に異なっている、と言わねばならないのです。
@普通株式対価取得請求権が行使されても発行者はどのような財務状況であれ基本的には請求に応じることができますが、
A金銭対価取得請求権が行使される場合は財務状況次第では発行者は即債務不履行を起こしかねません。
債権者(種類株式保有者)にとっても、現実にはA金銭対価取得請求権の行使自体を控えざるを得ない、という場面も生じます。
一言で種類株式と言っても、金銭を対価とする取得請求権が存在するか否かでその取り扱いが根本的に変わってきます。
このたびのシャープによるA種種類株式の買い取りは、金銭を対価とする取得請求権の存在を鑑みれば、
事実上「貸出金の返済」である(すなわち、A種種類株式は実は始めから貸出金と同じ性質の有価証券であると分類される)、
という見方をしなけばならないと思います。
端的に言えば、種類株式に金銭を対価とする取得請求権が存在する場合は、その種類株式は貸倒引当金を計上するべき金融資産なのです。