2018年3月12日(月)


2017年6月7日(水)日本経済新聞
金融派生商品に取引透明化の波 日本取引所、取り扱い拡充 資金決済、相対から集中清算に
(記事)


2018年3月9日(金)日本経済新聞
決済の違約ルール 東商取が緩和 取引業者参入促す
(記事)



1-3 商品先物取引の仕組み - 先物・オプション入門(東京商品取引所)
ttp://www.tocom.or.jp/jp/guide/nyumon/kojin/overview03.html

 

2-1 先物取引とは?(知るぽると)
ttps://www.shiruporuto.jp/public/data/encyclopedia/deriv/deriv201.html

 

先物取引の仕組みI(先物取引が日本一よくわかるサイト)
ttp://www.ftr-transaction.net/beginner/structure.html

 

先物取引(ウィキペディア)
ttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%88%E7%89%A9%E5%8F%96%E5%BC%95

 



【コメント】
紹介している2つの記事は、現物取引と先渡取引と先物取引に関する記事になります。
現物取引と先渡取引と先物取引について、一言だけコメントを書きたいと思います。
まず最初に、議論に先立ち「定義」を明確にするために、現物取引と先渡取引と先物取引について概念整理をしたいと思います。
現物取引と先渡取引と先物取引の相違点を次のように整理してみましたので、理解のヒントにして下さい。

 

The difference between spots, forwards, and futures
現物取引と先渡取引と先物取引の相違点

(PDFファイル)

(キャプチャー画像)



【注記】
「現物の受け渡しはするのかしないのか?」という切り口で取引を分類するのが本質的であろう。
先物取引では現物の受け渡しは行なわない。
先物取引は差金決済のみ(差金決済をする取引は先物取引のみ)。
また、「現物の受け渡しはしないまま取引時点で(その場で)決済をする。」という取引は観念できない。
なぜならば、その場合は差額(差金)自体が発生しないからである(つまり、現物の受け渡ししかない)。
そして、先渡取引では差金決済はしない。
先渡取引では、(決済時の価格でではなく)契約時に「約束した価格で」現物の受け渡しを行なう。

 

現物取引と先渡取引と先物取引の違いについては、決済をするタイミングで取引を分類することが教科書等では多いと思います。
すなわち、@取引時にその場で決済をする取引が現物取引であり(今すぐに決済をする取引)、
一方、A取引の契約時に両者で合意をした将来のある時点で決済をする取引が先物取引と先渡取引である(将来に決済をする取引)、
という説明が教科書等ではなされていることが多いと思います。
概念的に書けば、「現物取引」vs.「先物取引、先渡取引」という区分をしていることが教科書等では非常に多いわけです。
しかし、これらの取引については、「現物の受け渡しはするのかしないのか?」という切り口で分類をする方が本質的である、
と思いました。
別の言い方をすれば、「買い手は目的物を取得するのかしないのか(差金決済か現物の受け渡しか)?」という区分が、
投資家としてではなく事業者として取引を見た場合に極めて本質的だと思うわけです。
概念的に書けば、「現物取引、先渡取引」vs.「先物取引」という区分により、これら3つの取引を分類するべきだと思いました。

 


現代における一般的な商取引を想定しますと、売買契約の締結時に目的物を引き渡したり代金を支払ったりはしないわけです。
売買契約の締結日より後の将来の特定の期日に目的物を引き渡し、そして、
引渡し日以降のさらに将来の特定の期日に代金を支払う、という取引(契約締結といわゆる掛取引)を現代では行なうわけです。
このような取引類型(売買当事者の取引行為)は、今日の議論で言えば、まさに先渡取引に該当するわけです。
現代における一般的な商取引は、現物取引ではなく、実は先渡取引なのです。
現代の取引において現物取引と言えるのは、スーパーやコンビニ等(小売店全般)で消費者が(その場で)店頭で商品をかごに入れ
すぐに(その場で)レジで代金を支払う、という取引(まさに消費者の買い物、小売段階の消費行動)だけだと言えるのです。
「将来に目的物の引渡しや代金の支払いを行なうことを約束する」という現代の商取引の形態は、まさに先渡取引のそれなのです。
「市場価格との差異(差額、差金)」や「目的物は上場しているのか否か」というようなことを頭に思い浮かべてしまうので、
「現代における一般的な商取引はただ単に現物取引というだけなのではないか。」、と思ってしまうだけなのです。
他の言い方をすると、先物取引との比較・対比で物事を考えてしまので(目的物は市場で買えるのか否かをつい考えてしまうので)、
「現代における一般的な商取引はただ単に現物取引というだけなのではないか。」と思ってしまうだけなのです。
「買い手は目的物を取得したいと思っている(目的物の取得が買い手の目的だ)。」という観点から言えば、
実は現物取引と先渡取引との間に差異はなのです。
「現物取引、先渡取引」と「先物取引」との間に大きな本質的差異があるのです。
現代における一般的な商取引は、実は先渡取引そのものなのです。
「市場」(金融商品市場等)を頭に思い浮かべてしまうので、現代における一般的な商取引は現物取引だと思ってしまうだけなのです。
あと、現代の取引において現物取引と言えるのは、いわゆる株式市場(株式の現物市場)での取引かと思います。
株式市場(株式の現物市場)での取引は、投資家が「この銘柄をこの価格(株価)で買う。」と言ってその場で代金を支払って
目的の銘柄を購入する(銘柄の引渡しもその場で行う)という形になりますので、まさに現物取引であると言えるわけです。
確かに、「先渡取引」("forwards")という言葉は、金融商品市場における専門用語のようなところがありますので、
「現代における一般的な商取引は先渡取引である。」と表現するのは文脈によっては正確性を欠く場合もあると言えるのですが、
「現物の受け渡しを行なう」という点に先渡取引の特長がありますので、そこで行なわれる取引の本質を考えれば、
「先渡取引」を広い意味に捉えれば、「現代における一般的な商取引は先渡取引である。」と表現するのは間違いではないのです。
また、金融商品市場における「先渡取引」においても(狭義の「先渡取引」においても)、
商品の売り手は買い手に受け渡す商品を市場で買わなければならない、ということはないわけです。
商品の売り手は、自分の家の倉庫に商品を持っていれば、その商品を買い手に受け渡してもよいわけです。
その意味では、狭義の「先渡取引」においても、受け渡しを行なう商品の市場や市場価格は、当事者には関係がないのです。
買い手は、売り手がその商品をどこで入手しようが、約束した期日に約束した価格で商品の受け渡しを行なってくれれば、
それでよいわけです(買い手売り手双方にとって、それで先渡契約は無事履行されたことになる)。
先物取引では、差金決済を行うことから、市場価格が取引において本質的に重要になるわけなのですが、
先渡取引では、現物の受け渡しを行なうことから、市場価格が相対的に重要ではない(市場価格が取引とは関係がない部分がある)、
という言い方ができるわけです。
他の言い方をすれば、当事者にとって、先物取引の目的は「投資利益の獲得」(差金決済による投資利益の最大化)である一方、
先渡取引の目的は「現物の受け渡し」(買い手は現物を取得することが目的であり、売り手は現物を譲渡することが目的である)
と言えるわけです。

 



確かに、市場価格の兼ね合い次第では、当事者が先渡契約を締結しなければよかったと後悔することはあり得るとも言えるわけです
(買い手は市場でならもっと安い価格で商品を買えたと後悔し、売り手は市場でならもっと高い価格で商品を売れたと後悔し得る)
が、少なくとも、当事者が契約締結時点においてお互いに納得・合意をした価格で商品の売買を行うことに変わりはないわけです。
市場価格を度外視すれば、先渡取引では、当事者は常に納得・合意をした価格で商品の売買を行うのです。
先渡取引において、「先渡契約を締結しなければよかった。」と後悔するのは、結果論や後出しじゃんけんに過ぎないわけです。
他の言い方をれば、「隣の芝生は青い。」という状態であるわけです。
ここで言う「隣の芝生」とは、言うまでもなく商品の「市場価格」のことを指します。
当事者は、約束した価格で商品の売買を行うことに納得・合意をしたわけです。
そのことだけは動かしようのない事実であるわけです。
それなのに、後になって(受け渡し期日になって)商品の「市場価格」と合意価格とを比較するのはお門違いであるわけです。
先渡契約を締結した時点で、「市場価格」は忘れるべきなのです。
なぜならば、価格についてはお互いに納得・合意をしたからです。
買い手はその売買価格に納得をしたわけですし、売り手もその売買価格に納得をしたわけです。
実は買い手も売り手も納得をした価格で商品の売買を行うことができる、それが「先渡取引」なのです。
「先物取引」では、まさに「市場価格」がお互いの利益を左右するため、当事者は「市場価格」が気になって仕方がないわけです。
なぜならば、「先物取引」ではまさに「市場価格」が差額(差金)を決定するからです。
一方、「先渡取引」では、「市場価格」は当事者双方の利益を一切左右しません。
現代における一般的な商取引において、売買契約を締結しなければよかったと後悔する当事者がいるでしょうか。
教科書等にはあまり書かれていないことだと思いますが、「先物取引」と「先渡取引」とは実は本質的に・根源的に異なるのです。

 



最後に、各記事について一言ずつコメントをしたいと思います。
まず2017年6月7日(水)付けの日本経済新聞の記事についてですが、
結論を先に言いますと、現物取引であれ先渡取引であれ先物取引であれ、決済という文脈では実は全てが「相対取引」なのです。
記事には、従来は相対で決済を行っていたが今後は中央清算機関を使った一括決済(決済処理をまとめて行なうこと)
へと移行すると、書かれていますが、たとえ中央清算機関を用いることにしようが、
本質部分は従来通り相対による決済のままなのです。
というよりも、金融商品市場という文脈では、現時点で既に中央清算機関を用いた決済が制度上行われていると思います。
現物取引であれ先渡取引であれ先物取引であれ、買い手と売り手とが面会し目的物や代金を文字通り(物理的に・直接に)手渡す、
ということは、制度上行なわれていません。
投資家保護の観点から、目的物や代金を相手方に受け渡すためのコンピューター・システムが買い手と売り手との間に入り、
そのコンピューター・システム(中央清算システム)が電子的に目的物や代金の受け渡しを行なうという形になります。
ただ、その場合も、中央清算機関はコンピューター・システムとして買い手と売り手との間に入るだけであって、
本質的には目的物や代金は買い手と売り手との間で(相対取引により)受け渡しが行なわれることに変わりはないのです。
次に、2018年3月9日(金)付けの日本経済新聞の記事についてなのですが、詳しくは分かりませんが、
端的に言えば、法律上の「先物取引」の定義(法律上や上場規定上の定義)が今日私が書きました議論とは異なっている、
ということかもしれないなと思いました(「先物取引」の定義が近年になって変更になっているのだと思います)。
元来的には、「先物取引」では差金決済しか行なわない(現物の受け渡しは一切行なわない)わけです。
したがって、「先物取引」において「取引業者が偶発的に生じた現物受渡しを履行できない場合」
という状況はあり得ないと思います。
「先物取引」において、「顧客が反対売買できない場合」を想定するというのは、「先物取引」そのものの否定に近いわけです。
ただ、この記事で言っている「先物取引」は実は「先渡取引」のことを意味しているとすると、意味が分かると思いました。
「先渡取引」において、「取引業者が偶発的に生じた現物受渡しを履行できない場合」は、今後は差金決済を認めるようにする、
というのは、現実を踏まえた上での投資家保護上の代替手段としてあってよいのではないかと思いました。
ただ、買い手にとって「先渡取引」の目的は、やはり現物の取得であるわけです。
その意味においては、非常時に「先渡取引」を「先物取引」のようなものと見なして代替的に差金決済を行うことにしたところで、
買い手の本来の利益(約束した価格で現物を取得すること)は全く保護されていない、と言わねばならないと思います。
非常時における代替的な手段としては、差金決済をするではなく買い手が一種の違約金を受け取れるようにするべきだと思います。
また、元来の意味の「先物取引」において、「顧客が反対売買できなかった場合」(差金決済をできなかった場合)に、
現物の受け渡しをもって契約の履行とする、ということに関連することも記事に書かれていますが、
そのようなことも現実を踏まえた上での投資家保護上の代替手段としてあってよいのかもしれないなと思いました。
ただ、「先物取引」の当事者は、双方が差金決済を行うこと(投資利益の獲得)を目的としているわけです。
その意味においては、非常時に「先物取引」を「先渡取引」のようなものと見なして
代替的に現物の受け渡しを行うことにしたところで、結局のところは、
双方の本来の利益(差金決済を行い投資利益を獲得すること)は全く保護されていない、と言わねばならないと思います。
なぜならば、「先物取引」では当事者は現物の取得など何ら望んではいないからです。
現物の取得など何ら望んではいないからこそ、当事者は「先渡取引」ではなく「先物取引」を行うことにしたのです。
したがって、「先物取引」では、非常時における代替的な手段としては、現物の受け渡しを行うのではなく、
利益を害された方が相手方から何らかの形で一種の違約金を受け取れるようにするべきだと思います。

 


Participants in the spot market want not to settle a difference concerning their trading
but to trade spot goods themselves.

現物市場への参加者は、取引に関する差額を決済したいのではなく、現物そのものの取引を行ないたいのです。

 

Even though participants in the market settle their respective accounts
through a central settling organization such as Japan Securities Clearing Corporation,
cash is essentially paid from a buyer to a seller all the same.
A central settling organization merely intervenes between a buyer and a seller as a nominal trading stabilizer.
To put it simply, a central settling organization merely delivers cash from a buyer to a seller.

市場参加者はそれぞれの勘定を日本証券クリアリング機構のような中央清算機関を通じて決済を行う場合であっても、
現金は本質的にはやはり買い手から売り手へと支払われるのです。
中央清算機関は、形だけの取引安定機関として、ただ単に買い手と売り手との間に入るだけなのです。
簡単に言えば、中央清算機関は買い手から売り手へと現金を受け渡すだけなのです。

 

General commercial transactions in the modern times are "forwards" themselves, actually.

現代における一般的な商取引は、実は「先渡取引」そのものなのです。

 

Once a "forwards" contract is entered into, forget the market. And, you may forget the market in your transaction.

一旦「先渡」契約を締結したならば、市場は忘れなさい。そして市場を忘れても取引上問題はないのです。

 

"Forwards" are much more similar to "spots" than to "futures" in nature, actually.
For "forwards" are a "sale" in nature.
In "futures," a "sale" is not made at all, therefore "forwards" are quite different from "futures" in nature.

「先渡取引」は、「先物取引」よりも実は「現物取引」にはるかに本質的に類似しているのです。
というのは、「先渡取引」は本質的に「売買」だからです。
「先物取引」では、「売買」は一切行なわれません。
したがって、「先渡取引」は本質的に「先物取引」とは完全に異なっているのです。