2018年6月8日(金)



最近の81日間のコメントを踏まえた上で、記事を紹介しつつ、コメントを書きたいと思います。

 


2018年3月19日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180319.html

から

2018年6月7日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201806/20180607.html

までの一連のコメント

 


現物取引と先渡取引と先物取引の相違点について書いたコメント

2018年3月12日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180312.html

 


「オークション方式」に関する過去のコメント

2016年3月27日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201603/20160327.html

2016年7月13日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201607/20160713.html

 

 


昨日は、「法制度上会社の業務執行者を会社の債務の連帯債務者としても、実は出資者・委任者の利益は保護されない。」、
という点についてコメントを書きました。
商法における通説がまさにそう解されているようなのですが、一見すると、
法制度上会社の業務執行者を会社の債務の連帯債務者とすることは、債権者保護に資するだけではなく、
出資者・委任者の利益保護にも資する、と思ってしまいます。
会社の業務執行者が会社の債務の連帯債務者である場合、業務執行者は会社が倒産しないようにより注意を払って業務執行を行う
と考えられますので、結果、会社は倒産する可能性が低くなり、会社の利益額もより増加するものと考えられるからです。
しかし、その解釈は「出資者・委任者の利益」を履き違えているわけです。
「出資者・委任者の利益」は、会社が倒産しないことではなく、業務執行者が期待される利益額を達成してくれることなのです。
例えば、委任の際、出資者・委任者が業務執行の結果100円の利益を上げてくれることを業務執行者に期待するとしましょう。
この時、「法制度上会社の業務執行者が会社の債務の連帯債務者である」場合は
業務執行者は期待通り100円の利益を上げることができるのだが、
「法制度上会社の業務執行者は会社の債務の連帯債務者ではない」場合は
業務執行者は10円の利益しか上げることができない、などということはないわけです。
業務執行者が達成することができる利益額に(すなわち、出資者・委任者の利益が害されるか否かに)、
「法制度上会社の業務執行者は会社の債務の連帯債務者であるか否か?」は全く関係がないわけです。
10円の利益しか上げることができない業務執行者は、会社の債務の連帯債務者であろうが連帯債務者でなかろうが、
10円の利益しか上げることができないのです。
10円の利益しか上げることができない業務執行者は、会社の債務の連帯債務者でない場合は10円の利益しか上げることができないが、
会社の債務の連帯債務者になると期待通り100円の利益を上げるようになる、などということはないわけです。
10円の利益しか上げることができない業務執行者は、会社の債務の連帯債務者であろうが連帯債務者でなかろうが、
10円の利益しか上げることができないのですが、
その業務執行者はそのどちらの場合も出資者・委任者に対して債務不履行を起こしてはいないわけです。
法制度上会社の業務執行者を会社の債務の連帯債務者とすることは、実は出資者・委任者の利益を保護する手段・方法ではないのです。
最初に書きましたように、現実的なことや心理的影響や社会的な緊張感や副次的・波及的な効果という意味では、
会社の業務執行者が会社の債務の連帯債務者である場合、業務執行者は会社が倒産しないようにより注意を払って業務執行を行う
と考えられますので、結果、会社は倒産する可能性が低くなり、会社の利益額もより増加するものと考えられます。
その意味では、現実には、法制度上会社の業務執行者を会社の債務の連帯債務者とすることは出資者・委任者の利益保護に資する、
という言い方はできると思います。
しかし、100円の利益を上げてくれるだろうと期待して委任を行った出資者は、たとえ会社は倒産はしなかったとしても、
業務執行者が10円の利益しか上げることができなかった場合、結局失望する(結局"satisfied"はしていない)わけです。
出資者・委任者は"satisfied"はしていないというのは、概念的には利益は保護されていないことと同じではないでしょうか。
法制度上会社の業務執行者を会社の債務の連帯債務者とすることは、
現実には出資者・委任者の利益保護に資する側面もあるとは言えるのですが、
理論的には出資者・委任者の利益保護に資するわけではない(正確に言えば、出資者・委任者の利益とは関係がない方策である)、
と言わねばならないのです。
出資者・委任者の利益を保護する唯一の方法は、理論上も実務上も、一見すると禅問答のように思うかもしれませんが、
始めから受託者責任を果たす業務執行者を選任すること以外にないのです。
理論上は、ある人物を出資者・委任者が業務執行者として選任した時点で、その人物は受託者責任を果たす業務執行者なのです。

 


関連する論点になりますが、今日の日本経済新聞に取締役の選任に関する記事が載っていました↓。


2018年6月8日(金)日本経済新聞
社外役員起用 強く促す 運用機関、株主総会で統治問う 人数など 未達なら反対
持ち合い株 削減求める 余剰資金にも厳しい目
(記事)



「社外取締役」については、会社法の第二条(定義)の第十五号にそのまま定義が記載されています。
会社法の規定を簡単にまとめますと、「社外取締役」とは、株式会社の取締役であって、
当該株式会社またはその子会社の業務執行取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人ではなく、
かつ、過去に当該株式会社またはその子会社の業務執行取締役または支配人その他の使用人になったことがない者、となります。
ただ、会社法上は、「社外取締役」という通常の取締役とは異なる法的地位にある取締役がいるわけではありません。
法的地位という意味では、「社外取締役」とはまさに取締役のことなのです。
会社法には、取締役の権利と義務についての規定があるわけですが、
それら規定の全てがそのまま「社外取締役」にも適用されるわけです。
会社法上の位置付けとしては、取締役と「社外取締役」とに区別はないわけです。
「社外取締役」と関連があると言える会社法上の義務に「取締役の監視義務」があります。
一般に「社外取締役」と言いますと、会社の業務執行や他の取締役を監視する役割を果たすことが期待されているわけです。
しかし、会社法上の義務であるこの「取締役の監視義務」は、実は他の取締役全員が始めから負っている義務であるわけです。
会社法上、特段に「社外取締役」だけが取締役の監視義務」を負っているわけではないわけです。
すなわち、会社法上は、通常の取締役だけで会社の業務執行や他の取締役の監視は機能することが前提であるわけです。
会社法のみの観点から言えば、実は「社外取締役」を選任する意味は全くないのです。
「社外取締役」に該当しないことを理由に、通常の取締役が「取締役の監視義務」を果たさなかった責任は免責されないのです。

 



さらに言えば、「社外取締役」は紛れもなく取締役であるわけですから、取締役会に必ず出席をしなければならないわけです。
すなわち、取締役会という場では、「社外取締役」は必然的に会社の「業務執行の決定」に参加しなければならないわけです。
「社外取締役」と聞きますと、会社の業務執行に関与はしないのではないか、と思われるかもしれませんが、それは正反対です。
会社法上は、「社外取締役」は、取締役会の構成員である以上、会社の業務執行に必ず関与しなければなりません。
会社の「業務執行の決定」に参加・関与しない「社外取締役」というのは、会社法上はあり得ないのです。
端的に言えば、会社の「業務執行の決定」に問題があった場合、「社外取締役」であることを理由に免責はされないのです。
少なくとも会社法上は、取締役の出自(出身母体)による区別や免責は一切想定していないのです。
通常の取締役と「社外取締役」とでは、果たすべき義務・責務は同じであるだけでなく、実はその権利・権限も同じなのです。
極端に言えば、実は会社法上は「社外取締役」という取締役はいないのです(果たすべき職分・役割という意味においてですが)。
会社法上の法的責任という意味では、「社外取締役」を選任・起用することと通常の取締役を選任・起用することは全く同じです。
どちらを選任・起用しても、会社の統治体制や監督機能は同じである、という前提を会社法を置いているわけです。
会社法制度という観点から言えば、どちらを選任・起用しても、会社の統治体制や監督機能は同じでなければならない、
という結論になるわけです。
ここ数日私が書いています議論との関連で言えば、「『社外取締役』は連帯債務者ではありません。」、
と聞いて納得する債権者はいないわけです。
債権者の立場から言えば、他の取締役同様「業務執行の決定」に関与した(取締役会の場で議決権を行使した)にも関わらず、
「社外取締役」は連帯債務は負わない、と言われも納得はしないわけです。
連帯債務を負いたくないならば、「業務執行の決定」に関与しなければよいわけです(それなら債権者も納得はするでしょう)。
しかし、会社法上、「社外取締役」が「業務執行の決定」に関与しないことはできないのです。
世が世なら、通常の取締役同様、「社外取締役」は連帯債務を負わなければならなかったのです。
なぜならば、「社外取締役」は「業務執行の決定」に関与するからです。

 



簡単に言えば、債権者の立場から見ると、「社外取締役」と通常の取締役は全く同じに見えるわけです。
昨今の企業経営に関する世の様々な論調を見ますと、「それは株主から見た場合の会社観だ。」と言いたくなることが非常に多く、
「債権者の立場から見ると全く違ってみるのだが。」と言いたくなるわけです。
昨今の「企業統治指針」しかり「スチュワードシップ・コード」しかり、これらは全て株主の立場から見た話であるわけです。
もちろんそれらの議論が間違っているというわけではないのですが、
債権者の立場から見ると、「通常の取締役であれ『社外取締役』であれ、『業務執行の決定』に関与する以上は
同じ責任を負ってもらいます。」と言いたくなるわけです(つまり、債権者はそのような会社観を持つわけです。)
なぜならば、会社の債務は「業務執行の決定」の結果生じたものだからです。
簡単に言えば、債権者の立場から見ると、通常の取締役と「社外取締役」は全く同じなのです。
昨今の企業経営に関する世の様々な論調を見ますと、通常の取締役と「社外取締役」とは別の存在である(異なる役割を果たし得る)、
ということが暗に前提になっているようですが、なるほど株主の立場から見るとそのようなことが言えるかもしれませんが、
少なくとも債権者の立場から見ると、「会社の債務不履行に関しては同じ責任を負ってもらうだけだ。」、と見えるわけです。
債権者の立場から見ると、取締役が連帯債務さえ負ってくれれば会社に統治体制や監督機能は全く必要ない、と見えるわけです。
債権者の立場から見ると、昨今の統治体制や監督機能に関する議論など、うそっぱちに見えるわけです。
債権者の立場から見ると、会社には、「業務執行の決定」に関与する人物と「業務執行の決定」に関与しない人物の
2種類の人間しかいない、というふうに見えるわけです。
債権者の立場から見ると、例えば会社法制度上監査役は「業務執行の決定」には関与しませんので、
監査役に連帯債務を負ってもらおうとは思わないわけです。
債権者の立場から見ると、「業務執行の決定」に関与する人物に連帯債務を負ってもらえばそれで必要十分だと見えるわけです。
債権者の立場から見ると、「社外取締役」を選任・起用することに(特に法的責任という意味では)特段の意味はないのです。
先ほども書きましたが、債権者の立場から見ると、通常の取締役と「社外取締役」は全く同じなのです。
会社法制度は債権者保護を標榜してますので、当たり前のことですが、会社法は債権者の立場から両取締役を見ているわけです。
ここまで世の論調と会社法の規定とに乖離がある理由は、端的に言えば「債権者の利益と投資家の利益は別である。」からなのです。
今日紹介している記事にも、債権者のさの字も出てこないわけです。
確かに、この記事では株主の立場から見て議論を行っているのでしょうから、そのことは当たり前のことかもしれません。
しかし、取締役の選任という場面では、会社法の文脈を無視できないわけです。
少なくとも債権者保護を標榜する会社法制度から(つまり債権者から)見ると、取締役に国籍、性別、年齢、出自の区別はない、
という会社観を債権者は持つわけです。
つまり、債権者から見ると、取締役の属性は多様であっても一様であっても全く構わないわけです(自分の利益に関係がないから)。
「『社外取締役』は会社の『業務執行の決定』に関与する。」、という当たり前の事実が昨今の議論では完全に抜け落ちているな、
と感じましたので、皆が忘れている「業務執行の決定」という取締役の職務に着目して一言書きました。
昨今の企業経営に関する世の様々な議論など、債権者から見ると"So, what?"(だから何だ?)と言いたくなりますので、
会社法の基本に立ち返り、今日は"solid"(堅実な)議論をしてみました。
世が世なら、通常の取締役同様、「社外取締役」は連帯債務者だったのです。
また、取締役が連帯債務者だった頃は、取締役会の決議要件は"solid"(満場一致の)だったのではないかと思います。


Shareholders have elected a person to an executive of a company, that person exactly performs a "fiduciary duty."

株主が会社の業務執行者に選任した人物、まさにそれが「受託者責任」を果たす人物です。