2016年8月17日(水)



昨日一昨日は、ヤフー株式会社による株式会社イーブックイニシアティブジャパンに対する公開買付について
コメントを書いたわけですが、2016年8月12日(金) にコメントを書きました、
新日鐵住金株式会社による日新製鋼株式会社に対する公開買付及び第三者割当増資について、一言だけ追記をします。
最初に公開買付を実施し、公開買付に過半数の応募がなかった場合は第三者割当増資を引き受けることで連結子会社化を目指す、
という事例になるわけですが、
新日鐵住金株式会社と日新製鋼株式会社との関係は、ヤフー株式会社と株式会社イーブックイニシアティブジャパンの関係と
同じになるわけです。
ただ、ヤフー株式会社と株式会社イーブックイニシアティブジャパンの事例では、通常の第三者割当増資を実施するのではなく、
対象会社である株式会社イーブックイニシアティブジャパンが自己株式を公開買付に応募する、
という形を取ることで、財務的には第三者割当増資を実現したことと同じ状態を作り出している、
という点が極めて特徴的であったわけです。
新日鐵住金株式会社と日新製鋼株式会社の事例では、公開買付に過半数の応募がなかった場合は、
通常の第三者割当増資を実施する計画となっているようです。
それでは、2016年8月12日(金) のコメントも参照しつつ、一言だけコメントを書きしたと思います。

 


過去の関連コメント


2016年8月10日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201608/20160810.html

2016年8月11日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201608/20160811.html

2016年8月12日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201608/20160812.html

2016年8月15日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201608/20160815.html

2016年8月16日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201608/20160816.html

 


先ほども書きましたように、新日鐵住金株式会社が実施する公開買付に過半数の応募がなかった場合は、
日新製鋼株式会社は新日鐵住金株式会社に対し、第三者割当増資を実施する計画であるわけです。
ただ、その第三者割当増資は、文字通り、日新製鋼株式会社が新日鐵住金株式会社の連結子会社となることを目的に
実施されるわけです。
従来であれば、会社法上、そのような第三者割当増資は取締役決議だけで何の問題もなく行えました。
しかし、最近の改正会社法(平成26年6月20日成立、平成27年5月施行)では、
連結子会社となることを目的とした第三者割当増資には株主総会決議が必要である、と要件が改正されたようです。
より正確に言うと、そのような第三者割当増資に対し、
議決権の10分の1以上の株主の反対があれば新株発行に株主総会の決議が必要である、というふうに改正されたようです。
この改正点についての解説記事がありましたので紹介します。


改正会社法(平成26年6月20日成立)の主な内容および企業経営に与える影響
支配株主の異動を伴う新株発行等に株主が関与できる
〜議決権の10分の1以上の株主の反対があれば新株発行等に株主総会の決議が必要〜
(中島成総合法律事務所)
ttp://www.nakashima-law.com/act09_02.html

 

解説の中から重要な点を引用します。


>これまで会社法は、公開会社(株式の全部又は一部に譲渡制限を定めていない会社:会社法2条5号)は、
>取締役会決議によって新株発行及びその新株を誰に対して発行するか決めることができました。
>株式の2分の1を超えて所有する支配株主の異動が生じる新株発行でも、取締役会決議で決めることができたのです。

>改正会社法は、公開会社においても、株主から経営を任されているに過ぎない取締役が、
>新株発行によって会社の支配を変える=過半数を超える株式を有する株主を新たに作り出すことが
>無制限で認められるべきではなく、一定の場合は会社の所有者である株主の同意が要求されるべきという視点から、
>次のような改正を行いました。
>すなわち、公開会社において、新株発行によって議決権の二分の一を超えて株式を所有する者(以下「特定引受人」)が
>新たに出現する場合(以下「支配株主の異動を伴う新株発行」)は、当該株式の代金支払期日(以下「支払期日」)の2週間前までに、
>株主に対して特定引受人の指名等を通知しなければならない(改正会社法206条の2第1項)。
>その通知から2週間以内に、総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主が反対を会社に通知した場合、
>支払期日の前日までに株主総会決議による承認を受けなければならないことになりました(改正会社法同条4項)。

 


それで、解説記事の通り、日新製鋼株式会社が新日鐵住金株式会社に対し第三者割当増資を実施するとなりますと、
まさに新日鐵住金株式会社が会社法に言う「特定引受人」に該当するわけです。
そのため、日新製鋼株式会社は、実施するに際し、万が一第三者割当増資に議決権の10分の1以上の株主の反対がありますと、
株主総会を開催しなければならない事態に陥ってしまいますので、備えあれば憂いなしというでしょう、
有り体に言えば、今のうちに第三者割当増資について株主から承認を得ておくという法務戦略を取ることにしたようです。
日新製鋼株式会社としては、事前に第三者割当増資について株主から承認を得る計画については、プレスリリースによりますと、
連結子会社化に関する契約締結日(2016年5月13日)に開催した取締役会で意思決定をしたのだろうと思います。
公開買付への応募が過半数に満たない場合は、滞りなく第三者割当増資を実施できるよう、
新日鐵住金株式会社とも協議の上、事前に第三者割当増資について株主から承認を得ることについては、
2016年5月13日に日新製鋼株式会社は正式に意思決定をしたということなのだと思います。
それで、5月の中旬と言いますと、3月期決算の会社にとってはちょうど定時株主総会の準備を行っている最中のことかと思いますが、
第三者割当増資についての株主からの承認は、2016年6月下旬に開催する定時株主総会で得ることにしたようです。
日新製鋼株式会社の定時株主総会招集通知には、その旨の議案と参考書類が記載されています。

 

2016年5月18日
日新製鋼株式会社
第4回定時株主総会招集ご通知
ttp://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?template=ir_material&sid=52692&code=5413

3. 目的事項
決議事項
第1号議案 当社と新日鐵住金株式会社との募集株式引受契約承認の件
1. 募集株式引受契約を締結する理由
(3〜4/24ページ)


一見しますと、先に手を打っておいた、ということで、さすがに抜かりがないな、と感じさせる法務戦略に思えます。
しかし、考えてみますと、「第4回定時株主総会で議決権を行使する株主」と「第三者割当増資に反対を表明する権利がある株主」
とは、全く別の株主なのではないかと思います。
「第4回定時株主総会で議決権を行使する株主」とは、2016年3月31日現在の株主のことです。
一方、「第三者割当増資に反対を表明する権利がある株主」とは、実は正確に言うとまだ決まってすらいません。
プレスリリースによりますと、新日鐵住金株式会社が日新製鋼株式会社を連結子会社化するのは、
”2017年3月を目途に”というスケジュールになっています。
概ね、2017年1月から2017年2月にかけて公開買付を実施し、公開買付への応募が過半数に達しなかった場合は、
2017年3月に第三者割当増資を実施する、というスケジュールになっているのだと思います。

 


ここで、「支配株主の異動を伴う新株発行」を行う場合は、当該株式の代金支払期日の2週間前までに、
株主に対して特定引受人の指名等を通知しなければならない、と会社法には定められています。
つまり、この「特定引受人の指名等を通知」を受ける株主が、「第三者割当増資に反対を表明する権利がある株主」なのです。
逆から言えば、「特定引受人の指名等を通知」を受けない限り、第三者割当増資に反対を表明する権利は株主にはないわけです。
すなわち、第4回定時株主総会の時点では、「第三者割当増資に反対を表明する権利がある株主」は文字通り1人もいないのです。
現時点では、日新製鋼株式会社は第三者割当増資を実施することはまだ決まってすらいない段階です。
要するところ、「第三者割当増資に反対を表明する権利がある株主」が、
「第三者割当増資に関する承認決議を取る株主総会の基準日の株主」になるわけです。
「特定引受人に関する通知を受ける株主=株主総会の基準日の株主」、ということになるわけです。
会社法に明文の定めがあるかどうかは知りませんが、論理的に考えると、必然的に・一意に、
特定引受人に関する通知の送付日=第三者割当増資に関する承認決議を取る株主総会の基準日、ということになると思います。
「特定引受人に関する通知を受けた株主」が、「株主総会において承認決議を行える株主」なのです。
日新製鋼株式会社は、2016年5月13日開催の取締役会において、新日鐵住金株式会社を引受人とする第三者割当増資について、
既に決議を取った、とプレスリリースには記載されています。
しかし、日新製鋼株式会社は、ちょうど51.00%になるように第三者割当増資(新株式の発行)を行うわけですから、
2017年3月に何株新株式を発行するかは現段階では決められないわけです。
公開買付への応募が51.00%に達した場合は、第三者割当増資(新株式の発行)は行わないわけです。
結論を一言で言えば、第4回定時株主総会で第三者割当増資に関する承認決議を取ることはできない、ということになります。
会社法上、「特定引受人に関する通知」というのは、どれくらい前から送付できるものなのだろうか、という疑問はあります。
条文では、「特定引受人に関する通知」は「株式の代金支払期日の2週間前までに」とは定められているようですが、
では、「特定引受人に関する通知」(の送付)は何ヶ月も何年も前でもよいのか、という疑問はあるように思います。
つまり、「第三者割当増資に反対を表明する権利がある株主」とは誰か(発行時期の株主のはずだ)、という問題があると思います。
株主総会の基準日の有効期間も3ヶ月間ですので、同様に考えますと、「特定引受人に関する通知」の有効期間も3ヶ月間、
というのが、会社法制度上、一番現実的な有効期間ではないだろうかと思います。
新日鐵住金株式会社は、先の新日鉄と住友金属の合併の際も、合併新会社の取締役の選任に関して、
「事前に選任の株主総会決議を取る」ということを行っていたかと思います。
合併新会社の取締役を選任する権利があるのは、合併新会社の株主だけなのです。
合併前に存続会社において合併新会社の取締役を選任する、ということはできないのです。
合併前の存続会社の株主は、あくまで合併前の存続会社の株主であって、合併新会社の株主ではないのです。
新日鐵住金株式会社は、合併前も、そして、合併後も、この手の間違い(率直に言えば、法手続きの瑕疵)が多いように思います。
日新製鋼株式会社では、第4回定時株主総会において関連する承認決議が取られたのだと思いますが、それは全くの無効です。
「いつが基準日であるべきなのか」については、株主総会で決議を取ることの背景まで踏まえて考えなければならないと思います。

 

The Nippon Steel & Sumitomo Metal Group is always making a premature start.

新日鉄住金グループはフライングばかりしている。