2016年8月12日(金)
昨日の最後に、”「公開買付は相対取引である。」というこの論点について、明日も書きたいと思います。”
と書きましたが、今日も公開買付について一言だけ書きたいと思います。
過去の関連コメント
2016年8月10日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201608/20160810.html
2016年8月11日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201608/20160811.html
公開買付についてコメントを書くに当たっては、
今後実施が予定されている新日鐵住金株式会社による日新製鋼株式会社に対する公開買付及び第三者割当増資が
非常に良い題材となるように思っています。
まず最初に、この事例に関する記事とプレスリリースを紹介したいと思います。
そして、市場取引と公開買付の違いについてコメントを書きたいと思います。
2016年4月28日(木)日本経済新聞
日新製鋼の買収 TOB方式で 新日鉄住金
(記事)
2016年2月1日
新日鐵住金株式会社
日新製鋼株式会社
新日鐵住金(株)による日新製鋼(株)の子会社化等の検討開始について
ttp://www.nssmc.com/ir/library/pdf/20160201_040.pdf
ttp://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1321682
2016年5月13日
新日鐵住金株式会社
新日鐵住金株式会社による日新製鋼株式会社の子会社化等に関する契約締結及び公開買付け実施に関するお知らせ
ttp://www.nssmc.com/common/secure/news/20160513_300.pdf
ttp://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1360550
In a takeover bid, a buyer discloses his acquisition plan
such as an
offer price and the number of shares which he owns before and after the takeover
bid.
On the other hand, on an inside-the-market transaction, a buyer doesn't
disclose anything about his acquisition at all.
It is true that, from a
viewpoint of disclosure,
a takeover bid is much more affluent than an
inside-the-market transaction in information,
but one of the problems of a
takeover bid is that a price adjustment mechanism doesn't work at all
there.
In other words, a takeover bid is advantageous to a buyer and is
disadvantageous to a seller (i.e. investor).
Contrary to what you might
think, but a takeover bid is a "sealed bid auction,"
and an inside-the-market
transaction is "open bid auction," actually.
In a takeover bid, investors can
know the details about the acqusition plan beforehand,
but they can't know a
state of an acceptance of other investors' during the takeover bid.
It is not
until the end of a takeover bid that investors know a state of an acceptance of
other investors'.
That's "sealed," isn't it?
That is, a tender offerer can
save his money to acquire shares by means of a takeover bid,
and investors
can get less money than some through an inside-the-market transaction.
Even
if a tender offerer made a buy order in the stock market at the same price as
his offer price,
he could not acquire enough shares in the stock
market.
In order to acquie more shares, the tender offerer can't help raising
a price of a buy order.
This phenomenon indicates that a takeover bid
distorts a price adjustment mechanism
and therefore it decreases profits of
investors.
公開買付においては、買い手は、買付価格や公開買付前後の所有株式数といった株式取得計画を開示します。
一方、市場内取引においては、買い手は株式の取得に関して何ら開示を行いません。
情報開示の観点から言えば、公開買付は確かに市場内取引よりもはるかに開示情報が豊富です。
しかし、公開買付の問題点の1つは、価格調整メカニズムが公開買付では全く働かないということなのです。
他の言い方をすれば、公開買付は買い手に有利であり、売り手(すなわち投資家)にとって不利なのです。
それは逆ではないかと思われるかもしれませんが、ところが実際には、公開買付は「封印入札方式」であり、
市場内取引は「公開入札方式」なのです。
公開買付において、投資家は事前に株式の取得計画について詳細な情報を知ることができますが、
公開買付期間中、投資家は他の投資家の応募状況については知ることができないのです。
公開買付が終了して初めて、投資家は他の投資家の応募状況について知るのです。
それは「封印されている」ということではないでしょうか。
すなわち、公開買付者は、公開買付という手段により、株式を取得するためのお金を節約できるということであり、
投資家は、市場内取引を通じた場合よりも少ないお金しか得ることができないということなのです。
仮に、たとえ公開買付者が株式市場において買付価格と同じ価格で買い注文を出したとしても、
公開買付者は株式市場で十分な株式を取得することはできないでしょう。
株式をさらに取得するためには、その公開買付者は、買い注文の価格を上げざるを得ないのです。
この現象は、公開買付は価格調整メカニズムを歪め、そしてその結果、投資家の利益を減少させてしまう、
ということを示しているのです。
上記のコメントだけでは分かりづらいと思いますので、上記のコメントに対し一言だけ補足します。
新日鐵住金株式会社は、まず最初に日新製鋼株式会社に対して公開買付を実施する予定であるわけですが、
公開買付により51.00%の株式を取得できなかった(応募が少なかった)場合は、
日新製鋼株式会社から第三者割当増資を引き受ける形で51.00%に達するまで追加的に日新製鋼株式会社株式を取得する、
という計画を持っているわけです。
この計画を一見すると、「新日鐵住金株式会社は日新製鋼株式会社を子会社化する」という経営戦略・大きな経営目標
を持っているわけですから、まず公開買付を実施し、取得株式数が51.00%に達しない場合は、
第三者割当増資により51.00%の株式を取得する、という計画は何らおかしくはないように思えます。
しかし、市場取引との対比で考えてみると、新日鐵住金株式会社はそもそも公開買付や第三者割当増資を行う必要があるのか、
という疑問が出てきます。
すなわち、新日鐵住金株式会社は市場内で日新製鋼株式会社株式を51.00%になるまで買い進めていけばよい、
というだけではないのか、という疑問が出てくるわけです。
市場内で上場企業株式を過半数に達するまで買い進めてはならない、などという法律は一切ありません。
投資家は、市場内で上場企業株式を100%買い集めても、それは何ら法律違反ではないのです。
市場内で全て買い集める場合は、金融商品取引法上の急速な買い集めなどにも一切該当しません。
市場取引こそが上場株式の本来の取引方法である、という点から考えてみますと、目標の達成ために行うべきことは、
新日鐵住金株式会社は市場取引により日新製鋼株式会社株式を51.00%に達するまで買い集める、
というただそれだけのことであるように思うわけです。
ではなぜ新日鐵住金株式会社は、市場内で日新製鋼株式会社株式を買い集めることはせずに、
公開買付により日新製鋼株式会社株式を買い付けることにしたのでしょうか。
その理由はただ1つでしょう。
金がかからないから、です。
市場内で日新製鋼株式会社株式を51.00%買い集めるよりも、公開買付で日新製鋼株式会社株式を51.00%買い付ける方が、
実務上のことになりますが、実は新日鐵住金株式会社にとっては少ない金額で済むのです。
市場内で上場株式を買い集めますと、株価が極めて上昇しやすいわけです。
市場取引は、1単元単位で取引が進んでいき、また、1単元単位で取引価格が決まっていきますので、
市場内で大規模に上場株式を買い集めようとすると、容易に株価が上昇してしまうわけです。
売り手(株主)の方もできる限り高い価格で株式を売ろうとしますので、買い注文の様子を見て売り手は売値を上げていくわけです。
一言で言えば、市場内で株式を買い集めていくとすると、最終的に株価がどこまで上昇するかは全く分からないわけです。
それはイコール、目的の株式数を取得するのにいくらかかるかは事前には全く分からない、ということを意味するわけです。
一方で、公開買付の場合は、昨日も書きましたが、買付価格は一定であるわけです。
買付価格が上昇する、ということは一切ないわけです。
公開買付では買付価格が上昇しないということは公開買付者にとって大きなメリットであるわけですが、
それはイコール、市場の投資家にとってはディメリット、ということになるわけです。
一言で言えば、公開買付を行えば、市場取引よりも株式取得総額を低く抑えることができる、ということになるわけです。
また、公開買付により子会社化を行うという目標が公表されますと、市場の投資家としては、その後の株式の取り扱いも分からず、
他の投資家の応募状況も分からないのだから、「もう公開買付に応募してしまおう」という気持ちが起きるものです。
市場取引での買い注文であれば応じなかったのに、子会社化を目的とした公開買付であったがために株式売却に応じてしまう、
という心理的な作用というのは、公開買付においては常に投資家の中に起こるものなのだと思います。