2018年4月30日(月)


最近の42日間のコメントを踏まえた上で、記事を1つ紹介し、
「インフレと資金調達の関係」について、一言だけコメントをしたいと思います。

 

2018年3月19日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180319.html

から

2018年4月29日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201804/20180429.html

までの一連のコメント

 


「オークション方式」に関する過去のコメント

2016年3月27日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201603/20160327.html

2016年7月13日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201607/20160713.html

 

 


2018年4月24日(火)日本経済新聞 一目均衡
トルコが映す新興国リスク
(記事)

 



今日は、「インフレと資金調達の関係」について一言だけコメントを書きたいのですが、
紹介しています2018年4月24日(火)付けの日本経済新聞の記事から、重要な部分を引用したいと思います。


>通貨や国債の大幅安の見舞われているトルコで、新規株式公開(IPO)の動きが相次いでいる。

>掲げられた上場の目的が興味深い。負債削減が目立つのだ。

>上場で得た資金を借金返済に使うことは日本も含めて珍しくはない。
>だが、トルコは慢性的な経常赤字と高インフレに直面する。
>本来、通貨の価値が下がるインフレ時は、お金を借りておく方が有利だ。

>インフレ時に有利な資産としても株式に食指が動く陰で、企業はIPOによる債務削減を急いでいる。


記事にも書かれていますが、一般に、インフレ進行時には企業は借金をした方がよいと言われます。
なぜならば、借金の金額(額面金額)は一定である一方、インフレの進行に伴い、名目上の収益の金額は増加することから、
企業にとって借金の実質的な負担が小さくなる(すなわち、企業はインフレ進行の結果借金を返済しやすくなる)からです。
この考え方自体は確かに正しいわけなのですが、取引の相手方、すなわち、企業にお金を貸し付けた側の立場から見ると、
取引には対称性があるわけですから、取引に関する有利・不利は逆になります。
すなわち、一般に、インフレ進行時には人はお金を貸し付けない方がよい、という結論になるわけです。
ただ、この結論自体は正しいとは思うのですが、では、インフレ進行時に企業に貸し付けるだけのお金を持っている人は
どのようなことを行い利益の最大化を図るのかと言えば、答えはないようにも思います。
たとえインフレ進行時であろうとも、現金をただ手許に持っておくよりも、企業にお金を貸し付けて利息を受け取った方がよい、
という結論もまた正しいと思いました。
自分で事業を営む能力がない場合は、人はお金をただ持っておくか企業に貸し付けるかするしかないわけですが、
その場合はたとえインフレ進行時であろうとも企業にお金を貸し付ける方がより自分の利益は大きくなると言えるわけです。
紹介している記事には、インフレ進行時には企業は借金をしておく方がよい(返済を急がない方がよい)にも関わらず、
複数の大手トルコ企業は上場により債務の返済を目論んでおり、このような動きを受けて、
トルコ経済は堅調とは言えず危機と隣り合わせだと見る向きもある、という趣旨のことが書かれています。
トルコにおける負債削減を目的とする上場ということに触れて、私には次のような疑問が頭に浮かびました。
「インフレ進行時に企業が資金調達をするという場合、
企業は資金を負債で調達するべきなのか、それとも、資本で調達するべきなのか?」
ここでは議論の都合上、債務不履行の可能性は度外視します。
つまり、企業の経営は順調であり利益は安定的に獲得でき債務は必ず返済できるとします。
また、ここでは議論の都合上、人は自分で事業を営む能力はないと仮定します。
なぜなら、自分で事業を営む能力がある場合は、人は資金の供給者にならないからです。
つまり、自分で事業を営む能力がある場合は、人は企業にお金を貸し付けもしないし株式を引き受けもしないからです。
以下、理論上のと言いますか、話を簡略化して考察を行いたいと思います。

 



この問いの答えは、一見すると簡単であるように思えます。
つまり、「インフレ進行時に企業が資金調達をするという場合、企業は資金を資本ではなく負債で調達するべきだ。」
が答えであるように思えます。
先ほども書きましたように、自分で事業を営む能力がない場合は、たとえインフレ進行時であろうとも、
人はお金をただ持っておくくらいなら、企業に貸し付ける方が利益が大きくなりますので、
企業に資金を貸し付ける人はいる、と理論上は言えるわけです。
では逆に、この問いについて資金の供給者の立場から考えてみましょう。
「インフレ進行時に人が企業に資金を供給するという場合、
人は企業に資金を負債で供給する(貸し付ける)べきなのか、それとも、資本で供給する(株式を引き受ける)べきなのか?」
この問いの答えは先ほどの議論とも関連するところがあり若干複雑なのですが、
結論を言いますと、「インフレ進行時に人が企業に資金を供給するという場合、
人は企業に資金を負債で供給する(貸し付ける)べきではなく、資本で供給する(株式を引き受ける)べきだ。」
が答えになると思います。
この理由は、人が企業に資金を負債で供給する(貸し付ける)場合は、貸付債権の実質的な価値は必然的に減少してしまう一方、
資本で供給する(株式を引き受ける)場合は、資金供給者はインフレの影響を受けないからです。
他の言い方をすると、人が企業に資金を資本で供給する(株式を引き受ける)場合は、たとえインフレ進行時であろうとも、
資金供給者が所有する株式の実質的な価値が減少するということは生じないからです。
その理由をさらに言えば、人が企業に資金を資本で供給する(株式を引き受ける)場合は、
資金供給者はインフレ進行に伴う名目上の収益の金額の増加を享受できるからです。
逆から言えば、人が企業に資金を負債で供給する(貸し付ける)場合は、
資金供給者はインフレ進行に伴う名目上の収益の金額の増加を享受できない(それが貸付債権の実質的価値の減少の原因)のです。
人が企業に資金を資本で供給する(株式を引き受ける)場合は、
資金供給者はインフレの影響に対し"neutral"(中立、影響を受けない)なのです。
人が企業に資金を資本で供給する(株式を引き受ける)場合は、
資金供給者はインフレの影響に関しては"windless"(無風状態、向かい風でも追い風でもない)なのです。
抽象的に言えば、ゼロでもマイナスから見ればプラスなのです(つまり、インフレの影響がないだけまし)。
したがって、インフレ進行時に企業が資金調達をするという場合、企業は資金を資本ではなく負債で調達するべきであるものの、
資金供給者は企業に資金を負債で供給する(貸し付ける)のではなく、資本で供給(株式を引き受ける)したいと考えるわけです。
ここから先は、新株式の発行価額の問題であったり貸付金の利率の問題があったりで話が複雑になってくるわけなのですが、
企業と資金提供者双方にとって利害が一致する資金調達方法というのはやはりないのだけは確かだと思います。
平時の場合でも企業の利益と資金提供者の利益は相反関係にある(資金の供給条件に関し両者は協議・交渉をする)わけですが、
インフレ進行時には、さらに資金調達方法(負債か資本か)についても両者の利益は相反関係にあると言えるわけです。
トルコでは目下インフレが進行しているということで、記事にあります複数の大手トルコ企業は、
当初は負債による資金調達を目論んだのだが貸付人が現れなかったため、結果、資本による資金調達を選択せざるを得なかった
というだけのことであり、トルコで相次ぐ「債務の株式化」は、経営者の警戒の表れではなく、インフレ経済の必然的結果に過ぎない、
という分析はさすがに実際には間違っているのでしょうが、理論上の話として何かそのようなことが私の頭に思い浮かびました。


While an inflation is in progress, debts of a company get easier and easier to repay.

インフレが進行している間は、会社の債務は返済するのがどんどん簡単になります。