2018年4月28日(金)



最近の40日間のコメントを踏まえた上で、記事を適宜紹介しつつ、
「機関投資家の情報開示」について、一言だけ昨日のコメントに追記をしたいと思います。

 

2018年3月19日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180319.html

から

2018年4月27日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201804/20180427.html

までの一連のコメント

 


「オークション方式」に関する過去のコメント

2016年3月27日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201603/20160327.html

2016年7月13日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201607/20160713.html

 


2018年4月24日(火)日本経済新聞
上場誘致で米中攻防 開示負担軽減 種類株を容認
(記事)


2018年4月25日(水)日本経済新聞
香港取引所が上場解禁 議決権多い「種類株」発行企業
(記事)

 



昨日のコメントでは、元来的には、機関投資家というのは、自社への信託者のためだけに株式の取引を行うものであり、
自社への信託者に対してのみ自社の資産運用の結果を報告するものだ、という趣旨のことを書きました。
機関投資家が市場に対し自社の資産運用の結果を公表する、というのは、
機関投資家(受託者)と信託者(機関投資家への出資者)との関係を鑑みれば、おかしなところがあると言えるわけです。
ただ、最近では、機関投資家が市場に対し自社の資産運用の結果を公表することが、
発行者のコーポレート・ガバナンスの向上につながるであったり、発行者の企業価値の向上に資する、
という考え方が出てきましたので、機関投資家へ情報開示を求める動きが活発になっているわけです。
最近の40日間のコメントで時々紹介しています教科書「ゼミナール 金融商品取引法」でも、最近の機関投資家の重要性を鑑みてか、
わざわざ1章を設けて機関投資家の役割について説明がなされています(【第5章】「機関投資家と議決権行使」)。
機関投資家というのは、保有している議決権割合が大きいという観念は相対的には希薄であるようで、
機関投資家の保有議決権割合そのものには相対的には大きな意味はない、というふうにこの教科書等では読めるように思います。
確かに、機関投資家は、個人を始めとする一般投資家と比較すると、大きな議決権割合を保有していることが通常であるわけですが、
機関投資家の存在意義・役割は、保有議決権割合にあるのではなく、そのアクティブさにある、と言わねばならないと思います。
例えば、同じ5%の保有議決権割合でも、いわゆる純投資が目的の個人株主が5%保有している場合と
アクティブな機関投資家が5%保有している場合とでは、発行者や市場に与える影響度が全く違ってくるわけです。
例えば、いわゆる純投資が目的の穏健な株主が10%保有している場合とアクティブな機関投資家が5%保有している場合とでは、
発行者や市場は後者の方にはるかに大きな注意を払うことになるわけです。
アクティブな機関投資家は、一定の行動を起こすことで、自分が達成したい目的のために、
間接的に保有議決権割合を増加させることができるわけです。
すなわち、アクティブな機関投資家は、自分が提案する議案へ賛成票を投じるよう、
様々な手段を用いて(直接に会って対話をしたり何らかのキャンペーンを張る等)他の投資家へ呼びかけることができるわけです。
その意味において、アクティブな機関投資家というのは一大量保有者では決してないわけです。
アクティブな機関投資家の保有議決権割合は、大量保有報告書記載の保有割合では決して計れないのです。
それから、昨日のコメントでは、ウィキペディアの「スチュワードシップ・コード」の項目の注記から
「スチュワードシップ」の語源・由来を引用して紹介しました。
この引用文を再度見ていただきたいのですが、少なくとも証券制度における基本方針である「スチュワードシップ・コード」
という文脈では、機関投資家は、@発行者の株主として企業経営をサポートする執事である、という意味合いしかなく、
A原資を提供した投資者(信託者)の執事(受託者)である、という意味は全くないと思います。
なぜならば、「スチュワードシップ・コード」では、機関投資家(受託者)と原資提供者(信託者)との関係性については
全く問題にしていないからです。
機関投資家(受託者)と原資提供者(信託者)との関係性は、純粋に両当事者間の信託契約や受託者責任の問題であって、
発行者や他の投資家や市場などは全く関係がないことであるわけです。
極端なことを言えば、原資提供者(信託者)にとって発行者のコーポレート・ガバナンスや企業価値の向上は関係がないわけです。
原資提供者(信託者)が機関投資家(受託者)に一定度の指図をする、ということも契約内容によってはあったりする
のかもしれません(その場合は原資提供者(信託者)は発行者に興味があるわけですが)が、
少なくとも「スチュワードシップ・コード」の文脈では(証券制度との関係性に関して言えば)、
機関投資家(受託者)は原資提供者(信託者)の忠実な執事であるか否かは全く論点にならないわけです。
一種の掛け言葉ということでこの文脈において「Steward」という用語を用いているのはもちろん分かるのですが、
本質的には、機関投資家は@発行者の株主として企業経営をサポートする執事である、という意味しかないのです。
一言で言うならば、この文脈における「Steward」に(信託者に対する)「受託者」という意味はないのです。

 


それから、紹介している2つの記事についてですが、
香港証券取引所が普通株式よりも議決権が多い種類株式を発行する企業の上場を認めることにしたとのことです。
この種の種類株式の発行では、上場後も創業メンバー(経営陣)が会社の議決権を握るという場面を想定しているわけです。
それで先ほどのアクティブな機関投資家の議論と少し関連のあることなのですが、今日ふと気付いたことなのですが、
創業メンバー(経営陣)が大きな議決権割合を保有する株主となりますと、
結局のところは、株主が株主総会議案を作成していることと同じになってしまうわけです。
純粋に一投資家として会社側に議案を提案するのは何の問題ないと思うのですが、
会社の業務を執行しつつ株主として会社側に議案を提案する(すなわち、事実上株主が自分で議案を作成することと同じ)、
というのは証券制度上の問題があると思いました。
その理由は、まさに昨日書きました次のようなことです。

>証券投資という文脈では、市場において機関投資家の利益と他の投資家の利益とは相反関係にあるわけです。

上記の文の「機関投資家」を「創業メンバー(経営陣)」に置き換えると、私が言いたいことが分かるのではないでしょうか。
この問題点の解決方法というのは、煎じ詰めれば、会社の業務執行者と株主とを完全に分離することしかないわけです。
一言で言えば、会社の業務執行者は証券投資(自社株式の取引)をしてならないのです。
「機関投資家による議案の提案」と「多くの議決権割合を保有する創業メンバーによる(株主自身による)議案の作成」とが、
概念的に非常に似通っているなと感じましたので、この問題点に気付きました。
また、上記の議論と関連のあることですが、「株主は会社の業務執行者に就任してよいのか?」、
という点について以前書いたことがある思います。
この点について、私は以前、「受託者責任が遂行されるならば、株主は会社の業務執行者に就任しても問題はない。
受託者責任が遂行されるよう制度設計をすることが本質的に重要なことであって、
出資者が会社の業務を執行すること自体に問題はない。」といったことを書きました。
私が以前書きましたこの結論は、会社制度に関する結論です。
簡単に言えば、受託者責任が遂行されることが大前提ですが、
株式の譲渡が行われないならば、株主のうちの一部が会社の業務を執行しても、問題は生じないと思ったわけです。
受託者(株主の一部)が会社の利益を最大化させることに最善の努力をすれば、全株主の利益は最大化されると思ったわけです。
一方で、今日書きました結論は、証券制度に関する結論であるわけです。
簡単に言いますと、株主が会社の業務執行者に就任してしまいますと、その後その人物は株式の取引で有利になるわけです。
これは受託者責任の遂行とは関係がない論点であるわけです。
受託者は、業務執行者としてではなく、株主として自社株式を取引するからです。
この問題点に対する現実的な対応策としては、インサイダー取引規制などしかないわけです。
株式は譲渡可能かそれとも譲渡は不可能かで、「株主は会社の業務執行者に就任してよいのか否か?」が変わると思うわけです。
株式は譲渡可能かそれとも譲渡は不可能かで、会社制度・組織設計のあり方(受託者になるための要件)が変わると思うわけです。
結論を一言で言えば、株式が譲渡可能な場合は、会社設立時から会社の業務執行者と株主とは分かれていなければならない、
という考え方になります(これはまさに「所有と経営の分離」の概念だと思います)し、
株式の譲渡が不可能な場合は、株主と会社の業務執行者とが同じであってもよい、という考え方になります。
一般に、株式会社では「所有と経営の分離」が図られている、と言われますが、
実はそれは、「株式が譲渡可能な場合」を念頭に置いた場合の株式会社観だと思います。
投資家は自分の利益を追求するのが仕事ですが、受託者は理論上は自分の利益を追求する存在ではない、という相違点があるのです。

 



The term "Steward" in the“Principles for Responsible Institutional Investors" in Japan
or the "Japan's Stewardship Code”represents a "playing supporter" in the market.
It doesn't represent a "trustee" nor a "fiduciary" at all.

日本における「『責任ある機関投資家』の諸原則」(日本版スチュワードシップ・コード)中の"Steward"(執事)という言葉は、
市場における「プレイング・サポーター」(選手兼支援者)という意味なのです。
「被信託者」や「受託者」という意味は全くないのです。

 


Ultimately speaking, the fact that a foreign share is listed in the share exchange in a country
is always "extraterritorial listing."

究極的なことを言えば、外国株式がある国の証券取引所に上場することは、常に「域外上場」となるのです。

 


If a director, who executes operations of a company, is at the same time a shareholder of the company,
that shareholder can prepare a proposal quite arbitrarily.

会社の業務を執行する取締役が同時に株主である場合は、その株主は全く任意に議案を作成することができてしまいます。