2018年4月23日(月)



最近の35日間のコメントを踏まえた上で、「預託証券の規制方法」について一言だけコメントを書きたいと思います。

 

2018年3月19日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180319.html

から

2018年4月22日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201804/20180422.html

までの一連のコメント

 


「オークション方式」に関する過去のコメント

2016年3月27日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201603/20160327.html

2016年7月13日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201607/20160713.html


 



今日は、「預託証券の規制方法」について一言だけコメントを書きたいと思います。
2018年4月18日(水)のコメントで2018年4月14日(土)付けの日本経済新聞の記事を紹介したわけですが、
議論の題材にするために記事から重要な部分を引用しました。
2018年4月18日(水)のコメントは、後半は「米国預託証券」(American Depositary Receipt)の議論になったわけですが、
本当は次のように「預託証券の規制方法」について書きたいと思っていたわけです。

>今日は、「米国預託証券」(American Depositary Receipt)(の証券制度上の位置付け)を理解のヒントにして、
>「日本預託証券」(Japanese Depositary Receipt)と「中国預託証券」(Chinese Depositary Receipt)について
>考察を行いたいと思います。

まず最初に、預託証券の議論の前に、「外国株式の自国証券取引所への上場」について整理をしたいと思います。
「外国株式の自国証券取引所への上場」(自国内における取り扱い)については、規制方法は次の2つしかないように思います。

@市場法(取引所法)による規制 → 外国の発行者に自国の証券取引法を直接に適用する。
A業法による規制            → 自国の金融商品取引業者に自国の証券取引法をより厳しく適用する。

「@市場法(取引所法)による規制」は、「発行者」を規制する方法です。
「A業法による規制」は、「金融商品取引業者」を規制する方法です。
「@市場法(取引所法)による規制」では、
外国の発行者を自国の発行者と擬制することで外国の発行者に自国の証券取引法を直接に適用するのですが、
現在そのような規制方法を実効力を持った上で採用できるのは米国だけであり、
外国の発行者を自国の発行者と擬制するための手段が「SEC登録」です。
米国では、外国の発行者には「SEC登録」を行ってもらった上で、
原株式と同じ権利内容を持った「預託証券」を米国内で発行し、その「預託証券」に米国証券取引法を直接に適用した上で、
米国内におけるその「預託証券」の流通を認めている、という規制方法になっているわけです。
「A業法による規制」では、国内の有価証券の取引以上に投資家に対する注意喚起を強化する、という規制方法です。
自国の金融商品取引業者に対し、投資家へ十分な説明を施す大きな義務を課することで、投資家保護を図っているわけです。
「A業法による規制」では、証券当局は、外国株式を自国内においても外国株式として取り扱っています。
「投資家の皆さんは外国の有価証券であることを十分に認識した上で当該有価証券の購入を行うようにしてください。」、
といった具合に、窓口における「投資家への注意喚起」以上の投資家保護は図らない、というのが「A業法による規制」です。
「A業法による規制」では、外国株式を自国内においても外国株式として取り扱うことから、
元来的には「預託証券」という概念は証券市場に出てこないはずなのです。
外国株式を自国内においては自国の有価証券として取り扱うからこそ、「預託証券」という概念が出てくるはずなのです。
その意味において、自国内において「預託証券」の流通を証券当局が認めるという場合は、
その「預託証券」の裏付けである原株式の発行者に自国の証券取引法を適用できる法的仕組みがなければならないわけなのです。
少なくとも、実効性確保の観点から言えば、すなわち、法執行(エンフォースメント)という観点から言えば、そうなのです。
「預託証券」の裏付けである原株式の発行者に自国の証券取引法を適用できる法的仕組みがない場合は、
自国内における「預託証券」の流通を証券当局は認めてはならないのです。
したがって、「預託証券」の裏付けである原株式の発行者に自国の証券取引法を適用できる法的仕組みがない場合は、
外国株式の自国内における取り扱いに関しては、「A業法による規制」の方法によるしかないわけです。

 



以上の議論を踏まえますと、例えば日本や中国は、
「預託証券」の裏付けである原株式の発行者に自国の証券取引法を適用できる法的仕組みを有しているでしょうか。
結論を言えば、日本も中国も、
「預託証券」の裏付けである原株式の発行者に自国の証券取引法を適用できる法的仕組みを有していません。
したがって、日本国内や中国国内では、外国株式の「預託証券」の流通は証券規制上認められない、
という考え方になるわけです。
それぞれの国の証券規制を鑑みれば、証券制度という意味では、実際には、
「日本預託証券」(Japanese Depositary Receipt)も「中国預託証券」(Chinese Depositary Receipt)も流通はできないのです。
2007年の信託法の改正により発行が可能になったとされる「日本預託証券」(Japanese Depositary Receipt)も、
現在中国政府が創設する方針を決めている「中国預託証券」(Chinese Depositary Receipt)も、
証券規制という観点から言えば、自国内で「預託証券」を流通させる根拠を実は欠いている、と言わざるを得ないのです。
現行の金融商品取引法には、「預託証券」(「20号」)が明文で定義されているわけですが、それは条文上あるだけであり、
少なくとも実効性確保の観点から言えば、すなわち、法執行(エンフォースメント)という観点から言えば、
金融商品取引法上定義される「預託証券」(「20号」)の発行は、実は日本では現在でも依然としてできないままなのです。
日本では、外国株式の流通に関しては、実は現在でも「A業法による規制」による方法しかないのです。
私個人的には、外国株式に対するこの規制方法(「A業法による規制」)が間違っているとは思えません。
実務上は投資家は原株式を所有できるに越したことはない(権利内容に関し制限を受けないから)、という意味でもそうですし、
原株式の取り扱いは結局のところ最後の最後は発行者の母国の会社法に左右される、という意味でもそうです。
預託証券に自国の証券取引法を適用しても、その原株式に自国の会社法が適用されるようになるわけではないわけです。

 


ただ、今日は、預託証券の発行や流通を所与のことして、投資家保護のための制度設計について考えてみたいのですが、
先ほども書きましたように預託証券の発行や流通を所与のことしますと、
「A業法による規制」ではなく「@市場法(取引所法)による規制」を行っていくことになるわけです。
では、どのような方法を用いれば、日本や中国で「@市場法(取引所法)による規制」を行えるようになるのかと考えてみますと、
結局のところは、「SEC登録」の応用版、ということになります。
と言っても、日本でもただ単に表面上「金融庁登録」を行えばそれでよい、というわけではありません。
実効性確保の観点から言えば、すなわち、法執行(エンフォースメント)という観点から言えば、
各国政府の合意と条約に基づき、国際的な登録機関を新たに創設し(仮に、この国際機関を「国際証券連合」と呼びましょう)、
「国際証券連合」に登録をすれば、登録企業は加盟国の証券取引所に預託証券を上場させることができる、
という国際的な証券制度を構築する必要があると思います。
加盟国の証券当局は、外国の発行者である登録企業に対し、自国の証券取引法を適用できる、という制度を作り上げるわけです。
簡単に言えば、「SEC登録」の国際版や相互承認版だと思えばよいと思います。
観念的には、現在でも日本の証券当局が日本の金融商品取引法を外国の発行者に適用する様はイメージはできるのですが、
国際的な法執行(エンフォースメント)という観点から言えば、現実にはそのようなことはできないわけです。
そこで、国際的な法執行(エンフォースメント)の仕組みを新たに構築するわけです。
ルパン三世の銭形警部ではありませんが、インターポールの証券規制版を創設すると思えばよいと思います。
「国際証券規制機構」(英: International Securities Regulation Organization(略称:ISRO)、という名称はどうでしょうか。
相手方の国における預託証券の発行・流通のため、国境を越えた国際的な証券取引法の適用を相互に認めるようにするわけです。
有事の際には、外国の発行者に対し日本の金融商品取引法に基づく課徴金を徴収する(そして日本にその課徴金を送金する)よう、
日本の金融庁は現地の証券当局に協力を要請できる、という国際的な証券制度が求められるわけです。
金融商品取引法には刑事罰の規定もありますので、それこそインターポールに似た国際的な仕組みが求められると思います。
「世界の警察官」である米国以外の国で外国株式の「預託証券」の発行・流通を証券規制上認めるためには、
世界各国が協力して以上のような国際的な証券制度を構築する必要があると思います。