2017年12月24日(日)


今日も、M&Aや物言う株主(アクティビスト)やMBO(マネジメント・バイアウト)等に関連するコメントを書きたいと思います。
一昨日2017年12月22日(金)と昨日2017年12月23日(土)のコメントの追記と言いますか、
題材となる関連する記事を紹介し、コメントを書きたいと思います。

 


「物言う株主(アクティビスト)とMBO(マネジメント・バイアウト)の関係」についての昨日のコメント↓

2017年12月22日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201712/20171222.html

 

M&Aの手続きには完了日まで実務上は数ヶ月以上(通常は3ヶ月以上)かかるのだが、「2017年に実施されたM&A」という場合、
どの日付(M&Aの発表日なのかそれとも決議内容の効力発生日なのか、等)を基準にしているのか、という点に関するコメント↓

2017年12月23日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201712/20171223.html

 

 

欧米の競争法(公正取引に関する法令)に定めがある「ガンジャンピング規制」についてのコメント↓

2017年12月20日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201712/20171220.html

2017年12月21日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201712/20171221.html

 



2017年6月29日(木)日本経済新聞
子会社再編 マネー期待 物言う株主の動き 先回り
(記事)




【コメント】
記事の冒頭に、記事の要旨がまとまっていますので、引用したいと思います。

>親会社と並び株式市場に上場する子会社の株価が奇妙な上げを見せている。親子とも上場するのは日本特有。
>親会社と子会社の少数株主の利益が対立しやすく子会社株は割安に放置されることが多かった。
>ガバナンスのゆがみを正すよう求める投資家の声を受け、TOB(株式公開買い付け)などで子会社の上場を廃止する
>親会社が相次いでいる。そんな動きを先回りした投資家が増えているのだ。

この記事によりますと、親子上場をしている上場子会社の株価は相対的に低い水準で推移することが多かった、とのことです。
例えば、2017年12月22日(金)に紹介した2016年12月3日(土)付けの日本経済新聞の記事には、
日産自動車傘下の自動車部品会社カルソニックカンセイの株価が本来の水準よりも低い状態が続いていたことについて、

>日産との親子上場が原因で株価はディスカウントされてきた。

と書かれてあったわけですが、まさに上場子会社の水準はファンドにとっては割安銘柄に映ることがこれまで多かったようです。
しかし、今日紹介しているこの記事には、そのような状態が最近になって変化している、とのことです。
その理由は、親会社が上場子会社を完全子会社化する事例が最近になって増えているからだ、と記事には書かれています。
上場子会社の銘柄は、2017年に入り、8割近くが上場している、と記事には書かれています。
親会社による上場子会社の完全子会社化を予想し、投資家が完全子会社化を先回りして株式を買い集める動きがあるとのことです。
また、仮に、上場子会社の完全子会社化は親会社にとっても業績面で将来よい影響を及ぼすことになるだろう、
と投資家が予想する場合は、投資家が上場子会社の再編を見越した結果、親会社の株価も上昇する、
ということも考えられるかと思うのですが、その点については、記事には何も書かれていません。
上場子会社という場合は、物言う株主(アクティビスト)ではなく親会社が会社の大株主、という状況であるわけですが、
親会社が会社の大株主という場合は、物言う株主(アクティビスト)が会社の大株主であるという場合よりも、
投資家からの組織再編期待が相対的に高い(上場子会社の再編が実施される可能性が高い)、ということが言えるようです。
一言で言えば、「誰が会社の大株主か?」次第で、投資家にとってその後株式売却益を得られる可能性が変わってくる、
ということになります。
この記事の場合は、「親会社」が会社の大株主だとその後投資家は株式売却益を得る可能性が高い、となるわけです。

 


それから、昨日のコメントでは、例えば「2017年に実施されたM&A」という場合、どの日付を基準にしているのか、
という論点についてコメントを書いたわけですが、親会社が具体的なプレミアム(株式取得価額、買付価格等)を発表しなくても、
上場子会社の再編(完全子会社化等)を発表した時点で、子会社の株価が大きく上昇する、ということが現実には起こるわけです。
そういったことを考えますと、株価の変動を鑑みますと、「M&Aの発表日」も1つの基準になると言えるな、と思いました。
さらに、この記事の最後の部分を読んで気付いたのですが、
買収者からの「M&Aの提案日」も1つの基準になるのかもしれないない、と思いました。
「提案」は「発表」よりも実現可能性は低いと言えるのかもしれませんが、
投資家とっては、「提案」もまた1つの予想(投資判断の根拠)と言えば予想と言えるわけです。
ただ、欧米の競争法(公正取引に関する法令)に定めがある「ガンジャンピング規制」と関連がある論点になるのですが、
「提案」や「発表」というだけですと、M&Aの実施や完了に不確実性が残るのもまた確かであるわけです。
究極的には、一番明確な基準日は、やはり「完了日」なのではないかと思います。
と同時に、M&Aの「提案」や「発表」によって、対象会社の株価が変動することもまた事実であるわけです。
「ガンジャンピング規制」についてのコメントの際に少しだけ書きましたが、
「提案」や「発表」がなされた場合は、対象会社の株式の取引を一定期間停止する、
というような措置も証券市場では求められるのではないかと思います。
そして、理論的なことを言えば、「提案」や「発表」のみで対象会社の株価が変動するのはおかしい、と言えるわけです。
なぜなら、「提案日」や「発表日」から正式なM&Aの実施日(もしくは、計画したM&Aの頓挫の発表日)までの間の株式の取引は、
やはりサイコロを振っていることと同じになってしまうからです。
換言すれば、投資家は、合理的な判断根拠(「ディスクロージャー」)がないままに株式の取引をしている、と言いますか、
投資家は、株式の本源的価値を判断することなく、
単に「M&Aは頓挫するかそれとも成就するか?」に賭けているだけ(「丁か半か」と同じ)、という状態になってしまうからです。
ですので、理論的には、買収者が対象会社に提案をしたことやこれからM&Aを実施する計画であることは一切「公表」せずに、
法定開示書類(最も典型的には、「公開買付届出書」)を提出のみがM&A開始の判断基準だ、と考えるべきなのです。
M&Aの記者会見等は、法定開示書類の提出後に行うべきなのです。
法定開示書類を提出した後であれば、株式の取引はサイコロではなくなります。
買収者は、対象者株式にはそれだけの価値があると判断した上で買付価格を設定し公開買付を実施するわけですし、
投資家は、対象者株式の本源的価値を自分なりに判断した上で、公開買付に応募するか否かを決めるだけだからです。
理論的には、発行者の「ディスクロージャー」により投資家は株式の本源的価値を判断できる、
という理論的前提があるのです。
株式市場では、「株式の本源的価値」のみに関して投資家間で競りを行う時、真の意味で公正な株価が形成される、
と考えるのです。
かのケインズは、「株式の本源的価値」に加え、現実的な観点からサイコロの要素を株式市場に持ち込んだので、
株式投資のことを「美人コンテスト」と表現したのだと思います。
本質的には、記事にあります「組織再編期待」と呼ばれるものは、煎じ詰めれば実は「サイコロの要素」と言っていいと思います。

 

A subsidiary's share price in the market.

株式市場における子会社株式の株価

 



次に、先ほど親会社による上場子会社の完全子会社について書きましたが、関連する記事ということで、
親会社による子会社経営(グループ会社管理)についての記事を紹介します↓。


2017年12月13日(水)日本経済新聞 経済教室
京都大学教授 若林直樹

子会社管理 成功の秘訣は? 問われる本社の組織能力

ポイント
○闇雲な多角化が企業価値の低下招く恐れ
○グループ内のシナジー実現は容易ではなく
○子会社の状況への理解と適切な関与必要
(記事)



この記事は、全体的に、人事面・人材管理面や組織のあり方についての解説となっているのですが、
経済的な企業価値という点に関しては、記事の最初の方に次のように書かれています。

>一般に子会社を展開するのは、事業の種類もしくは地域の多角化を進めることにつながることが多い。
>だが、ファイナンス論では、企業が闇雲に多角化を進めることは、経営の非効率性化と統治問題を生じさせるので、
>企業グループ全体の経済価値の低下、つまり「コングロマリット・ディスカウント」を起こしやすいと考える。

改めて考えてみますと、この記事で議論されている事柄というのは、極めて実務的・実際的な事柄だと思います。
理論上は様々な前提を置いているからそう言えるだけなのかもしれませんが、
理論的には、たとえ企業が多角化を進めても、経営の非効率化や統治問題が生じるということは一切ないかと思います。
確かに、記事を読みますと、記事に書かれていますような様々な経営上の問題が現実には生じ得る、というのは分かります。
しかし、あくまで理論上の話になりますが、記事に書かれていますような経営上の問題が現実には生じない、と考えるわけです。
例えば、記事には、経営情報における非対称性の増加や事業経営の複雑化(経営の非効率化)について書かれていますが、
理論的には、そのような問題を生じさせない取締役を株主は選任する、と考えるのではないでしょうか。
そして、株主から委任を受けた取締役も、事業運営上非効率化を生じさせない従業員を雇用する、と考えるのではないでしょうか。
例えば、株主は、「この人物に経営を委任しても、効率的な業務執行はしないだろうし計算書類も作成しないだろう。」、
などと考えて取締役を委任したりはしないわけです。
そして、取締役も、「この人物を採用しても、指示したように仕事ははしないだろうし連絡・相談・報告もないだろう。」、
などと考えて従業員を雇用したりはしないわけです。
理論的には、株主から委任を受けた取締役が任せられた責務を果たすのは会社経営上の前提(委任という行為の前提)ですし、
理論的には、会社から雇用された従業員が指示された仕事を行うのも会社経営上の前提(雇用という行為の前提)です。
「これらの理論的前提が崩れたとしたら?」、と考えても、理論的には議論が深まらないところがあると思います。
事業の多角化についても論点はほとんど同じであり、現実的な解決策にはなっていないかもしれませんが、
「多角化を進めたことによる問題が生じないように多角化を進めていかなければならない。」、
が答えと言えば答えなのではないかと思いました(上記の前提が崩れたら、そもそも委任や雇用ではなくなると思います)。