2016年3月6日(日)



ここ4日間のコメントに一言追記をします。


2016年3月2日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201603/20160302.html

2016年3月3日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201603/20160303.html

2016年3月4日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201603/20160304.html

2016年3月5日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201603/20160305.html


今日も、2014年4月1日に株式会社ゲオディノスが発表した「会社分割(単独新設分割)に関するお知らせ」が題材になります。
2016年3月2日(水)のコメントでも書いたことですが、
2014年4月1日に株式会社ゲオディノスが発表した「会社分割(単独新設分割)に関するお知らせ」は、
法律の観点からも会計の観点からも、本当に様々なことを考えさせられる事例だと思います。
現代会計が拠り所としていることって一体何なんだろうな、と改めて考えさせられているところです。
それでは再度、2014年4月1日に株式会社ゲオディノスが発表した「会社分割(単独新設分割)に関するお知らせ」を参考にして、
現行の企業会計基準(現行の会社法)に従った、このたびの会社分割に関する、
分割会社である株式会社ゲオディノスと設立会社(承継会社)である釧路ビル開発株式会社それぞれの仕訳を書きたいと思います。

 

分割会社である株式会社ゲオディノスの仕訳

(釧路ビル開発株式) 0円 / (流動資産) 0円
                        (固定資産) 0円


設立会社(承継会社)である釧路ビル開発株式会社の仕訳

(流動資産) 0円 / (資本金) 0円
(固定資産) 0円

 



上記の2つの仕訳は、今までに何度も書いていますように、現行の企業会計基準(現行の会社法)に従った仕訳です。
株式会社ゲオディノスは上場企業(上場企業は会社法に加え金融商品取引法の様々な規定にも従わなければならない)ですが、
仮に株式会社ゲオディノスが非上場企業であるとしても、
現行の企業会計基準(現行の会社法)に従った仕訳は上記のようになります。
他の言い方をすれば、上場企業だからこそ上記の仕訳が認められる・上記の仕訳でなければならないわけでは決してなく、
たとえ非上場企業であっても、同一条件(資産の価額など)の会社分割を実施した場合は、上記の仕訳になるわけです。
それで特に昨日からの論点として議論を深めているのが、法人税法とのからみであるわけです。
しつこいようですが、上記の2つの仕訳は、現行の企業会計基準(現行の会社法)に従った仕訳です。
他の言い方をすれば、毎事業年度に会社の計算書類を作成するにあたっての仕訳が上記の2つの仕訳になるわけです。
つまり、会社法上求められている計算書類を作成するために、会社は日々取引毎に仕訳を切っていくわけですが、
会社分割を実施した日に(会社分割の効力発生日に)会社が切るべき仕訳が上記の2つの仕訳になるわけです。
すなわち、会社分割実施後、分割会社である株式会社ゲオディノスが所有する、
会社法上の計算書類(金融商品取引法その他でいう財務諸表でも論点は全く同じ・全く同じものを指すと考えて構いません)
に計上されている釧路ビル開発株式の帳簿価額(貸借対照表価額)は「0円」であり、
また、設立会社(承継会社)である釧路ビル開発株式会社が所有する、会社法上の計算書類に計上されている
各資産の帳簿価額(貸借対照表価額)は全て「0円」であり、そして、資本金の金額(貸借対照表上の資本金額)も「0円」であり、
さらに、法務局に登記されている登記簿上の資本金の金額も「0円」、ということになるわけです。
なぜこれらの点を強調しているのかと言えば、法人税法上は、これらの取り扱いが全くと言っていいくらい異なっているからなのです。
法人税法には、会社法上定義される各種組織再編行為の際の税務上の取り扱いとして、
「組織再編成に係る所得の金額の計算」について定められています。
具体的には、
第六十二条の一「合併及び分割による資産等の時価による譲渡」、
第六十二条の二「適格合併及び適格分割型分割による資産等の帳簿価額による引継ぎ」、
第六十二条の三「適格分社型分割による資産等の帳簿価額による譲渡」、
第六十二条の四「適格現物出資による資産等の帳簿価額による譲渡」、
第六十二条の五「現物分配による資産の譲渡」、
第六十二条の六「株式等を分割法人と分割法人の株主等とに交付する分割」、
第六十二条の七「特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入」
第六十二条の八「非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の損金算入等」、
第六十二条の九「非適格株式交換等に係る株式交換完全子法人等の有する資産の時価評価損益」、
という小見出しで、税務上の取り扱いが定められています。
「組織再編成に係る所得の金額の計算」の基本的考え方(法人税法上の原則規定)は、
資産及び負債の移転をしたときは帳簿価額ではなく「時価」による移転をしたものとして所得の金額を計算する、
となります。
これは、減価償却手続きを行う固定資産だけではなく、流動資産全般についても、同様の考え方を行うよう定められています。
「時価による移転をしたものとして所得の金額を計算する」というのが、法人税法における基本的考え方(原則規定)なのです。
ただし、例外規定として、一定の要件を満たす場合には、「適格」の組織再編行為と認められ、
帳簿価額による引継ぎをしたものとして所得の金額を計算する、という取り扱いになります。

 


ここで問題となるのは、会社法上は、その組織再編行為は適格に該当するか否か、という考え方は一切しない、という点です。
計算書類上の資産の価額や資本金の金額等は、会社法の定め一本で決まります。
会社法の定めと法人税法の定めは、乱暴に言えば、何の関係もないのです。
法理論や立法論としては、当然会社法と法人税法は整合性が取れていなければなりません。
しかし、計算書類上の価額の算定と法人税法上の所得の計算とは、定めとしても計算課程としても全く別なのです。
極論すれば、計算書類上の資産の価額や資本金の金額等は、法人税法上の定めには一切左右されない、と言っていいわけです。
法人税法上、その組織再編行為は適格に該当するか該当しないかに関わらず、
会社法の規定のみで会社の資産の価額や資本金の金額等は決まるのです。
全く同一の組織再編行為(組織再編成)なのに、適格と非適格の2種類の取り扱いが法人税法にはあることからも分かるように、
会社法上の取り扱いと法人税法上の取り扱いは必ずと言っていいほどズレるわけです。
会社法上の取り扱いと法人税法上の取り扱いが異なるどころか、
法人税法上だけでも2種類の取り扱いがあることになっているわけです。
会社法上の取り扱いと法人税法上の取り扱いが異なっていることの問題点は非常にたくさんあるわけですが、一例としては、
たとえば、計算書類の損益計算書の費用の金額が法人税法の損金の金額とは全く異なってしまう、ということが挙げられます。
このたびの事例で言えば、設立会社(承継会社)である釧路ビル開発株式会社は、
法人税法上は建物を時価で承継する、という取り扱いになります。
承継される建物の時価とはこの場合、分割会社である株式会社ゲオディノスにおける承継時の帳簿価額です。
設立会社(承継会社)である釧路ビル開発株式会社は、承継する建物について、
分割会社である株式会社ゲオディノスにおける承継時の帳簿価額を引き継ぐ(この時の時価は全額が承継期の益金となる)と共に、
建物について減価償却手続きを行っていくことになります。
設立会社(承継会社)である釧路ビル開発株式会社が承継後毎期行っていく建物についての減価償却手続きは、
当然のことながら法人税法上損金となります。
建物について減価償却手続きを行う分、設立会社(承継会社)である釧路ビル開発株式会社の課税所得額そして法人税額は、
当然少なくなるわけです。
ところが、会社法上は、釧路ビル開発株式会社は承継した建物について減価償却手続きを行わないわけです。
当然、釧路ビル開発株式会社が会社法上の計算書類の損益計算書に減価償却費を費用計上することはありません。
そうしますとどのようなことになるのかと言えば、損益計算書の税引前当期純利益の金額に比べて、相対的に、
法人税額が非常に少なくなり、また、損益計算書の当期純利益の金額が非常に大きくなるわけです。
企業会計上の収益・費用と法人税法上の益金・損金とは、できる限り合致している方が望ましいのは言うまでもないでしょう。
また、通常は、資産の譲渡を行う際にも、貸借対照表の資産勘定の価額が取得原価として法人税法上損金となるわけですが、
貸借対照表に資産勘定が計上されていないとなりますと、企業会計上の費用と法人税法上の損金とが完全にズレることになります。
設立会社(承継会社)である釧路ビル開発株式会社が承継した建物をある価額で他の人に譲渡した場合、
企業会計上(会社法上、損益計算書上)は売上原価(費用)は「0円」です。
なぜなら、企業会計上(会社法上、貸借対照表上)の建物の価額は「0円」だからです。
しかし、法人税法上は、建物の法人税法に従った減価償却後の帳簿価額が損金になります。
なぜなら、法人税法上は、建物は0円ではなく正のある価額で分割会社から承継した、と考えるからです。
減価償却に関しても売上原価に関しても、企業会計上の費用と法人税法上の損金とが完全にズレることになるわけです。

 



元祖貸借対照表理論では、貸借対照表の資産勘定の価額は、
資産の取得原価を表していると同時に将来の損金算入可能額を表していたわけですが、
会社法と法人税法とで費用と損金の取り扱いが異なるとなりますと、もはやその理論は成り立っていないわけです。
また、このたびの事例の逆のパターンはどうでしょうか。
逆のバターンとは、承継会社が法人税法でいう時価よりも高い価額で資産を承継する場合です。
これは現行の会社法や現行の企業会計基準で認められる会計処理方法かどうかは分かりません。
基本的には認められない(定められていない)会計処理なのではないかとは思いますが、
議論の叩き台として、そして、問題点の理解のヒントとして、ある類型の会社分割を1つ考えてみましょう。
会社分割において、建物を承継させるとします。
分割会社の建物の承継時の帳簿価額は100円だとします。
法人税法上の建物の時価も100円になります。
ところが、分割会社と承継会社では、この建物の収益性は極めて高く、200円の価値があると考えています。
したがって、価額200円でこの建物を承継させることにしました。
承継会社は、承継の対価として、自社の株式を分割会社に割り当て交付しました。
この時の、会社法上の(企業会計基準上の)、分割会社、承継会社それぞれの仕訳は以下のようになります。


分割会社の仕訳

(承継会社株式) 200円 / (建物) 100円
                       (事業移転利益) 100円


承継会社の仕訳

(建物) 200円 / (資本金) 200円

 


一方で、法人税法上の取り扱いはと言いますと、分割会社は承継会社へ時価100円の建物を移転(会社分割)した、と考えるわけです。
分割会社にとって、建物の帳簿価額100円は損金不算入(この場合、この100円は企業会計上の費用でもない)です。
そして、承継会社にとっては、建物の時価100円が益金です(200円が益金ではない)。
このように考えてみると、会社法上(企業会計基準上)の取り扱いと法人税法上の取り扱いがいかに異なるか分かるかと思います。
会社の計算書類に反映されるのは、上記の仕訳のみです。
法人税法上の取り扱いは、会社の計算書類に全く反映されないわけです。
そして、この設例の場合、会社法上も減価償却手続きを行うことになります。
ただし、この場合の会社法上の減価償却手続きは、法人税法上の減価償却手続きとはまた別の減価償却手続きになります。
会社法上は建物の帳簿価額200円に対して減価償却を行うのに対し、
法人税法上は建物の帳簿価額100円に対して減価償却を行う、となります。
そして、会社法上の会社の計算書類の損益計算書に計上される減価償却費は、建物の帳簿価額200円に対する減価償却費、となります。
法人税法上の減価償却手続きに従った減価償却費が会社の計算書類の損益計算書に計上されるわけではないのです。
当然、会社法上の資産の価額(未償却残高等)と法人税法上の資産の価額(未償却残高等)は、異なっているわけです。
会社法上の会社の計算書類の損益計算書に計上される減価償却費とは、一体何を表しているのだろうか、と考えさせられます。
現行の会社計算規則の第五条「資産の評価」には、
”資産については会計帳簿にその取得価額を付さなければならない。
償却すべき資産については、事業年度の末日において、相当の償却をしなければならない。”
と定められています。
会社計算規則でいう資産の取得価額とは何か、そして、
会社計算規則でいう償却資産の相当の償却とは何か、
改めて考えさせられました。
会社計算規則に、償却とは法人税法で定められた償却方法のことである、とは定められていない理由は、
会社法上は資産の取得価額からして法人税法の定めとは異なる場合がある、ということを前提にしているからなのだと思います。