2016年3月3日(木)


昨日のコメントに一言だけ追記します。
昨日のコメントの結論は、
会社分割の際に資産を承継させる時の価額は、減損処理前の価額であるべきか減損処理後の価額であるべきか、
という問いには答えが出ない、
というものでした。
減損処理後の価額で資産を承継したからと言って、承継会社でそれ以上減損処理を行わなくてよい、というわけではないわけです。
承継会社では承継会社で、承継会社における回収可能な価額というのが別にあるわけです。
会社分割において、”資産の価額を承継する”という考え方自体が、やはり間違っているように思います。
ただ、”会社分割において資産の価額を承継するという考え方自体が間違っている”というだけですと議論が終わってしまいます。
会社法に規定のある会社分割の全てを否定していることになります。
ですので、議論の活性化のため、会社法に規定のある会社分割の考え方を一定度所与のこととして議論を進めたいと思います。
昨日は、主に資産の取得原価という観点から合併と会社分割の承継に関する相違点についてコメントを書いたわけですが、
この資産の取得原価に関連し、法人税法の観点からは合併と会社分割の承継に関する相違点はどのようになるのか考えてみましょう。
まず、合併の場合は、昨日のコメントでは、
○棚卸資産等→資産を原始取得原価で承継させなければならない
○固定資産等→資産を減価償却後・減損処理前の価額で承継させなければならない
と書いたわけですが、法人税法の観点から見ても、合併の場合は上記の承継方法を行うことになると思います。
その理由は、棚卸資産の場合は、資産譲渡に伴い取得原価が法人税法上損金算入されるわけですが、
合併時に減損処理後の価額で存続会社に承継させてしまうと、法人税法上、減損損失額が損金算入されないことになるからです。
他の言い方をすれば、存続会社は消滅会社と同じ価額で資産を取得した、という状態を作らなければ、
譲渡を行っても法人税法上の損金の金額がズレてしまう(減損処理を行った金額分、損金算入されないで終わってしまう)わけです。
要するに、承継と同時に減損処理を行うことにはなるものの、法人税法上は存続会社は各資産を消滅会社の原始取得原価で取得した、
という承継方法を行わなければならないわけです。
この考え方は固定資産でも同じです。
法人税法上、存続会社でも消滅会社で行ってきたように引き続き減価償却を進めていかねばならないわけです。
消滅会社では固定資産の取得と同時に、未償却残高(将来の減価償却累計額)が確定するわけですが、
存続会社でも未償却残高を引き継がねばならないわけです。
未償却残高がズレてしまうような資産の承継は法人税法上できません。
したがって、法人税法上、固定資産は減価償却後・減損処理前の価額で承継させなければならないわけです。
以上のことは、「法人税法上も、法人格は消滅会社から存続会社へと承継されることを前提に会計処理を行わなければならない。」
という言い方をしてもよいと思います。
存続会社は、減損処理後の価額を資産の新たな取得原価とすることは、法人税法上はできない、
というふうに理解しなければならないわけです。
逆から言えば、法人税法上は、存続会社は消滅会社の資産の取得原価を必ず引き継がなければならない、ということになります。
消滅会社に比べ、存続会社では取得原価や未償却残高が増加したり減少したりするという状態は、法人税法上認められないわけです。
その理由は、法人格が消滅会社から存続会社へと承継されているからです。
合併における資産の承継は、存続会社にとって資産の新たな取得では決してないのです。

 



以上の議論を踏まえまして、では会社分割の場合は法人税法の観点からはどのように考えなければならないでしょうか。
ある資産を会社分割で承継した場合、承継会社にとってその資産の取得原価はいくらなのでしょうか。
減損処理前の価額での承継であれば、ある意味話は簡単かもしれません。
減損処理前の価額が承継会社にとっての取得原価だ、というだけかと思います。
では、減損処理後の価額での承継の場合はどうでしょうか。
減損処理後の価額が承継会社にとっての法人税法上の新たな取得原価でしょうか、それとも、
資産の法人税法上の取得原価自体は減損処理前の価額だが、企業会計上(会社法上)は減損処理後の価額で承継するのでしょうか。
要するに、法人税法上、資産の取得原価は承継されるのか否か、が論点になっているわけです。
固定資産の場合は、法人税法上、固定資産の未償却残高は分割会社から承継会社へと承継されるのか否か、が論点になるわけです。
仮に、法人税法上、固定資産の未償却残高は分割会社から承継会社へと承継されるのであれば、
法人税法上、固定資産は減価償却後・減損処理前の価額で承継させなければならないわけです。
つまり、分割会社は、企業会計上(会社法上)も新たな取得原価で固定資産を承継することはできないわけです。
要するに、承継させる資産の取得原価に関して、
法人税法上の取り扱いと企業会計上(会社法上)の取り扱いとが異なってしまいますと、
法人税法上の損金と企業会計上の費用とが、税効果会計で言うところの「永久差異」になってしまうわけです。
譲渡を行った資産の取得原価というのは、法人税法上も企業会計上もどちらも全額が損金及び費用です。
計上のタイミングにズレがあり、それらが一時差異となることはあっても、その損金の金額と費用の金額は同じであるわけです。
また、減価償却手続きに関しても、承継時点で法人税法上の未償却残高と企業会計上の未償却残高とが異なっていますと、
差額は「永久差異」(企業会計上は費用ではない(費用が存在しない)が法人税法上は損金、という状態が生じてしまう)でしょう。
減価償却費は、法人税法上も企業会計上も、どちらも全額が損金及び費用です。
減価償却手続きに関して、一時差異が生じることはあっても、永久差異が生じることはあり得ないはずです。
そうしまうと、減価償却手続きや未償却残高や合計の減価償却累計額について、
一時差異が生じる分には問題はないが、永久差異が生じることがないよう、
承継させる資産の価額に関しては、法人税法上の取り扱いと企業会計上の取り扱いは同じでなければならない、
ということになるわけです。
例えば、
資産を減損処理前の価額で承継するならば、企業会計上も法人税法上も承継会社は減損処理前の価額で資産を取得する、と考え、
資産を減損処理後の価額で承継するならば、企業会計上も法人税法上も承継会社は減損処理後の価額で資産を取得する、と考える、
ということになるわけです。
会社分割における資産の承継は、承継会社にとって資産の新たな取得である、と考えるならば、
資産を減損処理後の価額で承継することは企業会計上も法人税法上も可能である、ということになるでしょう。
この場合、分割会社における取得原価と承継会社における取得原価とは法人税法上は何の関係もない、ということになるわけです。
固定資産の場合も、分割会社におけるそれまでの減価償却手続きと、承継会社における承継後の減価償却手続きとは、
関連性や連続性や価額の承継性は一切ない、というふうに整理されるわけです。

 



実は会社法上(企業会計上)、「会社分割における資産の承継」とはそもそも何かについては、
概念整理と定義が難しい点が今でもそして今後もたくさんあると思います。
これは、資産が異なる法人間を移転するのに、そもそも価額を承継させるという考え方があるのか、
という点までさかのぼる議論になると思います。
合併の場合は、”資産が法人間を移転する”という概念は実は相対的には希薄なのです。
なぜなら、合併では、消滅会社と存続会社は法人として1つの法人になるからです。
ただ、何らかの形で、会社法上会社分割を整理する必要があるわけです。
そして、「会社分割とは何か?」について概念整理と定義付けを行うのは、会社法の役割であるわけです。
少なくとも、法人税法の役割ではないわけです。
法人税法としては、会社法の定義と整合するよう、税務上の取り扱いを定めていくだけであるわけです。
また、もしくは逆に、その考え方は法人税法の考え方にあまりにそぐわないということで、
法人税法から会社法の方へ定義を見直すよう働きかけ、定義や互いの規定のすり合わせを行う、
ということも法律の制定という場面ではあろうかと思います。
それが、会社法と法人税法の整合性というものでしょう。
いずれにせよ法人税法の観点からは、会社分割における資産の承継を、
@減損処理前の価額での承継と捉えるにせよ、
A減損処理後の価額での承継と捉えるにせよ、
B全く別の新しい価額での資産の新たな取得と捉えるにせよ、
企業会計上の会計処理との間に「永久差異」が生じないようにすることが重要だ、という結論になると思います。