2013年9月23日(月)



2013年9月23日(月)日本経済新聞
委員会設置会社 57社どまり 導入10年 普及に壁 人事権移譲への抵抗感も
(記事)


 



【コメント】
委員会設置会社については個人的には書き尽くしている気もします。
今までに書いたコメントをいくつか紹介します。
委員会設置会社の長所や問題点等についてそちらを読んで下さい。

 

2013年5月22日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201305/20130522.html

 

2013年5月26日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201305/20130526.html

このコメントのマトリックス図「上場企業と非上場企業、そして、監査役設置会社と委員会設置会社におけるそれぞれの親和性について」
も参考になると思います。

 

2013年5月27日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201305/20130527.html

 

2013年5月29日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201305/20130529.html


 



では今日の記事についてコメントします。


現在委員会設置会社に移行している企業は57社とのことですが、記事のグラフを見ますと2009年は71、72社あったように見えますが。
記事にはこの点についての記述はありませんが、委員会設置会社に移行している企業数はピーク時より14、15社減少した、
ということになりますが。
手元の会社法の教科書には、2009年末時点の委員会設置会社数は112社と書いてあります。
どちらの数字が正しいのかは分かりませんが、いずれにせよ委員会設置会社数はピーク時より減少した、ということになります。
なぜこの点が気になるのかと言えば、通常世間では監査役設置会社よりも委員会設置会社の方が企業統治の観点では優れている、
という考えがありますので、一旦委員会設置会社に移行した企業が再び監査役設置会社に戻るとはあまり考えられないからです。
委員会設置会社より監査役設置会社の方が企業統治上優れているとする理屈付けが非常に難しいわけです。
手元の教科書によりますと、2009年に委員会設置会社から監査役設置会社に戻した企業は5社あったようです。
逆に監査役設置会社から委員会設置会社への移行した会社も5社あったようです。
富山化学工業のように、買収されたのを機に監査役設置会社に戻った例が目立つ、と書いてあります。
富山化学工業のサイトを見ますと、2008年2月に富士フイルムおよび大正製薬との戦略的資本・業務提携の基本合意を行い、
2008年8月に東京証券取引所より上場廃止、と書いてあります。
現在の株主構成は、富士フイルムホールディングス株式会社66%、大正製薬ホールディングス株式会社34%、となっているようです。
これで2009年中に監査役設置会社に戻したということは、
最低でも4ヶ月間以上は非上場企業のまま委員会設置会社であった、ということになります。
まあこれは富山化学工業は元々上場企業であったことが原因というだけですが。
設立以来ずっと非上場企業である企業で委員会設置会社である企業は一社ないでしょう。
委員会設置会社は大規模な企業かつ上場企業であることが経営上は大前提です(会社法上は全株式会社がなれますが)。
その理由は、会社設立時は少人数(極端な場合は創業者一人)で会社を運営していく(会社機関は創業者=株主=取締役=社長)ため、
別途執行役を選任する(経営幹部として別途社員を用意する)ヒューマン・リソース(人的な経営資源)はとても会社にはないからです。
創業者自身が社長・経営幹部として会社を運営していくわけですから、
組織形態も軽量でシンプルの方がよいわけです(そのようにしかできない)。
また、非上場企業の場合は株主=取締役(≒創業者)であるため、
企業統治で問題となる株主の利益を害するような経営は行われません。・・・(*注1)
特段企業統治を重視した経営を考える必要性は理屈の上では非上場企業にはないわけです。

 


話が少しわき道にそれたわけですが、話を元に戻します。
富山化学工業のようにある企業の子会社になりますとなぜ監査役設置会社に戻すのかと言えば、
端的に言えば、親会社から取締役を派遣すれば企業統治云々はそれで済むから、と言えると思います。
上場企業のように経営が一般株主の目に届かない状態ですと、
健全性や透明性の確保のため業務の執行と監督とを分ける必要が出てくるわけですが、
親会社は子会社の意思決定機関を支配しているわけですから、むしろ業務の執行と監督を一体化
(正確に言えば、概念的には自分自身(株主自身)が業務を行うわけだから監督は必要ない)した方が効率的なのです。
買収された(子会社化された)のを機に、企業統治は法律や一般株主の役割から親会社の役割になった、と言えばいいでしょうか。
グループ経営(グループ経営戦略の立案・実行)の観点からも、株主と業務の執行との間に距離がある委員会設置会社よりも、
相対的に株主と業務の執行との距離が近い監査役設置会社の方が、一体感があってスピーディーな経営が行えることでしょう。

 


さて、記事には、

>指名委が株主総会にかける取締役の選解任議案を決めると、取締役会でも修正できないという、制度設計上もあった。
>最少2人の社外取締役が人事を牛耳る恐れもあるわけだ。

と書いてありますが、何と言いますか、物は言い様と言うべきでしょうか。
確かに、委員会設置会社では取締役の選任議案は取締役会ではなく指名委員会で決めます。
しかしそれを制度設計上の問題と言うのなら、一体何のための指名委員会(過半数は社外取締役)か、という話になるわけです。
指名委員会作成の選任議案は取締役会でも修正できないことは、”人事を牛耳る”と悪意を持って表現することもできるでしょうが、
委員会設置会社の趣旨を鑑みれば「そうやって取締役の候補者の透明性を確保しているのだ」という言い方をすべきなのだと思います。
取締役の選任はあくまで株主総会の決議事項です。
指名委員会で選任するわけではありません。
会社の幹部従業員や現任の執行役や現任の取締役(ここでは主に社内取締役)が不透明な形で任意に新たな取締役を候補者としないように、
利害関係のない社外取締役が会社からは独立した形で取締役選任議案を指名委員会にて作成する、という形を取っているわけです。
それを”人事を牛耳る”などと言うのなら、根本的に指名委員会や委員会設置会社は機能しないことになるのではないでしょうか。
指名委員会作成の取締役選任議案をそのまま株主総会への提出議案とせず、
あくまで取締役会への推薦(試案や草案ということでしょう)というに留めるのなら、はじめから指名委員会などいらないわけです。
はじめから取締役選任議案は取締役会で作成すれば事足りる話でしょう。

 



ただ、この点に付け加えるなら、制度設計の話をすれば、取締役会の中に3つの委員会があるというのも少しおかしいようにも思います。
監査、指名、報酬、これら全てはそもそも取締役会という会社機関の役割でしょう(取締役会全体が責任を負うべき役割)。
取締役のメンバーの一部(各委員会の委員)がその職務に対し責任を負うというのはおかしいわけです。
何が言いたいかと言うと、監査、指名、報酬という委員会を設置するのではなく、
監査、指名、報酬は取締役会全体で決めていかねばならないことであると私は思うわけです。
監査、指名、報酬に対しては取締役会の全員がその職務に携わり、責任を負うべきなのです。
もちろん、時々刻々と変化する経営環境に応じて、起こった事態に即応した特別な委員会を臨時に適宜設置する、
という場面はあるでしょう(もしくはそれらも全て取締役全員で対応を取っていくべきことかもしれませんが)。
それはそれで何らかの特別委員会が設置されることはあってもいいと思います。
ただ、監査、指名、報酬の3つは、平時の経営環境においては毎期毎期経常的に必要とされ果たされるべき職務ですから、
一部のメンバーだけが参加する形の委員会を特段設置する話ではないと私は思います。
もちろん、委員会設置会社の趣旨を踏まえれば、この場合取締役会のメンバーの過半数は当然社外取締役ということになります。
アメリカの上場企業では既に取締役会のほぼ全員が社外取締役(社内取締役はCEOやCFOのみ)となっているようでして、
私が今提案している会社制度(委員会設置会社ならぬ「執行役設置会社」とでも呼びましょうか)には
現時点で何ら問題なく対応できると思います。
現状日本の委員会設置会社の場合は、各委員会はもちろん過半数は社外取締役でしょうが、
取締役会全体で見ると、必ずしも過半数が社外取締役で占められているというわけではないと思います。
私が提案している「執行役設置会社」へは全ての委員会設置会社が今すぐ対応できるというわけではないと思います。
別に私は特段委員会設置会社や「執行役設置会社」や社外取締役の有効性を主張したいわけでは決してありません。
ただ、制度設計上今後新たな会社制度を考案・議論していくならば、
現行の委員会設置会社にはまさに各委員会の存在そのものに法概念的・理論的矛盾が顕在しているように私には感じられるため、
それならば各委員会の設置自体を廃止し、監査、指名、報酬は取締役会全体で議論・決定していくようにしてはどうか、
と思いましたので書いてみたところです。


 



(注1)

「非上場企業の場合は株主=取締役(≒創業者)であるため、企業統治で問題となる株主の利益を害するような経営は行われない」理由は
以下の通りです。
法律上は債権者の利益を害するような経営(詐害的会社分割など)を未然防ぐことも企業統治では大切なのですが、
概念上は株主は債権者が利益を取った後に残りの利益を取るという位置付けです
(概念上は債権者の利益が完全に満たされないなら株主の利益は自動的にゼロになります。
概念上株主の利益がゼロになって初めて債権者の利益が害されることになる、という点が重要だと思います)。
そういった債権者保護の観点はどちらかというとまさに会社法そのものの役割(会社の法行為に一定の条件・制約を加える役割)であって、
いわゆるコーポレート・ガバナンス(企業統治)では株主の利益を第一義的に考えた経営を重視するのだと思います
(株主が利益を得るようなら自動的に債権者の利益は全額守られている、と企業統治論では考えるのだと思います)。
もちろんこれは言葉の定義の問題かもしれないことでして、例えば債権者保護や従業員の業務上の不正行為を未然に防ぐことも含めて
広くコーポレート・ガバナンス(企業統治)と呼ぶこともあるとは思いますが、
ここでは株主の利益を守る(すると自動的に債権者の利益も全額守られる)経営を第一義的に考えることを
コーポレート・ガバナンス(企業統治)と呼んでいます。