2018年7月29日(日)



昨日のコメントでは、金融商品取引法に規定のある「共同保有者」の考え方・条文解釈に関して、
「議決権50%超を所有する支配株主等と被支配会社の関係」における「議決権50%超を所有する支配株主等」には、
法人だけが含まれるのであって自然人は実は含まれない、という点について指摘をしました。


2018年7月28日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201807/20180728.html


ある法人がある会社の議決権の50%超を所有している場合は、その法人はその会社を支配していますが、
ある自然人がある会社の議決権50%超を所有している場合は、その自然人はその会社を何ら支配してはいないのです。
前者の関係は「支配株主と被支配会社の関係」であり、後者の関係は「委任関係」(「支配」という概念はない)であるわけです。
同じ株式会社制度(委任を中核とした会社制度)なのに、株主の属性によって「株主と会社の関係」が変動する、
という矛盾がこの議論には存在すると思いました。
法人が株主の場合は、その子会社(や業務執行者)に「委任」をするという考えや目的が現に・実務上はない、
ということになるわけですが、この矛盾を端的に示したプレスリリースがありましたので紹介したいと思います。
「グループ経営戦略や子会社を設立した目的を鑑みれば、親会社は子会社を支配していなければならないのではないか?」、
というそもそもの問いがこの議論にはあるのですが、証券制度上の理由により、
「発行者には支配株主がいるのだが発行者は支配株主からは独立している。」という旨の声明が発表されています。
証券制度上の理由(少数株主の利益の保護の観点)からこの種の声明・宣言を行うことは実務上はむしろ望ましいわけですが、
グループ経営戦略や子会社を設立した目的から考えますと、この種の声明・宣言というのは矛盾している側面もあり、
その矛盾について考えさせられました。

 

2018年5月22日
富士通コンポーネント株式会社
支配株主等に関する事項について
ttp://www.fujitsu.com/jp/group/fcl/documents/release/2017/nr20180522-2.pdf

(ウェブサイト上と同じPDFファイル)


>当社は、役員10名のうち、親会社から取締役1名、監査等委員である取締役1名を招聘しております。
>氏名並びに当社及び親会社における役職は以下のとおりであります。
>上記2名は、豊富な経験と高い見識をもとに客観的な見地から経営の助言を得ること及び監査体制の強化を目的として
>招聘しており、事業活動や経営判断においては、上場会社として当社の自主性・独立性が尊重されております。

>富士通株式会社との取引条件の決定につきましては、一般取引条件と同様に決定しております。
>従いまして、当社は富士通株式会社から一定の独立性が確保されているものと認識しております。

 



「委任」を中核とした会社制度では、
「どこまでが委任でありどこからが指図や支配なのか(もはや委任ではないという領域になるのか)?」についての答えがない、
と改めて思いました。
連結会計における「連結の範囲」の捉え方と比較・対照して考えてみますと、
特に「自然人がある会社の議決権50%超を所有している場合」について考察を行ってみたのですが、
「ある会社の意思決定機関の構成員の選任を支配していることは、その会社の意思決定機関を支配していることを意味しない。」、
という結論に辿り着きました。
「会社の意思決定機関の構成員の選任の支配」とは、「会社の議決権の50%超を所有していること」を指しています。
連結会計における「連結の範囲」の捉え方では、
「ある会社の意思決定機関の構成員の選任を支配している、だから、その会社の意思決定機関を支配している。」、
と考えるわけです。
しかし、昨日と今日の考察を踏まえますと、自然人が「会社の意思決定機関の構成員の選任を支配している」場合は、
すなわち、極一般的な株式会社制度(全くもって一般的な・普遍的な「委任」を中核とした会社制度)では、
「ある会社の意思決定機関の構成員の選任は確かに支配している、しかし、その会社の意思決定機関を支配してはいない。」、
という結論になるわけです。
より簡単に言えば、「選任の支配は意思決定の支配を意味しない。」、という結論になるわけです。
逆から言えば、「業務執行者は、誰からそしてどのような賛否結果で選任されようとも己の受託者責任を遂行するのみである。」、
と考えなければならないわけです。
簡単に言えば、「業務執行者は株主や選任からは独立している。」、と考えなければならないわけです。
「株主と業務執行者は分離している」わけですが(=いわゆる「所有と経営の分離」)、
「『選任』と『意思決定や業務執行』ともまた分離している。」と考えなければならないわけです。
「選任されたことを理由に業務執行者は支配株主に便宜を図る(指図に従う、支配を受ける)。」では「委任」にならないわけです。
「委任」を中核とした会社制度では、株主から会社の意思決定が支配されるようなことがあってはならないわけです。
たとえ会社に支配株主がいても、会社の意思決定は支配株主から独立している、という状態が会社制度として求められるわけです。
連結会計における「連結の範囲」の捉え方では、支配株主は子会社の意思決定をも支配できる、ということが前提になっていますが、
より本来的な株式会社制度の設計では、支配株主は会社の意思決定は支配できない、ということが前提になっているわけです。

 



「支配株主は選任すれども支配せず。」 ("The controlling shareholder reins, but does not rule.")
という言葉を思いつきました。
上記の"reins"は"reigns"の間違いではないかと思われるかもしれませんが、ここでは敢えて"reins"としました。
"rein"は「手綱であやつる、制御する、御する。」という意味ですが、
株主は業務執行者を選任はしますが(手綱は握りますが)、業務執行(="run")は任せる、という意味を込めました。
会社では、その時々でどのコースをどの速度で走るのかを意思決定(業務を執行)するのは、あくまで業務執行者自身なのです。
会社において株主ができるのは会社の大枠を決めることだけなのです。
株主総会決議により業務執行者の選任や配当金額や登記事項(登記すべき内容)を決定することだけを株主はできるわけです。
このような状態のことを私は株主は「手綱を握る」("rein")と表現したわけです。
株主が期待する通りの会社運営(="run")を業務執行者が行う限り、株主は手綱を捌く必要はない(馬に任せてよい)わけです。
日々意思決定を行い日々業務の執行を行うのは、あくまで業務執行者の役割(走るのはあくまで馬の役割)であるわけです。
株主は、方向修正のために一時的に手綱を引くことはあっても、その後走る(="run")のはやはり馬(業務執行者)なのです。
"The controlling shareholder reigns, but does not rule." (支配株主は君臨すれども統治せず。)
という文でも実は本質的に意味は全く通じる(=「会社では、株主は株主としての地位を占めるのみである。」)わけですが、
ここでは「『選任』と『執行』の分離」に重きを置いて上記のような文を考えました。
昨日と今日の考察を通じ、「所有と経営の分離」とは「選任と執行の分離」なのだ、という結論に辿り着きました。
さらに、連結会計における「連結の範囲」の捉え方(そもそも「連結子会社とは何か?」という観念)との比較で言えば、
「所有と経営の分離」とは「選任と意思決定の分離」なのだ、という結論にも辿り着きました。
連結会計における「連結の範囲」の捉え方では、親会社の意思決定は子会社の意思決定である、と考えるわけですが、
より本来的な株式会社制度の設計から考察を行いますと、親会社の意思決定は子会社の意思決定を全く意味しないのです。
親会社は、子会社の業務執行者を「選任」はできるかもしれませんが、子会社の「意思決定」を行ったりはできないのです。
親会社は、「選任」をできるだけなのです。
より一般的に言えば、株主の議決権は会社の意思決定を意味しないのです。

 

A natural person founds a company for the purpose of entrusting his money to another person,
whereas a juridical person on the presupposition that it takes control of the company.

自然人は自分のお金を他の人物に委任をすることを目的に会社を設立するのですが、
法人は自分自身が支配権を握るということを前提に会社を設立するのです。

 

The "separation of ownership and management" means
at once the "separation of election and execution" and the "separation of election and decision-making."
And, a voting right of shareholders is separate from decisiom-making of a company.

「所有と経営の分離」とは「選任と執行の分離」という意味であり、「選任と意思決定の分離」という意味なのです。
そして、株主の議決権は会社の意思決定と同じではないのです。

 

 


富士通、電子部品子会社を連結対象から除外

 富士通は26日、東証2部上場の電子部品子会社、富士通コンポーネントへの出資比率を現状の76.57%から25%に引き下げ、
連結対象から外すと発表した。富士通は主力のIT(情報技術)サービス分野に経営資源を集中する方針を打ち出している。
非中核分野とみなした電子部品事業への経営関与を減らす。
 独立系投資会社ロングリーチグループのファンドが、27日から9月上旬にかけ富士通コンポーネントに対し
TOB(株式公開買い付け)を実施する。買い取り価格は1株当たり935円と、25日終値に11%上乗せした。
 その後、富士通コンポーネントがロングリーチ側を引受先とする第三者割当増資や、自己株の取得などを実施。
最終的にロングリーチ側の富士通コンポーネントの出資比率が75%になる計画だ。富士通コンポーネントは上場廃止となる。
 富士通コンポーネントは当面、社名やブランドを使い続け、従来通りの営業を続ける。
 富士通の塚野英博副社長は26日の会見で、「今後はサービス会社を目指す。資源を集中できない分野には第三者の資本を入れる」
と話した。富士通は事業集約に向け、既に半導体工場の売却などを発表している。
(日本経済新聞 2018/7/26 17:55)
ttps://www.nikkei.com/article/DGXMZO3344992026072018TJ2000/

 

 

香港投資ファンドのロングリーチ、富士通コンポーネント<6719>をTOBで子会社化へ

香港投資ファンドのロングリーチグループは、傘下のFCホールディングス(東京都千代田区)を通じて、
パソコンの周辺機器を製造する富士通子会社の富士通コンポーネント(東証2部)を子会社化すると発表した。
TOB(株式公開買い付け)などを実施して富士通コンポーネントの株式75%を取得し、子会社化する。
富士通は残りの25%を保有し、社名と従業員の体制は維持する予定。
富士通コンポーネントの現在の株主構成は富士通が76.57%、少数株主分が23.43%。
まずTOBで少数株主分の23.43%の取得を目指す。続いて2019年1月をめどに、富士通コンポーネントはロングリーチグループを
割当先とする第三者割当増資と本減資(資本金・資本準備金の額を減らし、その他資本剰余金へ振り替え)を実施したうえで、
親会社の富士通が所有する株式の半数(38.28%)を自己株取得する。
普通株式からA種優先株式へ種類変更して最終的に富士通の所有割合を議決権ベースで25%とする。
TOBの買付価格は1株あたり935円で、TOB公表前日の終値に対して11.18%のプレミアムを加えた。
買付代金は32億円。買付期間は2018年7月26日〜9月6日。
(M&A online 2018-07-26)
ttps://maonline.jp/news/20180726d

 



2018年7月27日(金)日本経済新聞 公告
公開買付開始公告についてのお知らせ
FCホールディングス合同会社
(記事)




2018年7月26日
富士通コンポーネント株式会社
FCホールディングス合同会社
FCホールディングス合同会社による富士通コンポーネント株式会社株式(証券コード6719)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ
ttp://www.fujitsu.com/jp/group/fcl/documents/finance/2018/20180726-5.pdf

(ウェブサイト上と同じPDFファイル)




2018年7月26日
富士通コンポーネント株式会社
FCホールディングス合同会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明のお知らせ
ttp://www.fujitsu.com/jp/group/fcl/documents/finance/2018/20180726-1.pdf

(ウェブサイト上と同じPDFファイル)




2018年7月26日
富士通株式会社
富士通コンポーネント株式会社
富士通コンポーネント株式会社に関わる資本構成の変更について
ttp://pr.fujitsu.com/jp/news/2018/07/26-1.html
ttp://www.fujitsu.com/jp/group/fcl/documents/finance/2018/20180726-2.pdf

(ウェブサイト上と同じPDFファイル)

 


H30.07.27 16:43
FCホールディングス合同会社
公開買付届出書  
(EDINET上と同じPDFファイル)


H30.07.27
FCホールディングス合同会社
公開買付開始公告
(EDINET上と同じhtmlファイル)



【コメント】
FCホールディングス合同会社による富士通コンポーネント株式会社株式対する公開買付については特にコメントはありませんが、
EDINETで提出書類を見ていましたら、次のような書類が富士通コンポーネント株式会社から提出されていました↓。


H30.07.26 16:07  
富士通コンポーネント株式会社
臨時報告書
(EDINET上と同じPDFファイル)



この臨時報告書を見て、2018年7月26日(木)のコメントで書きました「訂正報告書の提出について」公告を行うことと
全く同じ問題(投資家への情報到達の問題)が臨時報告書の提出にもあると気付きました。


2018年7月26日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201807/20180726.html


「訂正報告書の提出について」とは異なり、「臨時報告書の提出について」という公告はなされていないわけですが、
富士通コンポーネント株式会社は「臨時報告書の提出について」という公告を行うべきだ、と思いました。
その理由は、2018年7月26日(木)のコメントで書きました趣旨・内容と全く同じです。
富士通コンポーネント株式会社は、臨時報告書を財務局に提出したので、
そのことを市場の投資家に知らせるために公告を行うべきである、が理由になります。
発行者が財務局に臨時報告書を提出したというだけでは、市場の投資家は臨時報告書が財務局に提出された事実そのものを
知らないわけですから、市場の投資家が臨時報告書を閲覧することはできない(投資家は財務局に赴かない)わけです。
そこで、臨時報告書を提出したことを市場の投資家に周知すべく、発行者はその旨公告をするべきなのです。
証券制度上は、「臨時報告書の提出について」という公告を発行者が行うことは義務付けられていないようですが、
臨時報告書は文字通り臨時に提出を行う書類です(投資家は提出日を推測することすらできないわけです)から、
有価証券報告書の提出以上に、そして、公開買付届出書の提出公告同様(=「公開買付開始公告についてのお知らせ」と全く同様に)、
「臨時報告書の提出について」という公告を証券制度上当然に発行者は行うべきなのです。
「公開買付開始公告についてのお知らせ」に記載される公開買付の簡略な概要は、財務局に赴く投資家のためにあるのではなく、
財務局に赴かない投資家(=この内容の公開買付なら詳細を知るまでもなく応募しないと判断する投資家)のためにあるのです。

 

Investors in the market can't recognize the fact itself
that this "extraordinary report" has been submitted to a local financial bureau.

市場の投資家は、この「臨時報告書」が財務局に提出されたという事実そのものを知ることができないのです。