2018年3月11日(日)



2017年12月13日(水)日本経済新聞
税・予算2018
海外買収後 再編容易に 非課税で傘下に ペーパー会社にふら下がる子会社 政府・与党
(記事)





「産業競争力強化法」は言わば「スーパー特別法(超特別法)」であり現代版「国家総動員法」である、
という点について書いたコメント↓

2018年3月3日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180303.html

 

現行の所得税法と法人税法の規定では、「自社株を対価とする公開買付」が実施された際、
応募株主に発生するのは「売却益」ではなく実は「売却損」だ(なぜなら、現行税法上は対象会社株式の無償譲渡になるから)、
という点について書いたコメント↓

2018年3月4日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180304.html

 

「『自社株を対価とする公開買付』には、税法上そして会社法上そして金融商品取引法上(投資家保護の観点上)、
非常に数多くの問題点がある。」という点と、
「たとえ市場価格がある上場株式であっても、株式には客観的な公正な価額はない。」という点と、
「企業会計上の収益と費用を繰り越すということはしないが、税務会計上の課税所得や税務上の欠損金は繰り越すことができる。」、
という点について書いたコメント↓

2018年3月5日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180305.html

 


【コメント】
2018年3月3日(土)のコメントで、「自社株を対価とする公開買付」(公開買付制度の改正)を題材に、
「産業競争力強化法」は言わば「スーパー特別法(超特別法)」であり現代版「国家総動員法」である、と書きました。
「自社株を対価とする公開買付」を意図した通りに当事者(公開買付者や対象会社株主や対象会社等)が取引を
実務上行なうことができるようにするためには、政府としては税制の改正を行なわなければならないわけです。
その際、政府が改正しなければならない法律は、本来的には所得税法と法人税法であるわけですが、
2018年3月3日(土)に紹介しました計6本の記事(2018年度税制改正に関する記事)では、
「産業競争力強化法」を改正する、という趣旨になっていたわけです。
つまり、「産業競争力強化法」の改正により税制改正が実現する(所得税法と法人税法が改正されたことと同じ状態になる)、
という趣旨のことが書かれていたわけです。
しかし、「産業競争力強化法」に規定を置けば、会社法や金融商品取引法や所得税法や法人税法が改正されたことになる、
というのは法体系としておかしい、と2018年3月3日(土)のコメントでは書いたわけです。
法制度を改正する時は、特例措置を設ける特別法律を制定するのではなく、原法律を改正するようにするべきだ、
と書いたわけです。
それで、2017年12月13日(水)付けの日本経済新聞の記事についてですが、
この記事も2018年度の税制改正に関する記事になるのですが、
主にいわゆる「ポスト・マージャー・インテグレーション」の過程において発生する課税に関連する税制改正
が論点となっています。
私は昨日、M&Aが失敗する原因に海外も国内もないという意味のことを書いたわけですが、
それは、どのM&Aにおいても株式取得や合併そのものが重要なのではなくその後経営が重要だ、という意味で書いたわけです。
昨日紹介した2017年6月6日(火)の日本経済新聞の記事には、まさに次のように書かれていました。

>M&Aの成否の大部分は、統合後の買収企業の組織の再編成(PMI)に依存する。

統合後の買収企業の組織の再編成(PMI)が重要なのは、何も海外M&Aに限った話ではないのです。
統合後の買収企業の組織の再編成(PMI)が重要なのは、日本国内のM&Aでも全く同じなのです。
そして、今日紹介している記事には、この点について次のように書かれています。

>日本企業は買収してからの事業再編にあたるPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)と呼ばれる
>統合作業が苦手との指摘もある。

今日紹介している記事は、基本的には海外M&Aの「ポスト・マージャー・インテグレーション」に関連する
税制改正についての記事になるのですが、
買収会社は株式取得後に統合後の被買収会社の組織の再編成を行なっていくことになるわけです。
日本政府としては、現行の法人税法の規定が、
日本企業が海外M&Aを行なった後に組織再編を進めていく上での実務上の障害になっている、と考えているようです。
それで、税制改正を行なうことで、日本企業の海外展開を税制面から後押ししていこうと試みているわけです。
この記事に書かれています税制改正では、「産業競争力強化法」を改正するのではなく、
「租税特別措置法」を改正することになるようです。

 



理屈では、「産業競争力強化法」を改正することによっても目的としている税制改正は実現可能なのだと思いますが、
「租税特別措置法」に既に何か関連する規定があるということなのだろうと思うのですが、
この税制改正では、「産業競争力強化法」や法人税法を改正するのではなく、「租税特別措置法」を改正することになるようです。
改めて考えてみますと、「租税特別措置法」という法律も、「産業競争力強化法」同様、
法体系としては全くおかしな法律と言わざるを得ないと思います。
「租税特別措置法」は、言わば租税分野限定の「スーパー特別法(超特別法)」であり
租税分野限定の現代版「国家総動員法」である、と言えると思います。
端的に言えば、たとえ通常の取り扱いとは異なる特例を設けるような税制改正行いたい場合であっても、
「租税特別措置法」を制定するのではなく、所得税法と法人税法そのものを改正するようにするべきなのです。
端的に言えば、同一の事象(取引・行為)に関して複数の法律を参照しなければならない、
というのは法律の体系として間違いであるわけです。
政府としては、通常の取り扱いに関しては一般法(所得税法や法人税法等)、特例措置に関しては特別法(「租税特別措置法」)
を参照するようにして欲しいということだとは思いますが(条文や取扱いの整理は行なっているつもりなのかもしれませんが)、
やはり、個人の所得に関する特例措置も所得税法に記載するべきであり、
法人の所得に関する特例措置も法人税法に記載をするべきだと思います。
端的に言えば、特例措置だけを1つの法律にまとめても実務上は意味がないと思います。
実務上は、人は例えば個人の所得の取り扱い(課税関係)を知りたいと思い、所得税法を参照するわけです。
それなのに、「租税特別措置法」に個人の所得に関する特例措置が書かれていますと、
「租税特別措置法」も参照しなければならない、ということになるわけです。
課税関係に関する特例措置は「租税特別措置法」にまとめている、と言われれば、一見法体系としてまとまっているようにも
思えますが、少なくとも実務上は(法律利用者、法律遵守者の立場から言えば)、
複数の法律に規定が分散していること自体がおかしい(実は他の法律に書かれていた、が実務上一番困る)ように思うわけです。
例えば、個人の所得の取り扱い(課税関係)に関しては、特例措置も含めて全て所得税法に規定する、
という法体系の方が実は実務上は有用なのです。
法理論的には、いわゆる「特別法」というのは、物事の定義にまで遡って新しい規定を置く場合に制定するものだと思います。
会社法は、民法から見ると確かに特別法かもしれませんが、会社分野に関する法律という意味では、
そもそも民法に規定がない事柄について新たに規定を置いている(民法にはない「会社」を定義している)法律であるわけです。
すなわち、会社を中心に見ると、会社法は一般法なのです。
その意味において、一般法と特別法との違いは相対的なものに過ぎないわけです。
一方で、「租税特別措置法」は、物事を新たに定義することなく、取り扱いに関してだけ特例的な規定を設けているに過ぎない
わけなのですから、特例をまとめた法律を制定するのではなく、各原法律に特例の規定を記載するようにするべきなのです。

 


最後に、記事の内容について一言だけ書きたいと思います。
記事中に描かれています図を見ると記事の趣旨が逆に分かりづらくなると思うのですが、
要するところ、タックスヘイブンに設立しているペーパーカンパニーの株式譲渡益に課税をしない特例措置を設ける、
という税制改正を日本政府は行なおうとしているということだと思います。
海外M&Aの「ポスト・マージャー・インテグレーション」の過程で、ペーパーカンパニーが所有している
被買収会社の販売子会社株式や製造子会社株式を自社の地域統括子会社に譲渡する、ということは実務上行なわれると思います。
その際に、ペーパーカンパニーに株式譲渡益が発生する(そしてその譲渡益を非課税とする)、
と記事では言っているわけなのですが、
以前も書きましたが、究極的には、タックスヘイブンの法人の所得を日本の法人の所得と見なすことはできないと思います。
結局のところ、所得の帰属先(誰が稼得した所得であるか)を「一意に」明確にするために、法人を設立するわけです。
タックスヘイブンの法人の所得はタックスヘイブンの法人の所得であり、
日本の法人の所得は日本の法人の所得である、というだけなのです。
そして、タックスヘイブンの法人の所得にはタックスヘイブンで課税される、というだけのことなのです。
また、タックスヘイブンの法人の所得を日本の法人が使用したり消費しあり事業上投資をするということもできないのです。
ペーパーカンパニーに発生した株式譲渡益に関する課税は、そのペーパーカンパニーが負担するというだけなのです。
わざわざ「ペーパーカンパニーに発生した株式譲渡益に関する課税は日本の法人が負担する」という規定になっているので、
今度は「その譲渡益を非課税にしよう」という議論になっているわけです。
これは全くおかしな話であって(いわゆるマッチポンプに近い税制改正だと思います)、
そもそもペーパーカンパニーに発生した株式譲渡益と日本の法人とは全く関係がないわけです。
記事にはさらに、現在計画されているペーパーカンパニーに発生した株式譲渡益を非課税とする税制改正について、

>制度の乱用を防ぐための措置も盛り込む。

とまで書かれています。
マッチポンプの二乗だと思いました。
ペーパーカンパニーに発生した株式譲渡益は、日本の法人にとっては始めから非課税なのです。
端的に言えば、日本の個人や法人が法人税率が低い国・地域に法人を設立しても、実際には租税回避はできないのです。
なぜならば、その法人は法人税率が低い国・地域でしか事業活動を行えない(所得を稼得できない)からです。
個人や法人が実際には日本で稼得した所得を法人税率が低い国・地域で稼得した所得とする(所得の移転)ことはできないのです。
もしそのようなことをすれば、その時点で、日本国における所得税法違反や法人税法違反(所得の過少申告)になります。
法人税率が低い国・地域には、実際には人も企業もいないわけです(すなわち、事業活動をそこで行うことは現実にはできない)。
また、法人税率が低い国・地域に設立した法人が稼得した所得(現金)を日本の個人や法人が使うことはできません。
法人税率が低い国・地域に設立した法人から日本の個人や法人に稼得した所得(現金)を海外送金すると、
その時点で、その個人や法人には日本国において所得税や法人税が課税されます。
その個人や法人が受け取ったその海外送金についても申告をしなければ、
その時点で、日本国における所得税法違反や法人税法違反(所得の過少申告)になります。
結局のところ、日本の個人や法人が法人税率が低い国・地域に法人を設立しても、実際には租税回避はできないのです。
それなのに、租税回避はできるかのように想定して、様々な議論や税制改正がなされているように感じます。
簡単に言えば、日本の所得を租税回避地の所得とすること自体が実は始めからできないのです。