2018年3月4日(日)
2018年3月3日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180303.html
昨日は主に、「産業競争力強化法」は言わば「スーパー特別法(超特別法)」であり現代版「国家総動員法」である、
という点についてコメントを書きました。
昨日は、紹介した記事を題材にして、「自社株を対価とする公開買付」に関するコメントを書くつもりであったわけですが、
一連の記事を読み進めていくうちに、このたびの「公開買付制度の改正」では、
金融商品取引法の改正や所得税法の改正や法人税法の改正が行われるのではなく、
「産業競争力強化法」の改正が行われる段取りとなっているようだ、ということが分かりました。
それで、「産業競争力強化法」について調べる方が先だと思いましたので、
昨日は「産業競争力強化法」についてコメントを書いたわけです。
今日は、昨日紹介した記事を題材にして、昨日書きたかった「公開買付制度の改正」について一言だけ書きたいと思います。
まず、2017年8月24日(木)の日本経済新聞の記事には、「産業競争力強化法」の改正により税制改正を実現し、
「自社株を対価とする公開買付」に関する課税の猶予策を導入する予定となっていると書かれています。
記事から重要な部分を引用します。
>このTOBは売り手企業の株主へ現金の代わりに自社株を渡す仕組み。
>ただ、今の税制では実際に現金が入ってきていないのに税務上は「株主が保有株を手放した」と判断され、
>みなしの売却益への課税が発生する。
記事中の図にも、「現金を対価として受け取っていないが、株を売却したとみなされるため『売却益』に税金がかかる」
と書かれてあり、昨日のコメントの最後にも書きましたように、
この「みなし売却益への課税」が「自社株を対価とする公開買付」が今まで実務上使われてこなかった原因となっているわけです。
私も最初、記事に書かれてある通りなのだろう、と思ってしまったのですが、おそらく記事中の記述は間違いだと思います。
所得税法と法人税法の規定は見ていませんが、現行の所得税法と法人税法の規定では、
仮に「自社株を対価とする公開買付」が行われた場合、応募株主(対象会社株主)の課税関係に関しては、
「対象会社株式の無償譲渡と公開買付者株式の無償取得」が同時に行われたもの、という捉え方になると思います。
「応募株主(対象会社株主)は、対象会社株式を無償譲渡し公開買付者株式を無償取得した。」、
という取引を行なったというふうに所得税法そして法人税法では捉えれるわけです。
この捉え方は、「みなし」("deemed")(そのような取引を行なったと税法上想定すること)を行なうということでは決してなく、
無償譲渡が行なわれそして無償取得が行なわれた、というふうに税法上は取引を整理する、ということです。
応募株主(対象会社株主)は、対象会社株式を無償譲渡したことから対象会社株式譲渡損が計上・認識され、
さらに、公開買付者株式を無償取得したことから公開買付者株式の取得原価は0円となる、
という取り扱いに現行の所得税法と法人税法ではなるわけです。
現行の所得税法と法人税法の規定では、そもそも「自社株を対価とする公開買付」に関する規定がないわけです。
そうしますと、「自社株を対価とする公開買付」が行われた場合に現行の所得税法と法人税法では
「『自社株を対価とする公開買付』において行なわれた取引」をどのように整理するのかと言えば、先ほども書きましたように、
「応募株主(対象会社株主)は、対象会社株式を無償譲渡し公開買付者株式を無償取得した。」、
というふうに整理するわけです。
先ほども書きましたように、これは「みなし」ではなく、現行の規定に最も近い取引が行なわれたと規定に基づき税法上判断する、
ということです(他の言い方をすると、行なわれた「取引」に適用することが最もふさわしい規定を適用する、ということです)。
税法上「みなし」を行なうためには、文字通り税法にその旨の規定(「みなし」を行なう旨の規定)がなければなりません。
現行の所得税法と法人税法の規定では、そもそも「自社株を対価とする公開買付」に関する「みなし」の規定がありませんので、
現行の所得税法と法人税法からは、納税者による「対象会社株式と公開買付者株式の交換」が一体的な取引であるとは見えず、
納税者は何か別々の2つの取引を行なった(別個・独立した取引を行ったもの)、というふうにしか見えないわけです。
所得税法と法人税法が、納税者による「対象会社株式と公開買付者株式の交換」を
一体的な取引であると捉えることができるようにするためには、所得税法と法人税法を改正し、
「対象会社株式の譲渡の対価として公開買付者株式を受け取った場合は、
納税者は譲渡を行なったと考える(譲渡損益を認識する)のではなく、
公開買付者株式は対象会社株式の取得原価を承継すると考える(譲渡そのものが行われていないため譲渡損益は当然認識しない)。」、
という旨の規定を定めるようにしなければならないわけです。
「対象会社株式と公開買付者株式の交換」は、公開買付という手続きにおいてなされたあくまで一体的な取引であり譲渡ではない、
という旨の規定が所得税法と法人税法になければならないわけです。
現行の所得税法と法人税法の規定では、合併や株式交換や株式移転の場合と同じ取り扱いを行なうことができないわけです。
「自社株を対価とする公開買付」に関しても合併や株式交換や株式移転の場合と同じ取り扱いを行ないたいならば、
その旨の規定を所得税法と法人税法に追記する必要があるのです。
その旨の規定が所得税法と法人税法にない場合は、単に「無償譲渡と無償取得が行われた。」という取り扱いになるだけなのです。
したがって、「自社株を対価とする公開買付」では応募株主の出資は対象会社から公開買付者へと継続しているもの、
という捉え方を所得税法と法人税法で行なえるように。両税法に新たに規定を追記する必要があるのです。
一連の記事では、「売却益」が認識される、と書かれていますが、実は話は正反対であり、
正しくは現行の規定では「譲渡損」(売却損)が認識されるのです。
納税者(応募株主)は、応募期に株式譲渡損は享受できますが、その後の公開買付者株式の譲渡の際に大きな譲渡益が認識される、
ということになります(公開買付者株式の取得原価は0円だから)。
また、所得税法と法人税法からは、対象会社株式の譲渡の対価である公開買付者株式には価額はない、というふうに見えます。
理論的には、公開買付者株式に公正な価額はないわけです(結局それが無償取得となる根本原因であると言えると思います)。
例えば、決済日時点の株価などを公開買付者株式の公正な価額と考えることもできなくはないと思いますが、
端的に言えば、日々変わり得る株価を公正な価額とみなしてよいのかどうかについては、やはり疑問が残るわけです。
納税者は、決済日時点の株価と同じ金額を受け取った(その金額の所得を稼得した)というわけでは決してないわけです。
結局このことも、公開買付者株式の受け取りが、税法上「売却益」になりようがない理由だと言っていいと思います。
それから、昨日は、「産業競争力強化法」の所管省庁は経済産業省であると書きましたが、
確かに経済産業省の職員は産業の専門家かもしれませんが、
税制の改正はやはり税の専門家(国税庁や財務省の職員)に任せるべきなのではないかと思いました。
「産業競争力強化法」による原法律の改正はこの点においても間違いである(原法律の作成者でないと間違え得る)と思いました。
昨日は書きませんでしたが、そもそも行政法というのは、各行政機関(各省庁)が行政に関する公務を行なうために制定するもの
であるわけですから、公務を執務する各行政機関(各省庁)がそれぞれ所管する法律を作成するべきなのです。
このたびの事例に即して言えば、国税庁が執務する公務に関する法律を経済産業省が作成するのは、行政法上の間違いなのです。
国税庁が執務する公務に関する法律は、国税庁(もしくは財務省)が作成するべきなのです。
理論的には、立法(法律案の作成)とその後の執行(公務を行なうこと)とは、実地の公務執行のことを鑑みれば、
当然に一体的でなければならないわけです。
簡単に言えば、公務を執行する人がその公務に関する法律を作成するべきなのです。
他の言い方をすれば、行政活動を行う人が行政法を作成するべきなのです。
もちろん、三権分立を鑑みれば、法律の立法のためには国会による審議や国民代表者(国会議員)による可決が求められますが、
法律の原案としては、公務を執行する人(すなわち、各行政機関の職員)が作成するべき、という考え方になるわけです。
そうでなければ、成立した行政法に基づいて円滑に行政活動を行うことが実務上できなくなるからです。
「議員立法」という言葉がありますが、三権分立の概念から見た法律の誕生過程・成立過程を考えれば、
むしろ「議員立法」こそが立法の中心にあることなのだと言えるのですが、
行政活動(立法後の実務・公務執行)という観点から行政法を見ますと、
特に行政法は議員ではなく公務を執行する人が原案を作成するようにしなければならないわけです。
行政法は、立法後行政法に基づいた行政活動を行っていくことが前提ですので、
行政活動を熟知した行政活動の専門家が担当の行政法を作成することが実務上は求められるわけです。
最後に、2018年2月24日(土)の日本経済新聞の記事について一言だけコメントしますと、
「フォームF4」と呼ばれる開示ルールはやはりおかしいと思います。
端的に言えば、日本企業の株式を米国の投資家が「日本市場において」(来日して)買ったというだけのことなのですから、
その米国の投資家は日本国の証券規制に服する、と考えるのが最も自然なことだと思います。
その米国の投資家は、日本国の証券規制に基づいて日本企業株式を購入したわけです。
日本国の証券規制に基づいて行なわれた株式の取引に、米証券取引委員会(SEC)は一切関係がない、
と言わねばならないと思います。