2018年3月3日(土)



2017年8月24日(木)日本経済新聞
自社株M&A 税優遇 買収される側の株主へ課税猶予 大型再編を後押し 経産省要望へ
(記事)



2018年2月1日(木)日本経済新聞
M&A 自社株活用 法改正へ 新興主導 再編促す
(記事)

2018年2月1日(木)日本経済新聞
「大廃業時代」に備え M&Aに自社株 完全子会社化も支援
専門家の見方
企業買収に詳しい宮野勉弁護士 課税優遇、売却意欲高まる
事業再生に詳しい上田裕康弁護士 企業統治にリスクも
(記事)

2018年2月1日(木)日本経済新聞
きょうのことば
産業競争力強化法 企業再編や規制緩和促進
(記事)

2018年2月2日(金)日本経済新聞
成長戦略 18年のポイント
大型買収、自社株活用しやすく 生産性向上のM&A促す
(記事)

2018年2月24日(土)日本経済新聞
自社株でTOB 政府が全面解禁案 米規制かわす 企業の開示負担軽く
(記事)

 



【コメント】
「自社株を対価とする公開買付」に関する記事を6本紹介しています。
制度利用者(買収者や株主や被買収会社等)の立場から見ると、実務上はこれはまさに「公開買付制度の改正」であるわけですが、
法制度としては、金融商品取引法の改正ではなく、所得税法と法人税法の改正ということになります。
記事によりますと、このたびの「公開買付制度の改正」に関連する法律として、
「産業競争力強化法」というれっきとした法律があるとのことです(この法律もこのたび関連箇所が改正されるようです)が、
「産業競争力強化法」と所得税法や法人税法との関連(法律間の関係)についてはよく分からないなと思いました。
私が思うに、このたびの「公開買付制度の改正」に関しては、
「産業競争力強化法」の改正という見方をするのではなく、所得税法や法人税法の改正という見方をするべきなのだと思います。
ただ、記事を読みますと、「公開買付制度の改正」と同時に、会社法の改正も予定されているとのことです。
具体的には、現行の会社法の「第179条」(特別支配株主の株式等売渡請求)が改正される予定となっているようです。
株式等売渡請求権を行使できる「特別支配株主」の定義を、「株式会社の総株主の議決権の十分の九以上を有している者」から
「株式会社の総株主の議決権の三分の二以上を有している者」へと改正される、ということではないかと思います。
しかし、記事を読みますと、この「特別支配株主」の定義の改正に関しても、
会社法の改正とは書かれておらず、「産業競争力強化法」の改正と書かれています。
「産業競争力強化法」の制定により、それぞれの法律に対する特例措置を講じることができる(一種の特別法のようなもの)、
という位置付け(法律間の関係、法律の構造)になっている、ということなのかもしれません。
金融商品取引法そのものを改正せずとも「産業競争力強化法」の制定・改正により「公開買付制度の改正」を実現でき、
所得税法と法人税法そのものを改正せずとも「産業競争力強化法」の制定・改正により「税制改正」を実現でき、
会社法そのものを改正せずとも「産業競争力強化法」の制定・改正によりを「『特別支配株主』の定義の改正」を実現できる、
ということのようだ、と一連の記事を読んで思いました。
一連の記事を読んで、「産業競争力強化法」という法律は、
原法律の改正を待たずに規制の改正を実現できる(人や会社が特例措置を受けられるようできる、特例制度を設けることができる)、
という、言わば省庁横断的な法律であるようだ、と思いました。
「産業競争力強化法」の所管は経済産業省とのことですが、政府として大きな視点から迅速に必要な制度を設けていきたいと
考えている場合は、他の所管省庁による原法律の改正を待たずに、
「産業競争力強化法」の改正のみにより速やかに目的としている制度改正(特例制度の実現)を行うことができる、
ということのようです(政府・経済産業省は、制度改正について他の所管省庁と事前に協議・交渉を行ってはいるようですが)。
「産業競争力強化法」という法律は、原法律(の所管省庁の権限)をも超えた法効力を有するということで、
俗っぽい言い方をすると、概念的には「スーパー特別法(超特別法)」と呼ぶことができる法律なのだと思います。
トランプで言えば、まさに「ジョーカー」だと思います。
他の言い方をすると、「産業競争力強化法」という法律は、
「ワイルドカード」(万能の効力を持つカード、他の任意のカードの代わりとして使用できる特別なカード)だと思います。
「ワイルドカード」とは、トランプでどのカードの代用にもできるカードのことなのですが、今日の議論に即して言えば、
「産業競争力強化法」により事実上どの法律も(政策の範囲内で)任意に改正できる、とすら言えるのだろうとも思います。

 



記事によりますと、「産業競争力強化法」は、現政権が2014年に施行した法律とのことです。
「産業競争力強化法」について少し調べてみました。
「第一条」(目的)には、次のように書かれています。

>産業競争力の強化に関する施策を総合的かつ一体的に推進するための態勢を整備するとともに、
>規制の特例措置の整備等及びこれを通じた規制改革を推進し、

私はこの文を読み、「国家総動員法」を思い出しました。
また、「大政翼賛会」のことも思い出しました。
「産業競争力強化法」は、言わば現代版「国家総動員法」だと言えるでしょう。
さすが現政権(の祖父が関係していたわけですが)だと思いました、というのは冗談ですが。
「第二条」(定義)を読みますと、やはり、国家的な(総合的かつ一体的な)視点から「規制の特例措置」を整備することが
「産業競争力強化法」の目的であるとのことです。
「産業競争力強化法」にいう「規制の特例措置」とは、
「法律により規定された規制について」別に特例に関する措置を講じることであるとのことです。
私は先ほど、「原法律」という言葉を用いたわけですが、「産業競争力強化法」の条文の文言を用いますと、
「主務省令」により規定された規制を「産業競争力強化法」により変えることができる、ということになります。
「国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的する」という錦の御旗を掲げれば、
たいがいの法律は「産業競争力強化法」のみにより任意に変えられる、ということになります。
「産業競争力強化法」の条文をざっと見てみたのですが、やはり例えば会社法の規定が直接的に変えられているようです。
他にも、金融商品取引法の規定も「産業競争力強化法」により直接的に変えられています。
省庁横断的なので、「産業競争力強化法」の「主務大臣」は、「総理大臣」でなければならないのではないかと思いました。
「国家総動員法」についてインターネットで調べてみますと、
「国家総動員法は一種の白紙委任状にも等しい授権法である」と書かれていましたが、
「産業競争力強化法」により「主務省令」の規定を変えられるのであれば、
主務省庁は「産業競争力強化法」に白紙委任をしているに等しいと言えると思います。
「国家的・総合的・一体的」と「所管」とは、トレードオフの関係のあるのだと思います。
本来的には、「産業競争力強化法」により「規制の特例措置」を設けるのではなく、政府・総理大臣が所管する省庁に指示をして、
やはり主務省庁が「主務省令」を改正する、という手続きを経るべきだと思いました。
2018年2月24日(土)付けの日本経済新聞の記事には、次のように書かれています。

>じつは自社株対価TOBは11年にすでに制度自体が作られたが、税制が障害となり全く使われていなかった。
>買収される側の企業の株主が相手から株式を受け取るのと引き換えに自分の持っている株を渡すと
>「もともと持っていた株を譲渡した」と見なされ、課税されるためだ。

確かに、金融商品取引法だけを改正しても、税法の規定が制度改正の趣旨に沿っていなければ、
改正した公開買付制度が用いられることは実務上はない、ということになってしまいます。
つまり、所得税法と法人税法も、金融商品取引法の改正も同時に改正しなければならないわけです。
しかし、法の整合性を図るためには、まさに所得税法と法人税法そのものを改正することが必要でありそれで十分であるわけです。
法の体系としては、「産業競争力強化法」により「規制の特例措置」を設ける話ではないわけです。
法理論的には、「スーパー特別法(超特別法)」や現代版「国家総動員法」は間違っているということになると思います。