2018年1月6日(土)



記事を1つ紹介して、ここ数日間のコメントに対し、一言だけ追記をしたいと思います。

 

2017年4月11日(火)日本経済新聞
膠着映す「カップル」 売り買い同時、持ち高維持
(記事)


「企業自身は業績予想を行ってはならない。」という点について書いた3日前のコメント↓

2018年1月3日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201801/20180103.html

 

「企業は増資を行ってはならない。」という点について書いた一昨日のコメント↓

2018年1月4日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201801/20180104.html

 

「たとえ投資家間で株式の取引を行っても、『株式の本源的価値』には何らの影響を与えることもない。」、
それが「所有と経営の分離」と呼ばれる概念の本質の1つである、という点について書いた昨日のコメント↓

2018年1月5日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201801/20180105.html


 



「上場企業の開示内容(開示書類の様式)は、全企業で統一するべきか否か?」という点について、
2018年1月4日(木)のコメントの最後に、次のように書きました。

>証券市場における「銘柄間の比較可能性」に重きを置く(様式を統一することにする)のか、それとも、
>個別銘柄の「株式の本源的価値」を明らかにすることに重きを置くのか、で制度設計上の結論が変わってくるのだろうと思います。

証券制度上は、基本的には、開示内容(開示書類の様式)については法令で定められている、と言っていいわけです。
全業種・全業界に共通の開示内容が法令により定められているわけですから、
「ある銘柄は開示内容が他の銘柄と比較して乏しい。」、という状態は決して生じないようにしてあるわけです。
この点については誰も異論がないと思うのですが、次に問題になるのは、「追加的開示を認めるか否か?」であるわけです。
法令により定められた開示内容を企業が開示するのは当然にしても、
「法令により定められた開示内容」に加えて、投資家の投資判断にすると考えている内容を企業が追加的に開示する、
ということを証券制度上認めるかどうかが1つの論点になるのではないかと思います。
他の言い方をすると、「ある銘柄は開示内容が他の銘柄と比較して豊富である。」、
という状態を証券制度上認めるか否か、が1つの論点になるのではないかと思います。
「『法令により定められた開示内容』だけでは自社の『株式の本源的価値』を判断する上で不十分のはずだ。」、
と企業が考えることは現実にあり得るわけです。
簡単に言えば、自社の「株式の本源的価値」を投資家によりよく知ってもらいたいので、自社はさらに開示内容を拡充したい、
と企業が考えることは現実にあり得るわけです。
そして、2018年1月4日(木)のコメントで、私は次のように書きました。

>Each company has its own revenues and losses.

>収益と費用は企業毎に異なります。

簡単に言いますと、持株会社制を採用してコングロマリットとなっている企業や多角化を行っている企業など、
多種多様な複数の事業を手掛けている企業は、単一事業のみを手掛けている企業に比べ、
事業構造が複雑であるがゆえに、必然的に開示内容が多くならなければならないわけです。
そうでなければ、企業内の事業間の関連性が分からず、投資家は「株式の本源的価値」を判断することができないからです。
また、単一事業のみを手掛けている企業であっても、物品の販売のみをおこなっている企業もあれば、
サービスの提供のみを手掛けている企業もあるわけです。
前者は棚卸資産の増減や滞留が経営上非常に重要である一方、後者は棚卸資産はなくサービスの質が経営上重要であるわけです。
特に、人手が資本のサービス業は、事業内容を文字や画像や映像では記述・伝達し切れない部分があるわけです。
投資家が「株式の本源的価値」を判断するために十分な情報・内容というのは、企業毎に自ずと異なる部分もあるわけです。
さらに言えば、「BBレシオ」がまさにそうであったわけですが、製造装置メーカーや建設業では、投資判断をする上で、
将来の収益額に直結する期中の受注額や期末日時点の受注残高が非常に重要であるわけですが、
例えば小売業には本質的に受注額や受注残高という概念が経営上はない(来店客がその都度その場で商品を買うだけ)わけです。
したがって、一方の業種・業界に開示内容を合わせると他方の業種・業界にとっては投資判断の上で情報不足ということになり、
かと言って、他方の業種・業界に開示内容を合わせると一方の業種・業界にとっては経営上そのような情報自体が始めからない、
という、まさに「あちら立てればこちらが立たぬ」という状態が生じてしまうわけです。

 



以上の点については、2018年1月4日(木)のコメントでは、私は次のように結論を書きました。

>企業毎に開示項目に差異があるのは銘柄間の比較可能性という点において問題がある

証券制度上、「銘柄間の比較可能性」という点に最重点を置くならば、
たとえ一方の業種・業界に開示内容を合わせると他方の業種・業界にとっては投資判断の上で情報不足ということになろうとも、
「開示内容が少ない業種・業界」に合わせるという統一方法しかない、ということになります。
私が思い付く最も「開示内容が少ない業種・業界」は、小売業です。
小売業には、期中の受注額や期末日時点の受注残高という概念が経営上ありませんし、また、売掛金も1円もありません。
つまり、小売業には「貸し倒れ」という概念はないのです。
「貸し倒れ」が経営の根幹を左右する業種・業界(最も典型的なのは銀行業)も世の中にはあるわけですが、
「銘柄間の比較可能性」を制度上担保するため、「開示内容が少ない業種・業界」に合わせるという統一方法を行うならば、
たとえそのような業種・業界であっても、「貸し倒れの状況」については開示をしてはならない、という結論になるわけです。
しかし、上記の議論で分かるように、現実にはそれではとても各銘柄の「本源的価値」は判断できないわけです。
それで、現実的妥協点(実務上の妥結点)として、2018年1月3日(水)のコメントでは、私は次のように書いたわけです。

>In theory, the range of disclosure is determined by each industry.

>理論上は、情報開示の範囲は各業界毎に決まるのです。

現実的妥協点(実務上の妥結点)としては、まず法令により「全業種・全業界に共通の開示内容」を定めた上で、
その上で、業種・業界毎に、特有の開示事項を別途追加的に法令により定める、という開示制度を構築するべきなのです。
「全業種・全業界に共通の開示内容」が"universal"(全企業共通)な"minimum"(最少限度)の開示であり、
「業種・業界毎の特有の開示事項」が"particular"(固有の性質の、特有の)な"addition"(追加開示情報)の開示である、
という開示構造・開示方法・開示制度を採用するべきなのです。
全企業は、「全業種・全業界に共通の開示内容」("minimum")を開示した上で、その上で、
小売業であれば来店客数や1人当たり売上高や棚卸資産の滞留・廃棄状況などを開示することを法令で義務付けるであったり、
建設業であれば期中の受注額や期末日時点の受注残高などを開示することを法令で義務付けるであったり、
銀行業であれば担保の設定状況や貸し倒れの状況などを開示することを法令で義務付ける、という開示方法を行うわけです。
現在の日本の金融商品取引法や企業内容の開示に関する法令などでは、
実務上の法定開示内容としては、結果としては結局概ね上記のような開示方法になっているのではないだろうかと思います。
つまり、簡単に言えば、「該当項目があれば開示せよ。」というような開示義務になっているのではないだろうかと思いますが、
それはイコール、業種・業界の特性を鑑みれば、「法令上の開示内容は業種・業界毎に異なる。」という意味であるわけです。
現在の日本の開示制度では、完全な「銘柄間の比較可能性」が担保されているかと言えば、
厳密に言えば開示内容が銘柄間で異なっている以上、「担保はされていない。」、と言わざるを得ないわけです。
しかし、事業内容や業界特性が銘柄毎に異なっている以上、
完全な「銘柄間の比較可能性」を担保することは現実には始めから不可能なことだ、と言わねばならないと思います。

 



上記の議論と関連があると言いますか、「銘柄間の比較可能性」を理解する上でよい題材となるのが、
今日紹介している2017年4月11日(火)付けの日本経済新聞の記事だと思います。
記事には、先高期待のある銘柄を買って割高株を売る「ロング・ショート」と呼ばれる証券投資戦略や、
統計分析で「ロング・ショート」の組み合わせを見つけ出す「ペアトレード」呼ばれる証券投資戦略について書かれています。
記事には、”ある銘柄を買ったらその分だけ別の銘柄を売り、全体の持ち高は増やさないようにする”
という「売り」と「買い」のセットのことを「カップル」と呼んでいるわけです。
記事から、「銘柄間の比較可能性」について考える上で重要な部分を引用したいと思います。

>明治ホールディングス株と山崎製パン株の動きはペアトレードの好例だ。

>明治HD株と山パン株の値動きは、どちらかが相対的に割高になると、いずれ平均に回帰する性質がある。
>投資家はこうした関係にあるカップルに売りと買いと同時に仕掛ける。

私は「ロング・ショート」と呼ばれる証券投資戦略や「ペアトレード」呼ばれる証券投資戦略については詳しくはないのですが、
投資家の立場から見ると、明治ホールディングス株と山崎製パン株は互いに「代替銘柄」の関係となっている、
という言い方ができるのだろうと思います。
明治ホールディングスと山崎製パンは、事業内容が極めて類似しているのと思います。
それで、両社では開示内容も極めて類似しており、
投資家の立場から見ると、両銘柄に関しては「銘柄間の比較可能性」が極めて高く担保されている、
という言い方ができるのだと思います。
明治ホールディングスと山崎製パンとでは、厳密に言えば、取り扱い商品・商品カテゴリーが一部異なっているなど、
事業内容が全く同じというわけではないわけですが、
例えば、セブン・イレブンとトヨタ自動車を比較するのに比べれば、はるかに比較可能性が担保されていると言えるわけです。
セブン・イレブンとトヨタ自動車に関して、「銘柄間の比較可能性」を制度上担保することは、現実には不可能なことなのです。
ある2つの銘柄に関して完全な「銘柄間の比較可能性」が担保されているとは、
その2つの銘柄に関する開示内容が完全に同じ・完全に共通である、という意味なのです。
現在の日本の開示制度は、一見すると「銘柄間の比較可能性」に重きを置いている(法令により様式を統一することにしている)
ようにも見えますが、実は、やはり個別銘柄の「株式の本源的価値」を明らかにすることに相当程度の重きを置いているのです。
そうでないと、開示情報不足が原因で、現実には投資家は個別銘柄の「株式の本源的価値」を判断することができないからです。

 

Concerning "disclosure," the securities system can't satisfy both sides, and it's in an insoluble dilemma.

「情報開示」に関しては、証券制度は「あちら立てればこちらが立たず」となっており、解決不能のジレンマを抱えているのです。



In commercial transactions, a person purchases goods in order to sell them.

商取引においては、人は売るために物を買うのです。