2013年10月26日(土)
2013年10月26日(土)日本経済新聞
三菱自、成長へ提携急ぐ 優先株処理、自由度高まる
(記事)
【コメント】
優先株式に転換条項が付いているのなら、全て普通株式に転換して終わりでしょう。
優先株主が普通株式を売りたいなら市場で売ればそれで済む話です。
大まかに言えば、
公募増資+優先株式の買い戻しと消却=優先株式の普通株式への転換
になります。
公募価格と転換価額が同じなら、株主資本額総額は同じになります。
普通株式の発行済株式総数も同じになります。
公募増資の市場の引き受け手と、優先株主が転換後に普通株式を市場で売却した場合の市場の買い手が同じなら、株主構成まで同じになります。
株式市場への影響度(株式の市場への需要数と供給数など)も同じですから、既存株主への影響はどちらも全くと言っていいくらい同じになります。
ただ一つだけ異なる点があります。
それは株主資本の内訳です。
「公募増資+優先株式の買い戻し」の場合は、資本金及び資本準備金が占める割合が大きく利益剰余金が占める割合が小さくなります。
「優先株式の普通株式への転換」の場合は、資本金及び資本準備金が占める割合が相対的に小さく利益剰余金が占める割合が相対的に大きくなります。
その理由は、「公募増資+優先株式の買い戻し」の場合は、優先株式の買い戻しに利益剰余金を使用するからです。
他方から説明すれば、「優先株式の普通株式への転換」の場合は、自社株買いをしない分利益剰余金は大きいままだ(減らない)からです。
となりますと、ここで思い出されるのは、資本充実の原則です。
債権者保護に重点を置くならば、同じ株主資本額なら、資本金及び資本準備金は多ければ多いほど望ましく、
利益剰余金は少なければ少ないほど望ましいわけです。
利益剰余金は少なければ少ないほど将来の現金の社外流出額が小さくなるからです。
つまり、株主への影響はどちらもほとんど同じではあるものの、
債権者にとっては、「優先株式の普通株式への転換」よりも「公募増資+優先株式の買い戻し」の方が望ましい、
ということになるわけです。
一見すると、「公募増資+優先株式の買い戻し」は自社株買いを行なうわけですからむしろ資本充実の原則に反するように感じるわけです。
しかし、公募増資を行い株主資本を増加させた上で自社株買いを行い、なおかつ、
自社株買い後の株主資本額が「優先株式の普通株式への転換」を行った場合と全く同じである場合は、
「優先株式の普通株式への転換」よりも「公募増資+優先株式の買い戻し」の方が資本充実の原則に適うことになるのです。
2013年8月10日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201308/20130810.html
2013年9月12日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201309/20130912.html
2013年9月17日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201309/20130917.html
これまでのコメントで、基本的には書かなければならないことは概ね書いているとは思います。
これまでのコメントをまとめ結論だけを書くなら、
まず第一に、三菱自動車工業株式会社は優先株式を発行すべきではなく、そもそも普通株式のみを発行すべきであった、
第二に、三菱自動車工業株式会社は優先株式を発行してしまったならば、その全てを速やかに普通株式に転換すべきだ、
となります。
ただ、理論上はそうなのですが、実際には、転換価額は発行価額よりも低いことが一般的ですし、
買い戻す優先株式総額に相当するだけの公募増資が現実に可能なのか、という問題があるわけです。
記事によりますと、処理する優先株式総額は約3800億円であり、(根拠は知りませんが)調達可能な増資額は約2000億円とのことです。
記事の内容を踏まえると、優先株式は公募増資によりできる限り買い戻し、残りは普通株式へ転換する方針のようです。
可能増資額約2000億円から逆算すると、約1800億円分の優先株式は普通株式へ転換する、ということになりますが。
増資時の新株式の発行価額と普通株式への転換価額が全く同じなら、調達可能な増資額がいくらであろうとも、
転換する優先株式の価額=優先株式総額約3800億円−調達可能な増資額
であるのなら、どのように優先株式を処理しようが既存普通株主への影響は全く同じになります。
優先株式総額約3800億円全額を普通株式に転換しても同じ、
3800億円公募増資を行ない全額買い戻しても同じです。
ただ、債権者にとってはどのように優先株式を処理するかは大きく異なります。
公募増資を行なう条件下では3800億円公募増資を行ない全額買い戻す方が債権者にとって有利であり、
優先株式総額約3800億円全額を普通株式に転換する方が債権者にとっては相対的には不利になります。
2013年9月17日(火)
のコメントでは、
>債権者保護に重点を置けば、優先株式は(どんなに株式数が増えようとも)普通株式へ転換すべきだ、となりますが、
>株主保護に重点を置けば、優先株式は(手許現金と株主資本は減少するが)現金で償還すべきだ、となると思います。
と書きましたが、これは公募増資を行なわない場合の話です。
資本金及び資本準備金及び利益剰余金の額そして株主資本総額が全く同じ(公募増資は行なわない)場合、
優先株式を普通株式へ転換する方が債権者にとって有利である理由は将来の償還(多額の現金流出)のリスクがなくなるからです。
優先株式を現金で償還する方が株主にとって有利である理由は株式の希薄化(利益や議決権割合)のリスクがなくなるからです。
増資を行なうか行なわないかで、債権者にとっての有利不利が正反対になる、というのが会計上極めて興味深い論点だと思います。
それから、優先株式の買い戻しと消却について、実は一ヶ月前にプレスリリースが発表されていたようです↓。
2013年9月26日
三菱自動車工業株式会社
自己株式(優先株式)の消却に関するお知らせ
ttp://www.mitsubishi-motors.com/content/dam/com/ir_jp/pdf/irnews/2013/20130926-01.pdf
取締役会において何を決議したのかと言えば、
>会社法第178 条の規定に基づく自己株式(優先株式)の消却
を決議したとのことです。
消却する株式の種類は、三菱自動車工業株式会社 第1回A種優先株式、とのことです。
これだけなら、「今日の記事のように、公募増資の後に優先株式を買い戻して消却するはずなのではなかったのか?」と思うだけなのですが、
下の方に注記がありまして、
>(注)上記は平成25 年7 月10
日に優先株主からの取得請求により、当社普通株式の交付と引き換え
>に取得した優先株式の消却を行うものであります。
と書いてあります。
この注記の「優先株式の消却を行う」という言葉が少し気になりました。
普通株式と引き換えに優先株式を取得した(=優先株式を普通株式に転換した)のでしょうが、個人的にはこれは少し違うように感じます。
会社法の条文の文言にあるように、確かにこれは法律上は「自己株式の消却」と言うのだと思います。
ただ、個人的な感覚になりますが、これは会計上は「自己株式の消却」ではないというふうに感じます。
その理由は、普通株式と引き換えに優先株式を取得した(=優先株式を普通株式に転換した)場合、会計上は自己株式を取得しないからです。
この取引は優先株式を取得したというより、優先株式と言う有価証券を通じて既に払い込まれた資本の対価として普通株式を発行しただけ、
という見方になると思います。
言わば転換社債型新株予約権付社債の優先株式版というだけだ、というふうに私には見えるわけです。
そうしますと、この取引は自己株式(優先株式)を取得した、ということとは非常に異なるように思えるわけです。
自己株式を取得したどころか、その正反対に新株式を発行したのではないかとすら思うくらいです。
払い込み済みの資本を対価に新株式を発行しただけと言っては言い過ぎになりますが、
少なくとも会計上は自己株式を取得したりしはしていないでしょう。
なぜなら、この取引に際し、仕訳は全く切っていないからです。
(仕訳なし) ・・・@
この取引に際し、現金は社外流出していませんし、利益剰余金も全く減少していません(自己株式勘定は全く増加していない)。
会社が自己株式を無償で取得する場合も仕訳は切りませんが、それは対価がないため結果として仕訳は切れないだけのことであって、
本来なら
(現金預金) 0円 / (自己株式) 0円 ・・・A
という仕訳を切っているわけです。
貸借対照表に与えるインパクトは全く同じでも、@の仕訳とAの仕訳は本質的に異なるのです。
特に転換社債型新株予約権付社債の転換であれば新株式を発行して社債権者自身を対象に増資を行いその現金で社債を償還する、
という見方もできるかもしれませんが、
優先株式の転換の場合は、新株式を発行して優先株主自身を対象に増資を行いその現金で優先株式を償還する、という見方はできません。
なぜなら、優先株式を償還する際は利益剰余金が原資として必要だからです。
この取引では利益剰余金を原資に優先株式を取得したりはしていません。
ですからこの取引は会計上自己株式の取得や自己株式の消却ではないわけです。
優先株式の転換は優先株式と言う有価証券を通じて既に払い込まれた資本の対価として普通株式を発行しただけ、という見方しかないと思います。
(普通株式) xxx / (優先株式) xxx ・・・B
という仕訳を切っただけでしょう。
優先株主はBの仕訳を切っただけなのであるならば、会社側は決してAの仕訳ではなく@の仕訳になるわけです。
ここで注意が必要なのは、会社側の仕訳は、
(資本金) xxx / (資本金) xxx ・・・C
とはならないことでです。
会社側(貸借対照表)は何も変わっていない、株式だけが変わった、という見方をしなければなりません。
@の仕訳とCの仕訳も本質的に異なります。
また、現行の会計基準では、直接的に資本金勘定を減少させる仕訳は原則としてはありません(資本充実の原則の観点からです)。
さらに、より本質的には、概念的には発行している株式に対して資本金は無差別です。
概念上会社に、資本金A、資本金B、資本金第一種、資本金第二種、資本金甲、資本金乙、資本金優、資本金劣、などの区別は一切ないのです。
また、このことから分かるように、結局のところ、会社が発行している株式は本来皆同じでなければならない、という結論に行き着きます。
概念上資本金は区別が不可能であるならば、株式も区別は不可能であるはずなのです。
会社が発行する株式は根本的に普通株式しかあり得ず、普通株式以外の種類株式の発行などそもそも不可能であるはずなのです。
以上の議論を踏まえますと、同じ優先株式の普通株式への転換でも、法律上と会計上で考え方を少し変えないといけないのかもしません。
法律上は優先株式の無償取得に近い考え方をしないといけないのかもしれません。
一方会計上は、会社は優先株式をそもそも取得などしておらず、
単に優先株式と言う有価証券を通じて既に払い込まれた資本の対価として普通株式を発行しただけ、と考えるべきなのだと思います。
会社は自己株式の取得など行なっておらず、優先株式は普通株式に転換しただけ、と会計上は考えるべきだと思います。
会社は優先株式を取得したのだと考えると、ではその取得価額はいくらだったのか、という話になるでしょう。
優先株式の取得価額は普通株式の発行総額と同じです(だから株主資本額に一切増減はないのだ)、は通らないでしょう。
貸借対照表にその価額の自己株式勘定は計上されているでしょうか。
されていないということは、(法律上は知りませんが)会計上は自己株式の取得などは行なっていない、という結論になります。
したがって、優先株式の普通株式への転換では、
(法律上は知りませんが)会計上は優先株式の消却(自己株式の消却)は行わない、という結論になろうかと思います。