2018年12月5日(水)


2018年11月21日(水)日本経済新聞
働き方改革、浮いた残業代 社員還元、中堅企業も
(記事)




「未払い賃金」や「未払い給与」について考察を行った時のコメント↓。

2017年11月1日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201711/20171101.html

 

「雇用者が賃金を支払わなかった時点で雇用者の債務不履行を意味する。
したがって、雇用者が賃金を支払わなかった時点ですぐに雇用者を清算する手続きを開始しなければならない。」という点と、
「比較的新しい用語なのだが今日"executory"という用語を知った。"executory"とは『未履行の』や『未済の』という意味
なのであるが、債務の履行に関して言えば"executory"の状態と"default"の状態は根本的に異なる。」という点と、
「賃金は『費用・収益対応の原則』に厳密に基づいて費用計上が行われるのに対し、
給与は給与の支払時に基づいて費用計上が行われる。」、という点について書いた昨日のコメント↓。

2018年12月4日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201812/20181204.html

 

 

【訂正】
昨日書きました4つ目の英文中の最後の"charted"は"chartered"の間違いです。
"charted"のままでも妙に意味が通じてしまう(「勘定科目名を表に書き入れる」という意味合いに取られかねない)のですが、
私が言いたかったのはあくまで、「『未履行給与』勘定と『未履行賃金』勘定の両方が全世界で公認されることを望んでいる。」、
ということです。
訂正後の正しい英文は次の通りです。

I am not a chartered accountant in a certain country,
but I want both an "executory salaries" accoount and an "executory wages" account to be chartered in the whole world.

 

 



【コメント】
2017年11月1日(水)のコメントと昨日2018年12月4日(火)のコメントに一言だけ追記をします。
「雇用者が従業員に支払う給与はいつ費用計上するべきか?」という問いは、
発生主義会計の本質を理解するよいヒントになると思いました。
給与の支払いと給与の費用計上の時期を題材にして、次のような資料を作成してみました。
「発生主義会計とは何か?」を理解するヒントにして下さい。

 

「"wages"は費用計上の時期は常に一意に決まるが、"salaries"は理論上も実務上も判断が難しい場面がある。」

【御相談内容】
従業員甲が2019年3月1日から2019年3月31日まで受注生産品Xの商談をまとめる業務に従事した。
従業員甲はこの間この業務のみに従事した。
給与は2019年4月10日に支払われる。
受注生産品Xの引渡日は2020年4月1日であるが、従業員甲への給与はいつ費用計上するべきか。


ご質問の件ですが、
「従業員甲が当該期間に受注生産品Xの商談の業務に専属で従事していたのであれば、
受注生産品Xの引渡の時に従業員甲へ支払った給与は費用計上される。」
という取り扱いになります。
従業員甲へ支払った給与は、受注生産品Xの引渡の時まで、所定の「棚卸資産」勘定を構成することになります。
関連する論点として留意点があるのですが、実務上は従業員甲が複数の製品の製造・販売に従事することが十分に想定されます。
現実には、給与の金額と製品の製造とを一意に結び付けることが極めて困難な場合があります。
その場合は、従業員甲へ支払った給与を特定の製品製造に関する「仕掛品」勘定(労務費)へ振り替えることは、
「保守主義の原則」の観点に反する会計処理であるとも考えられます。
したがって、「保守主義の原則」に重点をおいた会計処理を行うことを考えるならば、
従業員甲へ支払った給与は「労務の終了日」である「2019年3月31日」に費用計上を行うべきであるという考え方になります。
従業員甲には、「労務の終了日」である「2019年3月31日」に賃金債権が発生した(この日に給与を受け取る権利が確定した)、
と考えなければなりません(逆から言えば、雇用者には「2019年3月31日」に給与を支払う義務が発生したのです)。
従業員には給与を受け取る権利が「2019年3月31日」に発生した、だから、
雇用者には給与を支払う義務が「2019年3月31日」に発生した、と考えるのです。
「いつ給与を支払ったか?」は関係がないのです。
収益や費用の認識と債権債務関係について整理をする際は、
常に「取引の相手方」("the counter party of a transaction")の状態はどうであるかを考えるようにしなければなりません。
「相手方」("the counter party")の立場に立って考えると、答えが出ると思います。
「相手方」("the counter party")の立場に立って考えることが大切なのは、人間関係でも債権債務関係でも同じです。

 


それから、紹介している記事について一言だけコメントをします。
労働時間の削減で減少した残業代の一部を社員に還元する、という内容なのですが、記事には、次のように書かれています。

>ODKは2017年10月〜18年9月の1年間に減った残業代の7割を18年冬のボーナス(賞与)に上乗せする。

労働時間の削減で減少した残業代の一部を社員に還元する、という動きは大企業を中心に中堅・中小企業でも増えているとのことですが、
私が記事を読んでまず思ったのは、「給与の金額や賞与の金額はそうやって決まるのか?」ということなのです。
率直に言えば、給与の金額や賞与の金額は従業員が会社に提供した「労務」によって決まるはずです。
残業代の削減額では決まらないはずです。
昨日紹介しました「"pay"の英和辞書からの引用」のどれも根拠とはしてない賞与の増額だと私は思います。
無理をすれば、「残業時間の削減」という相対的な「成果」の報酬であるという見方はできなくはないかもしれませんが。
給与の金額にも賞与の金額にも、予め明確に定められた(就業規則や俸給表に前もって記載された)計算根拠があるはずです。
次に、私が思いましたのは、「損金の金額をいくらでも増やすことができるな。」ということです。
この事例における言わば「残業時間の削減」を理由とした賞与の割り増しは、法人税法の観点から見ると、損金額の増加です。
予め明確に定められた(就業規則や俸給表に前もって記載された)本来の賞与の金額があるにも関わらず、
本来の賞与の金額を超えて会社が従業員に支払った金額は寄附金のはずです。
ただ、実務上の取り扱いとしては、会社が従業員に支払った賞与の全額が損金という取り扱いになると思います。
この事例における賞与の割り増しは、率直に言えば「労務の対価」ではないわけです。
給与は労務の対価ですし賞与も労務の対価ですが、「残業時間の削減」(残業代の削減)は決して労務の対価ではないはずです。
何の対価でもない現金の授受、それを寄附金というのです。
まあ敢えて好意的に表現すれば、相対的な「労働生産性の向上」の対価、といったところでしょうか。
最も元来的な話をすれば、給与や賞与が税法上損金であること自体がおかしい、ということになると思います。
最も元来的には、益金と損金は目的物(有体物)に付随するものなのだと思います。
最も元来的には、乱暴に言えば、「労務といっても何をしたのかは法理的には明確ではない。」という言い方になると思います。
最も元来的には、目的物(有体物)が動く時益金と損金(より正確に言えば「所得」)が発生する、と考えるわけです。
目的物(有体物)は目に見えます(そして、譲渡した人から目的物はなくなる)。
しかし、労務は目に見えないのです(そして、労務を提供した人から何かがなくなるわけではない)。

 

This article suggests that a deductible expense can be increased arbitrarily
if a company declares a donation to be a salary.

会社が寄附金を給与であると申告すれば損金を任意に増加させることができる、ということをこの記事は示唆しています。

 

When does this salary in question accrue on the accounting?

問題のこの給与は、会計上いつ発生するのですか?