2017年11月1日(水)



2017年10月28日(土)日本経済新聞
起亜自、10年ぶり赤字 未払い賃金計上響く 7〜9月 主力の米中低迷も重荷
未払い賃金 35社が訴訟 韓国経済8000億円打撃も
(記事)

 

 


【コメント】
未払い賃金や未払い給与という言葉を最近よく目にするなと思いますが、
注意しておいた方がよい点がありますので、未払賃金を例に一言だけ書きます。
日本語で「未払い賃金」という場合、意味が2つあると言いますか、「未払い」の意味を勘違いしやすいといいますか、
特に会計面では一般的に思われているのとは異なる「未払賃金」がある、という点に注意が必要です。
日本語で「未払い賃金」という場合、次の2つの意味があります。

@雇用者が法律上支払わなければならない賃金であるにも関わらず、まだ支払っていない賃金
A雇用者が法律上支払わなければならない賃金であるのは確かだが、まだ支払期日が到来していない賃金

紹介している記事で問題になっている「未払い賃金」は「@」の「未払賃金」であり、雇用契約に反した賃金支払いであり、
雇用者は一種の債務不履行を起こしている(雇用者は果たすべき義務を果たしていない)状態である、と表現できるわけです。
一方、「A」の「未払賃金」は、「未払賃金」という言い方はするものの、「@」とは正反対に、
雇用者が債務不履行を起こしている(雇用者は果たすべき義務を果たしていない)状態にあることとは完全に異なるわけです。
例えば、雇用契約に基づき被雇用者が3月1日から3月31日まで労務を行ったのだが、賃金の支払日は4月1日である、という場合、
雇用者(3月期決算の企業)の3月31日現在の貸借対照表には「未払賃金」勘定(流動負債)が計上されることになります。
そして、当期の損益計算書には「賃金」勘定(販売費及び一般管理費)が計上されることになります。
費用・収益対応の原則に基づき、労務に関する費用は労務の提供を受けた事業年度に費用計上することになるわけですが、
労務の対価の支払日は翌事業年度の4月1日ですので、雇用者が期末日(3月31日)現在負っている義務の金額を表示するために、
労務の対価の金額を負債として計上するわけです。
この場合の「未払い」は「まだ支払期日が到来していない」という意味です。
この文脈で言う「未払賃金」は、完全に正当な商取引・商行為であり、雇用契約違反などでは全くないわけです。
英語で言えば、「@」の「未払い」は「unpaid」(The wages have not been paid yet though they should already be paid.)
(「既に支払われていなければならないのにまた賃金が支払われていない。」)です。
一方、「A」の「未払い」は「payable」
(The wages are scheduled to be paid on the due date because the due date has not come yet.)
(「まだ支払期日が到来していないためこれから賃金が支払期日に支払われる予定になっている。」)です。
特に会計では、「まだ支払期日が到来していない」という意味で「未払い」という言葉を用いる、
という点には注意が必要だと思います。

 



それから、英文会計の辞書を見ていて、「これはどうだろうか?」と思ったことがあります。
それは、「accrual」という会計用語です。
確かに、英文会計の辞書を引きますと、「未払賃金」の英訳として「accrued wages」と載っています。
「accrual」は、「(費用や収益の)発生」という意味であり、「accrual method of accounting」で発生主義会計となります。
ただ、「accrued wages」ですと、
「発生主義会計上発生した賃金」や「(費用と収益の対応のために)損益計算書に費用計上だけは行った賃金」、
というニュアンスがあるように感じました。、
すなわち、「accrued wages」ですと、どことなく「経過勘定」としての意味合いが出てきてしまうのではないかと感じました。
したがって、「労務」を期間配分することは概念的にあり得ない以上、
すなわち、過年度の労務の費用が当期に帰属している、もしくは、
次期事業年度以降の労務の費用が当期に帰属している、などということは概念的にあり得ない以上、
「賃金が会計用語でいうところの『accrue』したと考える」ということは概念的に少しおかしいと感じたわけです。
会計上は、"wages"も確かに"accrue"するわけですが、会計用語でいう"accrue"は総称のようなところがあると思いますので、
貸借対照表に義務の金額として表示をする勘定科目としては、
より直接に「まだ支払期日が到来していない旨」を告げる名称を用いるべきだと思いました。
辞書にも載っていますので、「accrued wages」でも十分通じるのだとは思いますが、
個人的には「未払賃金」の英訳は「wages payable」が適切なのではないかと思いました。

 

The issue on salaries and wages debated in this article is
not "salaries and wages payable" on the accounting but "unpaid salaries and wages" on the law.

この記事で論じられている給与や賃金に関する問題点というのは、
会計上の「未払給与・未払賃金」ではなく、法律上の「未払給与・未払賃金」なのです。