2017年11月1日(水)
【コメント】
未払い賃金や未払い給与という言葉を最近よく目にするなと思いますが、
注意しておいた方がよい点がありますので、未払賃金を例に一言だけ書きます。
日本語で「未払い賃金」という場合、意味が2つあると言いますか、「未払い」の意味を勘違いしやすいといいますか、
特に会計面では一般的に思われているのとは異なる「未払賃金」がある、という点に注意が必要です。
日本語で「未払い賃金」という場合、次の2つの意味があります。
@雇用者が法律上支払わなければならない賃金であるにも関わらず、まだ支払っていない賃金
A雇用者が法律上支払わなければならない賃金であるのは確かだが、まだ支払期日が到来していない賃金
紹介している記事で問題になっている「未払い賃金」は「@」の「未払賃金」であり、雇用契約に反した賃金支払いであり、
雇用者は一種の債務不履行を起こしている(雇用者は果たすべき義務を果たしていない)状態である、と表現できるわけです。
一方、「A」の「未払賃金」は、「未払賃金」という言い方はするものの、「@」とは正反対に、
雇用者が債務不履行を起こしている(雇用者は果たすべき義務を果たしていない)状態にあることとは完全に異なるわけです。
例えば、雇用契約に基づき被雇用者が3月1日から3月31日まで労務を行ったのだが、賃金の支払日は4月1日である、という場合、
雇用者(3月期決算の企業)の3月31日現在の貸借対照表には「未払賃金」勘定(流動負債)が計上されることになります。
そして、当期の損益計算書には「賃金」勘定(販売費及び一般管理費)が計上されることになります。
費用・収益対応の原則に基づき、労務に関する費用は労務の提供を受けた事業年度に費用計上することになるわけですが、
労務の対価の支払日は翌事業年度の4月1日ですので、雇用者が期末日(3月31日)現在負っている義務の金額を表示するために、
労務の対価の金額を負債として計上するわけです。
この場合の「未払い」は「まだ支払期日が到来していない」という意味です。
この文脈で言う「未払賃金」は、完全に正当な商取引・商行為であり、雇用契約違反などでは全くないわけです。
英語で言えば、「@」の「未払い」は「unpaid」(The
wages have not been paid yet though they should already be
paid.)
(「既に支払われていなければならないのにまた賃金が支払われていない。」)です。
一方、「A」の「未払い」は「payable」
(The
wages are scheduled to be paid on the due date because the due date has not come
yet.)
(「まだ支払期日が到来していないためこれから賃金が支払期日に支払われる予定になっている。」)です。
特に会計では、「まだ支払期日が到来していない」という意味で「未払い」という言葉を用いる、
という点には注意が必要だと思います。
The issue on salaries and wages debated in this article is
not "salaries
and wages payable" on the accounting but "unpaid salaries and wages" on the
law.
この記事で論じられている給与や賃金に関する問題点というのは、
会計上の「未払給与・未払賃金」ではなく、法律上の「未払給与・未払賃金」なのです。