2018年10月11日(木)
2018年9月19日(水)日本経済新聞
企業統治実務指針の改定案 後継者計画の文書化促す 経産省
(記事)
コーポレート・ガバナンスの在り方(経済産業省)
ttp://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/corporategovernance.html
「『ディスクロージャー』(情報開示)同様、『企業統治』(コーポレート・ガバナンス)も、
投資家保護のために証券制度上発行者に要請されるべき事項である。」、
という点について指摘をした時のコメント↓。
2018年10月6日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201810/20181006.html
「証券取引所が投資家に提供している取引システムと金融商品取引法の規定との間に乖離がある根本原因は、
金融庁が定める金融商品取引法と証券取引所が定める有価証券上場規定とが分かれていることにあるので、
理論的には、有価証券上場規程も金融庁が定めなければならない
(もしくは、理論的には、証券取引法(現・金融商品取引法)は有価証券上場規程を包含するものでなければならない)。」、
という点について指摘をした昨日のコメント↓。
2018年10月7日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201810/20181007.html
【コメント】
今日紹介している2018年9月19日(水)付けの日本経済新聞の記事は、2018年10月6日(土)に書きましたコメントと関連があります。
2018年10月6日(土)のコメントを書きました時にこの記事も紹介しておけばよかったのですが、
その時はこの記事のことを忘れてしまっており、紹介しませんでしたので今日紹介しているところです。
今日の結論は2018年10月6日(土)に書きました結論と同じです。
「『ディスクロージャー』(情報開示)同様、『企業統治』(コーポレート・ガバナンス)も、
投資家保護のために証券制度上発行者に要請されるべき事項である。」、という結論になります。
ただ、細かいことを言いますと、関連する指針には「企業統治指針」と「企業統治実務指針」の2つがあるようです。
前者は東京証券取引所と金融庁が策定・発表しており、後者は経済産業省が策定・公表している、という違いがあるようです。
○企業統治指針
→ 「原案」は金融庁が公表し、「確定した指針」(本指針)は東京証券取引所が発表する。
○企業統治実務指針 → 経済産業省が策定・公表する。
経済産業省が策定する「企業統治実務指針」は、東京証券取引所と金融庁が策定する「企業統治指針」を踏まえて、
企業統治に関するより具体的な手続きを定めるものなのだと思います。
記事には、経済産業省が策定する「企業統治実務指針」の位置付けについて、次のように説明されています。
>経産省の実務指針は企業統治指針の原則を経営に取り入れる際に実務的にどんな対応が望ましいのか各論を示す内容。
>金融庁なども交えて作成している。
具体的な後継者像を明確にして文書化したり選考過程の議論を議事録に残したりといったことを上場企業に求めていく方針のようです。
個人的には、具体的に検討すべき事項や取り組むべき事項を示す実務的な指針も原則を策定した金融庁が策定するべきだ、
と私は思うわけですが、経済産業省では間違いだというほどのこともないのかもしれません(ただ、やはり金融庁がより適当です)。
ただ、記事を読んでいて、企業統治指針や企業統治実務指針の趣旨に照らすと明らかにおかしい点があることに気付きました。
それは、記事の次の記述です。
>後継者計画を文書化しても対外公表は不要とし、社内の選定過程を健全にする目的で作成を求める。
経済産業省は証券制度は不得手なのかもしれませんが、この考え方は証券制度から考えれば完全に間違っています。
なぜならば、企業統治指針や企業統治実務指針は「投資家保護」のためにあるからです。
文書化した後継者計画や議事録は、財務情報同様、市場に開示をすることが求められます。
企業がどのような姿勢で企業統治に取り組んでいるのかを明らかにすることが、企業統治指針や企業統治実務指針の目的だと思います。
上場企業が「弊社では後継者計画を文書化しています。」と口で言うだけでは、市場の投資家には全く意味がないわけです。
「弊社ではこのような後継者計画を文書化していますし、また、選考委員会では委員はこのような議論を行っております。」、
と市場の投資家に開示をすることが、透明性の高い経営につながっていく(引いては、企業統治につながっていく)わけです。
企業統治指針や企業統治実務指針は、上場企業そのもののためにあるのではなく、市場の投資家のためにあるのです。
企業統治指針や企業統治実務指針は、家訓ではありません。
市場の投資家に対し、企業統治がいかに機能しているのかを示すことが企業統治指針や企業統治実務指針の役割なのです。
社内の選定過程を健全にしたり透明性を確保したいのであれば、当然のことながら選考過程を市場に開示するべきなのです。
健全性や透明性というのは、開示によって担保されるものではないでしょうか。
証券制度では、「ディスクロージャー」(情報開示)によって投資家の利益を保護していくのです。
「後継者は株主が決めることだ。」、では市場の投資家の利益は守られません。
証券制度では、当局は、株主ではなく、市場の投資家の立場に立ってルールを定めていかなければなりません。
経済産業省の下部組織には中小企業庁があるわけですが、経済産業省は非上場企業のことがどこか頭にあるのかもしれません。
しかし、企業統治実務指針は金融庁が策定した企業統治指針を前提に策定されるべきものですから、
この文脈では当然のことながら上場企業を前提としたルール作りが求められます。
証券制度では、「それは株主が決めることだ。」で済ましてしまうと市場の投資家の利益が害される、ということが多いのです。
証券制度では、概念的には、上場企業は言わば株主から独立していなければならないのです。
証券制度では、概念的には、上場企業にいるのは市場の投資家だけなのです(そして、株主は言わばいないものと考える)。
そして、上場企業と市場の投資家との間の情報格差を解消する手段が「ディスクロージャー」(情報開示)なのです。
企業統治実務指針は、金融庁が策定した企業統治指針を踏まえた上で、
「このような文書を開示しなさい。」と具体的に定めるものでなければならないのです。
「対外公表は不要だが計画を立てなさい。」ではただのお題目であるわけです。
お題目では市場の投資家は救われないのです。
健全性や透明性の確保というのは、「ディスクロージャー」(情報開示)を通じて達成されるものではないかと思います。
経営上、社外秘の情報というのは当然のことながらあるわけですが、今日の議論では、
「上場企業は、透明性のある後継者選びを行っていくべきだ。」ということに主眼があるわけです。
後継者の選考は、営業秘密でもなければ知的財産権でもなければ競争力の源泉でもないわけです。
透明性のある後継者の選考過程が、投資家による投資判断に資するとの考えから、当局は計画の文書化を促しているわけです。
当局が後継者の選考過程を文書化することを上場企業に対し要請しているのは、
上場企業自身のためでは決してなく、市場の投資家のためなのです。
企業統治の担い手という意味では、上場企業に株主はいないのです。
なぜならば、企業統治の主導者・主権者たる株主が上場企業では日々変動するからです。
したがって、証券制度を構築する当局が、市場の投資家の利益を保護するために、企業統治の一翼を担っているわけです。
証券制度では、「こうしなさい。」には意味がないのです。
証券制度では、「どうしたか開示しなさい。」に意味があるのです。
判断するのは、投資家なのです。
Unlike an unlisted company, a listed company should be, as it were,
independent of shareholders.
The corporate governance policy which the
authorities prescribe such as a succession plan in this article is
not for
the sake of existing shareholders but for the sake of investors in the
market.
A demand that a succession plan should be documented should be made
not by existing shareholders
but by the authorities.
That is to say, the
demand above should be a prescription on the securities system.
非上場企業とは異なり、上場企業は言わば株主から独立していなければならないのです。
この記事の後継者計画のような当局が策定する企業統治指針は、既存株主のためではなく市場の投資家のためにあるのです。
後継者計画を文書化せよという要求は、既存株主ではなく当局が行うべきなのです。
すなわち、上記の要求は、証券制度上の規定であるべきなのです。