2018年9月17日(日)



2018年9月7日(金)日本経済新聞
金融インフラ、停電でマヒ 札証売買停止・起債見送り
(記事)




2018年9月12日(水)日本経済新聞
地方証取に災害リスク 札証、停電で丸1日取引停止 事業継続の備え急務
(記事)



 

証券会社が提供する証券取引所を介さない株式売買サービスである「ダークプール」についてコメントを書いた時のコメント↓。

2018年3月7日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180307.html

 

「投資家が所有している上場株式を市場で売却するためには、出されている売り注文と同じ価格でその上場株式を購入したい
と考えている別の投資家が、その時に偶然にも市場にいることが必要だ。」という点と、
「市場集通原則」や「私設電子取引システム」(PTS(Proprietary Trading System))や「ダークプール」ついて
書いた時のコメント↓

2018年3月15日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201803/20180315.html

 



【コメント】
紹介している2018年9月7日(金)付けの日本経済新聞の記事と2018年9月12日(水)付けの日本経済新聞の記事
を読んで、証券取引所が停電になり株式の取引を行うためのコンピューターシステムがダウンした場合の
証券制度上の対応について考えました。
先日、北海道で大規模な停電が発生したようですが、停電が証券取引へ与えた影響について、
2018年9月7日(金)の記事には次のように書かれています。

>上場する全銘柄の売買が終日停止した札幌証券取引所。

2018年9月12日(水)の記事にも、このたびの停電について証券取引所の災害対応のもろさを浮き彫りにした、と指摘されています。
証券取引所が停電になり株式の取引を行うためのコンピューターシステムがダウンした場合は、
記事にも書かれていますように、投資家は株式の取引ができなくなるわけです。
当日に証券取引所で株式を売却する予定であった投資家からすると、証券取引所の株式売買システムが停止してしまいますと、
極端に言えば、株式売却の機会を奪われた、という状態になってしまうわけです。
記事を読んで、簡単に言えば、電力に関しても実務上は二重三重のバックアップシステムが求められると思いました。
ただ、私がより議論をしなければと思ったのは、停電のことではなく、2018年9月7日(金)の記事の次の文章です。

>札証には50社超が上場しており、そのうちRIZAPグループなど15社が札証に単独上場する。

同じ趣旨ですが、2018年9月12日(水)の記事にも、次のように書かれています。

>札証単独上場のRIZAPは札証の売買代金の9割を占める主力銘柄だ。
>札証の売買停止で個人投資家が使うネット証券の売買ソフトのRIZAPの欄には「売買停止」と表示されるのみ。
>札証に単独上場するその他14社も同じ憂き目を見た。
>RIZAPは「仮にM&A(合併・買収)を発表しても売買できない状態だった」と問題視する。

記事を読みますと、停電を受け、札幌証券取引所に単独上場している銘柄については投資家は終日取引ができなかった、
という状態であったわけですが、他の証券取引所にも重複上場をしている銘柄については、
札幌証券取引所ではなく重複上場先の証券取引所で投資家は取引を行なうことができた、ということになるわけです。

 



一見すると、たとえ札幌証券取引所が停電になっても、このたびのように終日取引停止という状態に陥らずに済みますので、
株式を他の証券取引所にも重複上場させておく方が投資家の利益保護に資する、と思ってしまいます。
しかし、結論を一言で言えば、その考え方は理論的には間違いだと思いました。
その理由を一言で言えば、平時の状態を考えてみますと、重複上場が行われている場合は、
例えば、ある銘柄甲の株価は、札幌証券取引所では100円であり、東京証券取引所では110円、といった具合になるわけです。
重複上場が行われている場合は、同じ株式(その本源的価値は当然同じ)なのに、
札幌証券取引所では100円で取引が行われ、東京証券取引所では110円で取引が行われる、といった状況が生じてしまうわけです。
株式の取引が電子化されている現在では、銘柄甲について裁定取引が行われ、
札幌証券取引所における株価と東京証券取引所における株価とが同じ価格に収束するのではないか、
と思われるかもしれません。
しかし、その考えは理論的には間違いです。
確かに、現実的なこと言えば、現在では株式の取引が電子化されパソコンのディスプレイ上に同時に株価動向を表示できますので、
銘柄甲の札幌証券取引所における株価と東京証券取引所における株価とをリアルタイムで比較すること自体は投資家にはできます。
しかし、「札幌証券取引所における買い注文と売り注文」と「東京証券取引所における買い注文と売り注文」とは別なのです。
他の言い方をすると、「札幌証券取引所における板」と「東京証券取引所における板」とは別なのです。
証券投資理論における裁定取引は、「売り注文と買い注文が出される場所(まさに注文を集約する「板」)」の内部で行われる
ことであり、証券取引所をまたいだ形では裁定取引は行われない、と考えるのだと思います。
むしろ、全投資家が出す買い注文と売り注文が1ヶ所に集約されるからこそ、裁定取引が行われ得るのだと思います。
株価というのは、買い手と売り手の両方がいて初めて株式に付くものです。
株価というのは、買い手と売り手が出会って初めて株式に付くものです。
少なくとも証券投資理論では、証券取引所(株式市場、買い手と売り手が出会う場)は1つであることが前提だと思います。
証券取引所で買い手と売り手が出会うことを通じて、裁定取引が行われていくわけです。
証券取引所が別々ですと、買い手と売り手とが出会いようがない(したがって、裁定取引が行われない)わけです。
ある銘柄甲について、株式を所有しているある投資家が、東京証券取引所で100円で売ることができるならば、
その投資家は札幌証券取引所でも100円で売ることができなければならないわけです。
また、ある銘柄甲について、株式の購入を検討しているある投資家が、東京証券取引所で100円で買うことができるならば、
その投資家は札幌証券取引所でも100円で買うことができなければならないわけです。
証券取引所が分かれていますと、一方の証券取引所には取引の相手方がいるが他方の証券取引所には取引の相手方がいない、
という状態が生じてしまうわけです。
証券制度としては、「もう一方の証券取引で注文を出しておけば株式の売買が可能であったのに。」
(他の投資家は株式の取引を行うことができていたのに)、と投資家が嘆くことを避けなければならないわけです。
つまり、株式の重複上場は、一般に考えられていることとは正反対に、投資家から株式を取引する機会を奪うことになるわけです。
したがって、株式の重複上場は、実は証券制度の理論上は認められないことなのです。

 


より話を一般化して言えば、上場有価証券は、1つの証券取引所にしか上場できない(複数の証券取引所には上場できない)のです。
現代風に言えば、上場有価証券は、ある1つの証券取引所に単独上場することしかできないのです。
この理由については、買い注文と売り注文が「板」に出される濃度・密度を最大限高めて株式取引の機会を最大限投資家に
提供するため(取引を行うために買い手と売り手とが最大限出会えるようにするため)
(つまり、いわゆる「市場集中原則」が理由である)、という説明付けをしてもよいのですが、
特にこのたびの停電による取引停止という事例を鑑みますと、証券取引所毎に株式の取引可能性が異なるのは投資家保護に反する
からである、という説明付けの方がより本質的だと思います。
「市場集中原則」は、上場有価証券の取引所外での取引を禁止するという意味であると一般には解されていますし、
基本的趣旨はまさにその通りであると私も思いますが、
特にこのたびの停電による取引停止という事例を鑑みますと、ある証券取引所では銘柄甲を取引できるが
別の証券取引所では銘柄甲を取引できない、という状態は、銘柄甲を取引できない投資家の利益を害していることになるわけです。
理論上は、東京証券取引所に参加する投資家と札幌証券取引所に参加をする投資家は別なのです。
理論上は、東京証券取引所に参加をしている投資家は同一時刻に札幌証券取引所に参加をすることはできないのです。
”クリック”(株式の取引が電子化された状態)で考えるから、両方の証券取引所に同時に参加できるかのように感じるだけです。
”ブリック”(人が立会場に赴き注文を出す状態)で考えれば、複数の証券取引所に同時に参加をすることはできないのです。
簡単に言えば、一部の投資家のみが銘柄甲を取引でき他の投資家は銘柄甲を取引できない、というのは投資家保護に反するわけです。
何らかの理由により、銘柄甲を取引できないなら取引できないで、全投資家が銘柄甲を取引できない、という状態でなければ、
投資家保護に反するわけです。
「上場有価証券は1つの証券取引所にのみ上場していないと、大きな視点から見て投資家の利益を保護できない。」
という意味をこめて、「市場集中原則」になぞらえて、
「市場単一原則」という言葉を私は考え付きました(私の造語です)。
「市場単一原則」の目的は、株式取引の可能性(株式取引の成立可能性)を最大限高めることではありません。
「市場単一原則」の目的は、全投資家に同一の株式取引の可能性を提供すること(取引の可能性を同じにすること)です。
「市場単一原則」の目的は、売買需給を集中させることではありません。
「市場単一原則」の目的は、投資家毎に株式取引の可能性が異なるという事態を避けることです。
近年では、私設電子取引システム(Proprietary Trading System : PTS)が証券会社により開設されています。
PTSとは、証券取引所外において、コンピューター・ネットワークを通じて証券会社が顧客からの注文同士を付け合わせることで
取引を成立させるという取引所外取引の仕組みです(2018年3月7日(水)と2018年3月15日(木)のコメントも参考にして下さい)。
PTSは、証券会社がコンピューター・システム上で注文の内部化を行う仕組みが外部からは窺い知れないといった意味を込めて、
「ダークプール」(dark pool)と呼ばれることがあるのですが、「ダークプール」(dark pool)になぞらえて、
私は特にこのたびの停電による取引停止という事例に触れて、ある銘柄が重複上場している「複数の証券取引所」(複数の上場先)
のことを表現するのに「クリアプール」(clear pool)という言葉を私は考え付きました(私の造語です)。
各証券取引所は、それ自体は「やましい点のない("clear")市場」(投資家が証券取引を行う本来の場所)であるわけですが、
ある銘柄が他の証券取引所にも重複上場しているとなりますと、途端に上記の「取引の可能性」の差異が問題になるわけです。
「ダークプール」(dark pool)は、"alternative trading system"(代替取引システム)と呼ばれることもあるようですが、
有事の際に、証券取引制度全体がバックアップシステムにより別の証券取引制度に代替されるのであれば問題はないのですが、
有事の際の札幌証券取引所の代替証券取引所が東京証券取引所では、結局株式の取引を行えない投資家が生じるわけです。
「株式取引の可能性(銘柄の取引成立可能性)が全投資家で同じでなければならない。」、という点が今日の議論の本質なのです。
理論上は、上場有価証券は1つの証券取引所にしか上場できない(複数の証券取引所には上場できない)のです。
株式の重複上場は、たとえ投資家は上場有価証券の取引所外での取引は行わないとしても、
売買需給が集中していない(複数の証券取引所に売買需給が分散している)という点において、結局「市場集中原則」に反している
のです(この原則は、「売買の成立は証券取引所に集中していなければならない。」という意味ではないと私は思いました)。