2018年8月26日(日)



「ゼミナール 民法入門 第4版」 道垣内弘人 著 (日本経済新聞出版社)

第4章 いろいろな契約2
T 役務を提供するための契約
3 役務提供契約の実際
4 労働契約―個別的労働関係法による規律

「198〜199ページ」 

「200〜201ページ」 

「202〜203ページ」 

「204〜205ページ」 

「206〜207ページ」 

 

 

「取締役と会社(株主)との関係は委任関係であるわけであるが、
監査役と会社(株主)との関係は委任関係ではなく請負関係であると整理をするべきである。」、
という点について指摘をした一昨日のコメント↓。

2018年8月24日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201808/20180824.html

 

「請負とは、『【労務の成果の給付(仕事の完成)】を目的とする委任』である。」、と表現した昨日のコメント↓。

2018年8月25日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201808/20180825.html

 

 



【コメント】
まず最初に、昨日スキャンして紹介した民法の教科書の続きをスキャンして紹介しています。
昨日スキャンして紹介した分と合わせて、全部で190ページから207ページ(全9画像)を紹介していることになるのですが、これで、
この教科書の「第4章 いろいろな契約2」の「T 役務を提供するための契約」を全てスキャンして紹介していることになります。
今日は昨日のコメントに一言だけ追記をしたいと思います。
まず、紹介している教科書には、「役務を提供するための契約」として、委任、請負、雇用、寄託の4つが挙げられています。
昨日は、委任と請負と雇用と準委任について、民法の条文を紹介したわけですが、
今日は寄託について、民法の条文を見ておきましょう。

>(寄託)
>第六百五十七条 寄託は、当事者の一方が相手方のために保管をすることを約してある物を受け取ることによって、
>その効力を生ずる。

民法に規定のある寄託は、公式英訳では"Deposits"と訳されています。
民法第六百五十七条(寄託の規定)は、主に銀行預金に関して用いられることが予定されているのだと思います。
すなわち、民法理上は、銀行と預金者の間の契約は寄託契約ということになるかと思います。
さらに言えば、実は民法には次のような消費寄託という規定もあります。

>(消費寄託)
>第六百六十六条 第五節(消費貸借)の規定は、受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合について準用する。

民法に規定のある消費寄託は、公式英訳では"Deposits for Consumption"と訳されていますが、
より正確に言えば、民法理上は、銀行と預金者の間の契約は消費寄託契約ということになるのだと思います。
紹介している教科書では、「役務を提供するための契約」として、委任、請負、雇用、寄託の4つが挙げられているわけですが、
委任、請負、雇用の3つと寄託とは決定的に異なる点があります(寄託だけは他の3つと同系列には決して論じられないのです)。
それは、委任、請負、雇用の3つは「労務」の提供を目的としているのに対し、
寄託は「労務」の提供を目的とはしていない、という点です。
委任、請負、雇用の3つでは、相手方は「労務」を行うのに対し、寄託では相手方は「労務」は行わないのです。
寄託では、相手方は「保管」という「役務」のみを提供するに過ぎないのです。
役務には、@「労務という役務」とA「労務以外の役務」があるのです。
それから、民法の公式英訳を見ていましたら、「雇用関係」という用語が"employer-employee relationship"と訳されていました。
雇用は英語で"employment"であるわけですが、"employment"だけで雇用契約という意味合いや雇用関係という意味合いが
含まれてくるのだろうと思っているところなのですが、
"employment relationship"でももちろん「雇用関係」という意味になるわけですが、
"employer-employee relationship"と聞きますと雇用主と雇用者(被用者)の関係が自然と頭に浮かびますので、
個人的には興味深い訳ではないかと思いました。
また、「雇用契約」は最も一般的には"employment contract"や"Employment Agreement"と訳すと思います。

 


それから、昨日は、委任の位置付けについて次のように書きました。

>元来的には、委任という類型のみが先にあり、委任という類型を拡張して考案されたのが請負である、と理解すればよいと思います。

実は委任という規定も後から出てきた経緯があり、さらに歴史を遡れば、委任という概念・民法上の規定すら当初はなかったわけです。
すなわち、最も元来的には、「法律行為は当事者本人が行う。」というだけだったわけです。
2018年8月24日(金)のコメントでは委任について次のように書きました。

>会社法理上は、取締役は労務の成果の給付(仕事の完成)を目的としていない、ということになります。
>極端なことを言えば、理論上は取締役は会社に対し何らの義務も負っていないのです。
>取締役にあるのは、会社(株主)からの信頼と期待だけなのです。

例えば最も典型的な法律行為である売買と比較しますと、委任は極めて漠然としているわけです。
また、昨日も書きましたように、委任では「労務の成果の給付(仕事の完成)」を目的とはしていないわけです。
当事者本人が売買を行うことと比較しますと、相手方に法律行為その他を委託するというのは、
どうにもはっきりとしないところがあると言いますか、委任には常に漠然さが付きまとうわけです。
当事者本人が法律行為を行うことと比較しますと、相手方に委託をするとなりますと途端にあいまいさが生じるわけです。
これはなぜなのだろうなと思いました。
委任、請負、雇用の3つは、「委任→請負→雇用」の順番に民法に誕生した(改正の歴史)のではないかと推論しているところですが、
例えば最も典型的な法律行為である売買と比較しますと、委任、請負、雇用の3つはどれも「将来」の話をしている、
ということに気付きました。
最も典型的な法律行為である売買は、まさに今行う法律行為であるわけです。
それに比べ、委任、請負、雇用の3つはどれも「将来」に渡って行う法律行為であるわけです。
子供の頃、「将来の話はするな。」と死んだじっちゃに言われたことがありますが、
委任、請負、雇用はどれも「将来こうして下さい。」という約束であるわけです。
辞書を引きますと、"future"には次のような意味もあるようです。

>2 【U】 [通例否定・疑問文で] 《口語》 成功の見込み 〔in〕
>There's no future in this business. これは将来性のない商売だ.

法律というのは、将来の成功の見込みというのを信じていないのだと思います。
最も典型的な法律行為である売買は、まさに今行う法律行為ですので、将来の見込みも何もない(その場で履行して終わり)わけです。
しかし、委任、請負、雇用の3つはどれも「将来」に渡って行う法律行為ですので、「将来の見込み」を考えなければなりません。
法律は、「将来のことはどうなるのか分からない。」(将来のことは信じるな。)と考えるのです。
委任が極めて漠然としている(委託者は受託者に成果すら求めない)のは、委任の本質(将来のことなので至極当然のこと)なのです。


Law doesn't believe in the future.

法律は、将来というものを信頼していないのです。