2018年7月15日(日)



2018年7月11日(水)日本経済新聞
1兆円のM&A最高 1〜6月、米通信や医療盛ん 投資銀 助言で競争激化
(記事)





「仮に西友の買い手がいるとすれば、ゼロからスーパーマーケット事業に参入する事業者ということになるのではないか。」、
という点について書いた昨日のコメント↓

2018年7月13日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201807/20180713.html

 

「出口戦略を描くのが困難となっている投資ファンドという観点から見ると、西友株式の売却にこだわるのは実は間違いであり、
米ウォルマートは西友を清算させることがキャッシュフローの最大化になり得る。」、という点について書いた昨日のコメント↓

2018年7月14日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201807/20180714.html

 

 


【コメント】
昨日は、「西友の清算価値<スーパーマーケット事業の継続価値」と算定する買い手のみが西友を買収できる、と書きました。
詳しくは昨日のコメントを読んでいただきたいのですが、昨日紹介しました2018年7月14日(土)付けの日本経済新聞の記事には、

>推定される売却額は3千億〜5千億円と高額だ。

と書かれているわけですが、米ウォルマートの立場からすると、西友の清算価値は3千億〜5千億円と推定している、とも言えます。
要するに、米ウォルマートは西友の清算価値を3千億円と算定しているのだが、
「自社が買収後もスーパーマーケット事業を継続する場合の総キャッシュフローは5千億円である」と算定している買い手が
いる場合に、西友株式は3千億〜5千億円の範囲で値が付く(取引が成立する。両当事者は株式の譲渡を行う)わけです。
例えば、米ウォルマートは西友の清算価値を5千億円と算定している場合や、
「自社が買収後もスーパーマーケット事業を継続する場合の総キャッシュフローは3千億円である」と買い手が算定している場合は、
西友株式には値が付かない(取引が成立しない。両当事者は株式の譲渡を行わない。米ウォルマートは売却はしない)わけです。
「売り手の西友の清算価値<買い手のスーパーマーケット事業の継続価値」という大小関係になる場合のみ、取引が成立します。
西友のように店舗が所在する土地(立地条件)としては優良資産が多い、という会社の場合はそのようなことが起こり得るわけです。
今日紹介している2018年7月11日(水)付けの日本経済新聞の記事は、M&Aに関する記事なのですが、
記事で言及されています一種の基準となっている「100億j(1.1兆円)」という金額は、「株式取得金額」を表しているわけです。
記事中のM&Aには「合併」の事例も含まれているわけですが、事例のほとんどは「株式取得」であると思います。
そして、事例のほとんどは上場企業の事例だと思います。
話の簡単のために、売り手の数(株主数)は1人だけであるとしましょう。
また、話の簡単のために「株式取得」に関してのみ議論をするとしましょう。
この時、株式の取引が成立するということは、
「売り手にとっての会社の清算価値<買い手にとっての既存事業の継続価値」という大小関係であった、ということです。
M&Aの際、ある会社の「株式取得金額」(株式譲渡金額)が1兆円であったということは、
「売り手にとっての会社の清算価値<1兆円」でありなおかつ「1兆円<買い手にとっての既存事業の継続価値」、
という大小関係であった、ということを意味しているわけです(M&Aの成立条件、取引の成立条件)。
「株式取得金額」(株式譲渡金額)は、「売り手にとっての会社の清算価値以上買い手にとっての既存事業の継続価値以下の間」
のある金額に決まる(交渉の結果、株式の取引価格はその間のある金額に収斂する)わけです。
そうしますと、実際には「株式取得金額」(株式譲渡金額)の周辺に売り手・買い手双方にとっての経営上の算定金額がある、
ということになりますから、ある会社の価値は「株式取得金額」(株式譲渡金額)だけで議論できるわけではないわけです。
株式の本源的価値は株式時価総額の周辺にある(株式の本源的価値=株式時価総額ではない)、という言い方ができるわけです。
それで何が言いたいのかと言いますと、仮に西友株式の「株式取得金額」(株式譲渡金額)が4千億円になったとしましょう。
その場合、西友の清算価値は4千億円以下の金額である、ということを意味している(米ウォルマートはそう算定した)わけです。
また、西友株式の買い手はスーパーマーケット事業の継続価値は4千億円以上の金額であると算定している、という意味なのです。
つまり、M&Aにおいては、「株式取得金額」(株式譲渡金額)だけでは何も言えないところがあると思います。
米ウォルマートは、西友を清算させる選択肢を現に持っているわけですが、
「株式取得金額」(株式譲渡金額)は売り手が算定した会社の清算価値以上の金額になる、というだけのことなのです。
M&Aにおける「株式取得金額」(株式譲渡金額)は、単に当事者間の交渉の結果を表しているだけ(その値に落ち着いただけ)であり、
会社の清算価値や会社の既存事業の継続価値を表しているわけでは決してないのです。
また、実際には会社を清算させてはいませんし実際にはまだ会社の既存事業を継続させてはいません(それは将来の話です)ので、
真の「会社の清算価値」や真の「会社の既存事業の継続価値」は実はこの世の誰にも分からない、というのもまた真なのです。