2018年3月18日(日)



2018年3月17日(土)日本経済新聞
バンナムHD 社員2000人に自社株 経営参画意識高める
(記事)




従業員の福利厚生 - 従業員持株会 -(野村證券株式会社)
ttp://www.nomura.co.jp/wholesale/corporate/mochikabu.html

>従業員持株会は民法に基づいて設立される組合で、社員の資産形成を支援する制度として、ほとんどの上場企業で導入されています。
>従業員持株会は、給与もしくは賞与から天引きされた社員一人一人の投資金額をまとめ、窓口となって自社株を購入しています。

 

従業員持株会(従業員の方へ)(SMBC日興証券株式会社)
ttp://www.smbcnikko.co.jp/corporate/welfare/esop/jservice/index.html

 

持株会(ウィキペディア)
ttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8C%81%E6%A0%AA%E4%BC%9A

>従業員持株会
>会社及び子会社等の従業員が、当該会社の株式取得を目的とする組織である。組織形態は、民法第667条第1項に基づく組合である。
>多くの企業において、従業員持株会の加入者に奨励金が支給されている。

 

組合(ウィキペディア)
ttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%84%E5%90%88

>組合(くみあい)とは、一般的な意味では、何らかの目的で設立された団体。
>民法上は、複数の当事者が出資をして共同事業を営む契約をいい、また、その共同事業体のことをいう。
>その他、「組合」の語を含む制度がさまざまな特別法によって設けられている。

>組合と法人格
>民法上の組合や商法上の匿名組合、あるいは有限責任事業組合などは法人ではない

 



【コメント】
会社から関連するプレスリリースは発表・開示されていないようですが、紹介している昨日の日本経済新聞の記事によりますと、
株式会社バンダイナムコホールディングスが、「持株会」を通じて一定以上の金額を積み立てているグループ内企業の従業員に対し、
会社負担で50株を追加で付与する方針である、とのことです。
まず、「従業員持株会」について考えてみたいと思います。
「従業員持株会」の組織形態は民法(第667条第1項)に基づいて設立される「組合」である、とのことです。
民法(第667条第1項)に基づいて設立される「組合」のことは、
簡単に「民法上の組合」と言われることもありますし、単に「任意組合」と表現されることあります。
ウィキペディアの「組合」の項目を見ますと、「民法上の組合」は「法人格を有しない『組合』」と書かれてあり、
「民法上の組合」について次のように解説されています。

>実社会においても組合契約は広く活用されている。数人の個人が集まって商売を始めるような場合はもちろん、
>会社同士の共同企業体(ジョイントベンチャー。JV)も組合である。
>マンションなど建物区分所有者間における管理組合(建物の区分所有等に関する法律3条参照)などは、
>法人格を取得していない場合は権利能力なき社団であることが多いが、民法上の組合とされることもないとはいえない。

改めて考えてみますと、「民法上の組合」は実務上活用するのは実際には非常に難しいのかもしれないな、と思いました。
会やグループや団体等を実務上活用するためには、それらが法人であることが実際上は必要だ、と言っていいと思います。
なぜならば、法人でなければ権利や義務の主体になれない(この場合、「株式の所有権者になれない」)からです。
野村證券株式会社の解説サイトには、次のような図が描かれています。

「従業員持株会のしくみ(野村證券株式会社の解説サイト中の図)」

簡単に言いますと、「従業員持株会」が法人でないと、この図に描かれているような概念のことが実際には行えない、
ということになると思います。
例えば、「株式会社初芝電器産業」は法人ですが、「株式会社初芝電器産業従業員持株会」は法人ではないわけです。
「株式会社初芝電器産業」は株式を所有できますが、「株式会社初芝電器産業従業員持株会」は株式を所有できないのです。
「従業員持株会」は法人ではありませんので、証券会社に口座を開設することもできませんし、
株式の所有者になることもできません(株主名簿に名義人として記載されることもできません)。
また、関連する議論になるのですが、マンションの住民から管理費を集金し預かっているいわゆる「マンション管理組合」も、
「従業員持株会」と本質的にはほとんど同じような法律上の問題点が内在していると思いました。
「従業員持株会」の英訳を調べていて次のような解説サイトがヒットしたのですが、私もやはりそうかと思ったのですが、
「従業員持株会」の組織形態については、実は様々な法律上の問題があると思いました。


「持ち株会」を英語で言うと?(教えて!goo)
ttps://oshiete.goo.ne.jp/qa/3850503.html

>持株会の法人格などを気にしだすと、色々議論のあるところでしょうが、

 



次に、議論の焦点を絞るため、「従業員持株会」では各解説サイトに書かれているようなことができると仮定しましょう。
記事によりますと、株式会社バンダイナムコホールディングスは必要となる株式は既に市場から買い付けている、とのことです。
この理由は、株式会社バンダイナムコホールディングスは、所有する自己株式を従業員に付与する計画だからであるわけです。
しかし、私個人としましては、株式会社バンダイナムコホールディングスは、所有する自己株式を従業員に付与するのではなく、
会社法第185条の規定に基づく「株式の無償割当て」を従業員に対して行うべきだ(新株式を発行するべきだ)、と思います。
その理由は、所有する自己株式を従業員に付与しますと、会計上「自己株式処分差損」が計上されてしまうからです。
法律よりの言い方をしますと、所有する自己株式を従業員に付与しますと、
会社は第三者割当てによる自己株式の処分を行うことになるからです。
「自己株式処分差損」は、損益計算書には影響はないものの、「株主資本の部」に「自己株式処分差損」が表示されます。
株式会社バンダイナムコホールディングスは、所有する自己株式を従業員に付与しても、
損益計算書にも貸借対照表にも何らの影響も与えない、と勘違いをしているのではないかと思いました。
会計上「自己株式処分差損」が計上されることは、
おそらく株式会社バンダイナムコホールディングスが意図している取引(財務諸表への影響も含めて)とは違うはずだ、
と思いました。
株式会社バンダイナムコホールディングスが本来意図している取引を実現する手段は、
会社法第185条の規定に基づく「株式の無償割当て」を行うことだ、と思いました。
蛇足になりますが、仮に旧商法の規定であれば、会社が所有する自己株式を従業員に付与(従業員持株会へ拠出)しますと、
損益計算書に「投資有価証券売却損」が計上されます。
売却損の計上は会社が意図した取引とは全く異なるはずだ、と思いました。
会社法第185条の規定に基づく「株式の無償割当て」では、会社法第183条の「株式分割」とは異なり、株式の割当てに際して、
株主名簿に拘束されません(すなわち、会社は全く任意の相手に対して「株式の無償割当て」を行うことができます)。
会社法第185条の「株式の無償割当て」では、従業員持株会への拠出や役員への現物株式の付与(業績に応じた株式報酬として)
のために会社が活用することを第一に念頭に置かれているのではないだろうかと思いました。
会社法第185条「株式無償割当て」に関しては、過去次の2つのコメントで書きましたので参考にして下さい。

 

「会社法第185条の規定に基づく『株式の無償割当て』を行うと『発行済株式総数』が必ず増加する。
すなわち、会社が保有している自己株式を割り当てることはできない。」という点について指摘をした時のコメント↓

2017年6月15日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201706/20170615.html


「現行の会社法では、『株式分割』(会社法第183条、第184条)と『株式の無償割当て』(会社法第185条〜第187条)とは
全く別の取引であると定義されている。」という点について指摘をした時のコメント↓

2017年7月31日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201707/20170731.html

 


An "employee stock ownership plan" is not a juridical person,
so it can't open an account at a securities company and can't legally own any securities at all.

「従業員持株会」は法人ではありません。ですので、「従業員持株会」は証券会社に口座を開設することはできませんし、
法律上有価証券を所有することが一切できないのです。

 


If a company should do a kind of thing written in this article,
it should not dispose of its treasury shares but issue new ones.

万が一、会社がこの記事に書かれているようなことを行うのなら、
会社は所有している自己株式を処分するのではなく新株式を発行するようにするべきなのです。

 


From a standpoint of a company, each asset has its own acquisition cost in it.
Probably, BANDAI NAMCO Holdings Inc. forgets or carelessly neglects the acquisition cost of its treasury shares.

会社の立場から見ると、全ての資産にはそれぞれに取得原価というものがあるのです。
おそらく、株式会社バンダイナムコホールディングスは、
所有している自己株式の取得原価のことを失念しているもしくはうっかり見過ごしてしまっているのです。


 

In commercial transactions, if you leave an "acquisition cost" out of account,
you miss the point in what you say about your transactions.

商取引においては、「取得原価」のことを無視してしまいますと、
取引についてとんちんかんなことを言うことになります。