2017年6月15日(木)
2017年6月7日(水)日本経済新聞
登記、50年以上変更ない土地 中小都市・中山間26% 法務省
(記事)
【コメント】
2017年6月14日(水)付けの日本経済新聞の記事の冒頭を引用します。
>政府は全国に広がる空き家や空き地を整備するため、国や自治体がそれぞれ持つ不動産データベースを統合する。
>不動産登記などをもとに住所や所有者の情報をひも付け、不動産を管理する個人や法人を正確に把握する。
>権利者や住民、納税者が複雑に絡む不動産の情報を透明にして、企業による不動産取引や都市再開発を後押しする。
現在、政府が持っている不動産データベースには、大きく分けると、
@法務省が管理する不動産登記、A国土交通省の土地総合情報システム、B自治体の固定資産課税台帳・農地台帳・林地台帳、
の3つがあります。
ただ、不動産登記も土地の登記と建物の登記に分かれますし、土地総合情報システムでも非常に様々な情報が
管理されているかと思いますので、細かく言い出すと政府には非常にたくさんの不動産データがあると言えるのですが、
政府は主にこれら3つの情報を統合し一元管理できるようデータベースを整備していく方針であるようです。
そして、これらは2017年6月7日(水)付けの日本経済新聞の記事にも書かれてあることですが、
法務省と国交省の調査では、50年以上登記の変更がない土地もあるとのことであり、
また、農林水産省の調査では、国内にある農地のうち2割は相続の時に登記上の名義人が変更されず、
故人のままである可能性が高いことが分かった、とのことです。
不動産データベースを統合するメリットというのは、政府の立場から言えば、
記事にも書かれていますように、第一には各種税目の徴税のための事務負担が軽くなることにあると言えるわけですが、
現在の制度では、不動産の所有者の管理方法も課税標準(言い換えれば課税の根拠と言ってもいいと思います)も
税目毎にばらばらであるわけです。
つまり、不動産データベースが統合されても各課税主体の課税方法(税目や課税標準)が変わることはないわけです。
「誰にいくら課税するか」は、実は各課税主体毎(税目毎)に既に整備されている(だから現にこれまで毎年課税できた)、
と言っていいわけです。
その意味では、不動産データベースが統合されても政府にとってのメリットは小さい(徴税の事務負担はほとんど軽減されない)、
と言っていいのではないかと思います。
どちらかと言えば、不動産データベースが統合されることのメリットは、政府ではなく、民間部門にあると私は思います。
不動産取引の活性化(不動産を取引するのは、理論上は政府ではなく人(民間)でしょう)という点から言えば、
「不動産の所有者が誰か分からない(もしくは権利関係が不正確・不明確)」ということが一番困ることであるわけです。
「仮に自分がその不動産を取得したら?」と想定した場合、どのような税目(種類と金額)が課税されることになるのか、
さらには、どのような権利関係となり得るのか(現在の権利関係の明確化等)、
といった点について迅速に把握や理解をできるようになれば、
不動産データベースを統合する意味が出てくるのではないかと思います。
今後、不動産取引を効率化する「不動産テック」というIT技術を活用した新サービスが民間から創出されることも期待されており、
権利関係だけではなく、取引価格等も一元的に入手できる体制が整えば、不動産取引が活性化されていくのではないかと思います。
それで、不動産登記ということで、今日書店で不動産に関する書籍を立ち読みしていて、
極めて興味深い記述を見かけましたので紹介します。
それは、諸外国における不動産登記(不動産取引)についてです。
日本では、土地と建物は分離して不動産取引の対象となります(登記簿が土地の登記と建物の登記とに分かれている)が、
ドイツでは、土地と建物は分離して取引を行うことは法律上できない、と書かれていました。
ドイツでは、土地の所有者と建物の所有者は法律上当然に同じである、とのことでした。
ドイツでは、土地の所有者と建物の所有者とが異なることは法律上あり得ない、とのことであり、
ドイツでは登記簿も土地の登記簿しかない(建物の登記簿などない)、ということになると思います。
また、フランスでは、ドイツとは異なり法律に明文の規定こそないものの、
取引慣習上は土地と建物のは当然に一体的な物(一体的な財産)として取り扱われている、と書かれていました。
フランスでもドイツでも、土地と建物を分離して取引を行うという慣習は全くないのだと思います。
フランスでも、ドイツ同様、土地の所有者と建物の所有者は法律上当然に同じである、ということになります。
また、フランスでも、ドイツ同様、登記簿も土地の登記簿しかない(建物の登記簿などない)、ということになると思います。
所変われば品変わる、と言いますが、まさに国が変われば取引慣習変わる、だと思いました。
以上のことから、フランスでもドイツでも、日本のマンションなどで定義される区分所有という考え方も法律上も実務上もない、
ということになると思います。
日本には区分所有法という法律がありますが、ドイツにもフランスにも区分所有法に相当する法律は絶対にないと思います。
ドイツやフランスに区分所有法に相当する法律があったら逆におかしいと立ち読みをしていてすぐに分かりました。
このことから、ドイツやフランスには日本で言ういわゆるアパートやマンションはない、ということになると思います。
仮にあったとしても、土地と建物(一棟)は同一の所有者であり、各部屋に住んでいる人は皆賃貸で入居している(分譲などない)、
ということになります(オフィスビルに入っている会社(テナント)は全て賃貸(自社所有ではない))ということなります)。
土地というのは、その上に何かを建てるためにあるわけです。
土地の所有者がその上に何かを建てないのは(土地の所有者と建物の所有者が異なる)、
理論的には土地そのものを否定していることになるのではないかと思います。
また、関連する論点になりますが、”建物というのは、その土地の用途に一番適合した建物を建てた時に
土地と建物の経済的価値は最大化される。”、という意味合いの不動産理論・経済理論も立ち読みした書籍に書かれていました。
この不動産理論については実は私は今日初めて知ったのですが、この理論に従えば、
土地の上には最初からその土地の用途に一番適合した建物が建っているはずであり(土地所有者がそのような建物を建てるはずです)、
仮に土地の上の部分のみを取引するとなると、その結果、
その土地の上にはその土地の用途に一番適合した建物は建たないということになり、
したがって、土地の上の部分のみの取引は経済合理性に反する、という結論を導き出せるのではないかと思います。
ドイツやフランスでは建物だけの取引は行われない理由として、法律面ではなく経済合理性の観点からも説明が可能だと思いました。
【新潟・関東】佐藤食品工業は10日の取締役会で、株式の無償割り当てを行うことを決めた。
「当社保有の自己株式を有効に活用し、株主の皆さまに還元するとともに、株式の流動性を高め投資家層の拡大を図る」狙い。
17年4月30日を基準日として、同日最終の株主名簿に記載・記録された株主が対象。
普通株式1株につき普通株式0.05株の割合で、同社保有の自己株式を無償で割り当てる。
無償割当ては5月1日を効力発生日とするため、17年4月期の期末配当は割当て前の株式数を基準とする。
(日本食糧新聞 2017.03.15
11498号
02面)
ttps://news.nissyoku.co.jp/news/detail/?id=MARUYAMA20170310044532879&cc=01&ic=100
2017年3月10日
サトウ食品工業株式会社
株式無償割当てに関するお知らせ
ttps://www.satosyokuhin.co.jp/images/corp/pdf/timely/20170310_timely_01.pdf
>株式の無償割当てとは、会社法第185
条に基づく、株主の皆様より新たな払込をいただかずに、
>当社の株式を割当てることができる制度です。株式分割と異なり、当社が保有する自己株式は割当ての対象となりません。
>なお、株主の皆様への割当てに際して交付する当社株式につきましては、全て当社が保有する自己株式より充当いたします。
会社法第185条
>(株式無償割当て)
>第百八十五条
株式会社は、株主(種類株式発行会社にあっては、ある種類の種類株主)に対して新たに払込みをさせないで
>当該株式会社の株式の割当て(以下この款において「株式無償割当て」という。)をすることができる。
【コメント】
サトウ食品工業株式会社が、会社法第185条の規定に基づき、保有している自己株式を活用した株式の無償割当てを実施する、
とのことです。
この「株式の無償割当て」については、会社法第185条に規定があります。
論点を一言で言えば、
「会社法第185条の規定に基づく『株式の無償割当て』において、
会社が保有する自己株式を割り当てる株式として充当することはできるのか?」
となります。
このように問題提起をしているくらいですから、私はすぐに、「会社法第185条の規定に基づく『株式の無償割当て』において、
会社が保有する自己株式を割り当てる株式として充当することはできない。」とプレスリリースを読み直感的に思ったわけです。
すなわち、『株式の無償割当て』においては会社は新株式を発行するしかない、と直感的に思ったわけです。
この論点については、会社法には特段明文の規定はありません(自己株式の割当はできるともできないとも書かれていない)。
しかし、「株式の無償割当てとは新株式を割り当てるもの、すなわち、
会社が保有している自己株式を割り当てるものではないのではないか?、とやはり思うわけです。
実は今日書店に行きまして、この点について参考になる記述や解説は何かないだろうかと関連する書籍を立ち読みしてきました。
すると、「判例六法(平成29年版)」(有斐閣)に極めて興味深い記述(といっても注記のようなメモですが)がありました。
会社法第185条の解説の最後に、”発行済株式総数の増加に関しては何々を参照せよ。”との記述(注記)がありました。
会社法第185条の条文解釈にこのような記述(注記)がなされているところから考えますと、
「判例六法(平成29年版)」(有斐閣)では、会社法第185条の規定に基づく「株式の無償割当て」を行うと
「発行済株式総数」が増加することを当然のことと解釈している、ということではないかと思います。
すなわち、「判例六法(平成29年版)」(有斐閣)では、会社法第185条の規定に基づく「株式の無償割当て」では、
「新株式」を割り当てるものと解釈している、ということではないかと思います。
「判例六法(平成29年版)」(有斐閣)の解釈は、私の直観と一致するものがありました。
「株式無償割当て」では、より実務的には、「設定したある基準日の最終の株主名簿に記載された株主が所有する株式1株につき、
株式xxx株の割合で株式を無償で割当てること」と整理できるわけですが、
実はその設定した基準日の最終の株主名簿には会社自身も株主として記載されている(自己株式を所有しているから)わけです。
したがって、株式の所有者(名義)が変動するという意味では、「株式無償割当て」は株式の無償譲渡の側面が出てきます。
これは自己株式の譲渡全般に当てはまる論点でもあるわけですが。
また、他の見方をすれば、「株式無償割当て」はそもそも純資産の部には何らの変動も生じさせないものではないかと思います。
「株式無償割当て」を行うと、会計上(純資産の部において)「自己株式処分差損」が発生する、
というのはおかしいのではないかと思います。
会計面から考えると、サトウ食品工業株式会社が行おうとしていることのおかしさが分かると思います。
結論を言えば、「会社法第185条の規定に基づく『株式の無償割当て』においては、当然に新株式を割り当てる。」、
という解釈になると思います(会社保有の自己株式を割り当てることはできない、という解釈になります)。
The "allotment of shares without contribution" based on the provision
of the article 185 of the Companies Act
involves an increase of the "total
number of issued shares."
会社法第185条の規定に基づく「株式の無償割当て」を行うと「発行済株式総数」が必ず増加します。