2017年12月18日(月)


今日はまず、2017年12月15日(金)と昨日2017年12月17日(日)のコメントの補足を少しだけしたいと思います。


2017年5月26日、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が成立(いわゆる債権法の改正)し、同年6月2日に公布、
その後、2017年12月15日(金)に改正民法の施行日が「2020年4月1日」に決まった、という点に関するコメント↓

2017年12月15日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201712/20171215.html


「理論的には、法令に『公布』という考え方はないはずだ。」、という点について書いた昨日のコメント↓

2017年12月17日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201712/20171217.html


昨日辿り着いた理論上の結論を再度書きますと、「理論的には、法令に『公布』という考え方はないはずだ。」、となります。
施行の前に一般に周知させることを目的に「公布」を行うことが、契約にどちらの法律が適用されるのかについての答えが
一意に決まらなくなる原因だ、と昨日は書いたわけです。
2017年12月15日(金)に書きました【設例】で言いますと、契約締結日時点において、
施行日が決定されていなかったのならともかく(太郎さんも大家さんもいつから改正民法が施行になるか知らないならともかく)、
施行日が2020年4月1日と決定されていた場合は(太郎さんも大家さんも改正民法が2020年4月1日に施行になると知っている場合は)、
契約の履行(開始)の日が施行日以降になる取引に関しては、特段の合意や約束がなくとも、
両者が締結した賃貸借契約には改正後の民法が適用される、という解釈もあり得ると昨日は書いたわけです。
この点について明確にしておかないと、太郎君は改正後の民法が適用されることを前提に賃貸借契約を締結し、
大家さんは改正前の民法が適用されることを前提に賃貸借契約を締結する、という法の適用に関する一種の錯誤が生じるわけです。
理論上のことを言いますと、理論的には法令・法制度の運用に「公布」は全く必要ないのです。
なぜなら、理論的には、人は「現在施行されている法令」を常に知っているからです。
取引時や契約締結時に、当事者が民法が大幅に改正されたということを知らなかった、という事態が生じることを避けるために、
実務上の観点から、現在では「公布」ということを行うことにしているわけですが、
改めて考えてみますと、そもそも「当事者が民法が大幅に改正されたということを知らなかった」ということ自体が
法令遵守の観点から言えば根本的におかしいわけです。
取引時や契約締結時には、当事者は常に「現在施行されている法令」を知っておかなければならないわけです。
法令が改正されたら改正されたで、法令が改正されたことを前提に当事者は取引を行わなければならないわけです。
ですから、そもそも「公布」は必要ないわけです。
仮に契約締結時に「改正法の公布を知りませんでした。」という言い訳が通るのなら、
施行日後にも「改正法が施行されたことを知りませんでした。」という言い訳も通ってしまうわけです。
理論上のことを言えば、法というものは、施行された時点で一般に周知徹底されているものなのです(それが法です)。
事前に「公布」されていないことを理由に免責はされないのです(つまり、法には施行されているか施行されていないかしかない)。
「公布」ということを行うので、契約に適用される法が一意に決まらない、という法解釈上の矛盾が生じてしまうのです。

 


理論的には法に「公布」という考え方はないはずだ、
なぜなら、法というものは施行された時点で一般に周知徹底されているものだからだ、
という結論を理詰めで導き出した(というより、法の元来的な考え方に遡って辿り着いたというべきでしょうか)わけですが、
「公布」という言葉について英和辞書で調べてみました。
すると、「公布する」の最も一般的な単語は「proclaim」と載っていました。
そして、やや格式ばった単語として「promulgate」と載っていました。
私はこれら2つの単語を見て、接頭辞の「pro」は「前もって」という意味だろうか、と思いました。
「公布」というのは、施行に先立ち事前に一般に知らしめる、という意味ですので、そう考えたわけです。
そう思って「pro(-)」について英和辞書で調べてみますと、
「proclaim」の接頭辞「pro」は、「公に」という意味であると載っていました。
「proclaim」の接頭辞「pro」に「前もって」という意味はないようです。
「proclaim」の接頭辞「pro」は、まさに「公布」の「公」の意味であるとのことです。
「proclaim」の語源はラテン語で「前に叫ぶ」という意味だと英和辞書には載っていますが、
この場合の「前に」は時間的・時期的な意味の「前に」ではなく、
「一般の人々の前で、国民を前にして、社会全体に対し」といったニュアンスなのだろうと思います。
そして、「promulgate」という単語は、「〈法令を〉発布[公布]する, 公表する」という意味なのですが、
「proclaim」とは異なり、「mulgate」という英単語はないようです。
しかし、字面が極めてよく似た英単語として、「vulgate」という単語があるようです。
「vulgate」は、名詞では「一般に通用しているテキスト、流布本」という意味であり、
形容詞では「通俗な、一般的な」という意味です(a Vulgate textで「一般的なテキスト」という意味になるようです。)
「vulgate」の語源は、ラテン語で「大衆の手に入るもの」という意味だと英和辞書には載っています。
法の「公布」についてコメントを書いているところであるわけですが、
法は、まさに「大衆の手に入るもの」でなければならないわけです(そうでなければ、人は法を遵守できない)。
法は、一般に流布していなければならないわけです(そうでなければ、人は法を遵守できない)。
「vulgate」は元々はカトリック教会の「公認聖書」のこと(405年に完訳したラテン語訳聖書の「ウルガタ聖書」を指すようです)、
を意味しているようでして、聖書ということで、
「vulgate」は欧米圏では法に近いニュアンスを持ったもの(遵守すべき社会の暗黙のルール)を意味するのかもしれません。
私は英語のネイティブではないので推測も交えながら書いていますが、
「vulgate」が転じて「mulgate」という言葉になった、と考えると、
「pro + vulgate」で「社会のルールを公に流布する」ということで、法の公布と辻褄が合うな、と推測しているところです。
「promulgate」には「(信条などを)広める、普及させる」という意味もあります。
聖書と言いますと、欧米圏では、「聖書に書かれてあることを守りましょう。」といった感じで、
聖書により日常生活の上での社会のルールが形成されている(聖書に人としてのルールが書かれてある)面もあると思います。
「法を公布する」に対応する英単語である「promulgate」の由来は、
「pro + vulgate」(公に流布する)ではないかと推測しています。
理論的には法に「公布」という考え方はないはずだ、という結論に変わりはありませんが、
英和辞書を見ていて、語の成り立ちや語源にふと気付き、興味深いなと思いましたので英単語についても書きました。

 



キリスト教と言いますと、私はあまり詳しくはないのですが、「社会契約説」という考え方や言葉があったりしまして、
企業経営(委託と受託の関係)をキリスト教の教えや概念(神と人との関係)から捉える考え方もあるようです。
委任者(principal)と代理人(agent)の関係が、何かキリスト教の考え方と類似するところがあるようです。
私は宗教については詳しくないのでキリスト教についてはこれくらいにしますが、
代理人(agent)が委任者(principal)に対し経営の結果を報告するであったり、
代理人(agent)が今後委任者(principal)になり得る人達(すなわち、投資家)に対し会社の情報を開示する、
という点に関しては、会社法制度上そして証券制度上、様々な議論がなされているところであるわけです。
そしてあと3ヶ月ほどで、金融商品取引法上も「フェア・ディスクロージャー・ルール」が施行されることになっています。
「フェア・ディスクロージャー・ルール」に関する記事や行動指針等を紹介し、一言だけコメントを書きたいと思います。

 


2017年12月17日(日)日本経済新聞
IR、プロ投資家照準 情報開示 新規制控え
パナソニック 技術開発の展望披露
大塚HD 専門医交え新薬説明
(記事)

2017年11月21日(火)日本経済新聞
「重要情報」開示で指針 IR協議会 来春の規制見据え
(記事)

2017年11月22日(水)日本経済新聞
アナリスト協会 開示減少に懸念 FDルールで意見書
(記事)

 



2017年11月20日
一般社団法人 日本IR協議会
「情報開示と対話のベストプラクティスに向けての行動指針(案)〜フェア・ディスクロージャー・ルールを踏まえて〜」を策定
ttps://www.jira.or.jp/activity/guiding.html

公表日:2017年11月20日(2017年11月30日修正)
「情報開示と対話のベストプラクティスに向けての行動指針(案)〜フェア・ディスクロージャー・ルールを踏まえて〜」
ttps://www.jira.or.jp/download/guiding_20171130.pdf

(ウェブ上と同じPDFファイル)





2017年11月21日
公益社団法人 日本証券アナリスト協会
「フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン案」について意見書を提出
ttps://www.saa.or.jp/standards/disclosure/opinion/index.html

「フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン案」
ttps://www.saa.or.jp/disclosure/pdf/ikensyo_171121.pdf

(ウェブ上と同じPDFファイル)

 



記事を読んだ第一印象を書きますと、
2017年12月17日(日)付けの日本経済新聞の記事の内容(証券アナリストや一部の投資家のみを対象にした技術説明会の開催)は、
2017年11月20日に日本IR協議会が発表した行動指針や2017年11月21日に日本証券アナリスト協会が行った提言に、
どこか逆行するところがあると思いました。
この記事の場合、証券アナリストや一部の投資家のみを対象に開催した技術説明会において参加者に伝達した情報については、
発行者(上場企業)は直ちにホームページなどで開示をするということはしない、
ということが論点になっているのではないかと思います。
簡単に言えば、発行者(上場企業)は、
開催した技術説明会では「フェア・ディスクロージャー・ルール」の規制対象外の情報しか参加者に伝達していない、
という考えを持っているのだと思います。
確かに、条文解釈上や行動指針の文言上は、発行者(上場企業)が現在行っている技術開発の状況については、
「フェア・ディスクロージャー」が義務付けられる「重要情報」に該当しないようです。
つまり、発行者(上場企業)が現在行っている技術開発の状況については、たとえ一部の人達のみに伝達をしたとしても、
ルール上は直ちにホームページなどで開示をする必要はないわけです。
ただ、一言で言いますと、このような情報開示の姿勢・方針というのは、
「フェア・ディスクロージャー・ルール」の趣旨に反すると言わねばならないと思います。
そもそも「フェア・ディスクロージャー・ルール」の趣旨というのは、
「市場の投資家が有する発行者(上場企業)に関する情報を同じにすること」であるわけです。
それなのに、潜脱的・脱法的に、業績への影響が不明確である(業績への直接の影響が少ないと見られる)といったことを理由に、
証券アナリストや一部の投資家のみを対象にした技術説明会を発行者(上場企業)が積極的かつ頻繁に開催するというのは、
完全に矛盾した話であるわけです。
記事の最後には、「フェア・ディスクロージャー・ルール」関連が専門なのだと思いますが、大学教授の話として、

>企業と投資家の対話の質が向上していく可能性がある

と書かれてあり、この大学教授はこのような説明会が開催されることを評価しているようです。
ちなみに、この大学教授は、一般社団法人 日本IR協議会の「フェア・ディスクロージャー研究会」の座長を務めている人であり、
2017年11月20日に発表された
「情報開示と対話のベストプラクティスに向けての行動指針(案)〜フェア・ディスクロージャー・ルールを踏まえて〜」
を策定した人物の1人であるわけです。
一言で言えば、「フェア・ディスクロージャー」を推進していくべき立場にある人が、
このような説明会が開催されることを評価するというのは、完全に矛盾していると言わざるを得ないと個人的には思います。
「フェア・ディスクロージャー」の趣旨から言えば、
発行者(上場企業)がこのような説明会を積極的かつ頻繁に開催することは、
直ちにホームページなどで開示をしさえすれば何の問題もないことであり、
また、「説明会の開催と説明会後の速やかな開示」は企業と投資家の対話の質が向上していくことに資する、
というふうに考えるべきなのだと思います。
簡単に言えば、表面上の法律の条文や行動指針の文言に必要以上にとらわれるのではなく、
そもそもの「フェア・ディスクロージャー・ルール」の趣旨に合致するか否かという観点から
発行者(上場企業)は「フェア・ディスクロージャー」について考えていくべきだ、と私は思います。