2017年12月15日(金)


改正民法、20年4月施行決定 契約ルール抜本見直し

 政府は15日の閣議で、企業や消費者の契約ルールを定める債権関係規定(債権法)に関する改正民法を
2020年4月1日に施行すると決めた。民法制定以来、約120年ぶりに債権部分を抜本的に見直し、今年5月に通常国会で成立した。
インターネット取引の普及など時代の変化に対応し、消費者保護を重視した。改正は約200項目に及び、周知を図る。
 インターネット通販など、不特定多数の消費者と同じ内容の取引をする場合に事業者が示す「約款」の規定を新設。
消費者の利益を一方的に害する条項は無効になると定めた。
契約内容の確認不足によるトラブルで泣き寝入りするケースが減りそうだ。
 当事者間で利率を定めていない際に適用する「法定利率」は引き下げる。
現在は年5%で固定されているが、低金利が続く実勢に合っていない。年3%に引き下げ、3年ごとに見直す変動制も導入する。
 連帯保証制度は、中小零細企業への融資などで親族や知人など第三者が個人で保証人になる場合、
公証人による自発的な意思の確認が必要になる。
リスクを十分に認識せずに保証人になったために自己破産に追い込まれるような事例を防ぐ。
 生活に密着したルール変更も多い。賃貸住宅の敷金について、退去時に原則として返すと明文化した。
飲食代のツケ払いは取り立て期間が長くなる。飲食代は1年、弁護士報酬は2年など業種ごとに異なる「短期消滅時効」を改め、
原則「権利を行使できると知ってから5年」に統一する。
(日本経済新聞 2017/12/15 10:22)
ttps://www.nikkei.com/article/DGXMZO24670920V11C17A2MM0000/

 

 


民法の一部を改正する法律(債権法改正)について
平成29年11月2日
平成29年12月15日更新
法務省民事局
ttp://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html

> 平成29年5月26日,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が成立しました(同年6月2日公布)。
>  民法のうち債権関係の規定(契約等)は,明治29年(1896年)に民法が制定された後,
>約120年間ほとんど改正がされていませんでした。
>今回の改正は,民法のうち債権関係の規定について,取引社会を支える最も基本的な法的基礎である契約に関する規定を中心に,
>社会・経済の変化への対応を図るための見直しを行うとともに,民法を国民一般に分かりやすいものとする観点から
>実務で通用している基本的なルールを適切に明文化することとしたものです。
> 今回の改正は,一部の規定を除き,平成32年(2020年)4月1日から施行されます(詳細は以下の
>「民法の一部を改正する法律の施行期日」の項目をご覧ください。)。

 



【コメント】
改正民法の施行日が「2020年4月1日」に決まったようです。
今年の5月26日に改正民法が成立した時点で、概ね2020年の施行が見込まれていたようですので、
後は何月何日を施行日とするかだけが巷では話題になっていたのではないかと思います。
施行日は4月1日ということで、実生活上最も自然な施行日に決まった、と言っていいのではないかと思います。
ただ、「施行日と契約に適用される法律の関係」について、ある興味深いことが頭に思い浮かびましたので、
「契約にはどちらの法律が適用されるのか?」という観点から一言だけコメントを書きたいと思います。
このたびの民法の改正では、賃貸借の際の基本的ルールの明文化が1つの話題になっていたわけですが、
「賃貸借契約」を題材にして、【設例】を設け、「施行日と契約に適用される法律の関係」について考えてみたいと思います。


【設例】
田舎に住む太郎君は、2020年2月に実施された東京大学への入学試験に合格し、2020年4月から東京大学へ進学することになった。
太郎君は、東京で一人暮らしをするためアパートを探し、そのアパートの大家さんと賃貸借契約を締結することになった。

賃貸借契約の締結日:2020年3月31日
アパートへの入居日:2020年4月1日


改正民法では、「賃貸借終了時の敷金返還や原状回復に関する基本的なルール」(第621条、第622条の2関係)が
新たに盛り込まれたわけですが、では上記の【設例】において、太郎さんと大家さんとの間の賃貸借契約には、
改正後の民法が適用されるでしょうか、それとも、改正前の民法が適用されるでしょうか。
答えは、「改正前の民法が適用される。」、です。
その理由は、どちらの民法が適用されるかは「どの時点の民法に基づき合意をしたか。」で決まるからです。
太郎君と大家さんは、改正前の民法に基づき、アパートの賃貸借に合意をしたわけです。
他の言い方をすると、太郎君と大家さんは、改正前の民法がアパートの賃貸借に適用されることを前提に、
賃貸借契約を締結したわけです。
大家さんにとっての義務の履行日(アパートの引渡し日)・太郎君にとっての権利行使日(借りることができる日)が、
たまたま改正民法の施行日である、というだけのことなのです。
義務の履行日や権利の行使日は、どちらの民法が適用されるかとは関係がないわけです。
なぜなら、義務や権利の内容は、改正の前の民法で確定している(両者は債権債務関係の内容に改正前に既に合意済み)からです。
ですから、太郎さんと大家さんとの間の賃貸借契約には、改正前の民法が適用されるのです。

 



2020年4月に、親元を離れアパートを借りて一人暮らしを始めて志望する大学に進学する目標を持っている受験生は、
改正前の民法が適用される形でアパートを借りることになるという点には注意が必要です。
どんなに遅くとも、3月の末にはアパートを借りて大学の近くに住み始めないと、
入学式や科目登録その他、大学生活に支障をきたします。
賃貸借契約の締結は、私立大学であれば2月中も可能でしょうが、国立大学の場合はどうしても3月になってしまうでしょう。
最近では、AO入試だの一芸入試だの入学試験を課さない入学方法があるようです。
いわゆる推薦入学の場合はさらに早く1月などでも可能なのかもしれません(推薦入学の場合の合格発表がいつかは知りませんが)が、
いずれにせよ、賃貸借契約を締結するのは「2020年3月31日以前」になるのは間違いないわけです。
このたびの民法改正の影響を受ける受験生というのは、現在高校1年生になると思うのですが、
法学部を受験する受験生以外も、法律のことは知っておいた方がよいと思います。
細かいことを言うと、「2020年3月31日以前」の時点であっても、
改正後の民法に基づいた賃貸借を行っていくことについて両者で合意をすることもできると言えばできます。
正式な言い方かどうかは分かりませんが、「賃貸借予約契約」とでも呼ぶ契約になると思います。
賃貸借契約の締結の際に、「改正後の民法に基づいた賃貸借を行っていくことにしましょう。」とお互いに合意をすれば、
たとえ契約締結日が「2020年3月31日以前」であっても、改正後の民法に基づいた賃貸借を行っていくことはできます。
ただ、ここでは、適用する民法について、特段の合意や約束がない場合の取扱いについて書きました。
特段の合意や約束がない場合、当事者は、当然に契約締結時点に施行されている(効力を持っている)法律に基づいて、
契約を締結する、と考えるわけです。
「いつ債権債務関係の内容は当事者により合意されたのか。」、という点が重要であるわけです。
現在高校1年生の大学進学志望者は、約2年3ヵ月後、アパートを借りる際、大家さんに対し、
「アパートの賃貸には、改正前の民法が適用されるのですか、それとも、改正後の民法が適用されるのですか?」
と尋ねてみる(確認してみる)べきだと思います。
実生活上のことを考えると、結局のところ、現実には改正後の民法が適用されるという考え方になると思うのですが、
少なくとも法理的には、その際のアパートの賃貸には、改正前の民法が適用されることになるのです。
今日書きました論点を一般化して言えば、
「契約締結日が施行日よりも前(施行日を含まない)であれば、改正前の法律が契約に適用され、
契約締結日が施行日以降(施行日を含む)であれば、改正後の法律が契約に適用される。」
となります。