2016年10月16日(日)



今日は、過去2つのコメントに追記をしたいのですが、まず2016年10月4日(火) のコメントに一言だけ追記をします。

2016年10月4日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201610/20161004.html

2016年10月4日(火) のコメントでは、「ゴルフクラブの会員資格預り金證書」について書きました。
2016年10月4日(火) に紹介した公告では、この「ゴルフクラブの会員資格預り金證書」の相続が論点になっていたわけです。
この時は、主に法理的な観点(「会員資格預り金證書が身分証になる。」、という観点)からコメントを書いたわけですが、
今日は会計面から一言だけ追記をします。
まず、会計処理の教科書から、ゴルフクラブの会員権についての説明をスキャンして紹介します。


会員権

「スキャン1」

 

「スキャン2」

 

「スキャン3」


2016年10月4日(火) の事例は、「預託金制クラブ」のゴルフ会員権になるのだと思います。
ゴルフ会員権の時価が著しく下落した場合の取扱いについての記述があります(金融商品会計基準の定めが簡略に書かれています)が、
株式の場合は減損処理の対象となり、預託保証金の場合は貸倒引当金の設定対象となる、と書かれています。
これは、株式は一資産に過ぎない一方、預託保証金は債権である、ということだと思います。
すなわち、株式の価額は取得価額ということの他には特段何も表していないのに対し、
預託保証金は、本質的にその額面金額が受け取ることのできる現金の金額を表す、という根本的な違いがあるのだと思います。
他の言い方をすると、株式は現金の側面は本質的に全くないのに対し、
預託保証金は現金の側面が本質的にある、ということです。
それで、ゴルフ会員権の時価が著しく下落した場合の会計処理方法に違いが生じているのだと思います。

 


また、2016年10月4日(火) の事例は、自然人が会員であったわけですが、教科書は法人会員について解説してあるわけです。
それで、法人会員ならではの取り扱いということになるのだろうと思いますが、次のような記述があります。

>法人会員として入会する場合の入会金等は、名義書換料、手数料等の付随費用も含めて資産に計上する。
>無記名法人会員制度がないために名目上個人会員として入会し、加入金を法人が負担した場合も同様である。
>利用期間の定めがない場合が通常であり、減価償却は行われない。
>ただし、記名式法人会員で、名義人である特定の役員や使用人がもっぱら法人の業務に関係なく利用している場合は、
>その入会金相当額はその者に対する給与(賞与)として取扱うべきであり、注意を要する。
>ゴルフクラブ入会後負担する年会費や年決めロッカー料等は、入会金等の処理により、それが資産に計上されている場合は
>交際費等とし、入会金が給与とされている場合は、会員である役員や使用人に対する給与として取扱われることとなる。

まず、1行目からおかしなことが書かれているな、と思います。
おそらく、「預託保証金」と「入会金」は全く別の性質の現金支出だと思います。
ゴルフクラブに入会する時は、「入会金」と「預託保証金」の両方をゴルフクラブに支払うことになると思います。
「入会金」は新規に入会するための料金、「預託保証金」は施設利用のための料金、という位置付けにそれぞれなっていると思います。
それで、教科書には、「預託保証金」に加え、入会金、名義書換料、そしてその他の手数料を付随費用として資産に計上する、
と書かれているわけですが、この会計処理方法は間違いだと思います。
なぜなら、入会金と名義書換料とその他の手数料は譲渡できないからです。
「預託保証金」は、譲渡もできますし、譲渡しなくても退会すれば返還されるものです。
したがって、「預託保証金」は資産計上をしなければならないのですが、付随費用は逆に発生時に費用処理しなければなりません。
ゴルフ会員権の場合、付随費用を会員権に加算して資産計上するのは間違いなのです。
この点、通常の棚卸資産の場合は、付随費用を棚卸資産に加算して資産計上することには一定の合理性があります。
なぜなら、棚卸資産は付随費用も含めて販売価格を設定し譲渡を行うことができるからです。
棚卸資産の場合も確かに付随費用自体は譲渡できませんが、販売(譲渡)により付随費用は回収できるのです。
「費用・収益対応の原則」の観点から言えば、付随費用は棚卸資産に加算して資産計上するべきなのです。
しかるに、「預託保証金」の場合は、付随費用も含めて他者に譲渡するということができません。
「預託保証金」はその額面金額で譲渡することになります。
もちろん、付随費用はゴルフクラブから返還はされません(「入会金」も返還されませんし他者に譲渡もできません。
「預託保証金」の場合は、譲渡により付随費用を回収するという概念がないわけですから、付随費用は資産計上できないのです。
「預託保証金」の場合は、付随費用は発生時に費用処理する、という会計処理方法しか考えられないのです。
棚卸資産は債権ではないので付随費用を資産計上できますが、「預託保証金」は債権なので付随費用を資産計上できないのです。
また、付随費用は純粋に費用である一方、「預託保証金」は債権です。
債権なのですから、「預託保証金」について減価償却を行わないのは当然のことです。
「預託保証金」について減価償却を行わない理由は、施設利用期間の定めがないからではなく、「預託保証金」は債権だからです。

 



それから、法人会員なのに名義人は自然人というのは、どういう意味なのだろうか、と思います。
この辺りについては、各ゴルフクラブに会員規則があって、法人会員の位置付けはゴルフクラブにより様々なのだと思います。
ただ、会員形態はともかく、役員や使用人がゴルフクラブを利用するための費用を法人が負担しているという場合については、
どの会員形態の場合も概ね共通の取り扱いとなっているのだろうと思います。
すなわち、教科書を再度引用すれば、

>特定の役員や使用人がもっぱら法人の業務に関係なく利用している場合は、
>その入会金相当額はその者に対する給与(賞与)として取扱うべき

という取り扱いになっているわけです。
この”その者に対する給与(賞与)として取扱う”という部分が分かりづらいと思うのですが、
これは結局のところ、役員や使用人がゴルフクラブを利用するために支出した費用は法人にとって税務上「損金」だ、
という意味なのだと思います。
他の言い方をすれば、その費用は交際費ではない(税務上損金不算入ではない)、という意味なのだと思います。
この点については様々な考え方があり線引きは難しいのだろうと思いますが、
法人の業務に関係なく利用している場合であれば、やはりその費用は交際費(税務上損金不算入)であるべきだと思います。
また、ある費用を「給与」と呼ぶためには、その費用を使用人が受け取った、という事実が必要だと思います。
つまり、「法人から使用人へ(特に労務の対価として)現金が支払われた」ことを、「給与」と呼ぶのだと思います。
この場合は、法人からゴルフクラブへ現金が支払われているわけですから、全く「給与」とは呼べないと思います。
使用人の慰労・慰安のための費用ということで、その費用に何か別の名目をつけて税務上損金とするのならまだ分かりますが、
使用人は現金を受け取っていない以上、その費用を「給与」と呼ぶのだけは避けるべきだと思います。
また、教科書には、「預託保証金」の税務上の取り扱い方法について、次のように書かれています

>預託金方式のゴルフ会員権は、債権性よりもプレー権としての性格が重視され、プレーができれば、
>例え減損会計を適用していても、税務上は、その評価損を認めないこととされている。

企業会計上の減損損失や貸倒引当金繰入(「預託保証金」は貸倒引当金です)が税務上損金とならないのは全く問題ないのですが、
私がここで思うのは、「預託保証金」に貸倒引当金を計上するかどうかは「預託保証金」の回収可能性のみに基づくべきであって、
プレーできるかどうかは全く関係ないはずだ、ということです。
それは結局のところ、債務者が営業を平常通り継続していても、回収可能性に疑義があれば
債権者は債権に対し貸倒引当金を計上する、と全く同じであろうと思います。
債権を回収できるかどうかに、プレーできるかどうかは全く関係ないのです。
ところで、「スキャン3」(304ページ)の下半分は、IFRSでの取り扱い方法が書かれていますが、
これは全て間違っていると思います。
これらの記述は「投資不動産」についての説明であると思われます。
完全な誤植だと思います。
ただ、「投資不動産」の説明としてはこの記述は正しいのだと思います。

 


それでは、次の追記になるのですが、2016年9月28日(水) のコメントでは、
「不動産(土地・建物)の相続と比較した場合の上場株式の相続(相続税評価額の有利・不利)」について書きました。

2016年9月28日(水) 
http://citizen.nobody.jp/html/201609/20160928.html

例えば土地の場合は、相続税評価額が公示地価(時価)の80%程度となっている、と書きました。
それで、よく土地の価格に関しては「時価」という言い方をするかと思います。
以前も書きましたように、「土地の時価」には様々な捉え方があるわけなのですが、
相続という場面では、「土地の時価」とは「公示地価」のことを指すわけです。
それで、「土地の時価」とは何か、という点についてですが、土地に関しては、時価とは市場価格ではない、と言わねばなりません。
例えば上場株式であれば、時価とは市場価格を指すわけですが、土地の場合は時価とは市場価格ではないのです。
英語で言えば、「土地の時価」は「market price」ではないのです。
その理由は、土地の時価は市場(market)で決まったものではないからです(取引で決まった価格ではない)。
敢えて言うならば、国の各省庁が「この土地の『今現在の』価格はこれです。」とそれぞれ決めた価格ということになりますから、
「土地の時価」は英語では「current price」ということになると思います。

 

The price of land ("Jiza" in Japanese) is never a market price.
The price of land ("Jiza" in Japanese) is persistently called a "current price."
For the price of land ("Jiza" in Japanese) is determined not by a transaction but by the government.
And, in order for a price of an object to be called a "market price,"
it is required that there are many sellers of the object or many buyers of the object in a transaction place.
Concerning land, the number of sellers of an object is always only one,
and the number of buyers of an object may sometimes be more than one but it is usually only one.
In short, a transaction of land is too inactve for the price of land to be called a "market price."
To put it simply, the price of land is not determined in the market.

土地の価格(日本語で言う「時価」)というのは、決して市場価格ではありません。
土地の価格(日本語で言う「時価」)というのは、あくまで「現在の価格」と呼ばれるものです。
というのは、 土地の価格(日本語で言う「時価」)は、取引によって決まるものではなく、国が決めるものだからです。
さらに、目的物の価格を「市場価格」と呼ぶためには、
その目的物の売り手もしくはその目的物の買い手が取引の場にたくさんいることが必要なのです。
土地に関して言えば、目的物の売り手の数は常に1人だけですし、
また、目的物の買い手の数は複数になる場合もあるかもしれませんが、通常は1人だけです。
簡単に言えば、土地の価格を「市場価格」と呼ぶには土地の取引があまりに活発ではないのです。
一言で言えば、土地の価格は市場で決まってはいないわけです。