2016年10月10日(月)



昨日と一昨日のコメントに一言だけ追記します。

2016年10月8日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201610/20161008.html

2016年10月9日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201610/20161009.html


一昨日のコメントでは、

>会社法上は、会社清算時の債務の弁済に順位などはない。

と書きました。
そして昨日は、「自然人の破産」を中心として、現行民法上の「先取特権」について自分が思うところを少し書いたわけです。
昨日は、「個人事業などにおける場面」(自然人が雇用者=債務者である場面)を想定し、

>自然人が雇用者の場合、債権者(労働者)は賃金の支払いを求めて自然人(雇用者)の破産手続きを申し立てることができるのか?

と書いたわけです。
自然人に対しても破産手続きを進めていくことができるのであれば、
破産管財人(清算人)が雇用者(債務者、自然人)の財産(この場合は当然個人財産)を処分し、
申立てを行った労働者を含めた全債権者に平等に配当(債務の弁済)を進めていく、ということが可能になるわけです。
その際、現行の法制度では、この破産手続きにおいて、現行民法上の「先取特権」の規定が適用されることにより、
労働者は他の債権者に優先して自身の債権である賃金債権を弁済を受けることができる、ということになるのだと思います。
現行民法上の「先取特権」の趣旨というのは、実は基本的にはそのような弁済方法を想定しているのではないかと私は思います。
現行法制度上、自然人に破産はありますが、当たり前ですが特別清算はない以上、
現行民法上の「先取特権」の規定が「債務者が自然人の場合」に適用されるのは、
結局のところ、破産手続きの場合だけ、ということになると思います。
債務者が支払不能にならない限り、現行民法上の「先取特権」の規定が適用される場面というのはそもそもないわけですが、
債務者が自然人の場合は、債務者が支払不能になり債務の免責を行っていく場面というのは、
破産手続きの場合だけ、ということになると思います。
(細かいことを言うと、現行法制度上は民事再生手続きによっても自然人の債務を(一部)免責することができるのですが、
論点を絞るために今日は民事再生法については触れません。)
債務者が自然人の場合、他の場面では、債務者の財産を処分し債権者の弁済に充てていくということは行われないわけですから。
自然人に関する私的整理の場合は、現行民法上の「先取特権」は関係がない(任意に債務の免除を行うことができる)わけですから。
自然人の場合は、破産手続きの他に清算方法がない、と言えばいいでしょうか。
この辺り、清算の手続きにおいて、現行民法上の「先取特権」の規定はどこまで(強制的に)適用されるのか、考えているわけです。

 



現行民法上の「先取特権」の規定の効力は、現行の法制度においてどれくらい貫通するのか、
すなわち、現行民法上の「先取特権」の規定は、現行の法制度において他の法律よりもどれくらい強いのか、
という点について考えているわけなのですが、参考になると思いますので、
現行の破産手続きと特別清算の手続きについて、教科書をスキャンして紹介します。


「日本のコーポレートファイナンス」 小堀一英/中島健二/大野薫 著 (社団法人金融財政事情研究会)
第6章 日本の倒産法制と企業再生
6.2 倒産の概念と倒産手続き
「破産」
「特別清算」


現行民法上の「先取特権」の規定との関連で重要なのは、「破産」の解説に書かれている次の部分です。

>B債権者はその債権額に応じた平等な配当を受ける

この定め自体はもちろん何ら問題のない正しい考え方であるわけですが、
ではこの破産法の定めは現行民法上の「先取特権」の規定を考慮するのか否か、が問題になると思っているわけです。
破産手続きにおいても、「先取特権」を考慮した上で債権者にその債権額に応じた平等な配当を行っていくのか、
それとも、破産手続きにおいては、「先取特権」は一切度外視した上で債権者にその債権額に応じた平等な配当を行っていくのか。
基本的考え方は、やはり、破産手続きにおいても「先取特権」は考慮される、だと思います。
しかし、細かな論点になりますが、現行破産法上は、「特別の先取特権」は「別除権」という形で保護される(権利行使できる)一方、
「一般の先取特権」は失効する(権利行使できない)、と定められています。
賃金債権は「一般の先取特権」に該当しますので、賃金債権は現行破産法上は先取特権としては認められない、となります。
他の言い方をすると、民法上の先取特権としての賃金債権は破産法を貫通しない、ということになります。
つまり、現行の法制度では、債務者が自然人の場合、民法の先取特権の規定が適用される場面が全くない、ということになるわけです。
また、やや話はわき道にそれますが、現行の会社更生法では担保物権を消滅させることができるようです。
そのことは、会社更生法でも民法の規定とは異なる債務の取り扱いがなされる、ということを意味しているわけです。
では、会社法上の特別清算の手続きでは、担保物権は消滅させることができると定められているでしょうか。
要するに、結論を言えば、民法とは一般法あるとは言われるものの、結局のところ、
「民法とは全く無関係に各法律それぞれ異なる債務の弁済方法が定められている。」という状態になっているわけす。
そうであるならば、債務の弁済方法(債務の弁済順位・先取特権の有無)については、各法律に定めればそれで事足りる、
ということになのではないか、と思うわけです。

 



現行の法制度では、結局のところ、
現行民法上の「先取特権」の規定が適用されるのは会社法上の特別清算の手続きにおいてのみなのではないか、
と思うのですが、
実は特別清算においても債権者が任意に債務の弁済について協定を行ってよいと定められているようです。
これでは、先取特権という法定の弁済順位は現行の法制度では効力を持つ場面が事実上ない、と言わねばならないと思います。
やはり、債権の取り扱いに関する基本的(=全手続きに共通する)考え方を定めたものの1つが民法の先取特権なのだと思います。
そうでなければ一般法としての民法の意味がないわけです。
一般法で網羅できない範囲・部分を特別法でカバーする、という関係に一般法と特別法はあるわけです。
一般法とは異なる規定を置くことが特別法の役割ではない、と考えなければならないと思います。
もしくは、この点については、全く正反対に考えてみることもできるのかもしれません。
すなわち、民法それ自体には「自然人が清算する場合」の手続きは規定されていないわけなのですから、
債務の弁済順位(先取特権の認否等)に関しては、清算のための各法律に委ねる、という考え方も一方にはあるのかもしれません。
ある法律を適用する場合は先取特権も担保物権も認めない、
別のある法律を適用する場合は先取特権は認めないが担保物権は認める、
また別のある法律を適用する場合は先取特権も担保物権も認める、
といった具合にです。
現行の法制度は事実上これに近いと思います。
ただ、申し立てる法手続きによって各債務の弁済額が変わるというのは、法理的には間違いではないかと思います。
やはり、民法によって、先取特権の取り扱いはこう、担保物権の取り扱いはこう、といった具合に、
全法手続きに共通する考え方・取り扱い方法を示すべきであると思います。
その意味では、昨日は、頭の中で様々なことを考えながら、十分に頭が整理できていないままに

>「先取特権は民法ではなく会社法に規定を置くべきではないだろうか?」

と書きましたが、会社法も破産法もその他全ての法律も債務の取り扱いに関しては民法を参照するのであれば、
「先取特権の規定は民法に置くべきだ。」となると思います。
「他の法律は債務の取り扱いに関しては民法を参照する」とは、
「他の法律は債務の取り扱いに関しては民法に従う。」という意味です。
その場合、他の法律では、債務の取り扱い方法については別段の規定を置いてはならないのです。
今日の議論に即して言えば、一般法である民法に定められた先取特権を特別法で失効させるなどという考え方は
法理的には絶対的にない、ということになります。
法理的・元来的には、この形が一番法体系として整理されていると思います。