2016年9月11日(日)

一昨日2016年9月9日(金)と昨日2016年9月10日(土) のコメントに一言だけ追記します。


2016年9月9日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201609/20160909.html

2016年9月10日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201609/20160910.html


今日は、2016年5月18日にイーター電機工業株式会社が発表した
プレスリリース「営業外費用、特別損失の計上および業績予想の修正に関するお知らせ」を主な題材としてコメントを書きます。
イーター電機工業株式会社は2016年3月期決算において、営業外費用及び特別損失が発生したとのことですが、
プレスリリースには、営業外費用が2項目、特別損失が2項目の合計4項目の費用・損失が記載されています。
それら4項目について、一言ずつコメントを書きていきたいと思います。
今日は、「投資損失引当金繰入額」についてコメントを書きたいと思います。

「営業外費用、特別損失の内訳」

 



項目@ 投資損失引当金繰入額(営業外費用)

>当社の連結子会社であるETA-PADTRON(M)SDN.BHD.につきまして業績及び状況等を考慮し、
>健全性の観点から投資損失引当金繰入額65百万円を計上することになりました。
>なお、当該費用は個別決算上で計上するものであり、連結業績に与える影響はありません。


これはおそらく、「子会社株式勘定」を対象にして投資損失引当金繰入額を計上する、と言っているのだと思います。
しかし、「株式勘定」に関しては、投資先の業績及び状況等を考慮した結果、
健全性に問題がある(損失計上の見込みがある)と判断される場合は、
引当金を計上するのではなく、減損損失を計上するべきだと思います。
株式ではなく一般の債権の場合は、本質的に現金としての側面があるため、債権を対象に貸倒引当金を計上することは理論上正しい
と思うのですが、株式には現金としての側面は全くないため、引当金を計上することは理論上全くそぐわないと思います。
理論上の話をすると、回収可能性に疑義が生じた場合の会計処理は、債権を一資産として見る場合は減損損失を計上することであり、
債権を現金として見る場合は貸倒引当金を計上することであるわけです。
しかし、株式の場合は、株式の帳簿価額は、債券の場合とは完全に異なり、現金化可能な金額を表しているわけではないわけです。
株式は、一資産としてしか見ることができず、現金としての性質は全くないため、
回収可能性に疑義が生じても、株式を対象に引当金を計上することは間違いなのです。
この理由について他の言い方をすれば、債権はその帳簿価額が本質的に現金の金額を表しているのに対し、
株式はその帳簿価額は何ら現金の金額を表してはいないからである、となります。
それから、連結会計に関してですが、仮に個別上子会社株式を対象にして「投資損失引当金」をしたとなりますと、
この引当金は連結上は内部取引として、個別上計上した「投資損失引当金」を連結上は修正消去することになります。
連結上は個別上計上した「投資損失引当金」は一切計上されません。
つまり、プレスリリースの記載通り、”当該費用は個別決算上で計上するものであり、連結業績に与える影響はありません。”
ということになります。
他の言い方をすると、連結上は、親子会社間で投資勘定と資本勘定を相殺消去するわけですが、
その結果、「投資損失引当金」の対象である「連結子会社株式」そのものが連結上は存在しないことになりますので、
連結上も「投資損失引当金」は存在し得ない、ということになります。

 


さて、以上のように書きますと、
では引当金ではなく「連結子会社株式減損損失(もしくは評価損)」を個別上計上した場合はどうなるのか、
という話になろうかと思います。
現行の連結会計基準上も連結会計の理論上も、親会社が個別上計上した「連結子会社株式減損損失(もしくは評価損)」は、
連結上は修正消去せず、連結損益計算書にそのまま「連結子会社株式減損損失(もしくは評価損)」として計上されると思います。
その理由は、端的に言えば、その減損は内部取引(親会社と子会社との間で行われた取引)ではないからだ、となろうかと思います。
ただ、ここで考えなければならない1つの論点としては、親子会社間で投資勘定と資本勘定を連結上相殺消去した結果、
「減損損失」の対象である「連結子会社株式」そのものが連結上は存在しない、という事実だと思います。
この点から考えますと、個別上計上した「連結子会社株式減損損失」は連結上修正消去する必要がある、となろうかと思います。
「『連結子会社株式減損損失』は連結上修正消去するべきか否か?」、という問いには、絶対的な答えはないように思います。
また、少し順序が逆になり話が分かりづらくなってしまいましたが、
今改めて現行の連結会計基準について教科書で調べてみましたら、要約すると以下のように書かれていました。
”個別財務諸表において、連結子会社の株式の減損処理をしている場合には、資本連結手続により戻し処理を行う。”
個別上、減損処理に関連して税効果を認識した場合(減損損失自体は損金不算入なのでその差異は永久差異のはずですが)は、
個別上認識・計上した繰延税金資産も、連結上減損額については戻し処理が行われる結果、
連結上は修正消去することになる、とのことです。
すなわち、結果としては連結子会社への投資については税効果を認識していないことと同様になる、とのことです。
これらの記述を読むと、現行の連結会計基準上は、親会社が個別上計上した「連結子会社株式減損損失(もしくは評価損)」は、
連結上は修正消去され、連結損益計算書には「連結子会社株式減損損失(もしくは評価損)」は一切計上されない、となります。
現行の連結会計基準上のこの定めの理由・背景は、親子会社間で投資勘定と資本勘定を連結上相殺消去した結果、
「減損損失」の対象である「連結子会社株式」そのものが連結上は存在しないからである、となるのだと思います。

 


私としましては、これまでずっと、「連結子会社株式減損損失(もしくは評価損)」は連結上も計上される、と思っていました。
その理由は、親会社で認識した損失を連結上は認識しない、という考え方に違和感を感じるからです。
親会社は親会社で、連結子会社株式の回収可能性に疑義が生じたと判断したわけです。
そのことは、少なくとも親会社が連結子会社の意思決定機関を支配していることとは関係がないわけです。
他の言い方をすれば、ある会社甲が他の会社乙の意思決定機関を支配していなくても、
会社甲は所有している会社乙株式を減損処理することができるわけです。
簡単に言えば、意思決定機関を支配していない場合は株式の減損処理はできない、などという論理はないわけです。
そもそもなぜ連結上一定の修正消去を施すのかと言えば、親会社は連結子会社の意思決定機関を支配しているからであるわけです。
親会社は連結子会社の意思決定機関を支配しているからこそ、ある収益を計上することができた、という場合、
その収益は意思決定機関の支配に基づくものなので、連結上修正消去するわけです(連結上は収益を上げていないことと同じにする)。
もしくは、他の観点から言えば、親会社と連結子会社とを1つの会社と見なして財務諸表を作成するのが連結会計ですが、
親会社による連結子会社に対する投資の失敗(すなわち、ここでは「連結子会社株式減損損失」)は、
財務諸表を合算すれば消えるものではないわけです。
投資の失敗は投資の失敗として、個別上だけではなく、やはり連結上も認識・計上するべきであると私は思うわけです。
なぜ個別上認識した投資損失が、連結上は消えるのでしょうか。
ですので、「連結子会社株式減損損失(もしくは評価損)」は連結上も計上される、という考え方にも一定の理があると思います。
ただ、親子会社間で投資勘定と資本勘定を連結上相殺消去している、という点に重きを置くならば、現行の考え方になると思います。
と同時に、親会社の株主から見ると、「投資そのものが失敗しているではないか。」と物申したくなるわけです。
株式を無償譲渡した場合や会社を清算した場合は、連結子会社株式に関する損失を連結上も認識・計上するが、
株式を減損処理しただけの場合は、連結子会社株式に関する損失は連結上は認識・計上しない、
というのは、経営の結果や株主への財務報告という観点から言えば、整合性を欠くように思います。
ただ、さらにとことん理詰めで考えてみますと、
「連結上は投資そのものが行われてない。」というふうに捉えないといけないのかもしれません。
連結上は投資そのものが行われていないので、結果、連結上は”投資の失敗”もなければ”投資損失”(株式の減損損失)もない、
というふうに話を整理しないといけないのかもしません。
連結子会社株式減損損失は、経営上は内部取引(親会社と連結子会社間で行われた取引)そのものではないものの、
連結会計上は、「親会社は連結子会社に対して出資をしている」という内部取引に結果的に包含されることになるのだと思います。
すなわち、親子会社間で投資勘定と資本勘定を連結上相殺消去することに伴い、
連結上は、連結子会社株式減損損失も相殺消去されることになる、というふうに考えなければならないのだと思います。

 



先ほども書きましたように、私はこれまでずっと、「連結子会社株式減損損失(もしくは評価損)」は連結上も計上される、
とばかり思っていましたが、私は今日この考えを訂正したいと思います。
理論上は、親会社が個別上計上した「連結子会社株式減損損失(もしくは評価損)」は、
連結上は修正消去され、連結損益計算書には「連結子会社株式減損損失(もしくは評価損)」は一切計上されない、
という考え方が正しい、となります。
連結上は投資勘定自体がないので、その投資勘定に対する減損損失もない、が理論上正しい考え方です。
理論上は、「連結子会社株式減損損失(もしくは評価損)」は連結上は計上されない、が正しい考え方です。
ただ、今までずっと間違えてしまっていた言い訳をさせてもらうと、親会社が個別上減損損失を認識したのにはそれなりの理由が
あろうかと思いますので、保守主義の原則の観点から言っても、連結上その損失が消えるのはおかしいと感じたからです。
投資家・親会社の株主の立場から個別上の減損損失を見ると、連結上は減損損失が消えるのはおかしい、と直感的に感じるのです。
例えば、親会社の株主の立場から見ると、親会社の連結子会社への投資が失敗したとなりますと、
それは、親会社の株主に分配される親会社清算時の残余財産の金額が減少する、ということを意味するわけです。
その損失は(分配される残余財産の減少)、財務諸表を合算すれば消える(分配額が増加するなど)ものでは全くないわけです。
株主に分配される残余財産は減少する見込み(兆候)があるから、会社は保有資産について減損損失を計上するわけです。
減損損失計上に十分な根拠があるのならば、株主に分配される残余財産は減少するということでしょう。
連結子会社に対する投資の失敗は連結財務諸表では認識されない、となりますと、
株主への財務報告という観点から言えば、連結財務諸表は重要なことは何も表していない、というふうに見えるわけです。
この辺り、理論上は、連結財務諸表は会社清算時のようなことまではカバーや想定はしていない前提があるのかもしれませんが。
確かに、個別財務諸表の資産勘定も会社清算時の残余財産の金額を表しているわけでは全くないのですが、
それでも、保有資産について減損損失を計上したならば、その減損損失は、会社清算時には残余財産の金額は減少する見込みだ、
という株主に対するウォーニング(warning)の役割はやはり果たすことができるわけです。
せっかく計上したウォーニング(warning)が連結上は消える、となりますと、連結財務諸表には意味がないように感じるわけです。
伝統的には、元来の連結財務諸表は親会社説だ(親会社の株主へ公告するためのものだ)、と言われますが、
いざ親会社の株主の立場に立ってみると、毎期の配当の金額や会社清算時の残余財産の増加・減少といった観点から言えば、
連結財務諸表ではなく個別財務諸表の方が有用だ、というふうに見えるものだと思います。
その理由は、結局のところ、毎期の配当にせよ会社清算時の残余財産の分配にせよ、
会社法という法律に従って行うことになるからだ、という現実的・実務的理由に行き着くように思います。
連結財務諸表を基にして、毎期の配当や会社清算時の残余財産の分配を行う、ということは全くいないわけです。
2014年会社法改正により「多重株主代表訴訟」(親会社の株主が子会社の取締役を訴える)が認められるようになりましたが、
”親会社清算時に連結子会社の会社財産を親会社株主への残余財産として分配してよい。”、などとは絶対にならないわけです。
ゴーイング・コンサーンだ事業永続だグループ経営だといった観点から言えば、連結財務諸表にも一定の意義はあろうかとは思います。
しかし、より実務的には、財務報告や投資判断という観点から見れば、個別財務諸表の方が有用であると思います。
他の言い方をすれば、株主やさらには債権者の立場から言えば、
個別財務諸表は実務とリンクしているのに対し、連結財務諸表は実務とはリンクしていない、と感じるわけです。
投資の失敗という損失が、連結上は消える(株主にとって実務上は損失は消えない)、というのもその1つなのではないかと思います。
ただ、今日の結論としては、とことん理詰めで考えてみると確かにそうだなと思い至ったのですが、論理的に考えるとやはり、
「連結子会社株式減損損失(もしくは評価損)」は連結上は計上されない、が正しい考え方である、と分かりました。

 


残りの3つの項目については、明日書きたいと思うのですが、
既に上場廃止になって新たなプレスリリースなどは一般に適時開示はされないものの、
イーター電機工業株式会社が上場廃止前に発表したプレスリリースには、考えさせられる記載内容が多いように思います。
上場廃止を死になぞらえるのも何ですが、イーター電機工業株式会社のプレスリリースを読んでいて、
「人の将に死せんとする其の言や善し」(ひとのまさにしせんとするそのげんやよし)、という言葉を思い浮かべました。
この言葉は、「論語」の中の「泰伯」という部分にある言葉です。
インターネット上からこの言葉の意味を引用します。

人が死ぬ直前にいう言葉には、利害・かけひきがなく真実がこもっている。 (デジタル大辞泉の解説)

人の死ぬ間際の言葉は,偽りも飾りもなく純粋である。(大辞林 第三版の解説)

人がこれから死ぬという時には、立派なことを言うものである。どんな悪人でも、これから死ぬという時には良いことを言う。
だれでも死に際になると本音を吐く、という意味にも使う。(ネット上のあることわざ辞典より)

イーター電機工業株式会社はこれから上場廃止になるから、興味深い内容のプレスリリースを発表したわけではないのでしょうが、
イーター電機工業株式会社が上場廃止前に発表したプレスリリースには、
会計や法律そして実務の観点から言って、考えさせられたり理解のヒントになる記載が多いように思いました。

 

 

On the consolidation accounting, an elimination of an investment account and an equity account
involves eliminating an impairment loss on a stock investment in a subsidiary.

連結会計上は、投資勘定と資本勘定を相殺消去することが、連結子会社株式減損損失を相殺消去することを必然的に伴うのです。
(意訳:連結会計上は、投資勘定と資本勘定を相殺消去する結果、連結子会社株式減損損失も相殺消去しなければならないのです。)

 

A person says especially good words particularly when he is on the brink of his death.

人は、死の直前になってこそ、特に立派なことを言うものです。