2016年8月25日(木)
2016年8月23日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201608/20160823.html
2016年8月24日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201608/20160824.html
昨日は、「株式を目的物とする質権の設定」について法理的な観点から考えてみたわけですが、
「質権の設定によって、株主名簿は書き換えられるのか?」という点について、昨日のコメントに一言補足をします。
おそらく一番論点が明確になると思いますので、ここでは元来的な「非上場企業かつ株券を発行している会社」を想定しましょう。
株式に質権を設定するに際しては、質権設定者(債務者)は質物である株券を質権者(債権者)に引き渡せば、
それで目的の担保物権は発生する(それで質権の成立要件を満たしている)のではないか、と思われるかもしれません。
株券が引き渡された後も、株式の所有権は質権設定者(債務者)にあるままである(引渡し後も株主名簿は書き換えられない)一方、
株主の地位を証書の形で表象している株券は質権者(債権者)が保有・占有する、という状態であるわけです。
株券は質権者(債権者)が保有・占有している以上、質権設定者(債務者)は設定されている質権を無視して、
株式を他者に譲渡する(他者と共謀して株主名簿を書き換える)、ということはできないわけです。
株主名簿を書き換えのためには、譲渡人は株主としての地位を示すために、会社側に株券を提示しなければならないと思います。
会社としては、株券が譲渡人から譲受人に引き渡されたのを確認した上で、株主名簿を書き換えることになると思います。
端的に言いますと、株主は株券を持っていないと株主名簿を書き換えることができない、ということになるのだと思います。
これで、質権者(債権者)としては、質物(株式)が質権設定者(債務者)から他者に譲渡される恐れはないため、
質権の設定により、株式の担保物権としての役割は果たされる、ということになるように思えます。
ただ、以上の流れを踏まえますと、株式は質権の目的物(質物)としては脆弱な部分があるように思えます。
質権設定者(債務者)が無事被担保債権を弁済すれば、
質権者(債権者)は質物である株券を質権設定者(債務者)に返還すればよい、というだけであるわけです。
しかし、質権設定者(債務者)が被担保債権を弁済しない場合は、
質権者(債権者)は質物である株券を、質権設定者(債務者)に返還せず、”自己の物”とするわけです。
一見、これで質権設定の目的は果たせたかに思えます。
ところが、質権の目的物(質物)が株式の場合は、実は話はこれで終わらないわけです。
なぜならば、質権者(債権者)が株券を”自己の物”とするだけでは、会社法制上は株式の所有権を取得したことならないからです。
すなわち、質権者(債権者)が株券を”自己の物”とするだけでは、株主名簿は書き換えられないからです。
質権者(債権者)が株主となる(株式の所有権を取得する)ためには、株主名簿が書き換えられる必要があります。
この時、当然のことながら、質権者(債権者)は、会社に対し、質権の行使の結果株式の所有権を取得するに至ったので、
株主名簿の書き換えを請求するわけです。
株主の地位を証書の形で表象している株券は、質権者(債権者)は既に保有・占有していますので、
質権者(債権者)は株券を会社に提示できるわけです。
ところが、株主名簿を書き換えるに当たっては、
会社は、所有権移転に関する、譲渡人と譲受人の両方からの確認を取らなければならないわけです。
特に、株主名簿上の名義は質権設定者(債務者)なのに、株券だけは質権者(債権者)が持っている、
という状況ですと、会社としては、質権の行使の結果云々という株券占有の経緯については質権者(債権者)から受けるにしても、
株式の所有権を本当に質権者(債権者)に移転させて(株主名簿を書き換えて)よいのか、
という確認は本来の株券の保有者である質権設定者(債務者)に取らなければならないわけです。
もちろん、質権設定者(債務者)が協力的であれば何の問題もないわけですが、ここでは敢えて性悪説に立って考えますと、
質権設定者(債務者)が株式の所有権の移転(株主名簿の書き換え)に抵抗する、ということも考えられます。
ここで、当然のことながら、質権の行使の結果、質権者(債権者)は正当に株式の所有権を取得するわけなのですから、
質権者(債権者)が是であり、質権設定者(債務者)が非であることは、言うまでもありません。
しかし、昨日書きましたように、質権者(債権者)と質権設定者(債務者)とが株式を目的物として質権の設定を行うことは、
会社には関係がないことであるわけです。
質権設定者(債務者)が、質権設定契約に反して株式の所有権移転に抵抗する場合は、
会社としては、「何かもめてるな。」というふうに、2人を傍観する以外ないように思うわけです。
他の言い方をすれば、会社は、質権者(債権者)と質権設定者(債務者)との間で締結された質権設定契約の成立や効力に関しては、
関与はしない(当該質権設定契約の内容を精査・確認し株式の所有権移転の手続きを取る、ということはしない)、
という考え方に法理的にはなると思います。
なぜならば、質権設定契約自体は会社法制の範疇外だからです。
会社は、あくまでも、「当事者2人の合意」に基づき、株式の所有権移転の手続きを取る(株主名簿を書き換える)だけなのです。
当事者2人が締結した個別の質権設定契約には、有り体に言えば、会社は首を突っ込まないわけです。
会社からは、「2人は株式の所有権の移転に合意はしていないのだろう。」というふうに見えるだけなのです。
端的に言えば、質権設定者(債務者)が抵抗する場合は、会社は株主名簿の書き換えの請求に応じることはできないわけです。
これが、株式を目的物とした質権の設定は担保物権として脆弱な部分があると、私が感じる理由です。