2016年8月23日(月)



2016年6月30日(木)日本経済新聞
新興市場株 乱すのは誰 株価一気に1/8/売買代金トヨタ抜く 機関投資家やアルゴリズムの影
(記事)


 



【コメント】
新興企業向け株式市場における一部銘柄の株価が短期間のうちに大きく乱高下している、という内容の記事ですが、
今日書きたいのは、株価の話ではありません。
記事中に、株式の所有権は誰にあるのか、という点について興味深い記載がありましたので、
それを題材に一言だけコメントを書きたいと思います。
まず、記事から題材となる部分を引用します。


>5月下旬、バイオ関連のそーせいグループが開示した3月末時点の大株主名簿に市場関係者が驚いた。
>筆頭株主に躍り出たのは、株の売買を手掛けない短資会社のセントラル短資だ。
>金融機関との短期資金の融通の際にそーせい株を担保として受け取り、それが3月末に重なったのが理由だが、
>機関投資家が多くのそーせい株を持つことを示唆した。


2016年3月末時点におけるそーせいグループの筆頭株主はセントラル短資であったようですが、
その理由は、セントラル短資が複数の金融機関に短期資金を貸し出す際に、
セントラル短資はそーせいグループ株式を金融機関から担保として受け取ったからである、とのことです。
ここでいう「担保」とは、民法でいう「質権」なのであろうと思います。
ここでの質権設定契約では、そーせいグループ株式が質物(目的物)、
セントラル短資が質権者(債権者)、各金融機関が質権設定者(債務者、質物の所有者)、ということになろうかと思います。
記事を読んで私が思ったのは、「質権を設定すると、質物の所有権は質権者へ移転するのか?」という点です。
結論だけを言いますと、「質権を設定しても、質物の所有権は質権者へ移転しない。」だと思います。
すなわち、質権を設定しても、質物の所有権は質権設定者(債務者)が有したままであり、質権者へは移転しないわけです。
質権者はあくまで、担保として質物を占有するだけであるわけです。
質権設定者(債務者)が債務を弁済したならば、質権者は質権設定者(債務者)へ質物を返還しなければならないわけです。
この間、質物の所有権は移転はしていないわけです。
逆に、質権設定者(債務者)が債務を履行しなかったならば、質権者は占有している質物を自己の物にできるかと思います。
すなわち、質権設定者(債務者)が債務を履行しなかったならば、
質物の所有権は質権設定者(債務者)から質権者へ移転するかと思います。
そうしますと、質権を設定するというだけでは質物の所有権は移転しませんので、質権設定後も、
質物としてセントラル短資へ引き渡されたそーせいグループ株式の所有者は、従来通り各金融機関のままなのではないかと思います。
つまり、質権設定後も、セントラル短資がそーせいグループの株主になることはないのではないかと思います。
質権設定契約では、質物は質権者に引き渡される(質物は質権者が占有する)ものの、
従来通り質物の所有権は質権設定者(債務者)にあるままとなる、という点が特徴と言えると思います。
ただ、この点について法理的に考えますと、「物というのは、その物を手許に現に持っている(占有している)人のものだ」
という考え方も一方にはあるように思えます。
目的物を相手方に引き渡してしまうと、その時点で所有権が相手方に移転する、という考え方も法理的にはあり得るように思えます。

 



以上の「質権」に対比される担保物権が「抵当権」だと思います。
質権の場合とは異なり、抵当権の目的物は基本的には不動産のみだと言っていいかと思います。
また、質権の場合とは異なり、抵当権の目的物は、抵当権設定者(債務者)から抵当権者(債権者)へ引き渡されはしません。
抵当権設定後も、抵当権の目的物は抵当権設定者(債務者)が占有する、と言っていいわけです。
そして、質権の場合同様、抵当権の目的物の所有権は抵当権設定者(債務者)にあるままであるわけです。
この辺り、私は以前、
”理論的には、質権の目的物は動産だけであり抵当権の目的物は不動産だけなのではないか。”
と書いたかと思います。
今日この点について改めて考えてみますと、以前書きましたこの考えは間違っているなと思いました。
また、民法の教科書を改めて読んでいますと、現行の抵当権についての私の理解は間違っている点があることも分かりました。
「質権」と「抵当権」の相違点について、少し整理をしてみたいと思いますが、現行の民法の定めの整理ではなく、
”理論的に考えてみると、質権と抵当権はそれぞれこのように整理しなければならないのではないか。”
と私が考える質権と抵当権について、今日新たに理解・整理できた点も含め、考えをまとめて、対照表を作成してみました。
いつもの通り、この対照表はあくまで「参謀私案」です。
現行の民法の定めとは多くの点で異なります。
しかし、理論的に考えていくとこの考え方になる気がする、と私なりに理解を進めて作成したものです。
特に、今日新たに自分で思い至った点というのは、質権も抵当権も、
どちらも元来的には「『代物弁済』を確実なものとする手段である」という見方です。
担保物権では、実は「代物弁済」がキーワードになるように思いました。
債権者が担保物権を行使するとは、債務者に「代物弁済」による債務履行を強制する(債権者が目的物を強制的に取得する)ことだ、
というふうに取引を整理できると思いました。

 

「質権」と「抵当権」の相違点 〜理論的に考えてみた場合の参謀案〜
(The difference between pawn and mortgage.)(質権と抵当権の相違点)

「PDFファイル」

 

「キャプチャー画像」



On the principle of law, persons can make the joint exercise of voting rights,
but they can't make joint holding of one object.

法理的には、人は共同で議決権を行使することはできますが、ある1つの目的物を共同で保有することはできません。