2016年8月1日(月)



主に2016年7月31日(日) のコメントに一言だけ追記します。


2016年7月30日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201607/20160730.html

2016年7月31日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201607/20160731.html


昨日、農業協同組合同士の信用事業の譲渡に関しては、農業協同組合法上債権者保護手続きは定められていない、
という点についてコメントを書きました。
その理由について、昨日は、農業協同組合法上「信用事業は農業協同組合同士でしか譲渡できない」という定めにすることにより、
その時点で既に貯金者保護を図っているからである、と書きました。
農業協同組合法では、信用事業の譲渡先自体を厳しく制限することで貯金者の利益を保護する、という考え方に立っているわけです。
比喩的に表現するならば、会社法の債権者保護方法は”後始末”型、
農業協同組合法の債権者保護方法は”前始末”型、と表現できると思います。
債権者の利益が害される恐れがある組織再編行為を認めた上で、その対処に力を入れるよりも、
始めから債権者の利益が害される恐れはない組織再編行為のみを認める、という債権者保護方法の方がより望ましいわけです。

 


それで、今日は、農業協同組合法上債権者保護手続きが定められていない理由について、
もう一つ別の角度から説明付けが可能かもしれないな、と思いましたので一言だけ書きます。
農業協同組合法上債権者保護手続きが定められていない理由、それは、
「信用事業の譲渡について債権者自身が意思決定を行っているからである」となるのではないか、と思いました。
農業協同組合において信用事業の譲渡を行うためには、総会の決議が必要です。
総会において、信用事業の譲渡に関する意思決定を行うわけです。
総会において意思決定を行うのは、出資者である組合員であるわけです。
ところで、農業協同組合に貯金を行っているのは、まさに組合員であるわけです。
組合員以外は、農業協同組合に貯金を行えないわけです。
そうしますと、まさに債権者自身が信用事業に関する意思決定を行うことになるわけです。
このことが、農業協同組合法上債権者保護手続きが定められていない理由の、もう1つの説明になるのではないかと思いました。
もちろん、組合員の全員が農業協同組合に貯金を行うわけではありません。
組合員の一部が農業協同組合に貯金を行うわけです。
逆から言えば、農業協同組合に貯金を行ってはいない組合員も信用事業の譲渡に関する意思決定に参加する、ということになります。
その意味では、一番極端な場合を言えば、農業協同組合に貯金を行っている組合員は誰も信用事業の譲渡は望んでいないのに、
農業協同組合に貯金を行っていない組合員の方が議決権が多いため、信用事業の譲渡が総会で可決される、
という状況も考えられはするとは思います。
しかし、少なくとも、農業協同組合に貯金を行っている組合員は全員が信用事業の譲渡に関する意思決定に参加しているため、
信用事業の譲渡に際し貯金者保護手続きは当然に不要である、という論理は成り立つように思えます。
債権者自身が意思決定をしたのだから債権者保護手続きは不要である、
逆から言えば、債権者が意思決定に参加できないのであれば、債権者保護手続きが必要である、
という論理になるように思えます。
多数決で議事を決することにしている場合は、多数決で決まったことは全会一致で決まったこと、というふうに見なすわけです。
多数決で決まったにも関わらず、少数意見を議事内容に反映してしまうと、何のために多数決で議事を決することにしているか、
分からなくなるわけです。
ですので、多数決で議事を決することにしている場合は、多数決で決まったことは全会一致で決まったことと同じである、
という取り扱いをするわけです。
そういったことを考えますと、農業協同組合に貯金を行っている組合員と貯金を行っていない組合員とが
信用事業の譲渡の議案について議決権を行使する、という表面上の不均衡はある(信用事業の譲渡の影響度が両者で異なる)ものの、
貯金を行っている組合員と貯金を行っていない組合員との間に組合員としての法的地位に区別はないため、
信用事業の譲渡に関しては総会のみで議事を決し、貯金者自身が意思決定を行ったので貯金者保護手続きは不要である、
という考え方になるのだと思います。
この辺り、「なぜ債権者保護手続きという考え方が出てくるのか?」という論点にも通じる議論ではないかと思います。
今日は、農業協同組合法上債権者保護手続きが定められていない理由について、少しだけ考えてみました。