2016年7月31日(日)
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2016年7月30日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201607/20160730.html
農業協同組合法
第五十条の二
第十条第一項第三号の事業を行う組合は、総会の決議を経て、
その信用事業の全部又は一部を同号の事業を行う他の組合に譲り渡すことができる。
○2
第十条第一項第三号の事業を行う組合は、総会の決議を経て、
同号の事業を行う他の組合の信用事業の全部又は一部を譲り受けることができる。
○3
前二項に規定する信用事業の全部又は一部の譲渡又は譲受けについては、
政令で定めるものを除き、行政庁の認可を受けなければ、その効力を生じない。
○4
第一項及び第二項に規定する信用事業の全部又は一部の譲渡又は譲受けについては、前二条の規定を準用する。
この場合において、第四十九条第二項第一号中「出資一口の金額の減少の内容」とあるのは、
「信用事業の全部又は一部の譲渡又は譲受けをする旨」と読み替えるものとする。
○5 第一項に規定する組合がその信用事業の全部又は一部を譲渡したときは、遅滞なく、その旨を公告しなければならない。
○6
前項の規定による公告がされたときは、同項の組合の債務者に対して民法第四百六十七条
の規定による
確定日付のある証書による通知があつたものとみなす。この場合においては、その公告の日付をもつて確定日付とする。
○7
第一項の規定により組合がその信用事業の全部を譲渡したときは、遅滞なく、その旨を行政庁に届け出るとともに、
信用事業を廃止するため必要な定款の変更をしなければならない。
第十条第一項第三号
組合員の貯金又は定期積金の受入れ
【コメント】
昨日は、「みずほ信託銀行株式会社が吸収分割によりみずほ投信投資顧問株式会社に対して
会社の資産運用事業に関する権利義務を承継させることにした」ことを公告事由とした、
みずほ信託銀行株式会社が行った3つの公告を紹介しコメントを書きました。
そして、それら3つの公告では公告の根拠法令が全て異なっている、という点について書きました。
法律毎に法の趣旨が異なるわけですから、会社がある1つの法律行為を行うことに対して複数の法律が
それぞれ異なった観点から必要な公告を行うよう会社に要請するというのは、決しておかしなことではないとは思います。
しかし、「情報の到達可能性」という観点から言えば、公告ではなく、「個別の通知」という手段を取るべきであろう、
と昨日は書いたわけです。
それで、今日は昨日と論点などが類似する公告ということで、
東京島しょ農業協同組合が行った「信用事業譲渡公告」という公告を紹介して、一言だけコメントを書きたいと思います。
東京島しょ農業協同組合がこのたび譲渡を行った事業というのは「信用事業」とのことです。
譲渡の相手は、東京都信用農業協同組合連合会とのことです。
そして、公告の根拠法は「農業協同組合法」とのことです。
吸収分割と事業譲渡という表面上の違いはありますが、吸収分割と事業譲渡は極めて類似した法律行為・商取引であると思います。
ですので、法律上公告が必要であると判断されるとすれば、どちらの場合においてもほとんど同じ種類の公告を行うよう、
要請されるのではないか、と私は思うわけです。
例えば、吸収分割を行う場合は非常に多くの公告が法律上要請されるが事業譲渡を行う場合は公告は法律上要請されない、
というのは、両法律行為における取引実態・類似性を踏まえれば、おかしいであろうと私は思うわけです。
そういった観点から見ますと、昨日の事例では、みずほ信託銀行株式会社は計3つの公告を行っていたのに対し、
今日の事例では、東京島しょ農業協同組合はたった1つの公告しか行っていないわけです。
昨日の「資産運用事業(信託業務)」と今日の「信用事業」は、事業を他社に承継させるとなりますと、
どちらの場合にも非常に債権者保護の観点が要請されなければならないと思います。
「資産運用事業(信託業務)」であろうと「信用事業(いわゆる貯金(JAバンク))」であろうと、
お客様の大切な財産(お金)をお預かりしているわけですから。
そういった観点から見ますと、東京島しょ農業協同組合はたった1つの公告しか行っていないわけです。
農業協同組合法上は、確かに信用事業譲渡公告を行いさえすれば、公告の義務は全て果たしていることにはなります。
しかし、例えば、郵便局(ゆうちょ銀行)や一般の銀行が「貯金(預金)事業」を他行に譲渡する、という場合ですと、
非常に数多くの法律が関連してくることになり、それぞれの法律に基づいた公告が会社に要請されるのではないかと思うわけです。
ざっと思いつくだけでも、会社法上の公告と銀行法上の公告の2つの公告が会社に要請されると思います。
農業協同組合法を全部読んだわけではありませんが、農業協同組合法では貯金者保護の趣旨はあまりない、
ということなのだろうか、と思います。
もしくは、例えば、仮にですが、
農業協同組合法では貯金者に対し別途個別催告をする旨定められている(だから催告の公告は不要という定めになっている)、
ということであれば、それはそれで法としての整合性はあると思います。
情報の到達可能性という意味では、むしろそちらの方が望ましい定めであると言えるでしょう。
この「信用事業譲渡公告」を読みますと、信用事業を既に「譲渡いたしました」と書かれています。
これでは当然、貯金者保護を目的とした催告の役割は果たせません。
農業協同組合法では、貯金者保護を目的とした催告の公告は要請されていません。
この点だけを考えますと、農業協同組合法では貯金者保護の観点は相対的に希薄なのかもしれないな、とも思えます。
しかし、農業協同組合法をざっと読むと、信用事業は農業協同組合同士でしか譲渡できない定めになっています。
例えば、農協から株式会社への譲渡はできない定めになっています。
そうしますと、実は、「信用事業は農業協同組合同士でしか譲渡できない」という定めにするというまさにそのことにより、
その時点で既に貯金者保護を図っている、という見方もできるのかもしれません。
乱暴な言い方をすると、貯金者の立場からすると、譲渡先がどんなところか分からない、という不安が貯金者にはあるわけです。
だからこそ、会社法には債権者保護手続きが定められているわけです。
しかし、譲渡先は必ず農業協同組合である、となりますと、途端に「同じ農協なら大丈夫だ、心配いらない」という話なるわけです。
「信用事業は譲渡しない」が一番の貯金者保護かもしれませんが、少子高齢化の昨今、
農協の統廃合ということも現実には起こり得ようかと思います。
その際には、「信用事業の譲渡」が必然的に伴うわけです。
そうしますと、貯金者保護を最大限考慮した「信用事業の譲渡」が、農業協同組合法では求められます。
貯金者保護を最大限考慮した「信用事業の譲渡」、それがまさに「信用事業の譲渡は農業協同組合同士でしか認めない」、
という定めなのだと思います。
貯金者保護の規定が農業協同組合法にはない理由は、農業協同組合法では貯金者保護の観点は相対的に希薄だからではなく、
実はその正反対であり、農業協同組合法では貯金者の利益は始めから保護されているからなのかもしれません。
様々な規定や手続きが法律に定められていると、さもその法律では債権者保護が十分に図られているかのように感じます。
しかし、実は話は逆ではないでしょうか。
債権者の利益を害するような定めをわざわざ置いているから、取り繕うために追加的に様々な規定や手続きを定めているだけ
なのではないでしょうか。
巧言令色少なし仁、と言います。
法律も同じかもしれません。
雄弁は銀、沈黙は金、と言います。
法律も同じかもしれません。
誇示されたものは欠如を表す、と言います。
法律も同じかもしれません。
会社法の教科書の1ページには、”会社法の目的は債権者保護である。”と書かれています。
農業協同組合法の教科書の1ページには、”農業協同組合法の目的は債権者保護である。”と書かれていないでしょう。
No
news is good news. (便りがないのは良い便り)ということわざがありますが、
農業協同組合法のこの考え方から言えば、
No
regulations are good regulations. (規定がないのは良い定め)、と言ったところでしょうか。
No anxiety, no
procedures.
(心配がないなら、手続きも要らない)、と言ったところでしょうか。
会社法は、日本の全ての株式会社が対象ですので、広く応用できるようどうしても緩やか(loose)な定めになりがちです。
株式会社と農業協同組合とでは、出資の経緯や行える事業などにも必然的・本質的に大きな違いがあるのは確かでしょう。
しかし、今日は、会社法とは異なる、農業協同組合法の基本的考え方、すなわち、
貯金者の利益は始めから守られているから保護手続きの定めがないのだ、という考え方について考えてみました。
規定や手続きが多く定められていれば、それが優良な法律である、というわけでは決してないわけです。
問題は生じないから規定や手続きが定められていない、という考え方がむしろ大切ではないかと、農業協同組合法から学びました。