2016年7月21日(木)



昨日2016年7月20日(水) のコメントに一言だけ追記します。

2016年7月20日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201607/20160720.html

昨日は、法理的な観点からコメントを書いたわけですが、このたびのリコーの事例についてもコメントを書きたいと思います。
このたびのリコーの事例は、記事をよく読みますと、会計監査の議論以前に、話の流れが根本的におかしなことになっています。
記事には、

>今回の赤字でリコーインドの前期は債務超過になる。
>このためリコーは同日、保有するリコーインド株の無償消却に応じ、171億円の増資を引き受けると発表した。
>増資後も出資比率は変わらず、リコーインドは債務超過を回避できるという。

と書かれています。
記事によりますと、リコーインドは2016年3月期の決算が発表できない状況が続いている、と書かれています。
しかし、リコーインドはリコーの連結子会社であり、なおかつ、リコー自身は2016年3月期の決算を既に発表しています。
リコーは、有価証券報告書も2016年6月23日に提出済みです。
これは明らかにおかしいでしょう。
つまり、リコーインドは2016年3月期の決算が確定しない限り、リコーの2016年3月期の連結決算もまた確定しないわけです。
リコーインドはリコーインドで、上場企業として自社の連結決算を発表しなければならないわけですが、
リコーはリコーで、上場企業として自社の連結決算を発表しなければならないわけです。
そして、そのリコーの連結決算にはリコーインドの確定した決算が当然含まれるわけです。
連結子会社の決算が確定していないのに、親会社の連結決算が確定する、などという話はないわけです。
リコーは、2016年3月期に限っては、リコーインドを連結の範囲から除外した、とでも言うのでしょうか。
連結子会社において不正会計が発見されたからと言って、そのようなことはできないかと思いますが。
昨日と2016年7月12日(火) (http://citizen.nobody.jp/html/201607/20160712.html)に書きましたように、
リコーもリコーインドも2016年3月31日時点で把握している事実に基づいて財務諸表を作成する、
ということであるならば、リコーインドも当初の予定通り決算を発表できますし、
リコーも当初の予定通り決算を発表できる、ということになるわけです。
しかし、どういうわけか、2016年3月期の決算に関し、親会社であるリコーの方は連結決算を確定させられたのだが、
連結子会社であるリコーインドの方は決算をまだ確定できていない、という意味不明な状況が生じています。

 


リコーが発表しているプレスリリースには、

>なお、当社の決算に関しましては、現在のところ発表済みの2015年度連結決算に変更はないものと認識しております。

などと書かれていますが、連結決算では親会社の財務諸表と連結子会社の財務諸表を合算するわけですから、
リコーインドの財務諸表次第でリコーの連結財務諸表は根本的に変更されてしまうわけです。
連結子会社であるリコーインドが決算を確定させられないのであれば、親会社であるリコーもまた決算を確定させられないはずです。
法理的には、リコーインドは2016年3月31日時点で把握している事実に基づいて2016年3月月期の財務諸表を作成するべきなのです。
そして、リコーも2016年3月31日時点で把握している事実に基づいて2016年3月月期の財務諸表を作成し、
それからリコーインドの財務諸表と合算し、2016年3月月期の連結財務諸表を作成する、という流れであるべきなのです。
リコーインドが現在継続している不正行為・不正会計に関する社内調査の結果は、
2016年3月月期の財務諸表に一切反映させなくてよいのです。
社内調査の結果は、「2017年3月期」の決算に、「過年度の修正」という形で、反映させていくべきなのです。
次に、リコーインドは、今回発見された不正会計の結果、「2016年3月31日時点で」債務超過となる、と書かれています。
しかし、2016年7月になってリコーはリコーインドの増資を引き受ける、と言っているわけです。
2016年7月に増資を引き受けるのに、なぜ「2016年3月31日時点」の債務超過が回避できるのでしょうか。
2016年7月に増資を引き受けても、当然のことながら、
「2016年3月31日時点」の財務状況(手許現金額や資本金額)には何の影響も及ぼさないわけです。
2016年7月に増資を引き受けると、2017年3月期の財務諸表では債務超過を回避できるようになるわけですが、
2016年7月に増資を引き受けても、2016年3月期の財務諸表には何の影響も及ぼしません(2016年3月期には債務超過を回避できない)。

 



この辺り、昨日は、

>株式会社あみやき亭のように、当期の決算を4月1日に発表してくれるのであれば、投資家の投資判断に資すると思いますが、
>5月中旬になって当期の決算を発表されても、たとえ決算内容が正しくても意味はあまりないわけです。
>なぜなら、3月31日現在の会社の財務状況と5月中旬の会社の財務状況とは異なるからです。

と書いたわけですが、2016年7月の増資が2016年3月31日現在の会社の財務状況に影響を与えることは論理的にあり得ないわけです。
リコーがこれからタイムマシンに乗って、2016年3月31日まで実際に戻り、「2016年3月31日に」増資を引き受けるというのなら、
”2016年3月”の増資が2016年3月31日現在の会社の財務状況に影響を与える(債務超過を回避できる)、とは言えるでしょうが。
いくら技術力の高いリコーでも、タイムマシンまでは開発していないでしょう。
リコーのライバルのソニーであれば、「ジャンパー」という映画をかつて制作していましたが。
今調べてみると、映画「ジャンパー」を制作したのははソニー・ピクチャーズではなく20世紀フォックスでした。
いずれにせよ、2016年7月の今になって増資を引き受け2016年3月期の債務超過を回避する、などという話は全くあり得ないわけです。
さらに、リコーは、現在保有するリコーインド株の無償消却に応じ、171億円の増資を引き受ける、と書かれていますが、
法理的には、たとえ株主の同意があろうとも、発行済み株式の一部だけを消却する、という考え方はありません。
ただ、敢えて言うならば、会社法で自己株式の取得が認められている場合は、
会社が一旦株主から無償で株式を取得し、そして改めて自己株式の消却を行うようにすれば、結果、そのようなことはできますが。
また、リコーが保有する株式の無償消却に応じる目的は、増資後も出資比率を変えないためであるようです。
しかし、増資後も出資比率を変えないことが目的であるのなら、他の方法も考えられます。
リコーインドは上場企業ですので、リコーインドの発行済株式総数は非常に多いと思います。
ですので、リコーは1株だけ新株式を引き受ける(1株112億インドルピーで新株式を引き受ける)ようにすれば、それでよいわけです。
リコーの保有株式数は1株だけ増加しますが、出資比率は0.01%も増加しないわけです。
増資引き受け後も出資比率は0.01%も増加しないのならば、実務上は問題はないと言えるでしょう。
増資を引き受けたというだけなのに、株主(リコー)の損益に影響を与えるようなことはできる限り回避するべきだと思いましたし、
また、株式の無償消却に応じることがたとえ税務上損金になるとしても、
損失発生の原因となった目的物(リコーインド株式)を消却と同時に取得する、
ということには何か違和感を感じます。
つまり、価値がないから消却に応じたわけなのに同時に同じ物を追加的に取得をする、というのは、
取引として矛盾しているように感じるわけです。
他の言い方をすると、追加取得をするのであれば無償で消却したりはしないはずだ、と思うわけです。
高い価額で再譲渡するために目的物を追加取得する、というのであれば話は分かりますが、
たった今無償で消却(「除却」と考えてもよいでしょう)したものを有償で取得する、というのは全く意味不明ではないでしょうか。
そういった商取引としてのおかしさという観点から言っても、リコーはリコーインド株式を無償で消却するべきではないと思いますし、
また、同じ理由により、増資を引き受けただけという行為を損益に影響させるべきではないと思います。
例えば、増資(新株式)を有償で引き受けると同時に出資比率を一定に保つために一部の株式を無償で消却するとしたら、
それはおかしいと分かるでしょう。
リコーはリコーインド株式を無償で消却することはするべきではない(損益にも影響させるべきではない)と思います。