2016年5月30日(月)


2016年5月30日(月)日本経済新聞
中国不良債権処理に参入 米投資ファンド
オークツリー 大都市で不動産 KKR 国有会社と提携
(記事)



過去の関連コメント

2016年5月28日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201605/20160528.html

2016年5月29日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201605/20160529.html

 


【コメント】
昨日、一昨日と、「不良債権の証券化」について書きました。
昨日、一昨日のコメントでは、債権者の立場から見た「不良債権の証券化」について書きました。
今日紹介している記事は、債権者の立場からの不良債権処理ではなく、
不良債権を処理する際の取引の相手方(債権譲渡先)の立場から見た不良債権処理についての記事になります。
債権者にとって、債権が不良債権化してしまったことによる損失を確定させるためには、
やはり債権を譲渡してしてしまう他ありません。
その際には、当然のことながら、債権を買い取る相手方が必要です。
記事にあります不良債権処理に参入している米投資ファンドは、
債権者から不良債権を買い取って利益を上げようと考えているわけです。
不良債権と言っても、弁済額が0円というわけではありません。
満額の弁済がなされない見込みとなっている債権を、俗に不良債権というわけです。
債務者は今後、支払不能となり、債務不履行を起こすであろう、と予想される場合に、
その債務者に対する債権を不良債権と俗に呼ぶわけです。
結局のところ、不良債権ビジネスとは、不良債権を弁済予想額よりも低く買えることが必要条件になっているわけです。
ただ、債権者にとっても、あまりに低い価額で不良債権を譲渡してしまうと、
実際の弁済額よりも受け取る現金が少なくなってしまう恐れが出てくるわけです。
債権者はできるだけ高い価額で不良債権を譲渡したいと考えますし、
買い手はできるだけ低い価額で不良債権を買いたいと考えるわけです。
そこで価格の折り合いが付けば、不良債権が譲渡される、ということになるわけです。
債権者と買い手とが1対1で取引を行う場合は、話は簡単であるわけです。
債権者が買い手に不良債権を譲渡し、買い手は債権者に不良債権の対価を支払えば、それで取引終了であるわけです。
しかし、買い手が複数の場合は、不良債権を共同で保有するための器が必要になります。
昨日書きました特別目的会社(SPV)がそれです。
買い手は共同出資で特別目的会社を設立し、その特別目的会社が不良債権を債権者から買うことになります。
昨日のコメントでは、債権者が特別目的会社を設立し、そして不良債権を特別目的会社に譲渡し、
特別目的会社株式を買い手(複数でもよい)に譲渡する、という説明を行いましたが、最終的な形はどちらでも同じです。
要するに、ある1つの不良債権の買い手が複数いる場合は、債権そのものは分割できないので、出資を分割するわけです。
買い手が1人の場合は、はじめから買い手自身が不良債権を買えばよいわけです。
しかし、買い手が複数の場合は、債権は分割できない(例えば、債務者にとって締結している金銭消費貸借契約は1つのみ)関係上、
概念的に言えば、特別目的会社への出資の方を分割することで、その特別目的会社が不良債権を買うことになるわけです。
会社への出資の概念図を描けば、次のようになります。

「出資の概念図」

 



資産の所有権は1人しか持てないわけです。
1つの資産の所有権を複数の人物が持つということは法理的にはあり得ません。
しかし、会社を設立すれば、概念的には複数の人物が1つの資産を所有できるようになります。
これは結局のところ、会社への出資を通じ、その資産の所有権は会社(法人)に集約される・一本化される形になるからです。
資産の所有権者はあくまで会社(法人)です。
会社所有資産の究極の所有者は株主ではありません。
仮に、会社が、所有資産を株主に譲渡したとしても、それはあくまで譲渡の結果、
資産の所有権が会社から株主に移転したというだけなのです。
また、会社清算時においても、あくまで独立した清算人が会社財産の処分を行うわけであり、
株主の意思に基づいて会社財産の処分が行われるわけでは決してありません。
株主の会社財産への所有権は、まさに会社(法人)そのものにより、はじめから完全に断ち切られているのです。
投資ファンドなどが不良債権を買い取る場合は、
株主(概念上の不良債権の買い手)が不良債権を所有しないことにより、
特別目的会社は複数の株主からの出資を実現している、という言い方ができるのだと思います。
いずれにせよ、昨日書きましたように、不良債権への投資は、債権という形ではなく株式という形になります。
会社が債権者から不良債権を買い取った後、会社が保有しているその不良債権には、
含み損があるのかもしれまし含み益があるのかもしれません。
どちらになるのかは誰にも分かりません。
分かりませんが、不良債権という資産により実現した果実が、収益であろうが損失であろうが額面通りであろうが、
全ての場合に対応が取れるのか株式という証券であるわけです。
不良債権から生じるキャッシュフローに応じて投資家が受け取る現金額が変動する債権、
などという債権は、その定義からしてないのです。
「不良債権の証券化」を通じて、株式会社の原理を改めて考えさせられました。

 



A receivable is indivisible, whereas a capital is divisible.

債権は分割できません。しかし、資本は分割できるのです。

 

One asset can be owned by only one person, whereas a capital can be owned by plural persons.

資産は1人しか所有できません。しかし、資本は複数の人物が所有できるのです。

 

An obligation is invariable, whereas a share is variable.
In other words, an obligation represents a promise, whereas a share symbolizes no promise at all.

債権は不変です。しかし、株式は変動するのです。
他の言い方をすれば、債権は約束を表します。しかし、株式は何らの約束も表象してはいないのです。