2016年5月28日(土)



2016年5月21日(土)日本経済新聞
■中国銀行(中国の国有大手銀行) 不良債権を証券化
(記事)





中国銀行、不良債権を証券化

 ■中国銀行(中国の国有大手銀行) 不良債権になった企業向け融資12億元(約200億円)を証券化する。
中国では景気減速に伴い銀行の不良債権が大幅に増加しており、証券化を通じ最終処理を急ぐ。
 中国銀が証券化するのは山東省での貸し出し。産業別では卸売や紡織業が多く、3億元の回収を見込む。
準大手行の招商銀行も21億元弱を証券化する。クレジットカード債権を証券化し、2億元強を回収できる見通し。
 中国の商業銀行全体の不良債権は2016年3月末で1兆3921億元(約23兆円)と1年前に比べ42%増加した。
将来の元利払いにリスクがある「関注類」に分類される債権も別に3兆2000億元あり、金融システムへの懸念が浮上している。
中国の金融当局は証券化を通じて不良債権の処理を急がせ、金融機関の健全性を強調したい考え。(上海=張勇祥)
(日本経済新聞 2016/5/20 21:24)
ttp://www.nikkei.com/article/DGXLASDX20H1M_Q6A520C1FFE000/

 


【コメント】
「不良債権の証券化」については、いわゆる不良債権処理の一形態であるというふうに見なされているようです。
ただ、同じ不良債権処理でも、わざわざ「証券化」といっているということは、
債権の譲渡を行うのではなく、概念的には、債権を小口に分割するイメージになると思います。
つまり、債権からのキャッシュフローを小口に分割して、そのキャッシュフローを受け取ることができる証券を他者に販売する、
という形態を取ることになると思います。
俗に不良債権処理という時には、様々な法的形態と会計処理方法が考えられます。
一番一般的なのは、債権に対して貸倒引当金を積むことなのだと思います。
要するに、不良債権処理というのは、一般には、債権に関する損失を計上してしまうことを指していると思います。
たた、1つの考え方として、不良債権を譲渡する、という方法も考えられるわけです。
同じ不良債権処理でも、債権に対して貸倒引当金を積むことと債権の譲渡とは決定的に違います。
債権に対して貸倒引当金を積んでも、法的には、会社はその不良債権を所有したままです。
一方、債権の譲渡を行うと、法的に会社はその不良債権を所有しなくなります。
漠然と不良債権処理とだけ聞きますと、会社は不良債権処理後はその不良債権を持っていない、
というふうに思ってしまうかもしれませんが、俗に不良債権処理という時には、会社は法的には不良債権をまだ持っています。
俗に不良債権処理という時には、主に会計上の損失処理を指している、と考えてよいと思います。
ではなぜ俗に不良債権処理という時には、会計上の損失処理のみを指しているのかと言えば、
端的に言えば、不良債権を買う人はこの世にいないからです。
会社も本来であるならば、不良債権を誰かに譲渡してしまいたいわけです。
しかし、不良債権の買い手は通常いません。
ですので、不良債権については、譲渡は諦め、保守主義の原則の観点から、会計上の損失計上のみを行うことにしているわけです。
これが俗に言う不良債権処理です。
では、このたびの記事でいっている「不良債権の証券化」についてですが、これは不良債権の譲渡とは異なります。
「不良債権の証券化」を行った後も、会社は不良債権を所有したままです。
概念的には、債権者は債権そのものを小口に分割して複数の人物に債権を譲渡し、債務者は譲渡先の複数の新債権者に弁済を行う、
というような債権の譲渡も考えられますが、民法上は債権そのものを小口に分割することは基本的には想定されていないと思います。
ですので、「不良債権の証券化」という時には、会社は不良債権を所有し続けながら、
不良債権からのキャッシュフローを受け取れる証券を発行する、という形になると思います。

 



ただ、証券発行時の会計処理は議論が分かれると思います。
問題は、いくらで証券を発行するかというより、証券発行時の会計処理方法そのものです。
もちろん、不良債権を買おうというのですから、不良債権をいくらで買うべきかに答えはありません。
しかし、買い手がいるのなら、買い手が応じる価格で証券を売ればいいと思います。
会社が買い手に売った価格が証券の発行価額となるわけです。
しかし問題は、その会計処理方法なのです。
この場合の証券は、会社にとって債務を表している(買い手にその後現金を支払らっていかねばならない)わけですが、
その債務の金額は確定してはいないわけです。
なぜなら、証券化した不良債権からその後どれくらいのキャッシュフローが得られるか分からないからです。
会社は、証券化した不良債権から得られるキャッシュフローを証券の買い手に支払っていかねばならないわけですが、
証券化した不良債権から得られるキャッシュフローの金額は、換言すれば、不良債権の弁済額は、
債務者の清算手続きが完了するまで誰にも分からないわけです。
証券化した不良債権から得られるキャッシュフローの金額の最大値は、債権の額面金額そのものであることだけは分かります。
不良債権だと判断したが、その後債務者の財務状況が好転し、無事満額弁済された、ということは現実にもあることでしょう。
また、証券化した不良債権から得られるキャッシュフローの金額の最小値は、0円であることも分かります。
債務者には現金が全く残っていない場合は、債権の弁済額は0円になります。
結局のところ、証券化した不良債権から得られるキャッシュフローの金額は、0円から額面金額(満額)までの間のいずれかだ、
という状況であるわけです。
証券の買い手は、1円から額面金額(満額)未満の間のいずれかの価格で、今般の証券を買うことを検討するわけです。
いずれにせよ、会社にとっては、証券発行に伴う債務の金額が確定していないわけです。
敢えて言うならば、債務者の清算手続きが完了した時に、証券発行に伴う債務の金額が確定する、と言えるでしょう。
率直に言えば、証券発行時の会計処理方法は、明確ではないように思います。
証券発行により、会社は買い手に対し義務を負うことになったと言えば義務を負うことになったのですが、
その義務の金額は全く確定していませんので、会計上は、証券発行時に買い手から受け取った現金(証券発行の対価)は、
収益(税務上は益金)になると思います。
つまり、発行した証券を負債計上することはできないと思います。
この論点は、会社が新株予約権を有償で発行した際の会計処理方法に論点が似ていると思います。
会社が新株予約権を有償で発行した場合、新株予約権の発行価額を、現在は純資産の部に、その前は負債の部に、
それぞれ新株予約権勘定として計上している(計上していたか)と思いますが、
新株予約権の発行価額は、会社が負っている確定した債務の金額を表しているわけではありませんので、
本来的には、新株予約権の発行価額(発行の対価として受け取った現金)は、収益(税務上は益金)となる、が正しいと思います。
今般の証券は、新株予約権とは異なり、会社にはその証券勘定そのものに関連して買い手に対する現金の支払いが発生します。
会社が証券の買い手に現金を支払った場合は、会計上は、金銭債務の弁済ではない以上、やはり損失になると思います。
また、税務上は、この現金支出については未定義(まだ定義されていない)なので、損金不算入となると思います。


At which price do you purchase a receivable whose repayment is doubtful?

弁済が疑わしい債権を、あなたはいくらで買いますか?