2016年4月3日(日)


2016年4月3日(日)日本経済新聞 公告
第144期決算公告
株式会社日本経済新聞社
(記事)


 



富士フイルムがキヤノンにぶち切れた! 東芝メディカル争奪戦でトリッキー手法 財界パワーバランスにも微妙な影…


 不正会計問題を契機に経営不振に陥った東芝は、医療機器を扱う“虎の子”の優良子会社
「東芝メディカルシステムズ」(栃木県大田原市)を売りに出した。
入札の結果、売却先をキヤノンに決めたが、買収を最後まで競った富士フイルムホールディングスは、
キヤノンの買収手法に不快感を示す。
異例の展開は、水面下で繰り広げられた争奪戦の激しさと東芝の苦境の深刻さを物語っている。

                 ◇

 「オープン・フェア・クリアな企業行動方針をもつ我々にとっては考えられないやり方だ」
 当たり障りのない内容がほとんどの企業の公式コメントの中で、3月17日に富士フイルムが出したコメントは異彩を放っていた。
東芝が同日、東芝メディカルのキヤノンへの売却で最終合意したと発表したことを受けてのもので、強い怒りが込められていた。
 富士フイルムが問題視した「考えられないやり方」とは何だったのか。背景には一定のシェアを持つ企業同士の統合に伴う
独占禁止法の審査がある。
海外にも同様の法律があり、各国の規制当局も審査するため、子会社化までにある程度の時間がかかる。
 キヤノンによる買収額は約6655億円で当初予想されていた4000〜5000億円を大幅に上回った。
東芝はこの売却益を、一刻も早く手に入れたい事情があった。
2月時点の予想では平成28年3月期は7100億円の最終赤字で、3月末時点の自己資本比率は2.6%と
危機的な水準に落ち込む見通しだった。
もともと、優良子会社を泣く泣く売却する決断を余儀なくされたのも、「債務超過」という、
企業の存続すら危ぶまれる事態を回避したかったからだ。
 このため、両社は“奇策”を用いた。弁護士や会計士が取締役を務める「MSホールディング」という会社を設立し、
その傘下に東芝メディカルの株式をいったん、移す。
キヤノンは先に買収資金を払い込み、各国当局の承認が降りたら東芝メディカルを子会社化するという手法だ。
資本金わずか3万円のMSホールディングは、「独立した第三者」(東芝)という建て付け。
東芝の室町正志社長は後日の会見で「キヤノンからすばらしい提案があった」と感謝の意を表した。
 富士フイルムが、この手法に敏感に反応したのには理由がある。東芝はキヤノンに独占交渉権を与えると発表した際、
「企業価値評価額、手続きの確実性等の観点から総合的に評価した結果」としていた。
富士フイルムが選ばれなかった要因の一つに、デジタルX線画像診断システムなどの医療機器を手がける同社は、
独禁法の審査にキヤノンより時間がかかるという見方があったのだ。
 しかし、富士フイルムは、普通のやり方では両社ともに3月末までに間に合わないと指摘。
コメントで「時間稼ぎを狙った極めてトリッキーなやり方との印象を受ける。もし、このようなことが認められるならば、
競争法が極めて形骸化するのではないかと懸念する」と、不快感を表した。
 東芝は財務面を野村証券、法律面を西村あさひ法律事務所と、それぞれの分野の最大手から助言を受けている。
キヤノン側のアドバイザーとともに精査しており、手続き上、問題ないと判断した。
東芝は税引き前損益ベースで約5900億円の売却益を計上する方向で調整しており、最終赤字額は大幅に減少する見通し。

 



 少子高齢化で需要増が見込める医療機器事業の将来性は有望だ。
そんな中、世界市場で高いシェアを持つ東芝メディカルが売りに出され、争奪戦となった。
1次入札は、キヤノン▽富士フイルム▽米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)と三井物産の連合▽
英ファンドのペルミラとコニカミノルタの連合−の4陣営が通過した。
 2次入札では、投資余力が大きく、医療事業の拡大意欲が強いキヤノンと富士フイルムを軸に選定が進んだ。
支援する会社が買収に成功すれば高額の手数料収入を得られる金融機関も巻き込んで、熾烈な駆け引きが展開されたもようだ。
 キヤノンは、経団連会長も務めた御手洗冨士夫会長兼CEO(最高経営責任者)、
富士フイルムは、安倍晋三首相とも近い古森重隆会長兼CEOと、両社ともにトップは経済界に影響力を持つ大物だ。
今回の争奪戦で遺恨が残るようだと、財界のパワーバランスに微妙な影を落とすとの見方もある。
そもそも歴史をたどると、キヤノンはカメラ、富士フイルムは写真フィルムと持ちつ持たれつの関係にあったはず。
デジタルカメラの普及で写真フィルム需要が激減し、かつての共存関係が崩れたことも、
対立の構図が鮮明になった要因の一つともささやかれている。
 争奪戦は富士フイルムが優勢との見方もあったが、東芝は3月9日の取締役会で、キヤノンへの独占交渉権付与を決める。
8日夜には、傘下の証券会社とともに富士フイルムを推していた大手銀行幹部が、
前日までとは打って変わって不機嫌な様子で帰宅している。
この頃、それまでの情勢を覆すキヤノンの強烈な巻き返しがあったようだ。
 御手洗氏が社長時代に、西室泰三・前日本郵政社長が社長を務めていた東芝と共同で
次世代テレビ「SED」を開発(後に商品化は断念)するなど、これまでの両社の深い関係が影響したとの見方もある。
しかし、東芝幹部は「(不正会計の影響で)増資もできない中、キャッシュを得られる手段は限られていた。
もう少し余裕があれば変わっていたかもしれないが、追い詰められていた」と振り返る。
やはりキヤノンが提示した金額が最も高かったことが最後の決め手になったとみられる。
 キヤノンは最終合意を受け「当社が持つビジネスやパートナーシップを活用することで、さらなる飛躍をしていく」と、
東芝メディカル買収を契機に医療機器事業を拡大させると強調した。
一方で今回、巨額の買収資金を使わずに済んだ富士フイルムは、
他のM&A(企業の合併・買収)戦略で医療事業を強化する可能性が高い。
成長分野をめぐる新しい戦いは、すでに始まっているといえそうだ。
(産経新聞 2016.4.4 08:00更新)
ttp://www.sankei.com/premium/news/160404/prm1604040001-n1.html


 


【コメント】
2016年3月17日(火) と昨日2016年4月3日(日) に、
キヤノン株式会社による株式会社東芝からの東芝メディカルシステムズ株式会社株式の取得を題材に、
株式会社東芝の株式売却益の計上の可否についてコメントしました。

2016年3月17日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201603/20160317.html

2016年4月3日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201604/20160403.html

独占禁止法により、公正取引委員会からの承認が得られない限り、株式は取得してはならない、と定められているようです。
それで、株式会社東芝は、2016年3月期中に株式売却益を計上したい意向がったため、主に独占禁止法の規定を回避する目的で、
独立した第三者が設立した特別目的会社「MSホールディングス株式会社」に東芝メディカルシステムズ株式会社株式を
売却する、という手法を取ったわけです。
この辺り、株式を保有するのはキャノン株式会社で、議決権を行使するのはMSホールディングス株式会社なのではないか、
という見方もあるだろうか、と思っていたわけですが、
ビジネス雑誌等の記事を読みますと、株式会社東芝はMSホールディングス株式会社から株式の売却代金を受け取った、
と書かれています。
つまり、株式会社東芝はは、キャノン株式会社に対してではなく、MSホールディングス株式会社に対して、
東芝メディカルシステムズ株式会社株式を売却した、ということのようです。
ですので、取引形態としては、私が昨日書きました最後の図「対称な取引」の通りになっているのではないかと思います。
MSホールディングス株式会社自体には株式の代金を支払う資金は全くありませんので、
MSホールディングス株式会社はキャノン株式会社から資金の融通を受ける形になります。
昨日の描いた図では、MSホールディングス株式会社が発行する議決権のない優先株式をキャノン株式会社が引き受ける
という形で、MSホールディングス株式会は資金の融通を受けるということを第一に考えましたが、
公正取引委員会から資本関係(にまつまる意思決定のつながり)を疑われることを回避することに重点を置きたい場合は、
資本による資金の融通ではなく、負債である貸し付けという形を取るべきなのかもしれません。
いずれにせよ、東芝メディカルシステムズ株式会社株式を取得するのはキャノン株式会社ではなく
MSホールディングス株式会社ということですので、株式は取得してはならないとの独占禁止法の定めは回避されていますので、
晴れて株式会社東芝は2016年3月期に東芝メディカルシステムズ株式会社の株式売却益を計上できることになるわけです。

 


それで、仮に、株式会社東芝が東芝メディカルシステムズ株式会社株式をキャノン株式会社に引渡し、
そして、株式会社東芝はキャノン株式会社から株式売却の代金を受け取った、という場合の会計処理についてですが、
これは2016年3月17日(火) に私の頭の中にあった内容になるわけですが、
私の解釈では、やはり目的物の引渡しと代金の受け取りが現になされた場合は、会計上は株式売却益を計上することになる、
というふうに思います。
結局のところ、目的物の引渡しと代金の受け取りが現になされた場合は、譲渡人は次の仕訳しか切れないわけです。

(現金) xxx / (目的物) xxx
            (目的物売却益) xxx

もちろん、独占禁止法の規定により、この場合目的物の取得(譲渡)自体ができないわけですが、
実際問題として譲渡人は既に目的物を所有してはいないわけです。
そして、目的物の対価として現金を受け取ったわけです。
それを仕訳を表現すれば、上記の仕訳以外にはならないわけです。
つまり、目的物の引渡しと代金の受け取りが現になされた場合は、独占禁止法との整合性の取りようがないわけです。
他の言い方をすれば、独占禁止法の規定に違反して目的物の譲渡が行われた場合はどのように考えるべきか、
には答えがないように思うわけです。
独占禁止法は言わば間接的に目的物の取得(譲渡)を禁止しているわけです。
かと言って、目的物の譲渡を直接的に禁止する方法というのはないわけです。
なぜならば、人はその所有物を全く自由に処分できるからです(物権(所有権)の法理)。
その辺り、民法理から目的物の譲渡を見ますと、独占禁止法の禁止規定というのは、
本源的に間接的禁止にならざるを得ない(目的物の譲渡に直接的禁止という概念はない)、というふうに見えるわけです。
ですので、民法理から見ると、目的物の譲渡だけはできてしまう、というふうに見えるわけです。
この観点から言えば、極端な話、公正取引委員会からの承認が得られない場合であっても、
株式売却益だけは計上できてしまう、という理屈が成り立つように思うわけです。
もちろん、たとえ株式の譲渡を行っても、例えば公正取引委員会からその後、議決権の行使は行ってはならない旨の通知があったり、
早急に株式を他者へ売却しなさい(元の売り手に株式を返しなさい)という旨の通知があったりという、
独占禁止法の趣旨に沿った措置が当局から下されていくことにはなると思います(それらが結局当事者にとって抑止力になる)が、
譲渡人は目的物の所有者として所有物の譲渡自体は行うことはできる、というふうに民法理からは言えるわけです。
この辺り、独占禁止法というのは実は「刑法」に似ているのかもしれません。
分かりやすく言うと、刑法には「人を殺してはならない。」とは書かれていないわけです。
刑法には、「人を殺したらこのような罰を受ける。」と書かれてあるだけなのです。

 


刑法の教科書には、

>犯罪が行われた場合に科される刑罰は、それが科されることを嫌って、
>「罪を犯さないようにしよう」という動機付けとなるものであることが是非とも必要です。

と書かれています。
この文になぞらえて言うならば、独占禁止法というのは、

”公正な取引を阻害するような株式譲渡が行われた場合に科される規制や罰則は、それが科されることを嫌って、
「公正な取引を阻害するような株式譲渡は行わないようにしよう」という動機付けとなるものであることが是非とも必要です。”

となるでしょう。
教科書には、

>刑罰には、「罪を犯すべきではなかった」という内容の、罪を犯したことに対する非難が込められています。

と書かれていますが、独占禁止法になぞらえて言うならば、

”独占禁止法に基づく措置には、「公正な取引を阻害するような株式譲渡を行うべきではなかった」という内容の、
公正な取引を阻害するような株式譲渡を行ったことに対する非難が込められています。”

となるでしょう。
端的に言えば、刑法・刑罰というのは、犯罪を未然に防止・抑止する手段である、と言えると思います。
同様に、独占禁止法に基づく措置というのは、公正な取引を阻害するような行為を未然に防止・抑止する手段である、
と言えると思います。
刑法も独占禁止法も、その目的は、一言で言えば、「予防」なのだと思います。
そして、極端な表現になりますが、現実には人は”刑法に違反する行為を行える”ように、
会社は独占禁止法に違反する行為を行える、と言えると思うわけです。
刑法は最後の最後は人の行為を直接的には禁止できない(罪を犯した後であれば、直接的・強制的に禁止できる)ように、
独占禁止法は最後の最後は会社の行為を直接的には禁止できない、と思うわけです。
公正な取引を阻害する行為を行った後であれば、直接的・強制的に禁止できるというと語弊がありますが、
例えばとても払いきれないような巨額の罰金を科することで実質的に事業の運営ができないようにしたりはできるわけです。

 



独占禁止法の条文や定められている関連する具体的措置については読んでいませんが、
おそらくは、刑法同様、”このようなことをした場合はこのような措置を講ずる。”といった具合に定められていると思います。
会社の行為の直接の根拠法は会社法(さらにはより根源的には民法)である以上、
独占禁止法に”このような行為は行ってはならない。”という文言では条文として定めづらいのだと思います。
他の言い方をすると、刑法や独占禁止法は、禁止や予防を目的としていますので、
”このような行為は行ってはならない。”とだけ定めても意味がない、という言い方をしてもいいのだと思います。
それでは違反した人に「では、そのような行為を行ったとしたらどうだというのだ。」と言われるだけであるわけです。
ですので、”このようなことをした場合はこのような措置を講ずる。”という文言で条文を定めていくのだと思います。
独占禁止法の場合は、刑法よりも柔らかく条文が書かれていると思います。
実際の取引を想定した上で条文や措置が定められていると思います。
ですので、独占禁止法には”このような行為は行ってはならない。”と書かれている箇所もあるのかもしれません。
ただ、法理的には、法律が「禁止」を目的としている場合は、
”このような行為は行ってはならない。”と定めるのではなく、
”このような行為を行った場合はこのような罰に処する。”と定める必要があるのだと思います。
簡単に言えば、「してはいけません。」だけでは効果はないわけです。
それは性善説の考え方です。
性悪説に立つならば、「した場合はこうだ。」と定めなければならないのです。
性悪説に立つとは、「人はその行為をする。」ということから議論を始めるということです。
「人はその行為をする。」、だから、「その場合はこうだ。」と定めなければならないのです。
性善説では、「人はその行為をしない。」というところから議論をしますし、
また、「そのような行為は人として間違っている。」とさえ言えば人はちゃんと言うことを聞く、という前提に立っています。
寺の坊主の説法であればそれでいいでしょう。
しかし、法律では、「人はその行為をするのだ。」という前提に立たなければなりません。
刑法では、「してはならない。」と定めれは人は犯罪を犯さないだろうとは考えないわけです。
刑法では、人は罪を犯す生物なのだ、というところから議論を始め、
もちろん「予防」を目的として、罪を犯した場合はこの罰に処する、と定めているわけです。
独占禁止法では、刑法に比べれば完全な性悪説には立っていないのかもしれませんが、
「してはならない。」というだけでは法の目的を果たせないのも確かであるわけです。
このたびの株式会社東芝の事例に戻りますと、人は刑法に違反した行為を犯せるように、
結論を言えば、会社は独占禁止法に違反した株式の譲渡・取得を行えることは行えると思います。
少なくとも、独占禁止法に、会社法に基づく株式の譲渡を取り消すというような法理はないと思います。
他の言い方をすると、法理的には、独占禁止法は会社法に基づく株式の譲渡を取り消せないと思います。
それで、間接的にや二重にといった表現を用いているわけです。
議決権の行使にしても、独占禁止法に会社法に基づく議決権の行使を無効化する、という法理はないように思えます。
議決権の行使自体は、やはり会社法の専決事項といいますか、根拠法としては会社法のみ、という考え方ではないか、と思います。

 


結局のところ、特に法人が相手の場合は、禁止の手段・抑止力・現実的規制としては、刑法でいう財産刑しかないように思えます。
刑法でいう財産刑しかないとは、簡単に言えば、罰金という形しかないという意味です。
法人は生命としての実体はないわけですから、自由刑という概念はあまりないようにも思えます。
ただ、食中毒を起こした場合は法人であっても営業停止になるであったり、
例えば監査法人であれば、問題がある場合は金融庁からの命令で監査業務を一定期間行えない、
といった具合に、考えてみれば法人であっても、自然人でいう自由刑に類する処罰というのは科せられるのかもしれませんが。
そういったことを考えますと、独占禁止法においても、趣旨に反した行為が行われた場合は、
全業種全業界に対し包括的に法的に営業活動を禁止させることができる、
というふうに定めることはできる、とも言えるのかもしれません。
最後は、法律の定め方と言いますか、法律でどのように定めるのか、の話に現実にはなってくるのかもしれません。
現行の独占禁止法は、どの業種が対象というわけではなく、
業種横断的に規制をかけている形になっているのではないかと思いますが、
その意味では、条文で定めれば、株式の譲渡や議決権の行使を無効化することもできる、と言えるのかもしれません。
ただ、その場合は、一旦行われた取引についての説明が付きづらくなるとは思います。
今日は、独占禁止法という法律の位置付けについて法理的に説明を試みてみたといいますか、
法律には法律の住み分けというのがあるのではないかと思ったわけです。
ある1つの事柄に対して、複数の法律が適用される、というのは法体系として整理されていないと思うわけです。
ある1つの事柄に対して複数の法律が適用されますと、法律間で矛盾が生じる場合があるわけです。
ですので、ある1つの事柄に対して適用される法律というのは1つだけ、というふうに思うわけです。
条文で定めさえすれば、独占禁止法により会社に法に基づく株式の譲渡も議決権の行使も無効化できるのかもしれませんが、
理想的・理論上の法体系としては、
独占禁止法としては、会社に法に基づく株式の譲渡や議決権の行使に関しては一切口出しはしないが、
そのような行為は公正な取引を阻害するものであるので、罰金を科する、
というふうに定めを整理するべきではないかと思います。
ある法律の担当範囲には他の法律は口出しをしない、という形の方が、法体系として整っていると思います。