2016年3月20日(日)
昨日2016年3月19日(土) (http://citizen.nobody.jp/html/201603/20160319.html)のコメントに一言だけ追記をします。
昨日のコメントの最後に、
>The amount of a taxable income is
>the amount of cash which you
receive less the amount of cash which you pay on a
transaction.
>
>課税所得額は、取引時に受け取った現金の金額から支払った現金の金額を引いた金額です。
と書きました。
この言葉は、昨日のコメント内容とは直接的には関係はないのですが、課税所得の概念について述べたものです。
明治三十二年所得税法では、課税所得の概念をどのようなものと捉えているのだろうか、と思っているところです。
人がある有体物を譲渡した時、その人に課税される所得の金額はどのように計算されるのでしょうか。
自分が所有している有体物を他の人に譲渡した、という場合は、単に受け取った代金の金額が課税所得額というだけであるわけです。
では、より一般的な商取引の類型として、人が仕入れたものを譲渡した、という場合は、
課税所得はどのように捉えられ計算されるでしょうか。
基本的には、「譲渡価額−仕入価額」が課税所得額になるわけです。
仕入価額は、仕入れた商品の対価として仕入先に支払った金額です。
譲渡価額は、譲渡した商品の対価として譲渡先から受け取った金額です。
譲渡先から受け取った金額から仕入先に支払った金額を引いた金額が、課税所得額になるわけです。
このように書きますと、当たり前ではないかと思われるのではないかと言いますか、
現代の法人税法や所得税法の考え方と同じではないか、と思われるのではないかと思います。
確かに、「譲渡価額−仕入価額」が課税所得額になる、という基本的考え方は、
明治三十二年所得税法でも現代の法人税法や所得税法でも同じです。
ただ、明治三十二年所得税法では、現代の法人税法や所得税法とは異なり、益金や損金という考え方はしない、
という見解があるわけです。
明治三十二年所得税法の条文には、益金や損金という文言はない、というのがその理由です。
譲渡価額(譲渡した商品の対価として譲渡先から受け取った金額)は益金という概念のものではなく、
仕入価額(仕入れた商品の対価として仕入先に支払った金額)は損金という概念のものではなく、
「譲渡価額−仕入価額」で概念としては「1かたまり」、というふうに、明治三十二年所得税法では課税所得を捉えている、
という解釈があるわけです。
その解釈の背景には、益金や損金といった条文中の文言の有無だけではなく、
ある有体物の仕入れから譲渡までの過程の中で、商人は目的物を取得・保有はしない、という概念があるからだと思います。
商人は仕入れたものを保有せずにそのまま譲渡するわけですから、
その目的物に関する「現金収入額−現金支出額」という概念で「1かたまり」なのだ、というふうに感じられるのだと思います。
確かに、その解釈や背景理解は間違いではないと思います。
しかし、私が思うに、明治三十二年所得税法の条文に益金や損金という文言がない理由は別にあり、
明治三十二年所得税法でも煎じ詰めれば実は現代会計同様、益金と損金という捉え方をしているのだと思います。
明治三十二年所得税法が想定している商人の商取引では、目的物の仕入れから譲渡までの過程の中で、
上記”現金収入額”以外に現代でいう益金はなく、そして、上記”現金支出額”以外に現代でいう損金はないわけです。
他の言い方をすると、「現金収入額−現金支出額」と目的物とが完全に1対1に結び付いている、
という状態のみを、商人が行う商取引として明治三十二年所得税法は想定しているわけです。
すなわち、明治三十二年所得税法が想定している商人が行う商取引を鑑みると、
「これは益金です。」と定義する必要性はなく、また、「これは損金です。」と定義する必要性はない、
ということになるわけです。
他の言い方をすると、「これは益金です。」というということは、言外にその取引に関しそれ以外に益金があるということです。
また、「これは損金です。」というということは、言外にその取引に関しそれ以外に損金があるということです。
しかし、明治三十二年所得税法が想定している商人が行う商取引では、
「譲渡価額」以外に益金はなく、そして、「仕入価額」以外に損金はないわけです。
ですから、「譲渡価額−仕入価額」が課税所得額です、とだけ言っているのだと思います。
取引(目的物の仕入れと譲渡)に関し、譲渡価額(譲渡した商品の対価として譲渡先から受け取った金額)以外に現金収入はなく、
また、仕入価額(仕入れた商品の対価として仕入先に支払った金額)以外に現金支出はないわけです。
万が一、取引に関して、例えば仕入価額(仕入れた商品の対価として仕入先に支払った金額)以外に現金支出がある場合は、
それはただ単に現代でいう損金ではない、というだけのことであるわけです。
譲渡価額以外に益金はなく、仕入価額以外に損金はない、となりますと、
条文の定め方としては、「譲渡価額−仕入価額」が課税所得額です、だけで済むわけです。
このことは逆から言えば、明治三十二年所得税法とは異なり、現代の法人税法や所得税法では、
「仕入価額」以外にも課税所得額を減少させる効果のある現金支出が定義されている、ということです。
ですから、私独自の見解になりますが、明治三十二年所得税法では益金や損金という文言は使われていなかったのだと思います。
しかし、明治三十二年所得税法においても、
譲渡価額(譲渡した商品の対価として譲渡先から受け取った金額)は、現代でいう益金という同一の概念のものを意味し、
仕入価額(仕入れた商品の対価として仕入先に支払った金額)は現代でいう損金と同一の概念のものを意味している、
と解釈するべきだと思います。
昨日も書きましたように、目的物の引渡しの対価が売り上げです。
そして、仕入れの場合は、目的物の引渡しを受けた対価が売上原価(仕入れ金額)です。
現金の流れに着目すれば、商人は目的物の引渡しを受けた対価として仕入先に代金を支払っており、
そして、目的物の引渡しの対価として販売先から代金を受け取っているわけです。
商人が現金を支払った相手と現金を受け取った相手とは異なる相手であるわけです。
現金の流れに着目すれば、その2つの現金収支は、実は、
金額を差し引いて考えたり、控除して考えたり、差額で捉えるという概念のものでは決していないわけです。
現金収支の相手方が異なるわけですから、差額の捉えようがない(現金の流れはある意味正反対である)わけです。
Aさんに現金を100円支払ってAさんから現金10円を受け取った(返金があった)ら、確かにそこには差額という概念があるでしょう。
しかし、Aさんに現金を100円支払ってBさんから現金110円を受け取ったら、それは差額でも何でもないわけです。
ただ、商人の手許現金の取引による増加額を所得と捉えるならば、結果的に「譲渡価額−仕入価額」が所得である、
ということになるのではないでしょうか。
仕入れから譲渡までは取引としては一体的(商人が保有したり使用したりはしない)なので、
譲渡価額(取引による現金収入額)を課税所得と考えるのは、商取引ということを鑑みれば合理性を欠くわけです。
ですので、商取引による所得ということで、
仕入価額(仕入れた商品の対価として仕入先に支払った金額)は課税所得から引き算する、
という捉え方を明治三十二年所得税法では行っているのだと思います。
そして、この基本的考え方は、現代の法人税法や所得税法にも引き継がれているわけです。
ただ、現代の法人税法や所得税法では、明治三十二年所得税法とは異なり、
商人が目的物を保有することを所与のこととしているわけです。
今日の冒頭に書きました、
The amount of a taxable income is
the amount of cash which you receive
less the amount of cash which you pay on a
transaction.
(課税所得額は、取引時に受け取った現金の金額から支払った現金の金額を引いた金額です。)
という言葉は、英語としても日本語としても、「現金の受取」と「現金の支払」を1つの取引であるかのように敢えて書きました。
その方が、明治三十二年所得税法の条文に沿うだろうか、と思ったからです。
もちろん、納税という文脈では、「現金の受取」と「現金の支払」とで1つの取引(1回の納税・課税所得額の確定)であるわけです。
しかし、現金の流れ(目的物の流れ)に着目しますと、商人はAさんに現金を支払い、Bさんから現金を受け取っているわけです。
それらはやはり2つの取引である、と言わねばならないと思います。
例えば、民法で言えば、商人は売買という取引を計2回現に行っているわけです。
ただ、商取引や納税という文脈では、それら2つの取引は一体的だ・それら2つの取引で1つの取引だ、という捉え方になるわけです。
以上のようなことを踏まえますと、たとえ条文中に文言としてはないとしても、現代同様、明治三十二年所得税法においても、
譲渡価額(譲渡した商品の対価として譲渡先から受け取った金額)は益金という概念のものであり、
仕入価額(仕入れた商品の対価として仕入先に支払った金額)は損金という概念のものではある、
という解釈・結論になると思います。
参考までに、英語の無料百科事典Wikipediaの「Gross
income」(「総所得」)の記事を訳した時の、引用文と参謀訳を紹介します。
2015年12月31日(木) に「Gross
income」(「総所得」)の記事を訳したわけですが、
明治三十二年所得税法における課税所得の捉え方を理解する1つのヒントになる記述がありました。
Wikipediaの「Gross
income」(「総所得」)の記事自体、現代の税法の規定や考え方について記述されているわけですから、
当然、現代の法人税法や所得税法における課税所得の捉え方にも通じます。
Wikipediaの記事においても、「売上代金は益金であり、仕入代金は損金である。」といった書き方はされておらず、
「売上代金−仕入代金」が1つの課税所得である(「売上代金−仕入代金」で課税所得の1つを構成する)、
という定義の仕方になっています。
この点は、私が今日書きましたことと合致しない部分はあるとは思います。
「商取引における目的物は1つである」という点に着目しますと、
確かに「売上代金−仕入代金」が課税所得だ、という捉え方になるのかもしれませんが、
現代の商取引では、「売上代金は益金であり、仕入代金は損金である。」というふうに整理する方が理論上正しいと思います。
そして、明治三十二年所得税法でも「売上代金は益金であり、仕入代金は損金である。」というふうに捉えるべきだと思います。
その理由は、明治三十一年であろうと現代であろうと、"How
many wives do you have?"(奥さんは何人いらっしゃるのですか?)
とは誰も人に尋ねない理由と同じです。
2015年12月31日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201512/20151231.html
>the amount of gross income on disposition of property is
>the
proceeds less the capital value (cost basis) of the property.
>資産の処分を行った場合の総所得の金額は、代金の金額からその資産の資本価値(費用ベース)を引いた金額である
>Gross profit from sale of inventory. The sales price, net of discounts,
less cost of goods sold is included in income.
>Gains on disposition of
other property.
>Gain is measured as the excess of proceeds over the
taxpayer's adjusted basis in the property.
>棚卸資産の売却からの粗利益。最終値引き後の販売価格から売上原価を引いた金額が所得に含まれる。
>その他資産の処分に伴う収益。収益の金額は、納税者の調整後ベースの資産の価額よりもその代金が超過した金額として測定される。