2016年1月31日(日)
昨日と一昨日のコメントに一言だけ追記します。
2016年1月29日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201601/20160129.html
2016年1月30日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201601/20160130.html
昨日と一昨日のコメントで導き出した結論は、以下の2点でした。
○同一の対象者に対して複数の公開買付者が同時に公開買付を実施することはできない。
○公開買付期間中は対象者株式の売買は一切禁止されなければならない。
現行の金融商品取引法の定めとは完全に異なっているかとは思いますが、理論上は上記の考え方になると思います。
今日は、「「同一の対象者に対して複数の公開買付者が同時に公開買付を実施することはできない。」という考え方に関連する論点
になりますが、昨日紹介したスキャンポファーマ合同会社による株式会社アールテック・ウエノに対する公開買付について、
一言だけ書きたいと思います。
昨日のコメントで、2015年8月28日(金)付けの日本経済新聞掲載の公告「公開買付開始公告についてのお知らせ」
を紹介しているかと思います。
この公告を見ると分かるように、「公告者(公開買付者)」は「スキャンポファーマ合同会社」であり、
公開買付の「対象者」は「株式会社アールテック・ウエノ」であるわけです。
ところが、「買付け等を行う株券等の種類」が非常に多いことに気が付くかと思います。
「買付け等を行う株券等の種類」は、大きく分けると「普通株式」と「新株予約権」の2種類であるわけですが、
「株式会社アールテック・ウエノ」ではこれまで非常に多くの回数新株予約権を発行してきているようで、
「第3回新株予約権」から「第14回新株予約権」までの計12種類の新株予約権を公開買付の対象証券としているわけです。
敢えて”12種類の新株予約権”と書いたわけですが、その理由は、
これらの新株予約権は、会社法上の定義としてはあくまで新株予約権という1種類の証券に分類されるわけですが、
その権利内容と行使条件は全て異なるため、例えば各新株予約権者の立場から見ると、
たとえ会社法上は同じ新株予約権に分類される新株予約権でも、行使条件が異なるため他の権利者は行使できるが自分は行使できない、
といった場面は当然生じるわけです。
これは、新株予約権の種類が複数ある、と表現しても何ら間違いではないでしょう。
それで先ほどは敢えて”12種類の新株予約権”と書いたわけです。
「公開買付報告書」
2 【買付け等の結果】
(3) 【買付け等を行った株券等の数】
(3/4ページ)
スキャンポファーマ合同会社は株式会社アールテック・ウエノの「普通株式」と「新株予約権」のみを公開買付の対象証券としている
わけですし、そしてまた、株式会社アールテック・ウエノが発行している議決権に関連する証券は、
「普通株式」と「新株予約権」のみであるのだと思います。
そもそもスキャンポファーマ合同会社は株式会社アールテック・ウエノの完全子会社化を目的としているわけですが、
公開買付開始時点で株式会社アールテック・ウエノが発行したり負っている議決権関連の証券や義務については、
スキャンポファーマ合同会社が全て買い取るなり何らかの形で解除する、という計画を立てているわけです。
公開買付により株式会社アールテック・ウエノが発行している「普通株式」と「新株予約権」は全て買い取ったが、
全て買い取った後に他者に株式会社アールテック・ウエノに対する議決権が新たに生じるという事態は生じないように
しなければならないわけです。
金融商品取引法では、「買付け等を行う株券等の種類」として、以下の合計5種類の証券を想定(定義・規定)しているようです。
@株券
A新株予約権証券
B新株予約権付社債券
C株券等信託受益証券
D株券等預託証券
法律上の定義としては、大きく分けるとこの5種類に分類されるわけですが、
例えば「@株券」は「普通株式」や「種類株式」にさらに分けられます。
また、「A新株予約権証券」と「B新株予約権付社債券」は、権利内容や行使条件や社債券(発行条件等)の種類により、
証券の発行毎にさらに細かく分かれます。
完全子会社を目的とする場合も含め、公開買付手続きというのは「特定の議決権割合を取得すること」が目的であるわけです。
公開買付手続きというのは、売り手(投資家)側から見ると、売却機会の確保が目的ですが、
買い手(公開買付者)側から見ると、あくまで「特定の議決権割合を取得すること」が目的です。
「特定の議決権割合を取得すること」が目的なので、買付け予定数に公開買付者が上限や下限を設定することが認められているわけです。
投資家保護ということを徹底するのならば、応募があった証券は全て買い取るよう金融商品取引法で定めることは容易だと思います。
しかし、買い手が「特定の議決権割合を取得すること」を容易にするために用意された証券取得制度が公開買付手続きなのです。
「特定の議決権割合を取得する」というだけなら、市場で買い集めればよいわけです。
株式市場では1単元単位で株式を買い集めることができます。
しかし、短期間に大量に株式を買い集めることで、実態とは乖離した株価形成がなされてしまうことがあり得ます。
もちろん、大幅に上昇したその時のその株価が市場で形成された公正な株価だ、という考え方もあろうかと思いますが、
買い手の株式取得を容易(必要となる資金の見通しも立てやすくなる)にするために、公開買付手続きが用意されているわけです。
このことは逆から言えば、応募があった証券は全て買い取るよう金融商品取引法で定めるというのは、
公開買付の趣旨に反する部分が出てくる、ということになるわけです。
公開買付手続きは、あくまで買い手が「特定の議決権割合を取得すること」を容易にするための株式取得制度なのです。
それで、話がややわき道にそれてしまったのですが、昨日のコメントの最後に、
Separate securities represent the same voting right.(別々の証券が同一の議決権を表象しているのです。)
と書きました。
この一文自体は、昨日のコメント内容とは関係はなく、今日のコメント内容と関係があるわけです。
本来、議決権というのは、株式のみが表象するものなのです。
議決権というのは、会社の最高の意思決定能力を意味します。
その会社の最高の意思決定能力が、複数の証券に分散しているというのは、全く望ましくない状況であるといえるわけです。
むしろ、会社の最高の意思決定能力は、1種類の証券のみで表象するべきなのです。
現在では、普通株式のほかに、議決権がない株式や議決権の個数が多い株式などがあるわけですが、
意思決定能力という観点から言えば、会社は普通株式しか発行してはならないわけです。
株主総会で意思決定を行うのが株主です。
その意思決定権を表象するのが株式であるわけですが、その意思決定能力が複数の証券により構成されている、というのは、
極端に言えば、人が多重人格者だと言っているようなものなのです。
意思決定能力(権利や権利者)は一本化しなければならないわけです。
その意味において、議決権を表象する株式の種類が複数あるというのは、意思決定の所在が複数だといっているに等しいわけです。
議決権は共通だと思われるかもしれませんが、議決権は共通だからこそ、それを表象する証券は1種類のみでなければならないのです。
そういったことを考えますと、金融商品取引法において「買付け等を行う株券等の種類」が大きく分けても5種類も想定されている、
というのは、これも極端に言えば、議決権者が意思決定を行うことを前提とはしていない、という言い方ができるように思います。
それから、「同一の対象者に対して複数の公開買付者が同時に公開買付を実施することはできない。」と何回も書いていますが、
では、一度に複数の種類の証券に公開買付を実施することは認められるのか、という問題点もあろうかと思います。
確かに、証券の種類毎に買付価格は分かれていますので、混同や問題は生じないようにも思えます。
しかし、投資家の投資判断(応募するか否かを冷静に判断すること)の確保や秩序だった議決権の異動を鑑みれば、
1回の公開買付手続きでは1種類の証券のみしか公開買付を実施できない、というふうに考えるべきではないでしょうか。
そしてさらには、対象者が発行している証券の一部の証券のみを対象に公開買付を実施することは認められるのか、
例えばこのたびの事例で言えば、「第3回新株予約権」だけを対象に公開買付を実施することは認められるのか、
という問題点もあろうかと思います。
確かに、証券の種類毎に権利内容は分かれていますし、買付価格は分かれていますので、混同や問題は生じないようにも思えます。
しかし、対象者が発行している普通株式の一部のみを対象に公開買付を実施することはできないように、
対象者が発行している一部の種類の証券のみを対象に公開買付を実施することはできない、と考えるべきではないでしょうか。
例えば「第3回新株予約権」だけを対象に公開買付を実施することは、
それは結局、一部の議決権者のみを対象に公開買付を実施していることと同じではないでしょうか。
公開買付手続きというのは「特定の議決権割合を取得すること」が目的であるわけですが、
それはあくまで全議決権を対象に議決権の譲渡の申し込みを募るからこそフェア(投資家保護の観点に反しない)と言えるのであって、
一部の議決権者のみを対象に公開買付を行うのは全くフェアではないわけです。
以上の問題点は、本質的には、議決権を表象する証券が複数の証券に分散してしまっていることに原因があるわけです。
公開買付の対象は議決権を表象する全種類の全証券でなければならない一方、
1回の公開買付において対象とすることができる証券は1種類のみでなければならないわけです。
この矛盾を解決する方策というのは、議決権を表象する証券は1種類のみでなければならない、です。
それは何のことはなく、ただ単に会社は1種類の株式しか(現代風に言えば「普通株式」しか)発行してはならない、
という考え方を行うだけのことなのです。
証券取引に関する法令・法律と会社法制とは目的や趣旨や位置付けが全く異なるわけですが、
すなわち、会社の枠組みや概念は証券取引に関する法令・法律では全く取り扱わないわけですが、
種類株式の矛盾点といった論点になろうかと思いますが、
証券取引に関する法令・法律の考え方から現行の会社法制のおかしさを指摘することができたような気がします。
また、A新株予約権証券やB新株予約権付社債券のことは、潜在株式と呼ばれることがあります。
公開買付という文脈では、潜在株式のことは「潜在議決権」と表現しなければならないと思います。
この潜在議決権についてですが、A新株予約権証券やB新株予約権付社債券にはまだ議決権は発生していない、
という点において、それらの定義や取り扱いは難しい部分があると思います。
ただ、金融商品取引法では、「まだ議決権は発生していないものの、条件次第では容易に議決権が発生し得る」という点を鑑み、
「買付け等を行う株券等の種類」としてこれらの証券を定めているわけです。
「議決権を表象する証券が複数の証券に分散してしまっている」という矛盾点・問題点を除けば、
A新株予約権証券やB新株予約権付社債券を公開買付の対象とすることは、金融商品取引法上確かに理に適っていると思います。
しかし、会社法制の側から見ると、議決権割合の変動に関して最も基本的な部分が議論から抜け落ちていることに気付きます。
それは、会社には授権資本枠がある、という点です。
会社には、発行済株式総数と発行可能株式総数とがあるわけですが、
発行済株式総数は発行可能株式総数の4分の1あれば会社法上適法です。
仮に、公開買付者が対象者の議決権を表象する全ての種類の全証券を公開買付で買い付けたとしても、
会社は発行済株式総数の3倍もの株式を取締役会決議のみで自由に発行できます。
このことは、完全子会社化を進める上で、極めて大きな問題となり得るわけです。
公開買付期間中に会社(対象者)が新株式を発行すると、全く全株式の取得にならないわけです。
完全子会社化が目的の場合だけではなく、「特定の議決権割合を取得すること」を目的とする場合でも、
たとえ公開買付そのものは成立したとしても、当初の目的の議決権割合に到達していない、という事態になってしまうわけです。
1つの案としては、公開買付期間中は対象者は新株式や議決権増加の要因となる証券を発行してはならない、
という考え方もあろうかと思いますが、公開買付成立直後に取締役会決議でそれらの証券を発行すれば同じことだと言えるでしょう。
この問題点は、本質的には、発行済株式総数とは別に発行可能株式総数という授権資本枠があることに原因があるわけです。
会社に発行可能株式総数という概念はあってはならず、会社には株式数(現代風に言えば発行済株式総数)しかない、
というふうに考えなければならないと思います。
この点もまた、証券取引に関する法令・法律の考え方から現行の会社法制のおかしさを指摘していることになっていると思います。
The biggest potantial shares are not-issued-yet-shares authorized to be
issued.
最大の潜在株式とは、まだ発行されていない発行可能株式なのです。